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◆あらすじ
喫茶店で怪しい男女を見かけたある男性の話です。女性のほうはどこか挙動不審な様子。2人のやり取りから、彼女がクリトリスに無線リモコンローターを付けられていることを知ります。バレないようにその様子を観察していると、最後に女性はたくさんの人がいる喫茶店の中で……。
この話は真夏の休日。僕が喫茶店でノートパソコンを開いて作業をしていた時のことです。
喫茶店自体は何の変哲もないところでした。いつも行くチェーン店で、コーヒーがまぁまぁ美味しいところ。ただ違ったのは、その日は休日で人が多かったということぐらいでしょうか。
僕は隅っこのテーブル席に座っていたのですが、問題はその隣のテーブル。1組の男女が座ったのです。
僕の隣、1mもない距離のところに座るのは、40歳は超えているであろう中年の男性。無精髭、シワだらけのシャツ、色あせたジーパンから清潔感というものをまるで感じさせない人でした。
彼の正面、僕から見れば斜め前の席に座っていた女性は、そんな男性には似つかわしくない可愛らしい人でした。
年は大学生ぐらいでしょうか。クセのない黒のロングヘアから受ける印象は清楚の一言。女性らしいチュニックとスカートが、童顔の彼女にほんのりとした大人の雰囲気を漂わせていました。
そんな美少女と呼ぶにふさわしく、だけど町中を歩けばどこかにはいそうな彼女は、顔を真っ赤にさせてずっとうつむいているのです。
最初こそ風邪か何か、具合が悪いのかなと僕は考えました。
だけど、女性の正面、つまり僕の隣の男性が小さく彼女に言います。
「こうゆうの、されたかったんでしょ?」
「……っ」
女性の顔の赤みが増しました。
同性の僕としては、嫌悪感を覚えるネットリとした声。だけど、その言葉で大筋を察することができました。この2人は、こんな人目のあるところで良からぬことをしていたのです。
なるほど。そう思うと、この不自然なカップルにも納得がいきます。
おまけに今日は休日で、店内には人が多い。女性にとってはこれ以上なく羞恥心を掻き立てる場所です。一方で、これだけ騒がしければちょっとおかしい2人がいても見逃されてしまう。実に理にかなったプレイでした。
僕はパソコンに目を落とし、作業を続けるフリをしながら2人の動向を見守ることにしました。
「水、取ってきてよ」
「……はい」
男が言います。『紳士』という言葉がこれ以上なく似合わない言葉。
だけど、その意図を理解している彼女は怒ることもなく、ただ力なく返事して席を立ちます。
僕も『休憩してます』という風を装いながら伸びをして、店の外を眺めるフリで彼女を見守りました。
この喫茶店では、水はセルフサービス。店のど真ん中にあるテーブルに置かれたポットから汲みます。
女性はゆっくり席を立って、テーブルまで足早に向かいます。そして、グラスを手に取ろうとしたその時でした。
「っっっ!?」
「くく……っ」
ビクリと跳ねる女性の身体に、微かに聞こえる男の忍び笑い。
僕はその瞬間、男がスマホを弄ったことと、女性が片手で脚の付け根を押さえたことを見逃しませんでした。
あぁ、なるほど。僕はまた察しました。
どうやら、男はスマホで何かを操っているようです。そして、その何かの場所は女性の脚の付け根。
僕が思考している間に女性が戻ってきます。グラスに汲んだ水が今にもこぼれそうなぐらい、手を震わせていました。
「クリちゃん、気持ち良かった?」
「こ、声……っ!」
具体的にどこを責めているのか、男がご丁寧に教えてくれました。
僕が露骨に顔を向けるわけにはいきません。横にいる彼の顔は見えませんが、きっとこれ以上なくニヤニヤしているのでしょう。
僕は女性の身に起きていることを想像します。
彼女が苛められている場所はクリトリス。女性の身体の中でもっとも敏感な部位です。
その方法は、リモコン式の無線ローターが現実的なところでしょう。手のひらより小さいスティックのような形で、スイッチを入れるとブルブルと振動する大人のおもちゃです。
しかも、それは単調な責めではありません。
ローターのコントロールは男の手に握られています。弱い振動でじわじわと性感を高められたり、止まっていると思ったら何かの拍子に振動をいっきに強くされたり。男の声音と同じ、粘着質な責めが彼女をいたぶっているのです。
「ちょっとトイレ。ここに座っててね」
男が席を立ちました。彼の姿が消えると、女性はそわそわと辺りを見渡し続けます。
僕はもう、この2人が健全な関係であるとは欠片も思ってはいませんでした。あんな男にされるがままの彼女は、一体どんな弱みを握られているのでしょうか、あるいはいくら貰っているのでしょうか。
だけど、彼女はその場から逃げたりはしません。
その様子から察するに、股間に仕込まれたおもちゃも今は止まっているようです。彼女にとって、あの男が戻るまでの時間はつかの間の休息ということなのでしょう。
そう思っていたら、次の瞬間でした。
「――ひぃっ!!?」
女性の口から漏れたのは、明らかな悲鳴。それは、突然の出来事に喉から溢れてしまったかのようでした。
