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◆あらすじ
幼いころからスパイとして生きてきた”ストレリチア”は、『スパイ潰し』と呼ばれる謎の施設に潜入して捕らえられてしまいます。その施設に居るたった独りの人間”カズヤ”の拷問手法は、マジックハンドによるくすぐり責めでした。所属する組織に計り知れない恩義を感じているストレリチアは、最初こそ気丈を保つも、執拗なくすぐったさに、次第に我慢の限界を迎えていきます。心折れかけた彼女への追い打ち、不意に襲う性的絶頂、それを決定的なものにするクリトリスへの電マ責め、蕩けていく思考。そしてついに組織に対する重大な裏切りを果たしてしまうストレリチアに、カズヤが言い放った言葉とは――そんな、男の悪意に堕とされる少女の物語。
※この作品は、Skebで頂いた有償リクエストの作品です。
「――『スパイ潰し』ですか? 何というか随分と、私たちに対して挑戦的な名前ですね」
「ふざけた通り名だが、本物だ。ストレリチア、この名簿を見ろ。今回のターゲットとなる施設の調査に赴いた同業が、こぞって姿を消している」
「これはまた、結構な人数で。しかしハンドラー、施設の資料がないようですが」
「分からんのさ、何もかもだ。特殊防御材製の扉の向こうはジュゴンの胃につながっているなんて言われる始末だ」
「……妙な話ですね」
「何がだ?」
「今まで消息を絶った同業たちが、どうしてそんな施設に赴いたのかということです。我々もビジネスです。敵対関係の判然としない、そもそも何をしているのかすら分からない施設なんて調査して、一体誰が得をするというのでしょう。今回の依頼主は誰です?」
「……相変わらず、君は年に似合わず鋭いな。同業たちの動機はあずかり知るところではないが、少なくともウチは明白だ。こうも『スパイ潰し』という名前が広まってしまうと、野放しにしている我々が後ろ指をさされることも増えてな」
「沽券に関わる、ということですか。つまり、今回の依頼は」
「上からだ。小さい組織だからな、信用を失うのはまずいらしい。これもビジネスだ」
「なるほど」
「文句のネタは尽きたか?」
「最初から文句なんてありませんよ。指令通り、調査に向かいます。……それと、ハンドラー」
「……聞きたくないが、何だ」
「親に捨てられた私を拾って、ここまで育ててくださったこと、本当に感謝しています」
「任務のたびにそれを言うのをやめてくれないか。それに、感傷に浸るには、君はまだ若すぎるぞ」
「生きて帰れるか分からない世界ではないですか」
「そんな世界に君を引きずり込んだのは、他でもない私だ」
「それでも、そうしてくださらなければ、私はどこかでのたれ死んでいました」
「ああもう、いいから行け。優秀な君のことだ、最初から心配していない」
「あ、それと」
「まだあるのか」
「以前から思っていたのですが、その、もしも私にお母さんがいたら、ハンドラーのような人が、良かったな、なんて……」
「ああ?」
「あ、いえ! 何でもありません、聞こえていないなら結構です! それでは、任務に行って参ります!」
「……はぁ、やっと行ったか。毎度毎度、こっぱずかしいことをしてくれる」
「……ふふ。私はまだ、『お姉さん』って年だろうが。ストレリチアめ」
――――
――
ストレリチア――それが私に与えられた名前でした。
黒く長い髪。若さを助長する童顔。膂力という言葉がまるで似合わない細い体躯。少しだけコンプレックスのある、女性らしさの足りない胸と尻。ぴちりと肌に貼り付く、少し橙色掛かった黒色のボディスーツを着ると、貧相な肌のラインがくっきりと見えて、少し嫌でした。
見た目のせいで『小娘が』と侮られることも多いけれど、この仕事をしていて、実力でも、経験でも、他に劣るとは思ったことはありません。幼いころに捨てられたせいで正確な年齢は分からず、そしてそれだけ幼いころから、私はスパイとして養成され、数多くの任務をこなしてきたのですから。
そんな経験で知っていることです。まだ生きているのなら、こうして1度捕まったぐらいで、諦めてはいけない。
(……まずは落ち着いて、状況を整理)
私は『スパイ潰し』と呼ばれている施設に潜入して、捕まりました。窓一つない真っ白な通路を歩いている最中、突然意識を失ったのです。あれは、何かの薬剤を嗅がされたのか……? また同じ道を通る可能性がある以上、無視はできない懸念点。
意識を失うというのは厄介でした。こういう時、帰り道が分からなくなってしまうから。
(いや、それはまだいい。それよりも先に考えるべきは、今のこと)
意識を失った私は、所在の分からない部屋に運ばれていました。壁、床、天井、全てが真っ白。天井に規則正しく並んだ蛍光灯がどれも新品のような明かりを放っていて、少しまぶしい。
首だけを動かして辺りを見渡してみると、部屋の広さは目測でおよそ10m四方、高さは5mほどか。机やベッドを置いて住むには余るであろう大きさの空間に、しかし実際に置かれたものは最低限。壁にもたれ掛かる一脚のパイプ椅子。部屋の隅にぽつんと置かれた一台の棚。そして、中央には私を乗せた拘束台。
そう、私は気絶した後、この部屋で拘束されていたのです。私の体を縛り付ける拘束台は、まるで分娩台のようでした。背もたれが少し後ろに傾いた幅広の椅子に、脚を開かせるための台が付いているのです。首、腰、二の腕、手首、太もも、足首――全身の至る所にがちりとはまった金属の枷は、解けそうにありません。両腕は真横、脚はM字、この格好は不快でした。
(そもそも、この施設は何? こんなの、人が居られる環境ではない……!)
