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目次
表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》
第2節 神さまに犯される神殺し
私――アレリナは、自分でも分かるぐらい、凄惨な人生を送っていた。
それを最初に実感したのは、戦争孤児となって教会に引き取られた直後のことだった。
「ぃや゛ぁぁっひゃっはっはっははははははははははははぁぁぁ!!!!? くしゅぐったひくしゅぐったひぃぃびゃぁぁあぁぁぁっはっはっはっはははははははははははははははははははははぁぁぁぁあああ!!!!?」
「教会に来た者は献身的に奉仕せよと、何度言ったら分かるのかね?」
「嫌り゛ゃぁあぁぁっはっはははははははははははははは!!!!! 帰る、かえ゛りゅぅぅぅっふびゃっはっはははははははははははははははははははははははははぁぁぁぁぁああ!!!!?」
「ハハハ! 変なことを言う。貴様の帰る家はここではないか」
私は教会に拾われたその日の夜に、くすぐり犯された。裸に剥かれ、全身という全身に怪しい液体を掛けられ、苦しみの中でイかされたのだ。
それからの生活も同じだった。笑わされ、 塗り込まれ、咥えさせられ、飲み込まされ、突っ込まれ、出される日々。
「受け入れなさい。これは神が決めた運命なのだよ」
男はいつもそう言った。
だから私は、この《世界》を作った存在を心の底から憎んだ。ああ、《神さま》というのは悪いひとなんだ、私がこんな目に遭っているのは《神さま》のせいなんだって。
だから私は教会を逃げ出した。殺して逃げて、また殺して逃げて、そして殺して逃げた。いつか《神》を殺さんと誓いながら。
今晩、私の望みはようやく叶おうとしていた。
「貴女のせいで、私は……っ」
空の教国、大聖堂の鐘楼で《神》と対峙する。
私の憎悪を受け止めるそれは、少女の姿をしていた。私よりもずっと背が小さくて、髪は黒く短い。前開きのローブも、身にまとうもの全てが黒。
それを《神》と認めた途端に、心の奥底からどす黒いものが噴き出してくるのが分かる。ああ、反吐が出るぐらいにおそろいだ。
「……お願いです。貴女は、死んでください」
言葉を交わす時間すら惜しいぐらい、もう限界だった。私は一足飛びで間合いを詰めて、彼の者の胸元に短剣を突き立てた。
大聖堂に封印されていた、『悪魔が創りし武器』とされる黒い鉄の刃。その悪しき魔力は神ですら斃すと言われている。
しかし。
「……随分なあいさつだね」
「っ」
彼の者は私を見上げて口を開いた。その声は少女という見た目通りに高く、しかしその口調はどこか男性的で達観している。
無傷。あまりにも何ということのない反応に、私は絶句した。そして1度距離を取る。『これは恐怖ではなく、警戒だ』と自分に言い聞かせながら。
「ちょっと待って」
すると、彼の者が軽く右手を上げて、小さく呟いた。
「Se■※chD#%a■as$(*) /* 彼女は何だ? */」
「……?」
今のは何? 私は耳を疑った。
それは詠唱魔術に似ていたが、何かが根本的に違っていた。確かに彼の者が口にしたはずなのに、その小さな口から出たものとは到底思えない声に聞こえたのだ。まるで天上から《世界》そのものに音が堕ちてきたような――。
私が呼吸を数回した後、彼の者は再び話しだす。
「アレリナ・エルバーエンス」
「……っ」
「戦争孤児。幼い頃、養子として教会の有力者に引き取られて、奉仕の日々を過ごす。今から2年前に逃げ出して、今は背教者として追われている。なるほど、幼い頃から苦労したんだね。この《世界》を創ったやつに恨みを抱くのも、無理はない」
ぞっとした。
