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◆あらすじ
ある大国の密偵クリスがサキュバスの国に潜入します。その国は女性しか入国できない国、男である彼が取らされた策は魔術で女体化することでした。女性となった自分の体になかなか慣れないクリスに、サキュバスたちのいやらしい魔の手が襲いかかります。
人と魔の和平条約が結ばれたのはほんの2年前の話だ。
しかしそれは戦争に疲弊した末の妥協に過ぎない。同種族間ですら争いが絶えないというのに、どうして異種族と融和できるだろうか。
人族と魔族は表立って血を流し合うことこそなくなったものの、水面下での謀略は続く。故に僕のような密偵の仕事はなくならない。
都市国家リリスも、そんな腹の探り合いに付き合わされた国の1つだ。
ある一種の魔族が住むと噂される国。いくつもの巨大な都市を支配する周辺国と比較すれば一小国に過ぎないが、我らが祖国はそんな些事すらも見逃すつもりはないらしい。それが強国たる所以なのだろうが、1つ大きな問題がある。
その都市国家リリスは、女性しか入国できないということだ。
「つまるところ、貧乏くじを引かされたってことか……」
晴天の下、地平線の向こうまで続く街道の真っ最中。
僕は馬の上でそう呟いてから顔をしかめた。
「あー、あー、あーーーー」
そのまま自分の声を確かめるように声帯を震わせる。いつもと違う高い声が気持ち悪い。声だけではない、髪も、顔も、体も、普段の僕とは違う。
それもそのはず。僕――クリス・リオレンテはれっきとした男、それが今どういうわけか女になっているのだから。
「どうして僕がこんな……」
僕は道すがら、溜め息を付きながらその顛末を思い出していた。
――女しか入国できない国、ですか?
『左様、彼の国が驚異となり得るか見極めたい。小国とて抜かるなよ』
――分かりました、しかし率直な疑問があります。
『何だ』
――僕は男なのですが。
『魔導技術部を寄れ。それで分かる』
あぁ、そうだった。それで上官の命令のまま行動したら、行き先で何らかの処置をされて、気が付いた時には女になっていたんだ。肉体変化の一種だろうか? 我らが祖国の魔術もここまで進歩したかと言葉を失うばかりだ。
「はぁ……」
僕は脳裏に自分の外見を思い浮かべる。例の処置の後に見せられた全身鏡に写っていた姿だ。
しかし性別が変わっても見た目の年齢はそう変わらないようで、ぱっと見では辛うじて成人しているかどうか。もともと恵まれた体格でなかったが、女になったらさらに小柄になった。どうやら僕は性別が変わっても乳房はそう大きくはならないらしい。
器量自体はそう悪くないように思える。丸い目に小さな唇、もう少しキリッとしていたほうが頼りがいもありそうだが、多少素朴な顔は悪目立ちせず密偵には都合が良い。髪が亜麻色なのは変わらないが、長さは腰までとずいぶん伸びた。
「仕方ない、これも仕事だ」
結局僕は首を横に振った。そもそも命令には逆らえないのだ。
それに、わざわざこんな手間をかけてまで密偵を小国に遣るということは、それだけ情勢にも余裕が出てきたということだ。『タダ飯食らいを許す気はないが大した仕事もない』というのが本当のところだろう。
そう思うと多少は気が楽になる。人族と魔族の和平条約を結ぶ前――大戦期はいつ死んでもおかしくない環境だったのだから。
そうして僕は都市国家リリスの門へと辿り着く。
都市国家リリスは、名前の通り一つの街がそのまま国になっている。そして街は城壁で囲まれていた。
(大したことはないな)
それが城壁を見た僕の率直な感想だった。壁、装備、衛兵、外から見ても国力というものはだいたい窺えるものだ。はっきり言って強国の質には遠く及ばない。もっとも、嘗めてかかるという愚を犯すつもりはさらさらないのだが。
「止まれ」
城門に近付く僕に声がかかる。
女の声。近付いて来たのは槍と軽鎧を装備した2人の衛兵だった。
「ここから先はリリスの領土だ」
「人間の女が何の用で来た」
(女しか入国できないのなら衛兵も女か……)
僕は彼女たちを観察する。
背中にこうもりのような羽根を生やし、側頭部に2本のねじれた角を持つ女の魔族。名前は確かそう、サキュバスと言ったか。大戦期の前線にあまり出ないために情報が少ない種族だった。
1人は切れ長の目に短い赤髪。もう1人は垂れ目に長い青髪。どちらも背は女になった僕よりは高いが、鍛えているとは思えないぐらい線は細く、それに反して乳房や尻は大きい。衛兵なんていう仕事をしている割には見た目麗しく、どこか官能的な印象を受ける。はっきり言ってしまえば、娼婦が武装しているようなものだ。
(偽名を使う必要性は感じられないが、一人称は変えておくか……)
僕は馬から降りて、努めて丁寧に胸に手を当てた。
「私はクリスと申します。見ての通り各地を巡る旅人なもので、もしよろしければ寝床をお借りしたいのですが」
「ふぅん」
「旅人、ねぇ……」
「怪しいな」
「あぁ、怪しいな」
衛兵たちは僕のことを大して観察することなく、2人でうなずき合った。
当然僕は内心ギクリとした。これでも、僕にはいくつもの国に潜り込んできた経験と実績がある。自分では怪しい部分はないと思っていたが、予想に反して鋭いじゃないか。
(さて、どうするか……)
僕は思考を巡らせようとするが、彼女たちはそれを先回りするように告げた。
「脱いでみろ」
「え?」
「服を脱げと言ったんだ。それとも街道で野宿がしたいか?」
「わ、分かりました」
それは予想外の言葉だった。度が過ぎた税関は他国の人間に対してなら外交上の問題になる恐れもあるが、旅人ならその心配もないということか。
持ち物で身元がバレるなんてヘマはしない。大丈夫だ――僕はそう思って、衣服に手をかけた。
「ぅ……」
「どうした? 早くしろ」
「わ、分かっています……っ」
「下着もだからな」
しかし偽りの体だと言っても、こんな往来で服を脱ぐというのは妙に恥ずかしい。衛兵たちは僕のことを食い入るように見ているし、目の色も何だかギラギラしていて恐怖を感じる。
それでも僕は、震える指で服を脱ぎ落とす。細い肢体、薄い胸と尻、毛の薄い秘所が曝け出された。
「これで通してもらえるでしょうか」
「ほう……」
「これはなかなか……、んんっ! いや、まだだ」
衛兵たちが裸の僕に近付く。
これ以上何をするつもりだろうか? そう思っていたら、彼女たちは突然僕の体を撫で回してきた。
「うぅっ!? な、何を……!?」
「おっと、動くなよぉ」
「街に入りたいのなら、それなりの態度ってものがあるよねぇ?」
彼女たちは一体どういうつもりなのだろう? 欲情した男が女にこういった悪ふざけをすることはたまにあると聞く。確かに今の僕は女だけど、相手も女だ。