いら立ち。そもそもここは、私の知る文明的な建物とは、あまりに違っていたのです。
大きな工場地帯に埋もれるように存在する、見た目は単なる廃工場。しかしその奥に隠された扉を開くと、まるで都会の高層ビルをそのまま地面の下に埋め立てたかのような、深く広大な地下施設があったのです。
どれだけ広大でも人が使う以上、部屋や通路の構造に規則性を持たせるとか、エレベーターを設置するとか、案内を置くとか、利便性を考慮して設計されるのが道理。しかしこの施設は、そういったものがまるで感じられませんでした。規則性のない、長く入り組んだ通路。いくつもの隠し扉。まるで忍者屋敷を現代化……いえ、未来化したようなトラップの数々。落とし穴、ねずみ取り……嫌がらせのようなくだらないものから、もしも実弾であれば命を落としかねないものまで。全ての通路、全ての部屋がそう。
常識が、感覚が乱される――そのせいで、こんなことになってしまった。
「……っふー」
いら立ちに思考までもが乱されていることに気付き、私は頭を横に振りました。
その時、私の右前方――この部屋にある唯一の出入り口から、人の気配を感じたのでした。
「――さあて、待たせちゃって済まないね」
自動ドアが開き現れたのは、タブレット端末を抱えた1人の男。
当然、私よりは年上でしょうけれど、今まで潜入してきた施設のお偉方と比べれば、ずっと若く見えます。顔は整っていなくもないように見えるけれど、少し長めの髪はぼさぼさ。男性特有の威圧感を覚えさせない細身の体を包むのは、サイズの合っていないぶかぶかの白衣。
へらへらと笑う優男は、壁の隅からパイプ椅子をこちらに運びながら言いました。
「まずは自己紹介といっとこうか? 僕、カズヤっていうの。君は?」
「答えるつもりはありません」
「冷たいねえ。ま、どうせここには僕と君しかいないんだし、呼べば伝わるか」
「…………」
「それにしても君、すごいねえ! この建物、全部で10階層あるんだけどね? まさか6階層まで突破されるなんて、新記録だよ! 今まで結構な人が来て、そん中でも君はぶっちぎりで若いと思うんだけどねえ」
「この施設は、一体何なのですか」
「おいおい。僕の質問には答えてくれないくせに、そっちの質問には答えろって? それずるくない?」
「……道理ですね」
「ねえ君さ、その話し方疲れない? なーんか、お堅いというか、その年で敬語が板に付いちゃってるっていうかさ。もっとこう、フランクに話してくれていいよ?」
「あいにく、元々ですので」
気に入らない――それが、カズヤなる男に対する第一印象でした。なれなれしいこと、スパイである私を何ら脅威に思っていないであろうこと。……そして何か、この男と話していると寒気がすること。
「さて、そうだな。こちらの要求を伝えとこうか。『君の名前』『君の所属』『君の依頼主』――その三つを答えてもらえるかな」
「答えると思いますか」
「だろうね。けど、ま、一応警告しといてあげるよ」
3本の指を畳みながら告げるカズヤに対して、私は当然の拒絶をします。次の瞬間、彼は右手で私の両頬をつかみます。
「――君、後悔するよ?」
「……ふん」
背筋に一瞬だけ走る寒気を無視して、私は首に力を込めて彼の右手を振り払いました。
スパイが自ら情報を吐くなんてもっての外。しかし、そんな仕事上の使命感以上の感情が、私の胸を燃やします――自分のことを育ててくれた組織を、そしてハンドラーを裏切ることなんてできない。たとえ、これから行われるのが、どれだけ酷烈な拷問であったとしてもです。
「じゃあま、お決まりのやついっときますか」
「っ」
カズヤが取り出したのは、何の変哲もないハサミでした。彼は何のためらいもなく、開いた刃を私のお腹に近づけます。
じょきりという小気味のよい音に、私は下唇をかみました。
「動くと危ないよー」
「何を、して……っ」
痛みはない。彼のハサミは、私の全身を包む、橙色混じりの黒いボディスーツを切っているだけでした。お腹から首元へ、肩から手首へ――ボディスーツが丁寧に切り取られて、私の裸体があらわになっていきます。
「これ、失礼な話なんだけどね? 今まで来た人って、みんな結構な体だったんだよ。だから『スパイってのはナイスバディしかなれないのかー?』なんて思ったんだけど、違ったね」