彼の者が口にしたのは、私の名前と経歴。それぐらいなら、教会の事情通にでも聞けば分かるものだろう。しかしどうしてだろうか? それだけでなく、不思議と私という存在の全てを見透かされているような気がした。先ほど堕ちてきた声が、私の全身を舐め尽くしていくような嫌悪感を覚えさせたのだ。
神殺しの短剣は効かず、怪しい術を使う。私は果たして、彼の者に勝てるのだろうか? 恐怖に殺意が揺らぐが、もう退けはしない。私は短剣を握り直した。
「三つ」
彼の者が、私をけん制する。
「三つ、言わせて」
「……聞きましょう」
「一つ目は確認だ。この《世界》を創ったのは、確かに僕で間違いない。だけど《神》を名乗ったことなんてないし、君と出会った記憶もない。それでも君の狙いは、僕で間違いないのかな?」
「……ええ」
私が答えると、彼の者はやれやれと面倒くさそうにため息を付いた。先程から、《神》の態度は嫌に人間臭い。それがひどく不気味で不快だ。
彼の者は『仕方ない』と呟いてから続けた。
「二つ目は、さっきより重要なこと。僕は別に、君を意図的に不幸にしたわけではない。ただ、自然とそうなっただけだ」
「それは、言い訳ですか」
「不干渉だって言いたいの。僕は《世界》を設定しただけ。それから後のことは関与していない」
「《神》は人々を導く存在です。貴女がその責務を果たすことは――」
「――決め付けるな」
彼の者が私の言葉を遮る。どこか、いら立ちを含んだ声だった。
「ないよ、そんなもの。元々ね」
「っ……」
私の中で殺意が膨れ上がっていくのが分かる。
結局この理不尽な《世界》は、彼の者が創ったということだ。そして創っておいて、何もする気がないということだ。憎む理由として十分過ぎた。
そんな私の心中を知ってか知らずか、彼の者は少しだけ口調を強める。
「三つ目は、1番重要なこと」
「……何ですか」
「警告だ。去れば見逃す。……だけど君が襲ってくるなら、犯すよ」
次の瞬間、私は抑え続けていた怒気と殺気を爆発させた。
「貴女は絶対に赦さないッッ!!!」
一歩で間合いを詰めて、一呼吸の内に短剣を一閃、十閃、百閃。ただ殺意に任せて腕を振るい続ける。刃が《神》の身体に次々とめり込んでいく。
「……後悔するよ」
しかし彼の者は、平然と立ち尽くしたまま呟くだけ。まるで損傷がない。
彼の者の身体は、鉄でもなければ、空気でもない。その手応えはまさしく、柔らかな肉の身体だ。それなのに斬れない、貫けない、顔色一つ変わらない。刃と肉が接触する度に、手応えの伝わる腕が寒気立つ心地がした。
しかし。
「――遅いッ!!!」
「君が速すぎるんだよ。もう人間のそれじゃない」
私は、彼の者の背後に回り込んで短剣を振るう。彼の者の視線が空を切る。
私の動きに対して、明らかに反応が追い付いていない。戦い慣れどころか、そもそも戦闘経験があるのかすら疑わしい。勝機があるとすれば、そこだ。
しかし彼の者は小さく呟く。
「――D%m■#eO$je▲t(*, “動きを止めろ”) /* 少し痛い目に遭ってもらう */」
再び、天上より声が堕ちる。たったそれだけで、私の全身に激痛が走った。
「ッ!! ぅ゛ぁぁ!!? ぁが、ぁあ゛ぁぁぁぁッ!!?」
何の前触れもなく、私が身構えるよりも早く。頭からつま先まで、皮膚から骨まで、肉体の全てに針を刺されるような、不気味なほどに均一化された痛みがまとわり付いてくる。
私は思わず動きを止め、短剣を床に落とした。
「ぁが……、ぐ……!?」
「正直なことを言うと、僕は少し迷っている」
彼の者は、膝を付く私を見下ろして言った。
「深く関わったことがないんだ、この《世界》の人々と。さっき、つい自分で『君のことを犯す』と言った手前だけど、それは僕にとって喜ばしいことである一方で、ひどく勇気が要ることでもある」
その言葉、その表情は『逃げろ』と言っているような気がした。
私の憎悪が膨れ上がる。やめろ、どの口が言う。情けをかけるな! 悪であれ!!