男だった時には経験したことのない事態に、僕の反応も遅れてしまう。
「小っちゃくてかわいーねー」
「まだ子供なのに旅だなんて大変だねぇ」
「っ、僕は! もう成人して……っ」
「……ぼくぅ?」
しまった――子供扱いされると冷静さを失うのは僕の悪い癖だった。
男だと感付かれただろうか? 僕は逃走のために全身を緊張させるけれど、彼女たちの反応は僕の予想とはあまりにかけ離れていた。
「僕っ子キターっ♡」
「フゥーっ! 今時レアだねぇ♡」
「そ、その、私は」
「えー、変えないでよぉ。バカになんてしてないってー」
「ごめんってー。私は僕っ子いいと思うよー?」
最初の威圧的な態度はどこへやら、衛兵たちはすっかり軟化した態度で僕の頭を撫で回す。いつの間にか手に持っていた槍なんて地面に転がっていた。
いい加減僕も気付いている。密偵だとか男だとか、そんなことは微塵も疑われていない。彼女たちはただ、僕に対して悪戯をしたいだけだ。
今思えば、旅人を名乗る僕を『怪しい』と言った時も、『服を脱げ』と命じた時も、何の迷いも感じられなかった。つまり最初からこうするつもりだっただけ。警戒心の欠けた衛兵というのは、密偵にとってはこの上なく容易い相手だった。
しかし今、別の問題が起きている。
彼女たちが行う悪戯は、僕にとって未知ということだ。
「んっ、く……! ぁ、あの、そんなに撫でたら……っ」
「まだ大事なトコはぜーんぜん触ってないよぉ?」
「それなのにこんなに感じちゃうなんて。クリスちゃんって敏感だねぇ?」
「そ、そんなっ……! こ、とぉ……!? ぁ、ぁぁ……っ」
普通なら、初対面の相手に体を撫でられれば不快感を覚えるだろう。だけど彼女たちの指はサラサラしていて肌触りが良いせいか、不思議と心地良さを覚えてしまう。絶対にあってはならないと自分の倫理観が告げているのに、だ。
それに女体化処置の副作用だろうか? 僕の体は嫌に敏感になっていて、どこを触られても大きく反応した。
「だって、私は首を触ってるだけだよぉ? それなのにどうして変な声が出ちゃってるのかなぁ?」
「それは……っ! 貴女の、触り方が……っ!?」
「触り方がなーにぃ? こんな風に耳をこちょこちょされるのが良いのかなー?」
「きゃぅっ!? や、やめ……」
「はぁー、さっきのすっごいかわいー♡ それにやっぱり敏感、腋の下でも気持ち良くなっちゃうんじゃない?」
「んくぅっ!? くすぐったっ、んくふふふっ!? そんなのが気持ちいいわけ、ぁ……っ!」
「ほらぁ、やっぱり感じてるじゃーん♡ 手のひらはどう? ほれほれほれ」
「ひゃっ! 違、うぅ……!? こんなの、違う……っ!?」
柔らかい手が僕の抵抗力を削り取ってゆく。慣れない感覚は、痛みを及ぼす尋問よりもよっぽど僕を消耗させてゆく。もう走って逃げることも難しいだろう。
力が抜けて足がプルプルと震え始めたところで、衛兵たちは僕の胴体を支えるように持ち上げながら胸に触れ始めた。
「ふっ!? ぅぅぅぅっ!!?」
「おっぱい小っちゃいなー。こりゃAカップ間違いないわ」
「でもぉ、小っちゃいほうが敏感って言うしねー」
何だこの感覚は? いや、僕だって無知ではない。それが性的快感であることは十分理解していた。
だけど認めたくなかった。こんなに体が勝手に動いてしまうなんて、こんなに声が出てしまうなんて、こんなに頭が蕩けてしまいそうだなんて。
「んー♡ いーいねぇ、ピンク色の遊んでなさそうなち、く、びっ♡」
「んくぅっ!!? やめてっ、そこ、触らないでっ!?」
「こーんなにきれいな体なのに敏感だなんて、クリスちゃん素質あるよぉ♡」
「つままな、ひぃ!? んぁぁぁぁっ!? だめ、強すぎ……っ!?」
特に乳頭に触れられると、今までのぼんやりしていた快感が一気に明確化する。胸というのはこうも気持ち良くなってしまうものなのか。
だけどそんな快感は序の口であることをすぐに思い知らされることになる。
2人の衛兵たちは、脚の付け根に無理やり手を差し込んで秘所に触れ始めたのだ。
「っ~~~~!!?」
その快感は刺すようだった。まるで一歩間違えたら痛みを及ぼすような。だけど彼女たちの触り方が巧いせいか、それは確かに快感だった。
「すっごーい、体がびくんびくんしてるよぉ♡」
「ひゃっ!!? ぃぃっ!!? そこっ、やだっ!! へんにぃぃっ!!?」
「もーっと気持ち良くしてあげるねー」
「ひゃだっ!? もうっ、触らないでぇぇっ!!?」
息が合うとはこのことか、2人は私の股間を分担して責め立ててくる。
赤髪の衛兵は女性器を弄くる。中指で穴をほじくると共に、親指で何かをクリクリとこねている。
「ひっ、ぃっ! そこやだぁぁっ!? もうっ、それ、なにぃぃっ!?」
「クリちゃん知らないの? 女の子の1番気持ちイイところ♡」
「知らないぃぃっ!! そんなの知らないぃぃっ!!?」
「ふはー♡ クリスちゃんってウブぅ」
青髪の衛兵は尻に手を回す。中指で女性器と尻穴の間を、親指で尻穴そのものをくすぐる。
「やめっ、そこっ、汚いからぁっ!!?」
「大丈夫だいじょーぶ。お尻は初めて? すっごいイイでしょー?」
「っひゃぁうぅっ!!? っ、気持ちよくなんてぇぇっ!? きもひよくなんてぇぇぇっ!!?」
「あっはは! そんなトロトロの顔してたら説得力ないよぉ♡」
僕は否定し続ける。自覚していたからこそ否定したかった。
彼女たちの悪戯は溺れるほどに気持ち良かった。
「クリスちゃんってヘンタイなんだねー」
「ひっ、うぅぅっ!? そんな、こと……!! ないぃ……っ!」
「んーん、ヘンタイさんだよぉ。……だってぇ、こんな外でアソコ触られて感じちゃってるんだもん」
「っ~~~~!!? 離してっ!! はなしてーーーーっ!!」
彼女たちの言葉が僕の羞恥心を掻き立てる。
どうして僕は、女の体になって、余所の国の入り口で裸になって、体をまさぐられているのだろう? 男であるはずの僕には絶対に起こり得ない状況が、理性を破壊しつつあった。
そして僕が暴れ出そうとしても、衛兵たちの悪戯は止まらない。
「まーまー、私たちはクリスちゃんみたいな子、だーい好きだよぉ♡」
「ちゃーんとお望み通り、気持ちよくしてあ、げ、る♡」
彼女たちは両側から脚を絡ませてきて、さらに上半身を押し付けて僕の動きを封じた。豊かな胸の感触が、僕に温もりと羞恥を与える。
そして彼女たちは懐から何かを取り出した。
「な、何、それ……っ!?」
「知らない? ローターって言うの」
「とっても気持ちいいんだから♡」
それは初めて見るものだった。
小さな卵の形をした桃色の石のようなもの。表面はツルツルしている。不可解なのは、その石がヴヴヴヴという虫が飛ぶような小さな音を発していること。
彼女たちは、僕の疑問に大した説明をすることもなく、その石を僕の胸に当てた。