「……本当に、失礼な話ですね」
「ははは。まあ大丈夫大丈夫。君かわいいし、体もきれいっちゃきれいだから。ちゃーんと需要はあるよ」
「あなたに褒められても、うれしくありません」
ふざけた会話とは裏腹に、胸に渦巻くのは少しの羞恥、少しの恐怖。そして、少しの安堵。
スパイに対する拷問の手法は、多岐にわたります。切る、焼く、絞める、沈める――そのどれもが、相手に苦痛を与えることを目的とするものです。
しかし、衣服を裂き裸体を晒すという行為から、彼の手法が『性拷問』であると推察できたのです。性拷問、それは苦痛を与える行為としては実に拙いもの。男が『拷問』という体を取り繕いながら、ただ己の欲望を満たすためだけに行われる、三流、いや四流以下の手法。それが私の認識でした。
「さあて、いよいよお愉しみの時間だ」
カズヤは、私の正面に置いたパイプ椅子に座り、足を組み、膝に乗せたタブレット端末をたたき始めます。
モーターが回るような機械音が聞こえてくる。耳を済ますと、その出どころは自分の背中から。ああそうか、人が座るにはやけに大きすぎると思ったら、この分娩台の形をした拘束具自体が、何かしらの機械だったのか。
そんなことよりも、今の状況からどうやって脱するべきか。
チャンスは、全身の拘束が外される時。となれば、『こんな方法では無意味だ』と分かるまで耐えるか、反対にあえて堕ちたふりをするか。自ら意識を絶つのは造作もないこと。あるいは、うその情報という手もある。こういう事態に作り話をでっち上げるために、34通りのテンプレートを頭の中にたたき込んである――そう、私は今から襲い来る脅威を侮って、先のことばかり考えていたのです。
これから行われることが、今まで受けたどんな拷問よりも異質で、残酷なものであると知らずに。
「んくぁ――!!?」
その衝撃は、意識をそらしていた私に、不意に襲ってきました。
右腋の下から広がる、痛みとも痒みとも違う不快感。不思議と、その感覚は全く関係のない顔面にまで及んで、口角をヒクつかせていくような。
私が驚き自分の体を見下ろすと、椅子の背もたれから伸びた、恐らく機械で作られた手が、私の右腋の下をなでていたのです。
「どう? 僕が手ずから作ったマジックハンド。結構良い動きしてるだろ?」
「んなっ、何、を――! ひっ、ぁ――! ぁく……!?」
「いやあ、それにしても君、結構高い声出るんだね。さっきまでずっとむすーっとしてるからさ」
「ばかに、して――!? ぁっ、ひぁ、ぁ……っ!」
私が抗議の声を上げる前に、左腋の下にもマジックハンドとやらが貼り付きます。決して誤作動ではない、機械は明確な意思でもって、私の両腋の下を攻撃していると分かりました。
こういうのを『くすぐり責め』と言うのでしたか。親しい家族や友人がいれば、おふざけですることがあるそうで。生きていれば普通に身に付くであろう知識だけど、自身が受けるのは初めて。
しかし、分かりませんでした。なぜ今、そんなことを? この男はいつ、拷問を始めるつもりなのでしょう?
「君、『分かんない』って顔してるから教えてあげる。拷問はもう始まってるんだよ?」
「まさか、んひっ、これがですか……? だとしたら、っ、滑稽ですね……!」
性拷問ですらない、おふざけの拷問。もしも彼の言うことが冗談であるにしても、時間の浪費をする愚かな行為。もしも彼の言うことが本当であれば、本当に本当に愚かな行為です。
「まあ見ててよ。まずは、全身の感度を調べないとね」
カズヤがそう言ってタブレット端末を操作すると、椅子の背もたれから伸びるマジックハンドが増えていき、私の全身を、順番にくすぐっていくのです。
「ひぁっ、腋の下はっ、んく……っ! ぁはぅ、ぁぁぁ……!」
腋の下。ぴんとそろえられた指の腹でなでられると、ぞくぞくとした感覚が私の背筋を上っていく。
「ぁぐっ……! お腹、こりこりしても、何もぉ……!」
脇腹。腋の下よりも少し強い力加減で、指先が肉に食い込んでいく。
「く、首ぃ……!? そんなところ、くすぐったって、笑うわけがぁ……!?」
首筋。手のひらでなでられても笑い出すことはないけれど、何だか変な気分。