「ふざけるなぁッ!!!」
私は床に落ちた短剣をつかみ取り、再び駆けた。彼の者は刃を平然とその身に受けながら、また面倒くさそうな表情で《神託》を告げる。
「D♭m$geO×j■t(*, “動きを止めろ”) /* 諦めてくれないかな */」
「ぅぐ!? ぁ゛あぁぁぁぁッ!!?」
再び私の全身に激痛が走る。いかなる防御も意味を成さない、絶対的な痛みだ。
しかし憎悪が痛みを凌駕した。震える刃がその細い喉元にめり込むと、彼の者は少し驚いたような顔をした。
「コマンドに逆らうなんてね。それにこの強さ、君も、そうか、あいつらと同類……」
「ぜぇっ……! ハッ……!!」
「……A#▲ri$■te(*, “動くな”) /* 警告はしたよ */」
しかし私ができたのはここまでだった。彼の者が右手の関節を小さく鳴らしながら呟くと、私の身体の動きががくんと止まった。
「っ、ぁ……! 体、が……!?」
身動きが取れない。どれだけ力を込めても、筋肉が無意味な収縮を繰り返すだけ。まるで手足を蝋で固められたようだ。首は動く、腰も少しだけなら動く。しかしそれで戦うことはできまい。
回避も防御もできない、絶対的な御業。わざわざ痛めつけなくても、こうして簡単に動きを止められたというわけだ。どうやらただ弄ばれていただけらしい――私は敗北を実感し、絶望した。
「っ、ぅ」
「後で返すよ」
私の全身が、一気に肌寒くなる。足の裏に石床の冷たさを感じるようになる。動かない体なりに首を曲げて自分の姿を確かめてみると、自分の服がいつの間にかなくなっていたのが分かった。どうやら彼の者が、また超常的な御業で私の衣服を脱がせたらしい。
一糸まとわぬ格好で、彼の者に対して短剣を振り下ろしたままの姿勢。なんて情けない格好なのだろう。
そして彼の者の小さく細い手が、私の身体に伸びてくる。本当に私のことを犯すつもりなのか――私の心が嫌悪に染まっていく。
しかし。
「――誰かいるのか!?」
男の声、そして長い長い螺旋階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。私の頬から冷や汗が流れ始めた。
私たちは大聖堂の鐘楼にいる。つまり声の主は大聖堂の関係者、おそらく見回りの僧兵だろう。教会に追われる身である私が、教会の関係者に見られるのはまずかった。路地裏に転がる酔っぱらいどもに痴態を見られるほうが、まだマシだ。
そんな事情を知ってか知らずか、彼の者は呟く。
「無粋なやつらだね。僕も、今の状況を邪魔されるのは癪だ」
次の瞬間、見回りの僧兵が持つランプの灯りが、私たちを照らした。
「――そこを動くな!!」
見つかってしまった、しかも動けない――絶望的な状況に、私は思わず目をぎゅっとつむる。しかし僧兵が取る行動は、私の予想とは大きく違ったものだった。
「……どこだ?」
「……は?」
僧兵が辺りを見渡す。ランプの光が、何度も私たちを照らしているにも関わらずだ。この僧兵は私たちに気づいていない? あまりにも異質な現象ではあるが、どこか納得はさせられる。これも《神》の御業ということだ。
しかし、事態が好転したと安堵はできなかった。
「おい、誰かいたのか?」
「い、いや……」
「お前たちの気のせいだったのでは」
「ばかな。あれだけの音を聞いて、気のせいのはずがあるか」
「怪しい音なら私も聞いた。戦闘のような音だった」
「何者かが隠れているかもしれん。探すぞ、天井も、窓の外も、隅々をだ!」
僧兵たちがぞろぞろと鐘楼に集まってくる。1人、2人、3人、4人、全部で5人だ。いくら私たちに気付かないにしても、これはあまりにも……。
「――ひぃぅっ!?」
こんな状況で、私は僧兵たちの前で間抜けな悲鳴を上げてしまう。《神》が、私の裸体を軽くなでたからだ。
「ひぅっ!? ぁっ、くふっ!! ひっ、ひゃ、ぁぁぁ……!?」
彼の者の指が、私の無防備な背中を滑っていく。
緊迫した状況には不釣り合いな、優しい刺激だ。ああ悔しい――幼い頃からの奉仕によって開発された私の身体は、嫌でも敏感に反応してしまっていた。
そんなことよりも、だ。彼の者は、僧兵がぞろぞろと集まっているこの状況で、私を犯す気なのだろうか? 私は体を動かせない代わりに、首をぶんぶんと振り続ける。
「どうせ、誰も気付かないよ」
「し、しかし……、ひっ、ひゃ……!?」
彼の者は『何てことない』と言わんばかりの態度だ。
いかに大聖堂といえども、鐘楼という空間はそう広くはない。端から端まで、歩いて10歩あるかどうかという大きさだ。鐘を鳴らすためだけの場所なのだから当然のことで、本来なら――《神》と、私と、5人の僧兵――7人も居座るようなところではない。
動き回る僧兵と触れ合うことは不思議とないものの、5人のうち誰かの視線が常に私のほうに向いているし、時には風の流れを感じるほど近くを通り過ぎることもあった。
ただ大勢の前で犯されるよりも、どこか妙な恥ずかしさがある。
「失礼なことを言うようだけど」
「んくっ、ぅ、ぁ……! さわ、る、なはぁ……っ!?」
無言で私の身体をなでていた彼の者が、口を開く。
