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◆あらすじ
世間一般から見て至って普通の女性が、『どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店』を訪れます。ちょっとした興味本位から始まっただけなのに、まさかあまりの気持ちよさに泣き叫ぶまで……いえ、泣き叫んでもなお気持ちよくされるだなんて思いもしなかったようで。お店を見つけてから、フレームバインダーに拘束された状態で連続絶頂地獄を味わって、その後のことまで――彼女の体験を一から十までありのままにつづった物語。
※DLsiteで販売している『連続絶頂オムニバス 2411号』のサンプル小説になります。

連続絶頂オムニバス 2411号
770円(税込)
おものべの作品の中から、特に人気の作品をリブートしました。
①どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店(電マ責め) ②機械による丸呑み快楽責め ③お乳を搾られると思ったらクリトリスを搾られた件 ④不穏な言葉があふれるほどの連続絶頂調教 ⑤えっちな遊園地(7つのえっちシーン)
※続編や加筆・修正といったものではなく、オリジナルの要素を残しつつ視点を変えて一から作り直したものです。オリジナルをご覧になった方でも、そうでない方でも楽しめるかと思います。
いつものようにスマホを開いて、いつものようにだらだらSNSを眺めていると、誰かのとあるポストが目に付いた。
どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店
「何、これ?」
インパクトのある字面のせいで、画面をスクロールする指が止まる。ぱっと見で、それが性風俗であるということは分かる。どうやら、『どれだけ泣き叫んでも~』がお店の名前らしい。
添えてあったURLを開くと、お店の公式ホームページへ。正直なことを言うと、あまり印象の良くないホームページだ。シックなデザインは凝っているように見えるけれど、書いてあることが抽象的で、結局どんなお店なのか分からない。使われている画像が線の細いイラストばかりで、写真がないというのも、また実態が分かりにくい。
唯一はっきり分かったのは所在地だけ。そのお店は都内にあった。
「……怖いんだけど」
こう言っては何だけど、私――羽島 香織は世間一般から見て普通の女性だと思う。普通の体形、普通の髪型、普通の会社員。四捨五入をしたらいよいよ30歳になってしまうけれど、それで未婚かつパートナー不在なのは、今のご時世まったく珍しいものではない。
そんな普通の私が、『どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店』なるものを見つけたら、そう呟いてしまうのも仕方ないだろう。どうして風俗に行って泣き叫ばなければならない? 自分から泣きにいくなんて、失恋系の映画だけで十分だ。
その時の印象は、はっきり言って『無』だった。私がSNSで使っているアカウントは普通のアカウントで、いわゆる裏垢なんてものではない。風俗店の話題が出てこようがいちいち目くじらを立てることはないけれど、反対に特別関心を寄せることもない。性風俗店に行ったことなんてないから、余計に。
私の指はまた無意識のうちにスクロールを始めて、最近上映が開始されたばかりの映画の話題を追い始めるのだった。
だけどそれから数日、件の風俗のことが妙に頭の中にこびり付いていることに気付く。
「……オナニーは、昨晩したばかりか。むぅ……」
私だってむらむらすることはあるし、独り体を慰めることもある。だけど、すっきりした気分はそう長くは続かず、事が終わると決まって『何やってんだろ……』という虚無感が押し寄せてくる。すると、あれが記憶のみなもから、ぷかりと浮かび上がってくるのだ。
どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店――物騒な名前なのに、どこか惹かれるものを感じるのは一体どうしてだろう。
幸いにして、その店は都内にあって、電車にちょっと揺られればすぐ行ける場所にあった。私は胸の中に引っ掛かっているものを取り除くべく、『ちょっとのぞいてやろう』なんて考えたのだった。
――――
――
そのお店は、繁華街の隅っこに建てられた、小ぎれいなビルにあった。地下への階段を下って、狭い通路をまっすぐ進んだ先。目立たない場所にあるだけでなく、扉は見るからに分厚そうで、立て看板も控えめ。雑誌で紹介されるような、ひけらかすような隠れ家ではない、本物の隠れ家のようだ。
16時45分、私はそんなお店の入り口に立っている。開店は17時。
『お店が開いたら、すぐに飛び込んでやろう』なんて思っていた私は、勢い余って開店の15分前に来てしまった。どこかで時間をつぶすにも、微妙な時間。だからといって、店の前で棒立ちするには退屈すぎる。思考する時間は、私を冷静にさせる――私、わざわざ何やってるんだろ……帰ろうかな。
だけど、つま先が背後を向くコンマ1秒前、入り口の分厚い扉が静かに開いて、中から男の人が出てきたのだ。
「ああ、いらっしゃいませ。……初めてのお客さまですね?」
「あ、あ。あの、まだ開店時間じゃ」
「開店の準備はできておりますので、大丈夫ですよ。お客さまを外でお待たせするわけにはいきません」
「あ、ありがとうございます」
私は逃げるチャンスを失った。
表情は薄く、だけど優しく笑うその男の人――胸には『いずみ』と書かれた名札が付いていた。イズミさんとやらの身長は、私よりかは高いけれど、男性としては普通だろうか。だけど線が細くて、男性としての威圧感もなければ、異性に対して向けられる特有の邪気もない。何というか、良い意味で空気みたいな人だ。
私はイズミさんに案内されて、カウンターが一つ置かれただけの狭い受付へと歩いていく。少し緊張する。何せ私は、『どれだけ泣き叫んでも~』なる物騒な名前のお店にいるのだ。
「改めまして、初めてのお客さまですよね。当店の説明をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「は、はい。お願いします」
「当店はマッチング型のシステムになっています。お客さまは『攻め側』と『受け側』に分かれ、ご自由にマッチングしていただきます。が、『攻め側』のほうは審査が必要になりますのでご了承ください。『受け側』のほうであれば、審査もなくすぐに――」
「あ、あの、済みません」
私はつい、イズミさんの説明を遮ってしまう。その説明は、私の理解の一つか二つ先から始まったのだ。
「その、何というか、こういうことを聞くのも何ですけど。このお店って何なんですか?」
「と、仰いますと?」
「ええと、ここは、『どれだけ泣き叫んでも~』ってお店ですよね?」
「はい、左様です」
「その、何だろ。殴られたりとか、首を絞められたりとか……?」
「……そういったプレイがご希望でしょうか? それでしたら申し訳ございませんが、当店では」
「ああいえ、そういうわけじゃあ。その、SNSで見て、『どんなお店なのかな』って、お店の名前しか知らなかったから」
私が要領の得ない言葉をぽろぽろこぼしていると、イズミさんは『ああなるほど』とうなずいた。優しい仕草だ。『そんなことも知らないの?』みたいな態度ではなくて、心底安心した。