「っひゃあぁぁぁっ!!?」
僕は悲鳴を上げながら飛び上がる。石に触れた乳頭が隙間なくくすぐられるような心地がしたからだ。
そこで僕は知る。その石はただの石ではなく、細かな振動を続けるものだった。僕が聞いていた小さな音は振動音だった。
「ほら、ここもここもぉ」
「ひっ、ぃっ、ぃぃぃぃっ!!? な、なんで、びんかんなところばかりぃぃっ!!?」
「敏感ななところだからだよぉ♡」
僕の体に、次々と振動する石が貼り付いてゆく。彼女たちの両手に1つずつ、合計で4つ。両胸、女性器、尻穴、どこも特に強い性的快感を覚えてしまった場所だ。
それは指で優しく触られるのと違って、落ち着かない感覚だった。敏感なところの奥にまで届いてきて神経を溶かしてくる。皮膚という器官がまるで役に立っていない。
これ以上は何だかまずい――僕は立場も忘れて彼女たちに懇願していた。
「だめ、もうっ、だめぇぇぇぇっ!! おねがい、やめてぇぇぇっ!!?」
「クリスちゃん、もうイッちゃいそう?」
「それじゃ、思いっきりイッちゃえ♡」
「ひゃうぃぃぃっ!!? ど、してっ、つよぐぅぅっ!!? だめだってぇぇぇぇぇっ!!?」
だけど僕が彼女たちに懇願すればするほど、彼女たちは余計にその石を強く押し当ててくる。快感が体の中で膨らむ。
もうだめ、もうだめ――そう叫び続けていたら、突然ふっと空に放り出されるような感覚に襲われた。
「っっっひっ!!? ぁ――っ!!? ぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!?」
快感に塗り潰されてゆく意識の片隅で、僕はこれが女のオーガズムだということを悟った。
オーガズムという現象について知ってはいた。性行為をしたことはないが、夢精したことはあった。だけど、今僕の体を襲っている感覚はあまりに強すぎた。過去に体験したそれと同じ感覚だと認識できなかったぐらい。
宙を浮くように平衡感覚が失われる。頭の中がグチャグチャして正常な思考ができない。体の制御が利かなくなって、声にならない悲鳴が溢れる。いつの間にか性器はドロドロに濡れていた。
体の自制が利かなくなって、僕は地面に座り込む。
「ふふふふ。こんなに気持ちいいの初めて?」
「私たちもぉ、こんな可愛い人間の子が来たの初めてだよぉ♡」
そんな僕の恥ずかしい姿を、2人の衛兵は熱のこもった目で見つめていた。
「次はどうしちゃおっかなぁ?」
「こんなのまだまだ序の口だよぉ♡」
「ひ……っ!? や、やめ……」
衛兵たちのわきわきとした手が近付いてくる。彼女たちはまだ続けるつもりなのだろうか?
これ以上は本当に洒落にならない――漠然とした恐怖感が僕を焦らせたところで、城門の方から女の怒声が響き渡った。
「貴様ら何をしているッ!!!」
僕を取り囲む衛兵たちが面白いぐらい体を跳ね上がらせる。
「うげぇっ!?」
「ちゅ、中隊長ぉ!?」
涙が浮かぶ目で声のする方を見てみると、額に青筋を浮かび上がらせた別の衛兵が居た。長い金髪と鋭い目の女だ。
「貴様ら、客人に対してずいぶんな振る舞いだな……ッ?」
「ち、違うんですよぉ。わ、私たちはですね」
「別に可愛い女の子が来たから『ヒャッホー遊んだろーっ』ってわけではなくてですね」
「……言い訳は終いか?」
「み、見回り行ってきますーーーー!!」
「ごごごごめんなさーーーーい!!」
先ほどまでの威勢の良い態度はどこへやら、2人の衛兵たちは街道の向こうに走り去って行ってしまった。どこに行くつもりなのか。
そして僕は、中隊長と呼ばれた女性に抱き起こされる。
「あぁ済まなかった、旅の方。あいつらはいつもああでな……。私の教練不足を恥じ入る次第だ」
「い、いえ」
「寝床を求めているのなら、門をくぐってすぐのところに宿が何軒かある。それと詫びと言っては何だが、観光のガイドを紹介しよう。旨い飯や名所を知りたかったら頼ると良い」
「……では、ありがたく」
僕は彼女の心遣いを遠慮せず受け取ることにする。観光に来たわけではないけど、この国を見定めるのに良いのかもしれない。
とにもかくにも、予想外のトラブルはあったけど何とか入国はできそうだ。先ほどのことは運が悪かったこととして、文句は胸にしまっておこう。
「『リリス』へようこそ、旅人よ。残念ながら男は入れないが、女である貴女なら歓迎しよう」
「……そう言えば、この国はどうして女性しか入国できないのですか?」
僕は服を着ながら、背を向けようとした衛兵に尋ねた。それはこの国の存在を知った当初からあった率直な疑問だった。
女だけでは子を成せまい。力仕事も大変だろうし、思想も偏る。情報が少ない今では断定こそできないが、どうにも非合理的に思える。
すると衛兵は自分の腰に手を当ててフムと息を吐いた。それは『本当に何も知らないんだな』と言っているように思えた。
「貴女は我々がどんな種族かご存じかな」
「いえ」
「我々はサキュバス、またの名を淫魔と言う。男の寝床に潜り込んで精を奪う種族だ」
「寝床に……?」
「つまり、生殖行為さ」
「せ……っ」
僕は自分の顔が赤くなるのを感じた。つまり先の2人がしていたことは、単なる戯れ以上の、本能的な行為でもあったということだ。
「男が入国できない理由は簡単だ。自制の利かなくなった同胞が男を吸い殺してしまうからさ」
そして赤くなった顔が一転して青ざめる。
もしも僕が男だということがバレてしまったら? もしかして僕はとんでもない国に入ろうとしているのではないか? 僕をこんな国に遣った上官はこのことを知らないのだろうか? そんな思考が僕の頭の中をぐるぐると回る。
目の前の衛兵は、そんな僕をさらに追い打ちする。
「まぁ、実を言うと女性だから安心というわけでもないがな」
「え」
「精を奪うとか奪わないだとか以前に、我々は本能レベルで生殖行為が好きらしい」
衛兵は僕の顎をくいっと持ち上げて笑った。
「つまり貴女のような可愛らしい女の子なら、無条件で犯してやりたいってわけさ♡」
「っっっ」
「……死にはしないが、貞操を大切にしたいなら気を付けると良い」
彼女はくつくつと笑いながら門を開け始める。僕はその後ろでただ立ち尽くす。
あぁ、本当に貧乏くじだ。僕は任務に背けない現状に憤りを感じながら、トボトボとした足取りで城門をくぐるのだった。
都市国家リリスに入って一晩、宿に泊まって朝を迎える。
一泊した限り、この国の技術レベルはそれほど高くない。石造の建物は基本的に簡素なものだし、食事も取り立てて珍しいものはなかった。寝具の質だけが妙に良かったぐらいか。
さて、僕の仕事はこの国の特徴を調べることだ。文化、産業、軍事力、その他いろいろ。魔族の国の情報なんて禄になく、本当にゼロの状態から始めなければならない。