「ちゃんと食べてる? どこもかしこも細くて、心配になるよ」
「んっく……! 知った、ことかぁ……!?」
確かに私の身体は細かった。女性にしては背が高いほうだろうか、一方で胸や尻は子供のように小さい。
凄惨な今までの生活で、自分の容姿を気にしたことなんてない。しかし改めて言われると、羞恥と屈辱を感じた。
「まあ、それを差し引いても君は美しいし、かわいいよ」
「っひぅっ!? ひゃっ、はっははははははははははははははぁぁ!!?」
彼の者がその言葉を発した瞬間、くすぐったさが一気に強くなる。細い指が、私の腋の下に潜り込んだのだ。特に短剣を握った右腕が、前方に突き出した状態のまま硬直しているせいで、右腋の下が何の抵抗もなくくすぐり責めを受けてしまう。
「ぁはぁぁっ!? はひっ、ひぃっ!!? なに、これ……っ!? はひゃ、ひゃ、ぁ、ひゃあぁぁ~~……!! あっはははははっ、ひゃぁっははははははははははぁぁっ!!?」
私は、今まで感じたことのない刺激に翻弄される。
教会の男の手は、言葉で表すなら貪るようだった。脂ぎった指はねっとりとしていて、欲望に満ちた動きは私の痛みや苦しみを無視して、快楽を与え続けた。あのくすぐり責めは体が弛緩する一方で、心がどんどん硬化していくのが、ある意味では救いだった。
しかし彼の者のくすぐり方は、どこか遠慮がちだ。指も細く、柔らかく、さらさらと肌触りがいい。故に優しく、息苦しいのにどこかうっとりとするようだ。身体の力を奪われていくだけではない。自分の心が乱されていくのを感じた。
「あはっはははははははひぃっ!!? ひゃ、やめぇっ!!? 胸は、やだぁっ!!? ふひゃあぁぁ~~~~……っ!! ぁふぎゅっ!? ぅあっひゃっははははははははははははぁぁっ!!!」
腋の下をくすぐっていた指が、段々と下りていく。
胸の横は、肉がより一層薄くて敏感だ。彼の者の指先もその分だけ優しい。ひたすら、さわさわ、さわさわとなでられる。力が抜けて、間抜けな笑い声が出た。
指が胸の横から、さらに下りていく。
「んぐぅっ!!? お腹ぁ、ぁはっ!!? ぁ゛ーーっはっはははははははははははははっ!!? やめ、んぐっ、ぅあっひゃっはっはははははははははははははぁぁあっ!!!」
脇腹は一転して、肉が厚い部分だ。そのせいか、彼の者の指先にも力がこもる。身体の奥にある硬い部分を、こりこりと揉みほぐされるようだ。先ほどまでのくすぐり方があまりにも優しかったから、私は意表を突かれて、息を詰まらせた後に大きな笑い声を上げた。
そしてさらに下、腰を指先でかりかりと引っかきながら、彼の者は呟いた。
「あとはそこだね」
「あっはははははぁぁ!! っ、あ……!? ぁ!? あはっ!! な……!?」
私の身体が、自分の意思に反して宙に浮き、そのまま動き始める。また彼の者の、不可解な御業によるものだ。
両手は下ろされ、重力に従って腰の横に。そのまま脚が持ち上がって、足の裏を彼の者にさらけ出すような姿勢に。
何をされるのか容易に想像できた私は、頬に冷や汗が流れるのを感じた。
「待って!! そこは!?」
私がそう言うと、彼の者の手が一瞬だけ止まった。
しかし別に、彼の者が私の願いを聞き届けたわけではない。むしろ、その小さな口角がほんの少し持ち上がったぐらいだ。
「ふぅん」
「――ひゃぁぅぁぁああっ!!?」
足の裏に、人差し指一本で、たった一なで。それだけで、私は自分の顔を覆いふさぎたくなるほどの悲鳴を上げた。
私だって、自分の発言が何を引き起こすか分からないほど愚鈍ではない。だけど思わずそう言ってしまうぐらい、そこは駄目だった。
「足、汚れてるね。裸足にさせちゃったから、当然か」
「ひ……!? な、何、その、水……!?」
彼の者の指先に、水のようなものが現れる。それはぱしゃりと私の両足に掛かり、どろりと足の裏を包み込んだ。
「っ、ひく……!? ぁ、あぁ……!」
雫が足の裏を伝っていくだけで、ぞわぞわとした悪寒が走る。過敏な皮膚が、その液体の粘度の高さを感じ取った。これは、ただの石けん。しかし今の状況において最悪の代物だ。私は両足に全力を込めるが、指を畳むことも、足の裏を丸めることもできない。
いつの間にか、すっかり意識の外にあった僧兵たちが、鐘楼の階段を降りていく。
「……誰もいないな」
「一体何だったんだろうか……」
「ああ。だが、警戒は怠るな」
しかし安心なんてまったくできなかった。私は今、新たな危機に直面しているのだから。
そして彼の者の指先が、私の足の裏に触れるのだ。
「ひぃぃぅっ!!?」
指先が触れるだけで腰が浮き上がる心地。そして10本の指が動き出した瞬間、私は自分の置かれた状況を忘れ去るほどのくすぐったさに襲われた。
「――ぁぁあっはっはっははははははははははははははぁぁぁあっ!!? あはっ!!! ひぃいぃぃぃぃぃっ!!? ひや゛ぁぁぁぁぁっはっははははははははぁあっはっははははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!?」
体の端も端にある部位が、どうしてここまで体の中枢を犯されているような心地にさせるのだろうか?