「当店は、そうですね。ここは性風俗の中でも、性的快感を突き詰めた……つまりは『たくさん気持ちよくなりたい』という女性方のためのお店です」
「快感、ですか?」
「ええ。それこそ、『思わず泣き叫ぶぐらい気持ちよくなれるように』と」
「あー……」
物騒な名前は、そういうこと。よくよく考えてみれば、『どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店』なんて、前半のインパクトばかりに気を取られていたけれど、ちゃんとわざわざ『快楽風俗店』なんて言っているのだ。
「少し分かりにくいのが困り所ですけどね」
「確かに」
そう言って、私たちは少しだけ笑った。何だか、肩の力が抜けてくる。大層な名前をしているけれど、結局のところ、ここは女性のことを気持ちよくしてくれるお店ということ、それだけなのだ。
「ですので当店では、性的快感を与えることについては、大抵のことが許容されます。が、決して暴力を与えるとか、そういったものは容認していません。ああ、あと本番行為につきましても、禁止としています」
「なるほど。……何というか、素敵なお店ですね」
「そう言っていただけて何よりです」
イズミさんがほほ笑んで、私はちょっとだけどきっとした。
だけど、私のこの返しは本心だ。『顔から火が出る』と言って、本当に発火する人間なんていない。『大きな顔をする』と言って、本当に顔面が膨れる人間もいないだろう。イズミさんの言う比喩は、少しばかり欲求不満な私の琴線に触れたのだ。
「それでは、ご利用なさいますか?」
「じゃ、じゃあ、ええと、はいっ」
正直なところ、私はただこのお店の正体を知りたかっただけで、利用するところまではそこまで積極的には考えていなかった。だって、そもそも私は、殴られたり首を絞められたり、そういうお店である可能性も考えていたのだから。
だけど、そんなに気持ちよくしてもらえると思ったら、つい期待してしまうもので。それに、イズミさんという男性があまりに空気みたいな存在だったから、風俗店初心者の私でもさほど強い抵抗感を覚えなかった。だから、私は勇気を出してうなずくことにしたのだ。
「『受け側』でよろしかったですよね。それでは、1時間で500円になります」
「安っ」
「何時間ご利用になりますか?」
「え、ええ、ええと……。え、営業終了まで?」
「それでしたら、17時から24時までの7時間ですので、3,500円になります。前払いで現金のみとなりますが、よろしいでしょうか?」
「安ぅ……」
格安の料金は、冷静な判断力を奪う。私は財布を取り出しながら『時間の決め方がカラオケだよ』と自分に突っ込みを入れたくなった。だけどまあ、せっかくの機会だ――私は、せっかくならこの初体験をがっつり愉しみたいと思ったのだった。
ここで、大切な教訓がある。
それは、会話には互いの認識合わせが必要だということだ。同じ言葉を話しているように聞こえても、前提となる認識がお互いに少し違うだけで、結論が大きく食い違ってしまうことがある。
そう、例えば、イズミさんの言ったことは本当に比喩だったのか? とか――。
――――
――
このお店には、大きく分けて四つのフロアがある。
建物に入って最初にある受付、お客さんが着替えるロッカールーム(シャワー付き)、私が立ち寄ることのできないスタッフルーム、そして事に及ぶプレイルーム。
私は、学校の運動部が使っている部室とそう大差ないであろう広さのロッカールームで服を脱ぎ、大判のタオル1枚で体の前面を隠して、まっすぐプレイルームに向かった。
「そ、その、お待たせしました」
広い空間だ。所々に配置されたソファとテーブル。お互いに多少ばかりの配慮がされた仕切り。『何だか少しだけ既視感があるな』と思ったら、その間取りはファミレスに似ている。
だけど、世間一般のファミレスと比較したら、照明はずっと暗いし、ソファやテーブルの密度は半分以下。何より、所々に置かれた鉄パイプの塊が気になった。直径5cmぐらいはありそうなパイプが、縦横に何本も組み合わされているのだ。
「それでは、拘束具におつなぎします。お手洗いなどの準備はよろしかったですか?」
「は、はい。……あ、拘束具って、これ?」
事前説明で、体を拘束するとは聞いていた。だけどまさか、その所々に置かれた鉄パイプの塊が拘束具だったとは。ただ気持ちよくなるだけなのに、こんなものまで使うのか。
近くの壁をふと見ると、『フレームバインダーへの拘束はスタッフが行います』と書かれた張り紙がある。なるほど、これはフレームバインダーというらしい。
「ぅ……」
「ご自身のペースで大丈夫ですよ」
「い、いえ。だ、大丈夫です」
これから拘束されるというのに、いつまでも体を隠しているわけにはいかない。私はタオルを手近なソファに置いて、ようやく本当の意味で裸になって、拘束されることとなった。
いくらイズミさんが人畜無害そうな人物だからといって、男の人に裸体を見られて恥ずかしくないわけがない。私は顔の熱さを実感しながら、目をぎゅっとつむるばかりだ。お腹が弛んでいるとかはないと思うし、万が一に備えて昨日念入りにムダ毛を処理してきたけれど。『面白みのない体だな』とか思われてやしないだろうか。
右手を持ち上げられて拘束。左手を持ち上げられて拘束。ガッツポーズみたいな体勢。次に右太ももを真横に持ち上げられて拘束。股間がぐぱっと開かれたから、危うく悲鳴を上げそうになった。そのまま右足首も拘束。イズミさんが足元にしゃがみ込んでいるから、もし見上げられたら私のアソコを至近距離で見られてしまう。目が回りそうだ。
「す、すごい拘束ですね」
「中途半端な拘束は、かえって危険ですから。暴れられるようだと体を痛めますし、外れて落下するようなことがありますと、ね」
「確かに……」
イズミさんは、私の股間を極力見ないよう配慮した視線で応えてから、今度は私の左太ももを持ち上げて拘束した。完っ全にがに股。こんなに恥ずかしい体勢なんて生まれて初めてかもしれない。恥ずかしくて顔から火が出るを通り越して、本当に発火してしまいそう。
そんな私の心境を知ってか知らずか、イズミさんは私の体を次々に拘束していく。左足首、腰、首。全身が余すことなく拘束されて、私は抜群の安定感を得る。そして、イズミさんがフレームバインダーの裏側に付いていたボタンか何かを押すと、支柱が伸びて、私の体は高く持ち上げられていく。足が地面から浮いてちょっと怖かったけれど、全身に巻き付く幅広で分厚い革具が、しっかりと私のことを固定していた。
イズミさんが私のことを見上げて、私の緊張は最高潮に達した。
「ぁ、ぁぁ、ぁ……!」
「私は受付に戻りますが、開店時間になりましたし、そろそろ他のお客さまもいらっしゃるかと思いますのでご安心ください。それでは、ごゆっくりお愉しみくださいませ」
「は、はいぃ……っ」
イズミさんは丁寧にお辞儀をしてから、プレイルームの分厚い扉を開けて出て行ってしまう。私はだだっ広い空間に、独り取り残されることになった。
嫌になるぐらい静かだ。繁華街の喧噪なんて、ちっとも聞こえない。それで、このプレイルームが防音室になっていることに気付く。本来であればありがたいことのはずなのに、今に限っていえば何だか無性に心細くて嫌だ。自分の心臓の音はこんなにも大きかったのか。
全裸で、上半身はガッツポーズ、下半身はがに股、足元は地面から浮いたまま。そんな恥ずかしい体勢で人を待つこと、2分か、3分か。分厚い扉のぎちりと開く音が、私の背筋を心底震え上がらせた。