まずはどこから手を付けるべきだろうか? そんなことを考えながら身支度をしている最中のこと、僕が泊まっている部屋に来客が訪れた。
「おはようございます。クリス様ですね?」
「貴女は?」
「私はベルと申します。衛兵の詰所から連絡をいただきました、この国の観光で何かございましたらぜひともお申し付けください」
あぁ、そう言えば昨日の衛兵がガイドを紹介してくれると言っていたか。
丁寧にお辞儀をしながらベルと名乗るその女、種族は例に漏れずサキュバスのようだった。
黒く長い髪は夜空を固めたよう、真っ黒なはずなのに不思議ときらめいて見える。それなら銀色の瞳は闇を照らす二つの月か。
背は女になった僕よりほんの少し高いか。体は細く、昨日の衛兵たちと比べれば胸も尻も控えめだ。それでも肉感がないというわけではなく、むしろ娼婦のような雰囲気が緩和されて清らかさと艶の共存性すら感じさせる。
この国の女たちは不思議と皆美しいけど、ベルはその中でも特に美しいと感じた。
「如何されましたか?」
「ぁ、いえ」
思わず見とれてしまったか。
仕事を始めよう――僕は頭を横に振って思考を切り替える。口に指を当てて数秒熟考して、笑顔を作ってから彼女に告げた。
「この国の名物や名所のようなものがあれば、そこに行こうかなと」
僕は手探りで情報を集めなければならないとき、まず漠然とした質問を投げることにしている。それに対する具体的な回答こそが、本質を表すことが多いからだ。例えば、港町に行けば魚料理を勧められるように。
ちなみに我らが祖国に行けば、誰もが口を揃えて王立図書館を紹介するだろう。あいにく旅人が入ることはできないが、他とは一線を画する豪華な建造物は学問と魔導の象徴だ。
「それでは、お風呂に行きましょうか」
「お風呂……、公衆浴場ですか?」
「えぇ、この国ではお城に次いで大きな建物なんですよ」
「へぇ」
それは少々意外な回答だった。これまでいくつもの国・都市に潜入したことがある僕だけど、公衆浴場を勧めてくるような場所は初めてだ。
普通の風呂なんて、木の桶に水を張っただけの簡素な物だ。それより豪華なものは貴族階級のものしか入れまい。
東の国には自然から湧き出る湯を利用して観光地とするところもあったか。いやしかし、女性だけしか入れない国で観光に力を入れているというのも矛盾した話だ。
「観光、ね……」
その公衆浴場とやら、『有益な情報が得られそうだ』と思う一方で純粋に興味も湧いた。
果たしてどんな場所なんだろう? ――僕は内心わくわくしながらベルさんに案内をお願いして、そして中に入ってから絶句した。
「あの、ベルさん……」
「はい、何でしょう?」
「ここが、その、この国の名物なんですよね?」
「ええ、この国1番の名所です」
案内された公衆浴場は確かに素晴らしい建物だった。
まず祖国の王立図書館に引けを取らないほど巨大。よくある石造建築だが、周りよりも良い石を使っているように見える。
屋内もまた広い。床を四角形にくり抜いたように作られた浴槽は中で宴会が開けそうなぐらい大きく、透明できれいな水が張られている。しかも聞くところによると、この建物内にはそんな巨大な浴槽がいくつもあるとか。
床材はよく研磨された大理石だろうか、つるつるしていて裸でも寝っ転がれそうなぐらい触りが良い。部屋のそこら中に金や宝石をあしらった調度品がちりばめられていて、見た目にも楽しい。
これだけの立派な浴場は世界のどこに行っても見つからないだろう。この国に対する認識を改めなければならない程、ここは素晴らしい建物だった。
しかしどうしてだろう? 広々とした浴場の所々で、大勢の女たちがまぐわっているのだ。
「んもぉっ、こんな朝っぱらからシようなんて……」
「そんなこと言っちゃって、あんただって乗り気じゃーん♡」
「ほらほらほら、まだ終わらないよ? カードで負けたら100回イキ狂い罰ゲームって言ったの君だからね?」
「今ので24ー。後76回がんばってー」
「ふひぃぃぃぃっ♡♡ もっ、むりっ!!? わるかったっ!!? 私がわるかったってへぇぇぇぇぇぇ♡♡♡」
ある者たちは脚を絡ませ合って性器をいじりあい、またある者は複数人に全身を揉みくちゃにされている。そんなのが視界の隅から隅まで。
正直なことを言うと、僕はベルさんに公衆浴場の案内を依頼した後に、自分が女の裸を見てしまうことに気付いて『しまった』と思った。だけどあまりに常軌を逸する光景のせいで、僕は顔を赤くするよりも先にただ唖然とするだけだった。
「こ、ここは一体何ですか……」
「何って、公衆欲場ですよ?」
「……公衆浴場?」
「公衆欲場」
何だか言葉のイントネーションが違う気がする。頭が痛くなってきた。落ち着け、冷静に分析しよう。
つまるところ、ここは水浴びをしながら性行為をする場所ということだ。 こうも露骨だと困惑するが、確かに街によっては公衆浴場で娼婦の斡旋が行われていることもある。入国時に聞きかじったサキュバスという種族性を考えると、ここがリリスの名所であるということに偽りはないようだ。
理解はした。それでも困ることはある。僕はここに来て、いったい何をすれば良いのだろうか? ――するとベルさんはにっこり笑って答えた。
「混ざって楽しまれるとよろしいかと」
「ま、混ざっ……!?」
「ええ。この欲場にはいくつかのお部屋がありますが、予約制の個室以外は好きに入室して、好きに参加できますよ」
自分がこの狂った場に混ざることを想像して、僕の顔がやっと熱くなる。
昨日の入国時に衛兵たちからされた悪戯を思い出す。あんな恥ずかしいことを好き好んでするだなんて、いや、そんな、馬鹿な。
ここは早いところ退散して、他のところに行こう――ベルさんにそう告げようと思ったら、突然背後から声をかけられた。
「ん? 君は確か、クリス殿か」
「あ、貴女は、昨日の……」
振り返ると、そこに立っていたのは裸の女。初めて来たばかりのこの国で面識のある人物なんて限られている、金色の髪と切れ長の目から昨日に出会った衛兵だと分かった。どうしてこんなところに。
「今日は久々の休みだからな。予定がない時はだいたいここさ」
「そ、そうですか」
近所の公園じゃあるまいし……。だけど彼女たちサキュバスにとってはそういう認識なのかもしれない。
しかし目の毒だな――僕はそう思いながら彼女から少し目をそらした。
僕よりもだいぶ背が高く引き締まった肉体だが、女性らしさはけっして失われてはいない。肌は白く、乳房も尻も大きい。そもそもが神話の世界にいる戦乙女を想起させるような美女だ、本来男の僕がこんな無防備な姿を見て良い相手ではない。
そんなことを思っていたら、衛兵は僕に近付いて、顎を指で持ち上げて笑った。
「相手がいないなら私でどうだ?」
「え、えぇっ!? いえ、ぼく、わ、私はその……っ」