きっと周囲の何人かは聞こえいたであろう声量。だけど、誰も気にしないであろう一瞬のことです。
外野から見ている僕でも、想像に難くはありません。あの男がおもちゃのスイッチを入れたのでしょう。
「っ……、……!?」
きっと、ものすごく恥ずかしかったのでしょう。女性は改めて周囲をきょろきょろと見渡し、誰も気づいていない(と、彼女にとっては思われる)のを確認します。
僕は彼女を見ないようパソコンに目を落とし、周辺視野だけで観察を始めました。
「……っ、く……!」
彼女は頬杖をつき始めます。平静を装いながら、感じている顔を隠すために行っているようでした。
しかし、顔は赤いですし、頭を乗せている腕はプルプルと震え続けています。知っている人からすれば、無理をしているのは明らかでした。
「ふぅ……っ、は~……」
落ち着こうとしているのでしょうか、彼女は頬杖をついたまま目をつむって深呼吸を始めました。
僕はチラリと彼女に目線だけを向けました。汗をかいているのでしょう、髪が額や頬に張り付いていて、こんな公衆の場にいるのに色気を感じさせます。
「く、ぅ……!」
我慢も虚しく、その顔は少しずつ歪んでゆきます。
食いしばるような表情になり、口は一文字に閉じているけれど、その分だけ鼻息が荒い。
僕は、女性の股間に取り付けられたおもちゃの出力がジワジワと上がっているのを想像しました。
「ふぅーっ……! ふー……!」
徐々に我慢できなくなってゆく彼女を見ていると、天秤を連想します。片皿に彼女の精神力が乗せられている一方で、もう片皿に快楽という重しを少しずつ乗せられてゆくのです。
そして次の瞬間、その皿がカタンと傾くのが分かりました。
「っ!」
彼女は両手で自分の頬を押さえだしました。テーブルに両肘をついて、ギュッと目をつむって開く様子もありません。
ギュッと力を入れた両手も、開くべきか閉じるべきか迷っている両脚も、明らかに震えています。
いつしか、僕は彼女を凝視していました。そのまま、何が行われているのかを想像します。
――今、振動が強くなったな。今は弱められている、と思ったら不意を突くようにまた強くされた。今度は息を吐いたと同時に強くなったな、びっくりしてまた声が漏れている。
中が分からないからこそ、やり場のない欲望が僕の脳を蝕んでいるようでした。今すぐ彼女のスカートをめくって、中で何が行われているのか確かめたい衝動に駆られます。
こんな怪しい女性がいるのです。声をかけるぐらいは許されるのではないでしょうか?
だんだんと危ない思考になりつつあった時、ついに終わりが訪れます。
「ぅ、ぁ、ぁ……っ! ぁ……!?」
隣のテーブルにいる僕だからこそ辛うじて聞こえるぐらいの、喉から絞り出すような声。
身体を縮こませるように、頬に手を当てたまま頭をうつむかせ、両脚をギュッと閉じ。
それから、数秒のことでした。
「っ!! ひっ!!? ~~~~~~~~っ!!」
彼女の意志に反して力の込もった脚が、テーブルをガタンと鳴らしました。その後間髪入れず、肩が大きく跳ね、腰が小刻みに震えます。
騒がしい喫茶店にいるごく数人が、彼女に視線を移しました。何も知らない人が見れば、眠っている時に身体が跳ねるアレに見えたかもしれません。
だけど、一部始終を見ていた僕には明らかでした。彼女は絶頂を迎えたのです。
「はぁ……っ! ぁ……」
彼女の両手の隙間から顔がチラリと見えました。
真っ赤な顔に、涙を浮かばせて、表情はこれでもかと蕩け切っています。もう、喫茶店にいることすら忘れているのではないでしょうか。
そこで、男が戻ってきました。僕は慌ててテーブルに置いたノートパソコンに目を落とします。
「お待たせ~」
水に浮かぶヘドロよりも軽い軽薄さで、かつ唾液の混じった粘着質のある声。
僕は、この男が彼女の悶えていた様子を遠巻きに眺めていたであろうことを確信しました。
「……ぁ、ぅ……」
絶頂の余韻に苛まれているのか、女性は何も答えません。うつむいたままぼうっとするだけです。
だけど、男はそんなことを気にしないどころか、むしろ悦んでいる様子。
「それじゃ、行こっか」
「……は、ぃ……」
男は女性の腰を抱き、そして女性は少し覚束ない足取りで、店を後にするにでした。
女性が座っていた席には、何かのシミが残っていました。
僕はノートパソコンに目を落とすものの、もう作業をする気にもなれません。目をつむって、彼女たちのその後を想像しました。
駅前にはラブホテルが点在しています。あれだけのことをした男が、彼女をそのまま家に帰すとは思えません。間違いなく、2人はこれからすぐ熱い時間を過ごすことになるのでしょう。
1度絶頂させられた女性の身体はとても敏感だと聞きます。きっと、彼女は打てば響くように、あの男の手やイチモチによがり狂うのでしょう。
僕はあの下卑た男に嫌悪感を抱きながらも、可愛らしい女性がすぐ傍でたしかに悶えていた事実に背徳的な興奮を抱き、悶々とするのでした。
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