誰か来た――。
「こんばんはー。お、ホントにいるいる!」
「お、女の人……っ?」
私は目をむいた。風俗に来るお客さんなのだから、一体どんな男の人かと心底怯えていたのだけど。明るくあいさつしてきたその人は、私とほとんど同世代、もしかしたら少しだけ若い女性。『大学生やってます』と言われてもすんなり信じてしまいそうなぐらい、爽やかな見た目の子だったのだ。
「ズミちゃんから聞いたよぉ。新しい人が来たってっ」
「ど、どうも。ええと」
「私、ユキっていうの。あ、もちろん本名じゃないよ? ここの常連なんだ、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします。ユキさん」
「で、そちらは?」
「はし、あっ、かっ、あ、か……カオリです」
「そっか、よろしくね。カオリさん」
ハンドルネーム? ニックネーム? 源氏名? そういうのがとっさに出てこなくて、思わず本名を出してしまった。
だけど、心底ほっとした。別に女性のほうが好きとかではないけれど、こういうお店で男性が相手となると、やっぱり緊張する。女性のほうが何かと気安いし、しかも常連ともなればいろいろと勝手が分かっているだろう。
それにしても、常連? まさかユキさんみたいな若い女性が、こんなお店に入り浸っているなんて。ほんの十数分前、スタッフのイズミさんから少しだけ話を聞いた。ユキさんのように攻め側として入店する場合、結構な金額を払わなければならないのだとか。
「こういった内容のお店ですと、暴走する方も少なくありませんから。いかにお客さまといえど、私たちも慎重にならざるを得ないんです」
それは暗に、『お客さんをふるいに掛けている』と言っているように聞こえた。
思うに、このお店は受け側・攻め側で顧客層が大きく変わる。受け側は、とにかく気持ちよくなりたい女性なら、誰でも大歓迎。一方で攻め側は、ある程度の収入がなければ認められない、狭き門。もちろん絶対なんてあり得ないとはいえ、それでもある程度の安全性は保証されるのだから、私のような受け側としてはありがたい。だけど、その分だけ攻め側はかなりの負担を強いられるわけだ。
つまるところ、『よく高いお金を払って入り浸れるな』と。
「それじゃあ、さっそく始めよっか」
「よ、よろしくお願いします」
ユキさんの声で、私の思考は中断させられるのだった。
「何か希望はある?」
「い、いえ。お任せします」
「うーん。初めてなら、やっぱりこれが王道かな?」
プレイルームのあちこちに置かれたワゴンやらカゴやらには、いろいろな道具が載せられていた。ユキさんはその中から、電動マッサージ器を取り出した。
心臓が高鳴る。私だって、そういう動画とかで見たことがある。それは、マッサージで使うだけの道具じゃあない。ユキさんはその電動マッサージ器を、私のアソコに優しく、本当に優しく当てるのだ。
「ぅあっ」
「痛くない?」
「は、はい、大丈夫です、ぅう……っ」
痛くはないけれど、驚いた。というより、脳の処理が追い付かなかった。こんなにも、ムードも何もなく行為が始まるなんて思わなかったから。まるで『ちょっと握手しようよ』みたいな気軽さだ。
だけど、変な引きもなく始めてくれたのは、緊張している私にはむしろありがたかったかもしれない。
「っ、ん……! ぁ……っ♡ っ~……!」
ユキさんは、電動マッサージ器を本当にただ添えるだけ。『電動マッサージ器を当てる』というよりも、『振動でくすぐる』と言ったほうが近いかもしれない。優しく、だけど存在感のある刺激が秘所に届いてくる。
「カオリさんって、こういうお店初めて?」
「は、はい。ん……っ! 風俗なんて、来たことなくて」
「あはは、それで最初にここに来たんだぁ。じゃあ、えっちの経験は?」
「まぁ、ぁっ♡ ないわけじゃないですけど、学生の時に。っ、だけど、そんな特別なことは」
「まあまあ、いいじゃない、それも大切な思い出だよ。みんながみんな、何かすごい経験してるってわけじゃないと思うなー」
「く、ぅ……♡ その、ユキさんは?」
「私もだよ? 普通普通。彼氏以外とはえっちしないしねー。さすがに」
ユキさんは雑談しながら、私のアソコに電動マッサージ器を当ててくる。
何だか、変な気分だ。私が知る行為というのは、お互いに神妙な面持ちで行うもので、そこには一切の冗句が許されない。私は『変なところを見せないように』と必死に取り繕わなければならないから、ひどく疲れるものだったと記憶している。
それなのに、目の前のユキさんはとても気さくで、まるで友だちと遊ぶ時のような雰囲気。下半身で起きていることのギャップがひどくて、脳がバグってくる。
すると、ユキさんがちょっとだけ、電動マッサージ器を秘所から離した。
「カオリさん、お話とかは嫌? 刺激に集中したいタイプ?」
「あ、いえ。こういうお店は初めてなので、安心するかも」
「そっか。良かった」
「ぅぁっ♡ ん、んー……っ♡」
それから、また私の秘所に電動マッサージ器が当てられ、雑談が続く。駅前にあるおいしいラーメン屋の話とか、休日の過ごし方とか。お互いのプライバシーに関わりすぎない程度の、当たり障りない話題。
こちらの反応のうかがい方とか、話題の選び方とかを見ていると、ユキさんという人は本当に親切だと分かる。ここのスタッフであるイズミさんも親切だった。物騒な名前のお店のここは、存外に親切な人ばかり。何だか、がちがちに緊張していたのがばからしく思えるぐらい。
だけど雑談は、長くは続かなかった。どれだけ会話で気を紛らわそうとも、電動マッサージ器の振動は確実に私の性感を押し上げていた。
「っ、ぁ、ぁぁ……っ♡♡ んぐっ、ぅ……♡♡」
頭ばぼうっとする。全身がぽかぽかと温かい。じんわりとした気持ちよさが、下腹部全体を包み込んでいる。すっかり緊張がほぐれてしまったからだろうか。私の体は、驚くほど素直に快感を受け入れていた。
今まで緊張感のある行為しかしたことがなかったから知らなかった。性感というのは、こんなにも気持ちよくて心地いいものだっただろうか。
「そろそろみたいだねぇ」
「は、はいぃ……♡♡ これ、いい、ぁ……っ♡♡」
「それじゃあ、とりあえず1回イッておこっか」
「ぅあ――♡♡♡」
ユキさんはそう言うと、電動マッサージ器をほんの少しだけ、強く押し当て始める。手首から先の重さを乗せるような本当にささやかな加重が、私のアソコにふんわりと優しいトドメを刺したのだ。
「っ、あ――♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡ これ、すごっ♡♡♡ くっ、ぅう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ♡♡♡」
軽く、だけど抗えない絶頂だった。アソコにたまった気持ちよさが、ふわっと花開くように全身に広がっていくようだ。鼻息が漏れる。腰が引ける。粘度の高い愛液が、内股を伝っていくむず痒さを感じる。他人にイカされるというのは、こんなにも満たされるものだったか。
「カオリさん、敏感~♡」
「ぅー……♡」
ユキさんはうれしそうに笑った。私は恥ずかしくてそっぽを向くことしかできなかったけれど、何だか嫌じゃない。こういう経験の浅い私だからだろうか、こんな風に満たしてもらえると、相手のことを好きになってしまいそうな気すらする。