「こんなところに来ているんだ、文句は言うまいな? ほらいつまで服を着ている」
「え、あ、ちょ、ちょっとっ!?」
恥ずかしい誘いもさることながら、その優美な所作に一瞬気圧される。冷静さを取り戻した時には既に遅し、いつの間にか手首を捕まれていた。
「ふむ。同胞よ、君も混ざるか?」
「いえ、私はお仕事中ですので」
「そうか残念だ。では行こう」
「はい」
「話を聞いてくださいーーーーっ!!?」
そうして僕はあれよあれよ浴場の奥へと連れて行かれる。ベルさんはその後ろをトコトコと付いてくるのだった。
――――
――
「うぅ……」
僕は衛兵に無理やり服を脱がされた後、浴槽に引きずり込まれる。
2人で並んで水に浸かる、その状況が妙に恥ずかしさを助長させた。昨日は僕の不意を突くように如何わしい行為が開始されたけど、今回は『これからする』ということが分かっているせいだ。
ここは東の国にある観光地ではない。浴槽の中身はお湯ではなく冷たい水だけど、火照った体はちっとも冷めやしなかった。
「そ、その」
「ん? 何だ」
「私は、その、あまりそういった経験がないので。……優しくしてください」
「ふむ」
僕は目を背けたまま懇願する。
すると彼女は何を思ったのか、僕の顎を指で持ち上げて突然接吻をしてきた。
「んむぅっ!? ん……っ! ん~~~~っ!?」
「ちゅっ、れろ……、じゅるるるっ」
それもただ唇を合わせるだけのお優しい接吻ではない。口の中に舌を突っ込まれ、口内の隅々までを舐る激しい接吻だ。
犯されているのは口のはずなのに、何故か腰のほうがビクビクと震える。舌が口内のどこかを通って下半身にまで伸びているのではないだろうか。
そして僕の呼吸が苦しくなったところで、彼女は口を離して笑った。
「その台詞は男に逆効果だ。覚えておくと良い」
「だ、だからってそんなぁ……!? それに、せ、接吻なんて……!」
「ん、キスは初めてだったか? まぁ良い、すぐに慣れる」
「そんなこと言われて――もひゃっ!?」
彼女に抱きかかえられる。僕の体は、彼女の開いた両脚の間にすっぽりと収まってしまう。
そして彼女は後ろから、左手で僕の乳首を揉みながら、右手で女性器を弄り始めた。
「ひゃっ、ぁうぁぁっ!? いっ、いきなり、そんなぁっ!? さ、さっき優しくって……!」
「十分優しくしている」
僕は当然困惑する。
僕が女として体を弄ばれたのは昨日が最初だ。しかもその時は散々全身を撫で回された後に満を持して胸と女性器をいじめられたのだ。
それが今は、いきなり敏感なところだけを責められる。自分の体が急に火照らされる。全身に血を巡らせようと、鼓動が一気に速まるのが何だか怖い。性行為というのはこうも人によって変わるものなのか。
「あの2人から聞いていたが、ずいぶんと敏感なようだな」
「ぁうっ、ぁっ! ぁ、あのっ、ふたりぃ……っ!?」
「昨日、君に失礼を働いた2人のことだ」
「んひぅぅっ! そ、そこっ、やっ! よ、弱いぃ……!?」
世間話をしている最中でも彼女の手は止まらない。僕は喘ぎ声を上げながら彼女の話を聞き続ける。そう言えば、あの2人はどうなったのだろう。
「あの2人は夜に、まぁ、特別訓練で一晩足腰を立たなくしてやった。ちょっとした仕置きだ」
特別訓練とは何だろうか。それを詳しく聞くのはまずい気がした。
「ぁっ、そっ、それ、もうだめ……!? ひっ、ぅあぁ……っ!! んんんっ!! くぅん~~~~~~~~!!?」
「ん? もうイッたのか。まぁ準備運動はこれぐらいで良いだろう」
そんな会話をしている内に、僕の性感はあっという間に上り詰めてオーガズムを迎える。
快楽が体の中に溜まっていなかったせいか、小さく震える程度の、昨日に比べたらほっとするぐらい弱いオーガズムだった。もっとも、彼女に言わせれば準備運動に過ぎないらしいのだが。
「はっ、はぁ……。ひ……っ」
「さて、そろそろ本番を始めようか」
「ま、まだするんですかぁ……」
「当たり前だ」
「ひゃっ! だ、抱き……」
僕は彼女に抱きかかえられ、浴槽から上げられる。
衛兵の中隊長を務めているだけあるのか、彼女は女であるのに力強く、どこか頼もしさを感じてしまう。世の女たちが頼りがいのある男を求めるというのはこういう感じなのだろうか。
もっとも抱きかかえて運ばれた行き先は碌でもないところなのだが。
「好きなものを選ぶと良い」
「これは……?」
そう、この公衆浴場には部屋の隅にいくつもの棚があった。
中にはよく分からないものがたくさん並んでいる。そう、『よく分からないもの』としか言いようがないぐらい、それらはよく分からないものだった。棒に、筒に、球に、その他さまざま。
だけどその中に、昨日衛兵たちが僕に使った振動する小さな石――ローターとか言うものが入っていて、その棚にあるものがそういう道具であることを悟った。
「……お任せします」
僕は顔に熱を感じながらか細く告げた。ここで道具を選ぶというのは、『これで自分を犯してください』と言うに他ならない。選べるわけがなかった。
だけど彼女に委ねたことをすぐに後悔することになる。この金髪の中隊長は、2人の部下よりもずっと過激な行為が好きだったのだから。
「吐いた唾は飲めんぞ?」
彼女が笑いながら迷わず手に取ったそれは、こん棒のようなものだった。
持ち手があって、先端に大きなこぶが付いている。そして、こぶからヴヴヴヴという聞き覚えのある音が。
「ひっ」
あ、これは、まずい――そう思って僕は走って逃げ出そうとした瞬間、彼女は僕の背後から手を回して、そのこぶを女性器に当てた。
「んひゃぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「凄いだろう? 電マって言うんだ。我々サキュバスでもこいつの快感には逆らえない」
「ひっ! ぁぁっ!? ひぃぃぃぃぃっ!!?」
僕は悲鳴を上げた。
あぁやっぱりだ。こぶから発せられる音は振動音だった。電マとか言うその道具は昨日他の衛兵たちが使ってきたローターと同じ、振動を以て女体を責めるものだった。
だけど経験があったとしても、慣れることはできない。電マとローターでは刺激の質が違うのだ。
「だめっ、こぇっきついぃぃぃぃぃぃぃ!!? つよふぎっ、つよすぎるってへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
電マはローターよりも振動がずっと大きく、そして重い。
ローターは振動で体の表面をくすぐってくるような感じがしていたが、電マの振動は体の芯にまで響いて内側から溶かしてくるような感じがした。
おまけに1度オーガズムに達したからだろうか? 自分の体がさらに敏感になっているような気もする。自分でも呂律が回らなくなっていることに気付いてはいるが、それでも声を出さないわけにはいかなかった。