私の弱点――全身の中でも1番くすぐったい足の裏は、幼い頃から薬に漬け込まれて、嫌になるほど仕込まれている。
今までの遠慮がちなくすぐり方とは少しだけ違う、どこか熱のこもったくすぐり責めに、私の体は敏感に反応した。土踏まずを指の腹で優しくなでたり、かかとを爪で強く引っかいたり、指の間に指先を差し込まれたり――どこをどんな風にくすぐられても、耐えがたいほどにくすぐったい。
中でも、指の付け根はひときわ弱かった。
「きひぃいぃぃぃぃぃっ!!? そこぉっ!!? そこばっかりひぃぃっひっひひあ゛っはっはっはははははははははははははははははぁぁぁ♡♡♡♡ しつこひぃぃいぃぃぃぃぃぃっ!!? しつこいぃぃぃっひっひゃっははっはははははははははははははぁぁあ~~~~~~~~♡♡♡♡」
彼の者が素早く、執拗に、何より的確に、弱点をくすぐり続ける。足の裏の付け根にある、曲線を描いて盛り上がっているところだ。そこを爪でこそぐように引っかかれると、ぞわぞわとしたものが下腹部にまで響いてくるのだ。
本来、性の営みにおいて女性は、胸や性器を刺激されて絶頂するものらしい。
しかし私の足の裏――特に指の付け根は、そんな場所よりもずっと性的な部位になっていた。ただ乱暴にくすぐられるだけで、思わず女性器をひくつかせてしまうぐらい気持ちよくなってしまうのだ。
「これいじょっ、はっっひひひぃぃっ♡♡♡♡ ひっ、ぁ、ぁぁぁぁあああああっ!!!? ――ん゛んぅぅっ♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!? ひはははははっ♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
故に、私はすぐに絶頂した。くすぐられている足の裏、性の中枢である女性器、そしてそれらをつなぐ脚全体――腰から下が激しく痙攣する。
絶頂のさなか一生懸命口を閉じようとしても、膣から漏れ出る愛液までを止めることはできない。ぴゅっと恥ずかしく噴き出した潮が、彼の者のローブをほんの少しだけ濡らした。
それを合図に、彼の者のくすぐり責めが止まった。
「はっ、ぁ……♡ ひ……、あぁ……!」
うっとりするような快感の余韻が、私をこれ以上なく惨めな思いにさせた。憎悪する相手に負けただけでなく辱めすら受ける。これほど惨めなことがあるだろうか。
快楽で零れた涙は、火照った体が冷めるにつれて悔しさの涙に変わる。いつしか私は嗚咽を上げて泣いていた。
「っ、く……! ぐすっ……、ぅぅ……!」
「…………」
そんな私を、彼の者は無表情のまま見つめていた。色事に興じているとは思えないほど冷たい表情だ。そしてややあってから、何かを納得させるかのように呟くのだ。
「君が、僕を殺そうとしたのは事実だ」
一瞬の浮遊感。私の体はとさりと優しい音を立てながら、床に落ちた。どうやら身体を動かせるようになったらしい。
しかし逃げることはできなかった。悔しさと絶望で麻痺した私の思考が逃走という判断を取る前に、彼の者は再び呟いた。
「これは罰と受け取ってほしい」
再びの浮遊感。次の瞬間、視界が暗くなる。どこかに移動させられた?