優しくて、満たしてくれて――だからこそ、それから先の行動が、まるで手ひどい裏切りを受けたかのように衝撃的に思えたのかもしれない。
「それじゃあ、本番開始ぃ♡」
「ぅぐっ!!? ぁ゛――!! ぇ――!!?」
ユキさんの口からどこかねっとりとした笑い声が漏れた瞬間、アソコに鋭い感覚が走る。痛――くない!? 私は表情をゆがめ、一拍置いてからそれが性感であると理解する。
先ほどまではどちらかというと『振動を添える』ぐらいの力加減だったのに、今度は電動マッサージ器の硬いプラスチックが明確な感触でもって、私のアソコを押しつぶし始めたのだ。
「ちょ、ぁ゛――♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁあああっ!!? 待――!!! つよいっ、強すぎぃぃぃぁ゛ぁぁぁぁっ!!?」
先ほどまでの優しさはどこへやら。強くなった振動は、秘所の入り口をより大きく震わせ、より深くへと伝搬していく。
ユキさんはもう、世間話をしようとはしなかった。きっと、私にもうそんな余裕がないことを分かっていたのだろう。
「ぃ゛いい――!!? だめっ、そこはっ、そこは敏感だかぁ――ッ♡♡♡ ぁ゛っ、ぁ゛ぁぁぁあああああああああああッ!!?」
「やっぱり、クリトリスは弱いよねー♡ 私も一緒♡」
電動マッサージ器の当たる場所が少し変わっただけで、私は全身が飛び上がる心地がする。
クリトリス――女性の体の中で1番、もしかしたら膣よりも敏感かもしれない部位。そんな場所に重く激しい振動を当てられたら、私はもうまともに言葉を発することなんてできなくなる。気持ちいいことのはずなのに、不思議と体が拒否反応を示す。
私は無意識のうちに、今の状況から脱しようと全身を暴れさせていた。だけど、拘束はびくともしない。暴れてみて初めて、このフレームバインダーとやらが本当に強固な拘束であることを実感する。『ただ気持ちよくなるだけなのに、こんなものまで使うのか』――当初の甘い認識を改める。確かに、これぐらいの拘束じゃないと危険だ。
「ぁぐっ♡♡♡ ぁ゛、あ゛――!!? ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡ ぅぐ、ぁ゛――♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡」
どれだけ拒否したくなる感覚であっても、それは紛れもなく快感だった。私の体はあっという間に高まり、そして絶頂に達してしまう。何の抵抗もなくイッてしまった様は、まるで体内に備えてあった安全弁が緩んでしまったかのようだ。
(やば、これ――!!? 意識、トぶ――♡♡♡)
私は今日、『無理やりイカされる』という感覚を初めて味わった。こんなにも全身の毛穴が開いて、脳がばちばちと明滅するような感覚だとは思わなかった。明らかに、私の許容量を超えている。『ここは性風俗の中でも、性的快感を突き詰めた……つまりは「たくさん気持ちよくなりたい」という女性方のためのお店です』――イズミさんの言葉を思い出す。まさか、性的快感を突き詰めるというのは、こうまで激しいものなのか。
だけど、私はここまであってなお、認識が甘かった。それは、ユキさんが電動マッサージ器を押し当て続けることですぐに知ることになる。快感で飛びそうになった意識を、快感でもって無理やり引き戻すようだった。
「さー、どんどんいくよー?」
「ぁ゛ぅぁぁぁぁあああああああああああッ!!!? うそっ、休ま、せ――!!!! っぁ゛ーーーーーーーーッ♡♡♡♡ きつい゛ッ、これぎづいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいっ♡♡♡♡」
2度目の絶頂から、今度は途切れることのない快楽責め。私の体が一層敏感になっているだけでなく、振動もさらに一段階強くなっている。私は思わず叫び声を上げた。ここがよそだということを忘れてしまうぐらいだった。
「待っで――ッ♡♡♡♡ これ゛はっ、いぐらなんでもッ!!!? 待ってっ、待っでっでぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええッ!!!?」
さすがにこれはやりすぎだ! ――私はそう思って、ユキさんに必死にお願いをした。すると、ユキさんはけげんそうな顔で、私のことを見上げながら電動マッサージ器を離す。私は一瞬だけ、『助かった?』と思った。
……私はどこまでも甘かった。
「このお店の名前、忘れちゃった?」
「はーーっ、はーーーーっ♡♡♡♡ な、なま、え……!!?」
私の頭にハテナが浮かぶ。鋭い気持ちよさに脳がちかちかしていて、思い出すのに時間が掛かった。だけど、間違えるはずもない。
どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店。
「そ♡」
「そ、それが、何……っ」
『だから、ね?』――ユキさんはそう言って、今日1番のにんまりとした笑みを浮かべながら、電動マッサージ器を私のアソコに押し当てるのだった。
「――泣き叫ぶぐらいじゃあ、やめてあげないってこと♡」
「っぁ゛ぁぁああーーーーーーーーッ!!!? うそっ、だっでっ!!!? うそっ、うそッ♡♡♡♡ うそぉ゛ぉぉおおおおあぁ゛ぁぁぁぁぁぁあああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
私は、ゆだった頭でユキさんの言葉の意味を必死に理解しようとして、だけど自分の置かれた状況を信じられなくて、結局それ以上の気持ちよさのせいで絶叫した。
『思わず泣き叫ぶぐらい気持ちよくなれるように』――私は、イズミさんの言葉を比喩か何かだと思っていた。だけど違った。まさか、本当に泣き叫んでしまうぐらい気持ちよく、いや、泣き叫んでしまった後ですら気持ちよくさせられるなんて。
「ぅ゛あ――♡♡♡♡ ぉ゛――♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁああああああああああああああっ!!!? ぐすっ、ぅあ゛――!!!! ぁ゛ぁぁぁぁああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡」
全身にびりびりと電流を流されるような快感が襲ってくる。目から涙がぼろぼろと流れ出す。口からは、いつの間にか泣き声混じりの悲鳴があふれ続ける。
私の体の中にある安全弁は、もうとっくに壊れてしまった。だから、ぶつけられる快感に抗うこともできず、何度も何度も絶頂を迎える。
「い゛やっ、ぁ゛ぁぁぁぁああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡ きついッ!!!? きついきついきついぎつい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぁぁあああああ~~~~~~~~~~~~~~~~っ♡♡♡♡」
「ふふ、いいなぁ。カオリさん、すっごく敏感で……♡」
「ひ――!!!? ぁ゛、ぁ゛ぁ、ぁ゛ぁぁぁ――ッ!!!? っ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
ユキさんが色の宿った目で、私のことを見つめてくる。彼女は、私が泣き叫んでいることを何とも思わないのだろうか?