「太ももはやめ……っ!? 結局、『くすぐり責め』とか言って、そういうことがしたいのでは…ぁ…!?」
太もも。秘所に近い部分に指先が及ぶと、体は嫌が応でも緊張してしまう。
「うふぁっ!? っく……!? 足の裏なんか、別に、くすぐったくは、ぁぁぁ……!」
足の裏。指先でつつっとなでられて笑い声を上げてしまいそうだったけど、すんでの所で我慢する。
そうやって、1か所、また1か所と、マジックハンドでくすぐられる部位が増えていきます。しかし、全身にマジックハンドが及んでも――数えたところ、10本ほどか――なお、耐えきれないほどのくすぐったさではありませんでした。
「くっ、くくく……! こんなの、時間の無駄、ですね……! ふくっ、ぅくくくくふぅぅ……!?」
まったく、このくだらない拷問は、いったいいつまで続くのか――しかし、そう思った時、カズヤはふと口を開いたのです。
「もしかして、君さ、他人にくすぐられたことない?」
「だったら、くっ、何だと言うのです……!」
「……バカだなあって」
「は? 何を――ッ~~~~~~~~!!?」
心底腹が立つ、見下すような表情。しかし、次の瞬間私の顔に浮かぶのは、怒りではなく笑い。
彼の言葉と同時に、マジックハンドの動きが一気に速くなったのです。
「ぁはっ、あぁっはっははははははははははははぁぁあああ!!? なんでっ、なんでぇぇぇぇえっ!! だって、さっきまで耐え――!!! ぁはっ、ぁっはははははははははははぁぁぁぁあああっ!!?」
「あんな、そろそろと触るような動きが、くすぐり責めだと思ったの? たぶんだけどね、これが一般人の感覚で言う、『普通のくすぐり責め』の触り方」
「そんなっ、まさ、ひゃはっははははぁぁぁぁあああ!!? でもっ、だってっ!!! へへっ、へっへへへへへへへへぇぇぇぇぇえええええええ!!?」
『そんな』『まさか』『でも』『だって』――まとまりのない言葉が私の喉まで出掛かって、しかしそれらは全て笑い声にかき消されてしまいます。
腋の下、脇腹、首筋、太もも、足の裏。10本のマジックハンドが無秩序に、肌の上を駆け巡る。たったそれだけで、神経が強烈な不快感に冒されて、笑うのを我慢できなくなってしまう。
私は、彼の言葉が信じられませんでした。これが、『普通のくすぐり責め』? スパイとしてそこらの拷問であれば難なく耐えられるように訓練された私が、そんな一般人レベルの行為で、こんなにも乱されてしまうだなんて。
「君、すっごいくすぐったがり屋さんだねぇ。今までで1番かも」
「ぁはっ、あっはははははははぁぁぁぁあああっ!!? ばかに、して――っ!!! ぁくぅ――!!? ぅっふふふふぅぅぅぅ、ぁっはははははははぁぁぁぁああああっ!!?」
私にとってその言葉は、ひどい侮辱のように感じられたのでした。
「で、えーと、何だっけ? 『君の名前』『君の所属』『君の依頼主』だったかな。どう?」
「誰がっ、誰が言うものです――かひゃぁっ!!? ぁはっ、そこはだめぇぇっへっへへへへへへへぇぇぇぇええええ!!?」
私のその返答は、ほとんど反射的なものでした。こんな屈辱を齎す憎き男なんかに、負けたくない。
しかし、私がそう答えると、彼はすくりと立ち上がって背を向け歩き出してしまうのです。
「ま、気が向いたら呼んでよ」
「なっ、なひゃっはっはははははぁぁ!!? まっ、待っ!!! どこに行――!!? ひひゃっははははははははははははっ!!?」
「え? ここにいても仕方ないし、マシンの開発でもしてようかなって。君に突破されたフロアのフィードバックもしたいしさ」
そしてカズヤは、部屋の自動ドアをくぐってどこかへ行ってしまいます。私は拘束され、マジックハンドに全身をくすぐられたまま、独り何もない部屋に取り残されるのでした。
「何を考えてぇぇぇっへっひひひひひひひひひひぃぃぃぃっ!!? ひひゃっ、ひゃっははははははははははっ、ぁはっははははははははははぁぁぁああっ!!!」
信じられない。拷問対象から目を離してしまうこと――いや、女性を裸にむいて全身をくすぐり責めにしたまま放置するだなんて。男としてのデリカシーとか、何かそういうものが信じられない!