「ここは、一体……っ?」
涙を拭いながら辺りを見渡す。すぐ目の前にあるのは鉄の壁――しかし自分を包み込むような曲線を描いた、妙な壁だ。暗い。だが足下が明るい。下を見ると、遠いところに石の床がある。あの床は、先ほどまで私がいた場所だ。
ややあって、私は鐘楼の真ん中に吊り下げられていた鐘の中に押し込められていたことに気付いた。
宗教の総本山なだけあって、大聖堂の鐘は大きい。それこそ、人が1人すっぽりと入ってしまうぐらい。しかし立ち上がることはできず、足を伸ばすこともできない。すぐ足元には何もないはずなのに、鐘の入り口に透明な蓋をされてしまったかのように、その場から下りることもできない。
できるのは、せいぜい膝を曲げて座るぐらいだ。
「ひ……っ!!?」
そして暗くても分かる目の前の光景に、私は思わず引きつった悲鳴を漏らした。
私を阻む透明な蓋を無視して、無数の白い手が次々と狭い鐘の中に入り込んでくる。手首から先しかない無数の手は、小さく、細く、見るからに柔らかそうで。
彼の者がこれから何をしようとしているのかは、一目瞭然だ。
「やめ――」
「――それじゃあね」
そして彼の者の気配は闇夜へと消える。それと同時に、わきわきと指をうごめかせ続けていた無数の白い手が、一斉に行動を開始した。
「――あ゛ぁぁーーーーっはっはっはははははははははははははははぁぁぁぁぁ!!!! やめぇっ!!!? やめ゛ぇぇぇぇ!!!? あ゛ぁーーーーっ!!!! あぁあぁぁっひゃっはっはっはっははははははははははははぁ~~~~~~~~!!!?」
無数の手が、私の全身をくすぐり犯す。
私の笑い声が鐘の中で反響するせいで、ひどく恥ずかしくやかましい。だけど、頭の天辺からつま先まで、全身を余すことなくくすぐられていれば、笑い声を抑えることなんてできない。頭も、肩も、へそも、先ほどまでくすぐられていなかった部位までもくすぐられている。
長年犯され続けてきた私は、このくすぐり責めの残酷さを体で理解することができた。教会にいた男のように、自分の欲望を満たすための動きではない。先ほどまでのように、どこか遠慮がちな動きでもない。
これはただひたすらに、くすぐったさと快楽を与えるために効率化された動きだ。故に残酷なのだ。
私はくすぐったさから逃れようとじたばたと暴れ続ける。すると無数の手の内4つが、私の両手首と両足首をつかんでしまう。
「ぁはぁっ!!!? な、なに、してぇぇっへっへっへへへへへへひゃっはっははははははははははははははははぁぁぁぁ!!!! やめ、はなじでぇぇぇぇひゃっはっはっははははははははははははははははははははははぁぁあ~~~~~~~~っ!!!!」
腋の下を曝け出されて、脚を開かせられて、どこをどう動かしてもくすぐったさから逃れられることはできなかった。
先ほどから、彼の者の声どころか、気配すら感じない。
果たして、彼の者はどこに行ったのだろうか? 私の無様な姿を、どこかでにやにやと眺めているのだろうか? それとも、もうどこかへと行ってしまったのだろうか? ……もしそうだとしたら、これはいつまで続くのだろうか?
《神》は永劫の時間を生きると聞く。彼の者にとっての1日など、ひと呼吸にも満たない時間だろう。もしかして、私はその永劫をずっとこうして過ごすのか?
最悪の状況を予想して恐怖した瞬間、全く予想していなかった恐怖が訪れた。
「――やはり誰かいるな!!?」
「っっっ!!? な、なんでへっ!? んぐっ、ん゛~~~~っ!!? っ!? ん゛ぐっ、ふぅぅ!!!?」
見回りの僧兵たちの声が響く。がちゃがちゃという鎧の喧しい音と共に、彼らは再び鐘楼へと駆け上がってきたのだ。
当然、私は焦った。反射的に笑い声を飲み込む。圧縮された空気が胃に入って気持ちが悪い。だけど、そんなことを気にしていられない。
どうして? 私の存在は《神》の御業によって気付かれないはずでは?
その原因はすぐに理解できた。
「こ、これは、一体……!」
「鐘が、ひとりでに……!?」
ごりごりごり。がらん、がりっ、がらがら、がらがらがらん。
自分の笑い声と吐息の隙間から、金属のこすれる音が聞こえてくる。
これは鐘の音だ。私が鐘の中で暴れているから、鐘が鳴っていたのだ。事実、私は暴れながら気付かない内に、鐘の中心にぶら下がっている金属の塊――舌を、鐘の内側に押し当て続けていた。
私の存在も、私を犯す無数の手の存在も、彼らは認識できない。しかし鐘はその限りではない。僧兵にとっては、ひとりでに鐘が揺れているように見えるのだから、さぞ異様な光景だろう。
「ふっ、んぐぅ……!!? っくっふふふふふぅぅ~~っ!!! っ、っ!!!? ふぐっふふふふふぅぅぅっ!!!?」
動いたらまずい。
だけど、くすぐったさのあまりに身勝手に動く頭が、腕が、足が、鈍い音を奏で続けてしまう。
「誰か、いるのか……!?」
次の瞬間、視界が明るくなる。僧兵の1人がランプをかざして、鐘の下から内部を照らしたからだ。
男たちが、鐘の下からこちらを見上げている。
彼らは私を認識できない。しかし、私は鐘の中に腰掛けるように押し込められていて。そうすると、下からは本来、私の性器や尻が丸見えになっているわけで。
汗か愛液か、何らかの液体が私の股間から垂れ落ちて、1人の男の鼻先をかすめて床を濡らした。
「やめ――!!!? み、見な――!!? っぐっ、くぅっふふふふふふふぅ゛ぅぅ!!!? ぅ゛ぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~ッ!!!?」
私は笑い声を抑えていたことなんて忘れて、ほとんど反射的に叫びそうになった。彼らが私に気付かないと言っても、この状況はあんまりなのではないだろうか?