……いや、違う。彼女は、泣き叫んでいる私に欲情しているのだ。ここは、そういう人間が集まる店なのだ。
「ぁがっ、ぁ゛――♡♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
「あー楽しいなあ! でも、私はこれぐらいにしておこっかな」
「は、ぁ゛――♡♡♡♡ はっ、はぁ、はぁぁー……ッ♡♡♡♡」
「本当はカオリさんともっと遊びたいんだけど。初めてのお客さんを独り占めしたら悪いからさ」
電動マッサージ器が離れる。だけど、それはつかの間の休息。決して、おしまいの言葉ではない。あまりに気持ちよすぎて、ちっとも気付かなかった。お店には、もうたくさんのお客さんが来ていて、その中でも多くの人たちが、無理やりイカされ続けている私のことを見ていたのだ。
男性も、女性も、若い人も、年を取った人も――高いお金を払うだけのことはある――どことなく品のある人たちばかりだけど、その全員の瞳に、確かな色が宿っていて。
「ああ、済みませんね。譲っていただいて」
「いえいえ、お気遣いなくー♡」
「初めての女性はたまに来るけど、開店前に来るような気合の入った人は珍しいですからねぇ」
「これは、皆さんで目いっぱい気持ちよくして差し上げなきゃですね」
「ぅあ゛、ぁ゛――♡♡♡♡ も、やめ――♡♡♡♡」
私は、ぎゅうぎゅうに絞られたのどを鳴らすことしかできなかったのだった。
「さて、どういう趣向でいきましょうか? 初めての方のようですし、いきなり舌を使ったりとかは抵抗があるでしょう」
「先ほどは電マを使っていたみたいだし、やっぱりこれが1番良いんじゃないですかね」
「お、お願い……、もう、それ……やめ……!!?」
私が小さく懇願しても、目の前の客たちはちっとも聞いてくれやしない。ここの人たちは何の駆け引きも、ムードも、引きもないまま、私の体に電動マッサージ器を押し当てるのだ。
「っぁ゛あーーーーーーーーッ♡♡♡♡ ッ゛――!!!? ッ゛――♡♡♡♡ むりっ、無理っ、むり゛ぃぃぃぃぃいいいいいぁぁぁぁあああああ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡」
先ほどまで、ユキさん1人に電動マッサージ器を押し当てられるだけで、私は耐え難い連続絶頂に苛まれたのだ。それが今は、2人、3人、4人、5人、ああもう、片手でも両手でも数え切れない――とにかくたくさんの人たちに、全身という全身に電動マッサージ器を押し当てられたら、そんなのもっと気持ちいいに決まっている。
「む゛りっ、いぐのっ、止まらな――ッ♡♡♡♡ ぁ゛っ、ぁあっ、ぁ゛ぁぁあああああッ♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
私はあっという間に、またイッた。これは、もはや性行為ではない。拷問だ。
「おねがっ、助け――♡♡♡♡ 死ぬっ、死んじゃうがらぁぁぁぁぁああああッ♡♡♡♡」
「おおお、とても良い反応ですねぇ」
「初々しい叫びようでありながら、開発されているような敏感さもある。実に素質がありますよ、お嬢さん」
「いい、がらッ!!!? そんなのいいがら助けでよぉぉぉおおおおおおおッ♡♡♡♡ ぉ゛あっ、ぁ゛ぁぁぁああああ――!!!? ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
私がこんなにも泣きながら懇願しているのに、ここの人たちは笑うだけ。どうやら人が気持ちよさに殺されてしまいそうになるのは、ここでは普通のことらしい。まるで常識が改変された世界に飛ばされたみたいだ。
「ちょっと失礼。せっかくですから、後の愉しみも用意しておきましょうか」
「相変わらず、そこ好きですねぇ。それじゃあ、私もここを失礼しようかな」
「ぃ゛、ぎ――♡♡♡♡ な、何――!!!? 何してっ、何しでるのぉぉぉおおおおおお♡♡♡♡」
怪しい会話で気付く。……何か、変なことをされている?
胸やアソコだけではない、全身のあちこちに当てられる電動マッサージ器だけど、何かが不穏だ。脳が聡く理解したわけではない、体が本能的に怯えたのだ。
胸の付け根に、電動マッサージ器が念入りに押し当てられている。そこまで大きくない胸を下から掬い上げるようにして、内部に振動を送り込んでくるのだ。そんなことをしてもむず痒いだけなのに、なぜか執拗。それと下腹部も。お腹がへこむぐらいしつこく押し当てられていて、痛くはないけれど、少し息苦しい。どうしてわざわざ、そんな場所を刺激しようとする?
だけど、それを疑問に思えるのはほんの一瞬だけだった。乳首にも、アソコにも、ずっと電マを押し当てられているのだから。
「ぁ゛あ――♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁあああああああッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
私は、終わりのない連続絶頂地獄に泣き叫び続けるだけだ。
大勢の客にイカされている最中、ふと周囲のことが気になった。
別に、私の心身に余裕ができたわけではない。今の惨状から逃避しなければ、頭がどうにかなりそうだっただけだ。
私の視界の端で、私と同じようにフレームバインダーに拘束された状態で大変な目に遭っていたのは、私よりも幾分か若い女の子だった。
「ひぃっ、ひぃぃぃぃぃぃいいいッ♡♡♡♡ だめっ、それっ、乳首もっ、クリトリスもぉぉぉッ♡♡♡♡ ぉあ゛っ♡♡♡♡ ひゃぁぁえぉぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
「よく言うよ。『このお店に来てみたい』って言ったのは君じゃない」
「いつもの調教じゃあ足りないんだろ? 良かったね、ここなら家と違ってしっかりした拘束もあるし、どれだけ声を出しても安心だ」
「だからっでっ♡♡♡♡ こんなっ、こんな激しいのっ、聞いでな――♡♡♡♡ ぁ゛、あっぁ゛っぁぇぉぇぁああああッ♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
顔の整った若い男2人による、私に対するよりもずっと執拗な突起責め。乳首とクリトリスを、たくましい指先でただひたすらにしこしこされている。女の子はよほどぞくぞくするのだろう。口が、ずっとあぐあぐと落ち着きなく震え続けている。
話しようから、3人の関係性が気になる。もしかしてあの女の子はずっと、ああいうことをされてきたのかな。体付きは小さいのに、乳首とクリトリスが遠目から見ても分かるぐらい大きく成長していた。
「ぁひぁっ、ぇあっひゃっ♡♡♡♡ ひゃぅぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ へっ、っぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
「さて、下ごしらえはこれぐらいでいいんじゃないかな?」
「じゃあ、そろそろ次いってみるか」
「へひっ、ひ――……っ♡♡♡♡ もっ、ゆるっ、ゆるして……っ♡♡♡♡」
そして男たちは、いつの間にか足元に置いてあったバケツから、何か布のようなものを取り出した。
タオルのような細長の形状で、だけど布の向こうが透けて見えるぐらい薄くて、目が粗い。あれは……救急箱とかに入っている、ガーゼ? だけどそのガーゼは、遠目から見ても分かるぐらいぬらぬらと濡れている。あの光沢、あの糸引き、遠目で見ても、ただの水ではない。ローションか何かだろうか。
電動マッサージ器とか、バイブとか、よくある大人のおもちゃと比較すると何とも頼りなさそうなそれを見た瞬間、女の子は引きつった悲鳴を上げた。
「ほっ、ぉ゛――♡♡♡♡ ま、待――!!? それはっ、だめっ!!! それだめなやつ――ッ!!!?」
「そんなこと言って、腰がへこへこ動いてるじゃない」
「今日は家のベッドの上じゃないし、手加減しないからな?」
「待――、ほんとに、だめ――」
そして、男たちはその布――ローションで濡れたガーゼを、まるで乾布摩擦でもするかのような手付きで、女の子の胸と股間に宛がったのだ。
「ぉ゛ほッ♡♡♡♡♡ ぉ゛、ぉ゛ぉぉおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
その瞬間、女の子は拘束具をぎちぎちとけたたましくならしながら絶頂した。
「ゃ゛、っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ それ弱い゛、1番弱いがらぁぁぁぁあああああっ、っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
ローションに浸されたガーゼで、乳首とクリトリスをごしごしと磨かれる――それは一体どんな刺激なんだろう。
ガーゼは目の粗い生地だ。もしも乳首やクリトリスに当てたら、普通は痛くて痛くて仕方ないだろう。だけど、ぬるぬるのローションをまとっていれば、その刺激はぐっと緩和される。むしろ、ざらざらとした布地が絶妙な滑らかさを持って、敏感な部位をじゅりじゅりとこすり上げていく。
……想像しただけでも、腰が引けてしまいそうだ。
「だめっ、だめだめだめだめぇぇぇぇぇぇぇえええええッ♡♡♡♡♡ おねがっ、やめッ♡♡♡♡♡ いぐのっ、止まらなくなっで――♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁあああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「ちょっと、根を上げるの早すぎるよ。本番はまだこれからなんだから」
「せっかく来たんだ。いろいろ試さないともったいないだろ?」
「ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁあああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ しぬっ、しんじゃう――♡♡♡♡♡ ッ゛ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
指でしこしこされてぱんぱんに膨らんだ乳首とクリトリスをローションガーゼに磨かれて、少女は泣き叫ぶばかりだった。
私の意識が、また別の客のほうに行く。
パーマをかけた、ふわふわとした髪。おっとりとした顔付き。肉感的な体。こう言っては何だけど、私なんかよりもずっと良い体をしている。彼女は今日、このお店に来たばかりで、フレームバインダーへの拘束を終えた直後らしい。
「おっ、こんばんは。最近来てなかったんじゃないの?」
「えへへ、ちょっとお仕事が忙しくて。一山越えたし、久々に思いっ切り遊ぼうかなって」
「それじゃあ、早速みんなで心して掛からないといけないね」
「えー、いきなりみんなでですかぁ? 私、おかしくなっちゃうかも……♡」
たくさんの客に囲まれる女性。その口ぶりを見るに、どうやら初めてではないらしい。する側ならまだしも、される側としてこんなお店に通うなんてイカれていると、私は思った。
だけど同時に、そんな女性だったら一体どんな反応をするのか気になった。もしかしたら、私みたいに泣き叫ぶことなく、余裕綽々で愉しむのかもしれない。
そんなことを思っていた私の予想を、現実は二段も三段も上回る。次の瞬間、大勢の客が一斉に、女性の全身をくすぐり始めたのだ。
「ぅひゃーーっはっはははははははははははははははははぁぁぁっ!!!? くしゅぐったひっ、全身くしゅぐったはぁぁぁっひゃっはははははははははははははひゃぁぁぁああっ!!!!」
私は『ええ!?』と思った。女性の全身があっという間に、客たちの手で埋め尽くされたのだ。
腋の下、腹、足の裏、太もも、腰、背中、腕、首筋、胸やアソコまでも――全身が無防備になるフレームバインダーという拘束は、確かにくすぐり責めをするのに随分と都合がいい。だけど、だからといって、あえてするだろうか?