「これっ、苦し――!!? くすぐられるのっ、つらいぃぃぃっひっひっひひひひひひひひひひっ!!? ぁはっ、ぁっははははははははははははははぁぁぁぁああっ!!!」
私は、『くすぐり責め』という行為が拷問たり得るものであると、認識を改めました。
決して出血を強いるものでなければ、体に何か痕が残るものでもない。しかし、全身に纏わり付く不快感は、ある意味では痛みよりも苦しい。
どのような拷問を受けたにせよ、スパイの責務は変わりません。絶対に依頼主を、そして組織を裏切るようなまねをしてはならない。
それでも、くすぐり責めは確実に私の精神を摩耗させていきます。
――――
――
「だからっ、腋の下はやめてってぇぇぇっへっへへへへへへへへへへへへへ!!! そこっ、そこが1番くすぐったいからぁぁぁぁっはっはははははははぁぁぁぁああああ~~~~~~~~っ!!?」
――――
――
「あああもおおおおおお足の裏も嫌だぁぁっはっはははははははははははっ!!? 足の裏もっ、足の裏も1番くすぐっだいぃぃぃぃっひっひゃっはははははははははははぁぁぁぁぁっ!!!」
――――
――
「ぁはっはははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!! ぁ゛ーーーーっ、あ゛ーーーーーーーー!!! ぁはぁぁぁぁっははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁああああ!!!」
――――
――
時間にして、果たしてどれぐらいでしょうか。この部屋には時計がなく、体内時計もくすぐったさのせいで乱されてしまって、正確な時間が分かりません。
体感で何時間もたったころにはもう、私は限界に近づいていました。
「ぁ゛はっ!!! ぁはははははははははっ!!! このままじゃ、死ぬ――!!? ぁはっ、ぁ゛ーーっ!!? ぁははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあ――!!?」
とにかく、何か交渉をして、このくすぐり責めを一瞬でも止めてもらわなければ。私は自分以外誰もいない部屋で、カズヤを呼び掛けることにしました。『ま、気が向いたら呼んでよ』――彼の言葉を真に受けるなら、この部屋のどこかにマイクか何かがあって、呼べば来るのでしょう。
「分が――だっ!!! ようきゅっ、要求におうじまずっ!!! 喋るっ、喋りますがらぁぁっはっははははははははははははぁぁあっ!!?」
彼がどこかの部屋からここに来るまで、果たしてどれぐらいの時間がかかるのか。大きな施設だから、数分は掛かるかもしれない。
私はそんな風に考えていたのですが、その数分がとうにたっても、彼は一向に姿を現しません。
「喋るっ、喋るっで言っでっへへへへへへへへへへぇぇぇぇぇえっ!!! 喋るからっ、早く来でっ、これ止めでぇぇぇっへっひゃっはははははははははははははぁ゛ぁぁああああ!!?」
私はもう1度、拘束されたままカズヤに向かって呼び掛けます。先ほどよりも余裕のない、大きな声で。
しかしそれから十数分待っても、彼は姿を現さないのです。
「どうしでっ、どうじで来でぐれないの゛ぉぉぉぁぁあっはっはははははははははははぁぁぁぁぁあああっ!!! ぁはっ、ぁはぁ゛ぁぁぁっひゃっはははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁあっ!!?」
背中がじりじりと焦げていくような心地がする。くすぐったさと、屈辱と、いら立ちで、全身がどうにかなってしまいそう。
結局、彼が来たのは、最初の呼び掛けから恐らく1時間ぐらいたってからのことでした。
――――
――
「やーごめんごめん。ちょっと天ぷら揚げてたから。ほら、火元から離れると危ないじゃん?」
「ぁ゛はっ、ぁはははははははははっ!!? ぁ゛ーーーーっ!!! ぁ゛ーーーーーーーーっ!!?」
開口一番、カズヤのふざけた言葉を聞いて、私もようやく理解します。この男は、私が呼び掛けていることを知って、そのニヤけ面を浮かべたままわざと放置していたな、と。
だけど、それに対して腹を立てる余裕はありませんでした。もう1秒でも早く、このくすぐったいのを止めてほしかったのです。
「おねがっ、しゃべっ、喋りますがらぁっはははははははっ!!? ぁはっ、ぁ゛ーーーーっ!!?」
「うんうん。あー、ええと、何だったっけ。あーそうか、『君の依頼主』は誰、だったかな?」
「いらっ、いらいっぬし、はハ――!!? ぁはっ、ぁははははははははッ!!? ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「仕方ないなあ、一瞬だけ止めてあげるよ」
「ひぐっ――!!? ぁ、かは……! ……はーーーーっ!! げほっ、ごほっ、はーーーーっ!?」
「はい、息継ぎタイム終了~。ここからは回答タイムだ。……少しでも言いよどむようなら、分かるよな?」
「ヒ――!!? い、いらいぬしッ、依頼主は、組織の――!!!」
私はその時、何を言おうとしたのでしょうか? くすぐられ続けて、笑い続けて、脳に酸素が行き届いていませんでした。まさか、スパイである私が、情報を漏らそうとしていた?