私はなけなしの体力と精神力を振り絞って耐えようとした。
「ひぅっっふぐっふふふふふふふふふぅぅっ!!!? ふ、う゛ぅぅぅぅぅぅ……っ!!! ぅっ、ぐふぅっふふっ!!? ふっ、ふぃい゛ぃぃぃぅぅぅぅぅっ!!!?」
くすぐったさをどうにかして、身体の外に追い出そうとする。どうすればいいのかなんて分からない。とにかく、身体を強ばらせて、呼吸を止め続ける。
そうしていたら、まるで私の努力をあざ笑うかのように、鐘内部の頂上から、透明な液体がぱらぱらと降り注いでくるのだ。
「――逃れられるとでも?」
どこかから、《神》の小さな声が聞こえる。降り注ぐ液体が、先ほど足の裏に塗り込まれたものと同じぐらいぬるぬるしていることは、すぐに分かった。
「っっふぎゃあ゛あぁぁーーっはっはっはははははははははははははははははははははっ!!!!? ぁはっ♡♡♡♡♡ っひぃいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!? や゛めっ!!!!? やめぇぇぇぇへひゃっっはっはっはははははははははははぁぁぁぁあ~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
ああ、何てひどい追い打ちだ。きっと、彼の者は知らないのだろう。身体がぬるぬるになるということは、とんでもなくくすぐったくなることなのだと。
引っかき、揉みしだき、本来では痛みを覚えるような責め方ですら、体がぬるぬるになればくすぐったくなる。なで姦し、なぞり、本来では何も感じないような責め方ですら、体がぬるぬるになればくすぐったくなる。本来であればくすぐったい責め方は、体がぬるぬるになれば何倍にもくすぐったくなる。
それが、体をぬるぬるにされるということなのだ。
それが、ああ、頭上から絶え間なく降り注いでくる。
「ぁあ゛あぁぁっはっはっはははははははははひぃぃぃぃぃぃっ!!!!? かけなひでぇぇぇぇっへへへへッ!!!!? にゅるぬるかけなひでぇぇぇぇひゃっはっはっははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁああ!!!!?」
「か、鐘の音がさらに激しく……っ!!?」
「これは侵入者などという話ではないぞ!」
「もしや、もしや主が何かお怒りなのでは……!?」
「し、司祭だ! コートハーヴェン司祭をお呼びしろ!!」
涙でにじむ足下の向こうで、僧兵たちがさらにうろたえだす。何だか人がさらに増えている気がする。
鐘の中で降り注ぐぬるぬるは、鐘の外に出ると驚くほど早く蒸発するようだ。男たちがぬるぬるに濡れることはなく、彼らの足下には私の体液でできた数点のシミだけがあった。
そしてたくさんの男たちが私を見下ろしている最悪のタイミングで、とうとう限界が訪れた。
「ぁっ、あ゛あぁっはっはっはははははははぁぁぁぁあっ♡♡♡♡♡ ぁはぁぁぁあっ♡♡♡♡♡ あっ、ぁっ、あぁっ!!!!? ひゃ、ひゃめっ♡♡♡♡♡ も、もぉ!!!!? あはっ!!!!! ひっ♡♡♡♡♡ ぁ、あ゛ぁぁぁぁぁっ♡♡♡♡♡」
呼吸が短くなる。全身が強ばる。
だめだ、もう我慢できない。
「どいてぇぇぇぇぇえっ♡♡♡♡♡ ぇあひゃっはっははははははは!!!!? おねがひぃぃっひひひひひひひひゃっはっはははははははははははっ!!!!! どいてぇぇぇぇぇぇぇっへへへへへへへへへへへへへへへへへぇぇぇぇぇぇえっ!!!!!」
私は足下に向かって必死に叫び続ける。ある確信があったからだ。
だけど、私の必死の懇願は僧兵たちに届くはずもなく、その確信は現実となる。
「ぇ、あっ、ぁ、あぁぁぁぁぁあッ!!!!! ひ――ッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁは――、ぁははは――ッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ やぁ゛ぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
私は絶頂と同時に、潮を吹いた。そして、吹いた潮が僧兵たちの顔をびちゃびちゃと濡らしていく。
自分の恥ずかしい体液が、よく分からない男たちの顔にぶちまけられていく。彼らは決して、そのことに気付かない。だけど、それでも、それは女としての誇りを傷つけられたような気がした。
そして、くすぐり責めは終わらない。