「だめっ、そこやめてっ!! だめぇぇぇぇぇぇぅっ!!?」
「ん? 何が駄目なんだ?」
「でんまそこ当てるのぉ!! きついぃぃぃぃぃ!!」
「そこってどこだ?」
「くりちゃんんん!!? 電マくりちゃんに当てるのきついいぃぃぃぃぃっ!!」
僕が涙ボロボロの表情でそう言うと、彼女はおかしそうに笑った。ちなみにそこは昨日の衛兵が名前を教えてくれた場所だった。
「なるほど、君は素質があるな」
「なにいってぇぅ!!? いいからとめてぇぇぇぇぇっ!!」
「男を悦ばせる素質だ。まぁ、ここでは我々サキュバスをだが」
そんなの不名誉でしかない! 普段なら侮辱とも捉えられる言葉だ。
だけど今はそんなことを気にしてもいられない。僕は今立ったままくりちゃんを電マで責められているんだ。
あまりに刺激が強すぎて、膝がガクガクと震えている、その場に倒れそうになる。だけど彼女が電マを股間で固定するせいで、無理やり立ったままの姿勢を維持させられる。僕の膝が沈み込むたびに、振動がさらに強く食い込む。
「ひっ、ぁ゛、ぃぃぃっ!!? っ~~~~~~!! んぐぅぅっ!!? ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!?」
結果、僕はあっと言う間にオーガズムを迎える。
この強烈さは昨日のものと似ている。散々昂ぶらせられた後にやってくる、全身を響かせるような快感。それがこんな短時間で体験させられてしまうなんて、本当に恐ろしい道具だ。
そして電マの動きは止まらない。
「や、やめ――っ!! なんでっ、もっ!!? ぃぎぃっ!!? ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」
「一瞬使っただけで終いなんてもったいないだろう? もう1回イッとけ」
「むりっ!!? むりむりむりむりぃぃぃっ!!? ぼく、も――!! ぁっ、あっぁっぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「くくくっ。聞いた通りだな、君は余裕がなくなると一人称が『僕』に変わる」
彼女は当然のようにオーガズムを迎えたばかりの僕を責め続ける。
僕はもう、自分の脚で自重を支えることができなくなっていた。そして彼女のもう片方の腕が、僕の体をささやかに支えている。そのせいで電マが女性器に深く、だけど痛みを及ぼさない絶妙な加減で喰い込み、くりちゃんを強く押し潰した。
「だめだめだめぇぅうぅぅっ!!? ぁ――っ!!? っ~~~~~~~~!!! ぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!?」
2度目のオーガズム。自分の股間から何か液体が漏れているのを感じる。
僕の体が大きく跳ね上がったところで、電マの動きがようやく止まる。だけど彼女が相変わらずこぶをグリグリと押し付けてくるせいで、絶頂は止まらない。
何だか、自分の体に溜まっている快感を一滴残らず搾り出されているような気がした。
彼女に体を支えられたままほんの少しだけ時間が経つ。
「はっ、ぁ……っ、う……」
「くくっ、粗相をしてしまったようだな」
オーガズムの余韻が落ち着いた後に自分の足下を見てみると、透明な水たまりができていた。自分が漏らしたものなんだろうけど、尿とはどこか少し違うようにも見えた。
「ぁ、う、ごめんなさひ……」
「なら、お仕置きを受けるか?」
「っぃぅぅっ!!?」
僕はもうその言葉だけで飛び上がる心地だった。この人の言う『お仕置き』は、そういうことだと察していたからだ。
「冗談だ、悪いが昼から用事があるんだ。私はこれで退散しよう。ほら、水に浸かって休むと良い」
「は、はひぃ……」
立ったまま責められたせいで、脚がもうガクガクだ。
僕が水に浸かったことを確認すると、彼女は『良い旅を』と言って立ち去っていった。薄々感付いていたけれど、親切である一方で嗜虐的な部分も多い人物だった。
「はぁぁぁ……」
やっと解放されて気が抜ける。
「……凄い所だな」
それがこの公衆浴場に対する率直な感想だった。もしもこんな施設が人間の国にあったとして、維持できるものだろうか? 僕は大して考えるまでもなく『無理だろうな』と結論付けた。
その差は何だろうか? 金の使い道、性行為に対する意識、男女の比率、妊娠や性病の可能性。性奴隷、貴族、人身売買。考えれば考えるほど、人間と魔族の差というものを痛感させられる。
条約上は和解したが、真に融和するのはまだ遠そうだ――まさかこんな場所で、こんな行為で思い知らされることになるなんてね。
さて、僕はとても疲れていた。だからこそ水に浸かって『少し休んでいこう』なんて考えていた。それが仇だということをすぐに気付かせられることになる。
「ねー、そこの君ぃ。人間の女の子でしょー?」
「さっき見てたよぉ? すっごい気持ち良さそうだったね♡」
「良かったらぁ……、私たちともいっしょにシなーい?」
水に浸かった僕に声をかけてきたのは、見知らぬサキュバスたちだった。人数は3人。
ここは性行為をするための場所である。つまり1人で居るということはどういうことか――そのことに気付いて僕は後ずさる。
「い、いえ、僕はその」
「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん」
「独りで寂しくオナらせちゃうのは私たちのコケンに関わるしー」
「君ってネコぉ? ならたーくさんサービスしたげる♡」
「ね、猫っ? いえ、僕は人間、だけど、そうじゃなくてっ」
サキュバスたちは僕を取り囲むようににじり寄ってくる。浴槽の中に居るから走って逃げることもできない。
そして僕の肩が誰か1人の体にトンと触れた瞬間、3人のサキュバスたちは一斉に僕の体に手を伸ばしてきた。
「ぁぅぅっ!!? ぁっ、ひゃっ! ぁ、ぁ、ぁあぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!?」
「もー。君、体冷えちゃってるじゃーん」
「温かい時期だけど、お風呂に入りっぱなしはそりゃダメだよぉ」
「私たちで温めてあげるねー」
サキュバスたちは僕に自分の体を密着させながら、僕の全身を手でいたぶる。
それは『揉みくちゃにされる』という言葉がそのまま当てはまるような状況だった。胸や女性器、尻だけではない。手や脚、腹、背中、頭まで、全身に隈なく手が這い回る。撫でるともくすぐるとも違う、指を遠慮なく食い込ませるような揉み込むような動き。
「あっ、ぅあぁぁっ!! そんな、離れて……っ!! ひゃぁぁぁ……!」
(これ、何だか、変……!?)