あんなに全身をくすぐられたら、普通は笑い死にしてしまう。だけど、女性の反応は少しばかり違った。
「くしゅぐったひゃぁぁぁぁぁぁぁああっ♡♡♡♡ これっ、これぇぇえっ♡♡♡♡ この感覚、久しぶりぃぃぃっひっひゃっはははははははははははははははひゃぁぁぁぁあんっ♡♡♡♡」
「何だか、前に来た時よりも敏感になってるんじゃないかい? やっぱり、久々だから体が期待しちゃってるんじゃないかな?」
「うれしひぃぃぃぃっひひひひひひひひひっ♡♡♡♡ 前よりっ、気持ちひ――っ♡♡♡♡ っぁーーーーッ♡♡♡♡ 腋の下はだめぇぇぇっへっへへへへへへへへへへへへへへぇぇぇっ♡♡♡♡ あしっ、足の裏もぉぉぉぉぁあっひゃっはっははははははははははははははははひゃぁぁぁぁぁああっ♡♡♡♡」
確かに笑っている。確かにくすぐったそうにしている。だけどその声、その様子には、隠しようのない色が混ざっていた。
決して、胸やアソコも一緒にくすぐられているからではない。そうでなければ、腋のくぼみを5本全部の指でかき混ぜられたり、足の裏を爪先で引っかかれたりした時に、あんなにうれしそうな反応はしない。
「いぐっ、いぎますっ♡♡♡♡ くしゅぐられへっ、いぐっ、い――♡♡♡♡ ぐふぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ふひゃはははははッ♡♡♡♡♡ ひゃは~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
それで女性はあっという間にイッてしまう。まさか体をくすぐられてイクなんて、私には信じられなかった。だけど、そのうれしそうな声、全身の激しい痙攣、腰のへこへことした動きは、本当に気持ちよさそうだ。
そして、一度絶頂した後のことだった。
「っぁ゛はぁーーーーーーーーッ♡♡♡♡♡ 待っでっ、ま――♡♡♡♡♡ ふぎゃぁぁぁぁぁぁっはっははははははははははははははぁぁぁぁぁあああああッ♡♡♡♡♡ やめ――ッ♡♡♡♡♡ さっぎよりぐすぐっだはぁぁぁぁぁぁっはっははははははははははははぁぁぁぁああーーーーーーーーッ♡♡♡♡♡」
それは、私がさっき経験したことに似ていた。イクと体は敏感になるものだ。
だけどどうやら、それは性感帯だけの話ではなかったらしい。絶頂直後の全身くすぐり責めは、女性の許容量をあっという間に突破した。
どれだけ彼女が笑い悶えながら『やめて』と叫んでも、周囲の客たちがくすぐり責めをやめてくれる様子はちっともない。
「やめ゛ッ♡♡♡♡♡ しぬっ、しんじゃうぅぅぅっはっはははははぁ゛ぁぁああああッ♡♡♡♡♡ 涙でるッ、ひぐッ♡♡♡♡♡ のどっ、変ッ♡♡♡♡♡ ぁっはははははぁ゛ぁぁぁああッ♡♡♡♡♡ ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「はは。まさかこれぐらいでやめてもらえるなんて、思ってないよねぇ?」
「今日は気絶するまで……いや、閉店までずっとくすぐってあげるからねぇ」
「ひぎゃぁぁっはっはははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁぁああッ♡♡♡♡♡ ぅひゃっ、イグッ♡♡♡♡♡ またっ、全身でイグぅぅうッ♡♡♡♡♡ ふびゃひゃぁぁぁああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
狂ったように笑い、だけど泣きながら何度もイキ続ける女性を見て、私は理解するのだった。初めてであろうと常連であろうと、結局どんな客も、ここでは泣き叫びながらイキ続けることしかできないらしい。
私以外のイカされ続けている人を見ると、改めて思った――この店はイカれている。
さて、そんな現実逃避は、ほとんど私の助けになってくれなかったらしい。
「ぁ゛っ♡♡♡♡ あ゛っぁっぁっぁ゛ぁぁあああッ♡♡♡♡ だめっ、いぐっ、イ――♡♡♡♡ っぅ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ ぁ゛ぅぁぅぁあッ♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
相変わらず、飽きもせず私の全身に電動マッサージ器を当て続ける客たち。むしろ、ほんの一瞬、自分の思考を自分の感覚から切り離してみると、事態がますます悪化していることに気付く。
全身が敏感になっているのだ。
「な゛――♡♡♡♡ ど、しでッ♡♡♡♡ 体っ、敏感にっ♡♡♡♡ なにっ、何っ、なに゛ぃぃぃいいい~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡」
私はあえぎながらパニックに陥った。『イッたら体が敏感になる』とはまた違う怖気を感じたからだ。
「ははは、やっと気付いたかい? ここまでじっくり下ごしらえしたかいがあったよ」
「なにっ、何しでッ♡♡♡♡ わだしの体に何しだのぉぉぉおおッ♡♡♡♡」
「君の『スペンス乳腺』をじっくり刺激し続けてたんだよ。『体外式ポルチオマッサージ』も併せてね。ほら、こんな風に」
スペンス乳腺? それに、体外式ポルチオマッサージ? そんなもの、私は知らない!? だけど、その効果は自身の体でもって分からせられる。
電動マッサージ器が、私の両胸の付け根と下腹部に、それぞれ強く押し当てられたのだ。
「ぉ゛あッ♡♡♡♡ ぁ゛――ッ♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
強烈だった。
胸の付け根を刺激されるたびに、胸全体の神経が引っくり返るような心地。下腹部の振動は、クリトリスから子宮につながら神経の伝達とか、絶頂に至るまでのいろいろな過程を全部無視して子宮を無理やりイカせてくるようだ。
「さて、やっと体の準備ができたみたいだし、そろそろ本番を始めようかな?」
「一体どれぐらい気持ちよくなってくれるのか、愉しみですねぇ」
「ひ――ッ♡♡♡♡ うそっ、うそぉぉぉおおッ♡♡♡♡ だって、私っ、もう散っ々♡♡♡♡ うそっ、うそッ、うそぉぉぉおおおおおッ♡♡♡♡」
もう、何から何まで信じられなかった。人をここまでイカせておいて、さらには開発までしておいて、それでさらにイカせるつもり? 彼らの言う本番というのは、私の想像の何段階も上回る。
私がぶんぶんと視界を振り乱していると、いつの間にか、他のお客さんのところに行っていたユキさんが戻っていたことに気付く。隣には、受付をしていた店員のイズミさんもいた。
「わあ! ねえねえ見てズミちゃん。カオリさんすっごいなぁ、初めてなのにもうあんなに気持ちよくなって♡」
「そうですね」
「『そうですね』じゃないよ! もぉ、本当はカオリさんみたいな美人でかわいい人、自分だって遊んでみたいくせに。むっつりめ!」
「……僕はあくまで、お客さまが愉しめるようサポートするためにいますので」
「おねがッ♡♡♡♡ 助け、助けでぇぇぇぇえええッ♡♡♡♡ もう嫌っ、もうイグの嫌ッ♡♡♡♡ いぐのいや゛なのぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ♡♡♡♡」
私は頭で考えるよりも早く、2人に助けを求めた。『お願い』『助けて』『もう嫌』!