背筋がひやりとするのを自覚してなお、止まらない口。しかし、その重大な裏切りは寸前のところで阻止されます。
……決して、私の強固な忠義心がそうさせたわけではありません。カズヤが、私の開いた口に猿ぐつわを押し込んだからです。
「ぁぐぅ――!!!? ぅごっ、ぉ゛――!!!?」
「ん? どうしたんだい? 話せば楽になれるってのにさあ?」
「ぅごっ、ぉ゛、ぉぉおおおっ!!? いあぎっ、ぅぎっ、おいぎぉおおおお!!?」
「え? 何言ってるか分かんない。……そっか、教えてくれないのか。残念だなあ」
落胆するカズヤの前で、私は必死に言葉を発しようとします。しかし、口の中を満たす穴の空いたボールが、唇と舌の動きを邪魔するせいで、口から出るのは言語とは呼べない不明瞭な声ばかり。
彼の右人差し指が、タブレット端末に近づいていく。
「ぁ゛ぐぁぁぁぁぁああああ……!!!? ぉごぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」
ああ、何て悪趣味なのだろう。もはや情報を聞き出すどころではない。ただ私を甚振るだけのくすぐり拷問は、なおも続けられるのでした。
「ぁぐぁっはっはははははははははははははぁぁぁぁぁあああっ!!!? ぉごッ!!!? ぉごぉぉぉっほほほほぉぉぉぉぉぁぁぁあっはっははははははははははははぁぁぁぁぁがぁぁぁぁあッ!!!!」
後悔と絶望。どうして私は、もっと早く何かをしなかったのでしょうか。
何か――どうすればよかったのかは分からない。だけど、何かあったはずです。交渉を試みるとか。作り話でごまかすとか。……あるいは、素直に情報を受け渡してしまうとか。
「いやあ、君は本当に忠義に厚いね。ここまでされて情報を漏らさないスパイなんて、今まで見たことがない。……そうしたら、すぐにでも解放してあげるかもしれないのにさあ」
「ぁぐっ、だぐげえッ!!!? や゛あ゛!!!! ぐぐぐっだいおや゛だぁぁぁっはっはははははははははははははははぉごぉぉぉぉぉおおおおおおおッ!!!?」
カズヤはにやにやとした表情で、こちらを見下すだけ。
全身の拘束はびくともせず、言葉を発することができなければ交渉の余地もない。何もできない。ああ、私はこのまま、くすぐり殺されてしまうのかもしれない。それは何て無様な死に様なのだろう。
「ぉごっ、ほ――!!!? ぉごぉぉぉぉおおおお……!!!! ぁがはっ、あ゛はっ、ぁ゛ははははははははははははは……!!!?」
意識が薄らいでいく――しかし次の瞬間、不思議なことが起きます。
くすぐり殺されることに対する防衛反応か、あるいはあまりのくすぐったさに神経がバグを引き起こしたのか。私の体に、あまりに深刻な異変が現れたのです。
「ぉごッ、ぉ゛――♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぉ゛っ、あぐ、あ゛――!!!!? っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!! っ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
背骨が燃えてしまいそうなぐらい熱い。それなのに、全身が鳥肌立つ。
突然浮遊感が襲ってきて、M字に開かされたままの足が地面を探してがたがたと暴れ出す。腰が跳ねる。子宮がまるで鈴のように、くるくると嫌になるぐらいにうずいている。いつの間にか、秘所にぬるぬるとした液体がべっとりと付着している。
生まれて初めての現象。しかし、心当たりはありました。これは、まさか――。
「……君、もしかしてイッちゃった?」
「ふぐぉ、ぁ゛――♡♡♡♡♡ え゛――!!!!?」
イク――すなわち性的絶頂。この感覚、この反応はまさしく……。
どれだけ論理的な手順でもってその答えにたどり着いたとしても、心では信じられませんでした。だって、全身をくすぐられて絶頂に至るなんて、おかしいではないですか。
「へえ」
だけどカズヤがそう嗤った瞬間、全身を襲うくすぐったさが強くなります。
マジックハンドがより多く、より早く、より強く、そしてより的確に、私の全身をくすぐり姦してくるのです。
「ぁぐぉ゛っほははははははぉ゛ぉぉぉおおおおおおっ♡♡♡♡♡ ぉごっ、ぉ゛――♡♡♡♡♡ ぁぐぁっはっははははははははははははははぁ゛ぁぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
その感覚、そして私のその反応は、もはや答え合わせのようでした。
腋の下を指先で執拗にほじくり姦されるのは、1番くすぐったいのに乳首が硬くなるよう。脇腹に指先が食い込んで奥にあるツボを揺らされるのは、苦しいはずなのにやめてほしくない。首筋をなでる指先は優しく、甘いぞくぞくが全身を満たしていくよう。太ももへのくすぐり責めは、外ももはただひたすらにくすぐったく、内ももは他のどこよりも官能的。足の裏を隙間なくかりかりと引っかかれるのは、他のどこよりもくすぐったくて子宮にまで響いてくる。そして、胸、背中、二の腕、腰、膝、ふくらはぎ――今までくすぐられていなかった部位にまで、夥しい数のマジックハンドが及んでいく。
まだまだ、こんなにもくすぐったさが強くなるなんて。だけど、絶望する余裕もありませんでした。
「ぉごッ♡♡♡♡♡ ぉ゛ぉぉぉおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁぐっ、ひゃはッ♡♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
体が爆発してしまいそうなくすぐったさに全身をどかどかとたたきのめされて、私はまたあっという間に絶頂に至ってしまいます。そして、2度も無理やり絶頂させられれば、体も、心も、すっかり分からせられてしまうのです。
……これ、気持ちいい。
「くく、くくっ! まさか、くすぐられるだけでイクなんて。拷問じゃなくて、ご褒美になっちゃってたか? そりゃ耐えられるわけだ」