温かな体温と絶妙な圧迫感が、少し冷えて強ばった身体を弛緩させる。性的快感とはまた違う、心地良さのようなものを感じた。
「あ、いいものめーっけ♪」
「ひっ!? そ、それは……っ!?」
だけど、僕を撫で回している内の1人が傍に電マが転がっているのを目ざとく見付ける。
「なになにー? 電マが好きなの?」
「私は見てたよぉ。電マでアソコいじめられてすっごく感じちゃってたのぉ♡」
「じゃーあ、みんなで使ったげる。1こじゃ足りないでしょー?」
「ひっ、それは止め――ぇぅぅぅぁあぁぁぁぁっ!!? ぁひっ!!? ひぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
棚から次々と取り出されてくる電マ。浴槽から引きずり出される僕の体。僕が制止する間もなく、電マを全身に当てられた。
「ひゃぁいぃぃぃぃぃぃぃっ!!? やめへやめへやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! へひっひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
「ひゃー、すっごいびんかーん♡」
「こんなに感じちゃう子、サキュバスにだってそんな居ないよぉ?」
「すっごい、お潮ぴゅっぴゅしてるぅ♡」
全身を震わせられる――普通ならそんなことで性的快感を得られるかは怪しいものだが、僕の体は驚くほど敏感に反応した。
彼女たちの当て方が巧すぎるのだろうか。圧力、振動の強さ、動き、1人1人が違っていて、単一的な振動を全身に浴びるのとは全く違う感覚だった。不規則で慣れない。故にずっと全身が気持ち良い。
「そこはやだやらやだぁぁぁぁぁぁぁっ!!? ちくびもくりちゃんもやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「うんうん、乳首とくりちゃんきもちーねー♡ もっときもちくなろーねー♡」
「……くりちゃん、っはー♡」
「ネコで敏感でこのあざとさ、最っ高にエロいね」
特に乳首とくりちゃんは嫌になるほど気持ち良い。散々気持ち良くさせられてきたというのに、さらに気持ち良くなってしまうことに愕然とする。
「ぁっ、あっ、ぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!? ぁ――っ!!? ひぃ~~~~~~~~~~~!!!? ぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
僕はまたオーガズムを迎える。
今日はこれで何回目だろう? もう回数を数えることもできないぐらい、思考を蕩かされている。ただ何となく、自分が壊れてゆく恐怖を心の片隅で感じた。
そして悪いことは連鎖する。
「ねーねー、私たちも混ぜてよぉ」
「噂聞いたよー。その子、人間の子でしょー? 私もシたーい」
「すっごいエロいイキ声、隣の部屋まで聞こえてきたよぉ♡ 私たちも混ざりたいなー」
どんどんサキュバスが増えてくる。最初は3人だったのに、4人、5人、10人。1人減って、2人増える。2人減って、3人増える。3人増えて、5人増える。
「この子電マが大好きみたいだから、たーくさん気持ち良くしたげてー」
「ぁあ゛ぁぁーーーーっ!!? もっ、だめっ、こわれる゛ぅぅぅぅぅっ!!! しんじゃうぅぁあぁぁぁっ!!!? っっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
「もー、女の子がそんなはしたないこと言っちゃだめだよ?」
「気持ちいい時はぁ、ちゃんと『気持ちいい』って言わなきゃ♡」
「きもちいぃからぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!? でんみゃっ、くりひゃっ!!? きもひぃぃからやめへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! っっひ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
そうして僕は全身に電マを当てられて何度も何度もオーガズムを迎える。
いつしか自我は溶けてなくなり、快楽に合わせて声を漏らすだけの獣に成り果てるのだった。
――――
――
「ぁぅ……ぅ……はっ!?」
「お目覚めですか、クリス様」
僕が飛び起きると、すぐ傍にはベルさんが居た。
すぐに湯冷ましの水が入ったコップを手渡されて、反射的に口に含む。どうやら気付かない内に体が酷く乾いているらしい、喉が水を求めて止まらない。勢い良く飲みすぎて、思わずえずく。
少し落ち着いたところで、僕たちが見知らぬ小さな個室に居ることに気付いた。僕はベッドに寝かされていた。
「ここは公衆欲場の個室です。クリス様が気を失われてしまったので、部屋を使わせてもらいました」
あぁそうだ――僕はこれまでの経緯を思い出した。途中から記憶がないが、つまり僕は気絶するまで犯されてしまったということか。
「酷い目に遭った……」
「人間の女性が来るのは珍しいですから、皆さんはしゃいでしまったみたいですね」
ベルさんは苦笑した。今回の出来事は苦笑で済む程度の話らしい。何てことだ。
外に出ると、もう日が傾き始めている時間だった。多少の情報は得たけど何だか仕事した気になれない――そんなモヤモヤを感じながら、僕は少しフラフラの状態で宿に帰る。
公衆浴場では男が入国してはいけない理由を身にしみるほど理解できた。あんなところに男が居たら、快楽で殺されるのもおかしな話ではない。そして僕は男である。
本当に、絶対に、何としてでもバレないようにしなければ……。改めて自分の置かれた状況の過酷さを痛感する1日だった。
【3日目 マッサージ店 ← 糸引くねっとり性感開発と隠語教育】
「この、芋のようなものは何ですか」
朝、僕はベルさんにそう尋ねた。
昨日の朝食にはなかった、スープに入っている食材。見た目は馬鈴薯に似ているが、色は雪のように真っ白だ。そして口の中がネバつくような食感で、独特の香りが鼻を突く。率直に言って、酷くまずい。