だけど、ユキさんは熱のこもった瞳でにんまりと笑い、イズミさんは困ったようにほほ笑み返すだけだ。
「おねがっ、お願い――ッ♡♡♡♡ ぅあ゛、ぁ、ぁ゛――」
必死の懇願がかなうことはなく、次の瞬間、私の全身にまた電動マッサージ器が当てられた。
それから先は、時間、場所、相手――いろいろな概念を全部吹き飛ばしてしまったかのようだった。
「っぁ゛ぁぁぁぁあああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁぎッ、ひぁッ♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
私は全身の気持ちよさにただ泣き叫びながらイキ続ける。
全身という全身に針を刺されるかのように鋭くて、だけど蜜をかけてもみくちゃにされるかのように甘い。体が燃えそうなぐらい熱いせいで、毛穴という毛穴から汗が噴き出す。だけどその汗が気化し、また冷たい電動マッサージ器に触れているせいでどこか肌寒い。体のあちこちで相反する感覚が共存していて、脳みそがおかしくなってしまいそうだ。
いつの間にか、ユキさんもこの快楽処刑に参加している。私にはもう、そのことすら気付けなかった。
「カオリさん、やっぱりかわいいなぁ♡♡ クリトリスをきゅっきゅって押しつぶしてあげると、お潮がぴゅっぴゅって出てくるぅ~~~~♡♡」
「ぁぐぉっ、ぉ゛ぉぉお~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡ やめっ、や゛――♡♡♡♡♡ ぉ゛っ、っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ たす、げ――♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
もう、『いつまでこんな地獄が続くのだろう?』なんて疑問に思う余裕もなかった。ただ、毎秒限界で、毎秒今すぐにやめてほしくて、『お願い』『やめて』『助けて』としか言えない。心が、高速で回転するベルトサンダーに掛けられたように、見る見るうちにすり減っていく。
それで、いつしか『私はもう助からないんだ』と思うようになる。そうなると、私の反応はまた変わっていく。
「ぁ゛ぅぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡ ぁぐっ、ぐす――♡♡♡♡♡ ぅ゛ぁぁあああああんっ♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁあああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
もはや懇願の言葉を上げることすらなく、ただ快感に従って声を上げるだけだ。
それから、どれぐらいの時間がたったのだろう? 私の体感で永遠の時間がたった後、何の前触れもなく、意識がぷかりと浮き上がってくる。
「ぅぁぉ゛――……♡♡♡♡♡ ぉ゛ぉおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ぉ゛っ、ぉっぉっぉ゛ぉおお……ッ♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡」
ぼんやりとした陶酔状態から覚醒していくと、自分の体がびっくりするぐらい疲れていることに気付く。筋肉はふやけ、神経は鈍化し、気を抜いたら意識を手放してしまいそうなぐらい眠い。
ふと、ユキさんの声が聞こえた。
「カオリさん、そろそろ限界?」
「ぉ゛――♡♡♡♡♡ ぁ゛、ぁ――……♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぉおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡」
「うん。それじゃあ、最後に思いっ切りイカせてあげるね……♡」
本当は、限界なんてずっと前に迎えていたのだけど――そんな文句を言う思考すらなくなった私に、ユキさんはささやいた。
全身の快感が変わる。既に電動マッサージ器の出力は最大。私の体はとうの昔に出来上がっている。故に、最適に、執拗に。
そして終わり際のろうそくのように、私の中で快感がぼっと爆発するのだ。
「ぉ゛ッ、ぉ゛ぉぉぉぉおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ひッ、ぅ――……♡♡♡♡♡ ぉ゛ぉおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ッ゛ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
私の体の反応は、弱々しいものだった。
1番酷使された声帯は正常な動作を失って、しゃっくりのように裏返った声と、濁点をふんだんにぶちまけた低い声を交互にこぼす。くたくたになった体では大して暴れることもできず、びく、びくと脊髄反射で跳ねる様は解剖されたカエルのよう。アソコも緩んでしまって、ちょろちょろと流れる液体は『潮吹き』というよりはもはや『潮漏れ』だ。私がもっと元気であれば、もっと派手な絶頂を迎えただろうに。
だけど、今の私は確かに、私史上最大の絶頂を迎えていた。
(ぁ゛ぁぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡)
体が全部気持ちよさに満たされる。何も考えられず、心の中ですら、喘ぎ声で満たされる。今の私には、もう言語という概念すらない。
そして、それが長いこと続くのだ。ユキさんが、客たちが私の全身に電動マッサージ器を当て続ける限り、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと。ただの1回の絶頂が無限に引き延ばされる。
「ぉ゛ぉおぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ぉ゛、ぉぉぉおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ひぅ――」
そして、くたくたに疲れた体が、最後の力を搾り出すようにびくんと大きく跳ねる。私を拘束しているフレームバインダーががたりと大きく鳴ると、みんなも終わりを察したのだろうか、電動マッサージ器が離れ、全身を包み込んでいた快感がようやく止まるのだった。
「ぁ゛、ぉ゛~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ぉ゛、ぉ、ぉ゛ぉ……♡♡♡♡♡」
今もなお、お店の営業は続いていて、たくさんの女性が、たくさんの人たちに泣き叫ぶほどにイカされ続けている。それなのに、何も聞こえないのはどうしてだろう。こんなにも心地よい静寂を味わったのは、生まれて初めてかもしれない。
肌寒い体に、突然温かさを感じた。
「頑張ったね、カオリさん。お疲れ様♡」
ユキさんが、拘束されたままの私の体を、ぎゅっと強く抱き締めていた。
この人たちは、決して私のことを憎んでいるからああしたわけではない。ただ、自分が愉しむために、そして私を悦ばせるために。
そう思うと、何だか無性に心がむず痒くて、心がほっとするのはどうしてだろう? 私、あんな大変な目に遭ったのにな。