「ぁはぁぁぁあッ♡♡♡♡♡ も、ひゃめ――♡♡♡♡♡ ぇあひゃぁぁあっはっはっははははははははははははははは♡♡♡♡♡ ひぃいぃぃぃぃぃぃぃ♡♡♡♡♡ ぃや゛あぁぁっはっはっはははははははははははははぁぁぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
全身にまとわりついた無数の手は、相変わらず私の素肌をくすぐり続ける。両手足をつかんだ4つの手はびくともしない。頭上からはぬるぬるが降り注ぎ、私の肌を潤し続ける。
誇りを汚された屈辱すら、くすぐったさに洗い流されていく。
「コートハーヴェン司祭。こ、これは一体……」
「……分かりません。このようなことは、数千年の歴史でも初めてのことです」
「ああ、主よ。我らをお救いたまえ……!」
足下には人だかり。何かを宣う彼らは気付いていないのだろうか? この惨状は、他でもない《神》が齎したということを。それも、ひどくくだらない理由で。
「ぁあ゛ぁぁっひゃっはっははっははははははははははぁぁぁぁあっ♡♡♡♡♡ ひゃらぁぁっはっははははははははは♡♡♡♡♡ ぁ、い――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁぁ゛ぁぁぁああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ♡♡♡♡♡」
私は彼らに何度も体液をぶちまけながら、ただ絶頂を繰り返す。
ああ、くすぐったい、くすぐったい、気持ちいい。
それだけを感じながら、ゆっくり、ゆっくりと意識を手放していくのだった。
――――
――
私が目を覚ましたのは、地平線の向こうから太陽が登り始めたころだった。
「ここは……」
ここは大聖堂の鐘楼だ。
私は上半身を起こしながら記憶をさかのぼる。《神》と戦った、負けた、……犯された。
そんなことを微塵も感じさせない、清涼な空気がひどく不気味だった。石床の上で寝ていたはずなのに、体が痛くないどころか活力に満ちてすらいる。裸にされたはずなのに、衣服も短剣も元通りだ。
「おはよう」
「ッ!」
横たわる私を、彼の者が見下ろしていた。
静かで、冷たい声を掛けられて、私は座ったまま反射的に身構えた。
「人払いはしてある。ゆっくりしていても、教会の人間は来ないよ」
「……私を辱めるのは愉しかったですか」
私は彼の者の言葉に応えることもなく、反対に憎しみを込めて聞いた。
ただの皮肉だ。答えなんて求めていない。私のことを犯し続けた教会の男の、泥に沈められた肉塊のような表情を思い出せば、そんなの分かり切っていたのだから。
しかし彼の者の返答は、教会の男とはまるで違う、少し予想外のものだった。
「つまらなかったよ」
「…………」
「すごく、つまらなかった」
彼の者が冷たい表情で顔を背ける。『犯しておいて何という言い草だ』――そんな感情が出てくる前に、その表情が私の胸にひどく引っ掛かった。
「それで、君は僕に負けて、これからどうするの?」
しかし次の瞬間には、彼の者の表情が変わっていた。昨晩よく見た、『相手をするのが面倒くさい』と言わんばかりの表情だ。
私は立ち上がった。
「私は、貴女を殺すために生きてきました。今更、貴女から離れる理由がありません」
「無理だって分かって言ってるの?」
悔しいが、敵わないことは自覚していた。しかし今更退いてどうするというのだろうか?
私は《神》を殺すために今日という日まで生き延びてきたのだ。その目的を捨てて、どうして生きることができようか。
「力を付け、弱点を見付け、いつか必ず《貴女》を殺します。絶対に逃しません」
「……好きにして。だけど、君があまりに邪魔なら、僕はすぐ遠くに逃げるよ。そもそも、僕が君の側にいなければならない理由はないんだ」
『まず、所構わず暴れるのは、迷惑だからやめること』――彼の者はそう言って1度ため息を付いてから、何のためらいもなく鐘楼から飛び降りた。
初めて出会った私の生きる目的――《神》は奇妙な存在だった。
幾千年、幾万年の歴史を築いてきた存在だが、見た目はただの少女。この世界に対する認識は達観しているが、一方で精神性自体はどこか普通の人間に近いものを感じる。あまりにちぐはぐな存在。
しかしそれこそが、私の憎悪の根源だ。
「……いつか、必ず殺してみせる」
私も彼の者の後を追うように、大聖堂の鐘楼から飛び降りるのだった。
目次
表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》