「ぉぶっふぉ゛ぉぉぉおおおおおおッ♡♡♡♡♡ ぉ゛ほっ、ぁがっははははははははぁぉ゛ぉぉおおおおおお♡♡♡♡♡ ぉ゛ぉぉお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
カズヤの心底さげすむような声が、もはや耳を通りません。あまりにもくすぐったくて、あまりにも気持ちよかったから。
「あーあ。おかげで順番が逆になっちゃったよ。ま、一応これもやっとくか」
「ぉ゛あ――♡♡♡♡♡ っぁ゛――!!!!?」
カズヤがタブレット端末を操作した瞬間、新たな感覚。握りこぶしぐらいの大きさの振動する球が、私の秘所に宛がわれたのです。
「ぉ゛ごぉぉおおおおおおっ♡♡♡♡♡ ぁぐぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ♡♡♡♡♡」
「おいおい、まだ始まってすらないぞ? この電動マッサージ器機能はまだ、位置の調整が甘くてね。こうして、クリトリスに高さを合わせて……よし、せーのっ」
「ぉ゛ぐぉぁ゛ぁぁぁぁああああああああ――ッ♡♡♡♡♡ ○%♭×!$☆#▲※~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っぁ゛ぁぁぁああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
「うわっ! っははは、すごいな、噴水みたいに潮吹いたよ!」
電動マッサージ器機能とやらの振動が小さな陰核に宛がわれた瞬間、私は拘束された全身をぎちぎちとのけ反らせて絶頂しました。
芯にまで届くような、重い振動。くすぐったさではない、明確な性的快感が襲ってくる。暗中模索で手に入れた気持ちよさが、まるで手を引っぱって歩かされるように鮮明になっていく。
「ぁぐ、ぁ゛あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ぉごっ、ぉ――……♡♡♡♡♡ ぉ゛ぉぉお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡」
「呆けてるところ悪いけどさ、マジックハンドも電マも、まだ動いてるよ?」
「ぉごッ、ぉ゛ぉぉぉおおおおお♡♡♡♡♡ ぉあ゛っはっははははははははははははははははぁ゛ぁぁああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
拷問は続きます。全身へのくすぐり責めに加えて、クリトリスへの電動マッサージ器責め。それは、脳をどろどろに蕩かされていくような心地でした。
本当に、壊れてしまう。私が私でなくなってしまう。
それでも、千載一遇のチャンスは突然やってきます。
「さあて、そろそろご機嫌をお伺いしてみようか? はーい、いったんくすぐったいの止めますねえ。電マも。んで、猿ぐつわ外しますから、お口あーんしてくださーい」
「あがッ、ぁ゛――♡♡♡♡♡ っヒ――♡♡♡♡♡」
全身を玩ぶマジックハンドと電動マッサージ器が止まり、猿ぐつわが外された瞬間、私は叫びました。
「な゛まえッ、なまえ゛はストレリチアぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああッ♡♡♡♡♡ 上がらのめ゛いれッ、そしぎ内部のいらいでッ♡♡♡♡♡ 私の、しょぞく、所属はぁぁぁぁぁぁああッ♡♡♡♡♡」
早く、早く早く早く早く早く早く早く早く早く!! またあのくすぐったさが襲ってくる前にッ!! また喋れなくなってしまう前にッ!!? 全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部ッッ!!!
生存本能が、勝手に口を動かす。作り話をするだけの思考すら働いていない。私は今、何を喋っている?
「はっ、ぁ――♡♡♡♡♡ げほっ、ごほ――ッ♡♡♡♡♡ ひーーーー、ひーーーーーーーーッ♡♡♡♡♡」
解放してもらうために必要なことを思い付く限り全て話して、ぜーぜーとした呼吸を部屋に響かせ始めてから、10秒か、20秒か。
カズヤはパイプ椅子に座ったまま、こちらも見ずに言い放つのでした。
「ふーん。あっそ」
ふたたび動き出す、マジックハンドと電動マッサージ器。
「ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁああああああ――ッ♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁああああああどうしでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっへっひゃっはっははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
「あー、ちょっと待って。そういや、今日のログボもらってなかったわ」
「やだッ、やだぁぁぁぁぁぁあああああッ♡♡♡♡♡ くすぐっだいのっ、もう嫌ぁ゛ぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁああああああッ♡♡♡♡♡ ぐずぐりごろざないでぇぇぇぇぇぇっへっひゃっぁっははははははははぁ゛ぁぁぁああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
「お? 復刻ガチャあるじゃん! あー、欲しかったキャラ出てるなあ。こりゃ行くしかないね。天井もやむなしだ」
「わだしっ、わだし、すどれりぢあぁぁぁぁぁっはっはははははははははははぁ゛ぁぁああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡ そしきッ、小ざいどごろでっ――♡♡♡♡♡ 拠点の場所は――ッ♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁあああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
私は不思議でした。こんなにも必死になって話しているのに、どうして拷問は終わらないのでしょう。そうこうしている間に、私はどんどん言ってはいけないことを吐き出し続けているというのに。