「ん、ぁ――」
安心した拍子に、力が抜ける。まるで全身を支えるために両手でつかんでいた鉄棒を離してしまったみたいに、私の意識はふっと暗闇の中に落ちるのだった。
――――
――
「ん……ぅ……?」
頭が重い。まるで、水分をたっぷり含ませた真綿が頭蓋骨の中を満たしているようだ。
私はいつの間にか眠っていたらしい。うっすらを目を開くと、私は自室とは明らかに違う、暗くて広い空間にいた。所々に配置されたソファとテーブル。お互いに多少ばかりの配慮がされた仕切り。『何だか少しだけ既視感があるな』と思ったら、その間取りはファミレスのそれに似ている。
ああそうか、思い出した。そう言えば、私は――。
「おはようございます」
「ぁ――」
側に立っていたのは、表情の薄い男性――イズミさんだった。イズミさんは『しー』と、自分の口に人差し指を置いた。
どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店。しかし今は、女性の叫び声一つなく静かだ。私が起き上がって辺りを見渡すと、毛布を掛けられた女性たちが、あちこちのソファに転がって寝息を立てていることに気付く。どうやら、私は彼女たちと同じようにソファに寝かせられていたらしい。
「ここは、営業終了後の休憩所も兼ねていますので」
「ぁー……。今、何時ですか?」
「夜の3時ごろです」
なるほど。
この店で気持ちよくされた後、意識を保ったままでいられる女性はそういないだろう。私みたいに意識を取り戻したところで、とっくに終電を逃している場合も多い。だから、朝までは居させてくれるというわけか。
「お茶をお入れしますね」
イズミさんはそう言って、休憩所となったプレイルームから出ていった。何から何まで、気が利いている。
「ふー……」
私はソファに寄り掛かったまま、ぼうっとした。自然と、今晩の出来事が思い起こされていく。
まったく、ひどい目に遭った。まさか泣き叫ぶまで、いや、泣き叫んだ後も、気絶するまでイカされ続けるだなんて。もしかしたら、『よくも騙したな』なんて喚き散らしてもよかったのかもしれない。
……イズミさんとの会話を思い返せば、そもそも騙してはいない気がするけれども。もっとこう、念押しするとかさあ。……何だか、うそはついていないけれど、こう、実態も隠し通すというか。あの人、人畜無害そうに見えて、結構油断ならない人なのかもしれない。
だけど、どうしてだろう。怒りを覚えることはなかった。
私はその不思議な感情の所以を探る。店員のイズミさんがとても親切だったから。ユキさんをはじめ、お客さんもみんな親切だったから。たくさん泣き叫んで、何だか気分がすっきりしているから。これは心のデトックスとでも言うべきだろうか。
いろいろと理由はあった。だけど、1番の理由はきっと――。
――――
――
それから、私は始発の電車に乗って帰宅する。
いくらお店のソファで寝かせてもらったとはいえ、ふかふかのベッドでなければ疲れが取れない。私は『休日で良かった』なんて思いながら、帰宅と同時にベッドに飛び込んだ。夕方に目が覚めて、ものすごくお腹が空いていることに気付き――そういえば、あの店に入って以来、何も食べてなかったっけ――近所のラーメン屋に行く。何度か食べたことのあるしょうゆとんこつラーメンと餃子を食べてようやく、『ああ、日常に戻ってきたんだな』と実感するのだった。
これが私の貴重な初体験の話。正直に言って、普通の女性である私には、少し……ではないぐらい、刺激が強すぎたと思う。
それなのに、私の体験はこれだけでは終わらなかったのだ。
「いらっしゃいませ」
「ど、どうも」
「またお越しいただき、とてもうれしいです」
何週間かぶりに会ったイズミさんは、相変わらず薄く優しい微笑みを浮かべている。そう、私はまた『どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店』に来たのだ。
思いっ切り泣き叫んで、いろいろなものをぎゅうぎゅうに搾り出してもらった私の心身は、その空間を全て耐え難い欲求に満たされていた。まさか、指を使った日々のオナニーでは満足できないだけでなく、勇気を出して買った電動マッサージ器ですら物足りないとは。
私――羽島 香織は世間一般から見て普通の女性だと思う。普通の体形、普通の髪型、普通の会社員。四捨五入をしたらもうすぐ30歳になってしまうけれど、それで未婚かつパートナー不在なのは、今のご時世まったく珍しいものではない。そう、私は至って普通の人間。
……だけど、この1点に限って、私はもう自分のことを普通とは言えそうにない。
「あれ? カオリさんだ」
「あ、え、ええと。ユキさん。ご無沙汰です」
誰かが私の姿を見て近づいてくると思ったら、ユキさんがいた。
「うれしいなー! 最初の1回だけでもう来なくなっちゃう人も多いからさぁ」
「はは……」
そりゃ、どれだけ泣き叫んでも延々とイカされ続けたら、『二度と来るか』と思うだろう。普通はそうなる。私はそんなことをされてなお、またこの店に来ているわけだ。私って一体……。
私がどこかたそがれていると、ユキさんが抱き付きながら、耳元でささやいてきた。
「……それじゃあ、今度は本気出していいんだね?」
「はぇ?」
「言葉通りの意味♡ まさか、電マだけで私たちが満足できるなんて思うかなー……♡」
まるで餌を前にした獣のような目つきに、私は喉をひゅっと鳴らした。それは、『またあの店に……』なんて考え始めた数日前から、うすうす気付いていたことだった。
私はあの時、全身に電動マッサージ器を当てられて何度もイカされた。乳首やクリトリスだけではない、スペンス乳腺やら、体外式ポルチオマッサージやら、私の知らなかった部位の開発までされた。だけど、それはこの店における行為の、ほんの一部に過ぎない。私と一緒の時間に来店していた女性たちを見るだけでも、ローションに浸したガーゼで突起を責められたり、全身をくすぐり責めにされたりしていたはず。
そう、私が受けた地獄は、このお店におけるほんの一面に過ぎないのだ。この店にはまだまだ私の知らない、未知の地獄が潜んでいる。
一体、ユキさんは今日、私をどうするつもりなのだろう。それを想像するだけで、顔面で赤色と青色が混ざって、紫色の変な表情をしてしまっている気がする。
私は、震える声で応えるのだった。
「お、お……。お手柔らかに、お願いします……っ♡♡♡」
「カオリさん、すっごい期待してるぅ♡」
どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店。
おしまい。

連続絶頂オムニバス 2411号
770円(税込)
おものべの作品の中から、特に人気の作品をリブートしました。
①どれだけ泣き叫んでも許される快楽風俗店(電マ責め) ②機械による丸呑み快楽責め ③お乳を搾られると思ったらクリトリスを搾られた件 ④不穏な言葉があふれるほどの連続絶頂調教 ⑤えっちな遊園地(7つのえっちシーン)
※続編や加筆・修正といったものではなく、オリジナルの要素を残しつつ視点を変えて一から作り直したものです。オリジナルをご覧になった方でも、そうでない方でも楽しめるかと思います。
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