それでも、カズヤの表情は一つも変わらず、むしろ『うるさいなあ』とため息をつくのです。
「種明かしをするとね、君が誰とか、どこの所属とか、誰の依頼で来たとか、どうでもいいんだよ」
「ぇぎ――♡♡♡♡♡ っひ――♡♡♡♡♡ な゛、ぇ――♡♡♡♡♡」
「だって、僕が君を呼んだようなものなんだから」
意味が分からない。
「分からない? くすぐられすぎて、頭がばかになっちゃったかな?」
私のことを侮辱する言葉すら、もうどうでもいい。ただ、意味が分からない。
「つまり、こうだ――僕は遊び相手が欲しかったんだよ。僕の作ったダンジョンに挑戦してくれる遊び相手が、さ」
「ぉ゛、ぉ゛ぉぉおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁはひッ♡♡♡♡♡ ひひひひひひぎっひひひひひぃぃぃいい~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「昔遊んだことのあるビデオゲームなんだけどね。僕は魔王になって、ダンジョンにやってくる勇者たちを返り討ちにしてやるんだ。間抜けな勇者たちを罠にはめてやった時の爽快感と言ったらさあ!」
「ぁぉ゛ぉぉおおおッ♡♡♡♡♡ わぎのしだや゛ぁ゛ぁぁっはっはははははははははははぁ゛ぁぁぁあああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「もう本当にやり込んで、高難易度モードも、隠しステージも、対人戦も、RTA(リアルタイムアタック)だってやり尽くした。そう、やり尽くしちゃったんだ。その時はとんでもない喪失感を覚えたよ。続編もないし、クローン系の作品はクソゲーばっか」
「ぁ゛ぁぁああ足の裏もやめでぇぇぇぇっへへへへへへへへへぇぇぇぇええええッ♡♡♡♡♡ いぐっ、イっぢゃッ♡♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
「……だから思ったんだ。『ああそうだ、現実世界でやればいいんだ』って。『スパイ潰し』とか言って、ちょっとあおってやれば、それっぽいやつらがたくさん来るんじゃないか。狙い通りだった」
こんなにも笑い悶え絶頂し続けてなお、不思議と脳にまで入り込んでくる、くだらない話。
私はようやく全てを理解したのでした。『スパイ潰し』と呼ばれる施設の実態。どうしてスパイたちはそこに赴き、そして全て消息を絶ったのか。そして、この男と対面した時に感じた、寒気の正体。
それは全て、まるで子どものような動機から始まったこと。頭のよい異常者の奇行。
「――君は本当によく頑張ってくれたけど……もうゲームオーバーだ♪」
男のその言葉は私にとって、死の宣告のように聞こえたのでした。
「やだっ、やだぁ゛ぁぁぁぁああっひゃっはははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁあああああッ♡♡♡♡♡ たすげでっ、ハンドラぁッ♡♡♡♡♡ おがあざんぁぁぁぁぁぁぁぁぁっひゃっははははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁあああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
私は全身をくすぐり姦され、クリトリスを震わせられながらイキ続けます。どれだけ頼りにしている人物を呼んでも、心の中でひそかに抱いていた呼び名すら、今の私には何の救いにもならない。……そもそも、私にそれを呼ぶ資格はあるのでしょうか? つい先ほど、私は重大な裏切りを果たしたというのに。
くすぐったさと、気持ちよさと、後悔と、絶望と、罪悪――心の中でいろいろな感情が混ざり合って、まっくろに濁っていく。
「ああ、安心しな。ゲームオーバーって言っても、別に死ぬわけじゃないから。さすがに、現実で人死には勘弁だよ」
笑いイキ続ける私に、カズヤが言いました。
「捕まえた人たちは、どこかに売ってあげることにしてるんだ。中でも、女性はこうやって調教コース♪ 僕はあんまし、そういうことに興味ないから詳しくは知らないけど。金持ちの性欲の捌け口になるか、ステージで見せ物になるか、笑いイキするだけの展示品になるか――ま、買い手次第だね」
『素晴らしい慈善事業だろう?』――そんなふざけた言葉にいら立ちを覚えることすらできず、私は笑い、イキ続けます。
「もう前の生活には戻れないだろうけど。ま、いいよね? 君、こんなに気持ちよさそうにしてるんだからさ」
男の言葉がするすると耳を入って、脳を冒していく。
それで、気付きました。今、私はとっても気持ちよさそうにしている、って。
「ぁ゛はッ♡♡♡♡♡ ぁ゛っはははははははははははははぁぁぁぁぁぁああッ♡♡♡♡♡ きもぢひっ、きもぢぃぃぃっひっひゃっははははははははぁぁぁぁぁああ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っぁ゛ぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
スパイとしての誇りが、組織に育てられた恩義が、ハンドラーに対する愛情が――全ての感情が、まっくろな気持ちよさに溶けていく。何もできず、何も考えられない。ただ、気持ちいい。
全てが溶けていく中、ふと思い出す。どうして、私は”ストレリチア”なんだっけ? ああそうだ、名付け親のハンドラーが言ったんだ。橙色のストレリチアの花言葉は『輝かしい未来』――。
「ぁはははははははぁぁぁぁぁぁぁぁ♡♡♡♡♡ ぐすぐっだひッ♡♡♡♡♡ ぐすぐっだひのぎもぢっひひひひひひぃぃぃぃいいッ♡♡♡♡♡ もっとっ、もっどぐすぐ――ひゃはぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
私は若かった。時間はまだ、たくさんあった。
まっくろな世界の中、私はそのたっぷりの時間を、全身をくすぐられ、イキ続けることになったのでした。