「ザーメンイモって言って、人間の精液と同じ成分が詰まってるんですよ。それのおかげで、私たちサキュバスは男の人を襲わなくても生きていけるんです」
「…………」
口に入れた物をそのまま吐き出したくなった。種族特有の特産品として交易に……ないな。
「クリス様、大丈夫ですか? ご気分が優れないようですが」
「ま、まぁ」
僕のしかめっ面は別の理由によるものだけど、体が重いのは本当のことだった。
とは言ってもその原因は明白だ。昨日、朝から夕方まで散々犯されたことによる疲労、それに尽きる。
正直なところ今日は体を休めたいが、任務としてこの国に居る手前それはどうだろうか――そう思っていたらベルさんはにっこり笑って言った。
「それでは、今日はマッサージを受けてみてはいかがでしょう?」
「マッサージ?」
「ええ、体の疲れを取り除くほかに美容にも効果があるんですよ」
「へぇ?」
聞くところによると、マッサージとは体の部位を擦る・揉むなどして血液や気の流れを良くする行為なのだとか。その結果、疲労回復や美容などに効果があるらしい。
貴族階級であれば侍女を使っていろいろな美容術を試す者もいるだろうが、僕のような庶民には未知の領域。それを金さえ払えば体験できるというわけだ。
揉む、か――そう言えば、昨日大勢のサキュバスたちに全身を揉みくちゃにされたっけ。その時の温もりや圧迫感が、性的快感以外の安心感のようなものを生み出していたことを体が覚えている。
何だか突然肩の辺りがソワソワしだして、僕は首を横に振った。
「クリス様?」
「い、いえ、何でもありません。そう言ったお店は多いんですか?」
「ええ、一区画に1店舗ぐらいはあると思いますよ」
どうやら、マッサージというものはリリスではそれなりに一般的らしい。そんなものが商売として成立しているなんてなかなか先進的ではないだろうか? 純粋に驚きだ。
「では、そのマッサージというものに案内していただけますか」
「はい、お任せくださいっ」
そうして、今日の行き先は決まった。
――――
――
僕たちが向かった先は、宿からそう遠くない商業区域にある店。昨日の公衆浴場のような大きな建物と比べれば、ごく普通の簡素な建物で不思議と安心感を覚えた。
僕が内心少しウキウキしながら店の戸を開くと、店員と思しき女が突然僕に抱き付いた。
「はぁい、いらっしゃー――人間の女の子だぁぁーー♡」
「うわぁっ!?」
視界は真っ暗、顔に感じるのは柔らかな乳房の感触。
全身が温もりと程良い圧迫感に包まれる。ひっそりと体が望んでいた感覚。それだけで思わず体が弛緩してしまいそう。あれ、でもこれはマッサージじゃないよな?
「この方はクリスさん、一昨日からこの国に滞在している旅人さんです。旅の疲れを癒やして差し上げてください」
「まっかせてー♪」
僕が何が何だか分からずワタワタしていると、ベルさんが『どうどう』と彼女を引き剥がしてくれた。僕はそこでようやく抱き付いてきた女の全容を確認した。
ウェーブを描いた茶色の髪のサキュバス。だけど今まで見た中でも、特に肉感的な印象を受ける。
胸や尻だけではない、腕も、脚も、腹も、脂肪に包まれていて筋肉というものがまるで感じられない体。飾りの一切ない真っ白で柔らかな生地のワンピースが、ふくよかな体のラインを鮮明に映し出していた。
しかしけっして醜く肥え太っているわけではない。張りのある肌、絶妙に均整の取れた体型。何より、触れたときの心地良さは先ほど抱き締められたときに体感済みだ。
包容力を感じさせる肉体は、おっとりした表情とも調和する。変な話だけど、彼女はのどかな平原に住まう羊を連想させる女だった。
「クリスちゃんだっけ? 君、結構ウワサになってるよ」
「えっ?」
「人間の旅人の女の子で、とっても可愛くってエッチだって」
「…………」
僕は頭を抱えた。
『人間の方がいらっしゃるのは珍しいですから』とベルさんのフォロー。密偵があまり目立つのはまずいし、何よりその噂の内容は不名誉極まりない!
そんな話をしながら、僕はお店の奥に連れて行かれる。連れて行かれた先は、小さなベッドと棚があるだけの、小さな部屋だった。
「じゃあ服を脱いだらそこに寝て」
「は、え……?」
「ん? どしたの?」
「嫌です」
「え?」
「え?」
「…………」
「…………」
ちぐはぐなやり取り。僕はどうして服を脱がなければならないか理解できなかったし、彼女もどうして僕が服を脱ぐのを拒否するのか理解できなかったよう。
だけど僕の主張は間違っていないと思う。羞恥心はもちろんあったが、それ以上にこの国に来て裸になると碌なことにならないと経験が告げていたのだ。
「仕方ないなぁ。じゃあ靴だけ脱いで」
「…………」
妥協の末、僕は仕方なく素足を晒して仰向けに寝る。すると彼女は僕の脚を手で持ち上げた。
足の裏を真正面から見られる。裸ではないとは言っても、素肌を見られるのは何だか恥ずかしい。そう思っていたら、彼女は僕の足の裏を指で押してきた。
「痛……っ!?」
「ほら、我慢我慢」
ギュッギュッと足の裏を強く押される。硬い靴を履いている普段であれば絶対に感じないであろう鈍い痛みに、僕の表情が歪む。
「これ、何なんですかぁ……!?」
「足つぼマッサージって言うんだよぉ」
「ぅっ、ぅぅぅぅぅ……!」
良薬口に苦しとは言うが、マッサージというのはこうも痛みを及ぼすものだったのか。心地良い温もりと圧迫感を期待していたからこそ、現実とのズレに少し失望しかける。
だけどそれは杞憂だ。
「んっ、ぅぅ……、あぁぁぁ……」
痛みに慣れてくる。痛いことは変わらないのだが、何というか癖になるような痛さ。不思議な感覚だ。
強ばった体が弛緩してゆく。このまま彼女の手に委ねたくなってゆく。
「ねー? 気持ちいいでしょー?」
「は、はいぃぃ……」
「オイル塗っていくねー」
彼女は小瓶を取り出して、中の液体を手に取る。
透明で少しトロトロした液体、植物から搾った油のようで、甘いような爽やかなような、不思議な香りが漂う。
彼女は手のひらでそのオイルを温めると、僕の足の裏に塗り始めた。
「んくっ、ふふ……! くすぐったい、です……!」
「ほら、我慢我慢」
「んふっ、はは……っ! もう、そればっかりじゃなひひひひ……っ!?」
幾分かヌルヌルになった足の裏の上を、指先がなぞる。くすぐったさを覚えるのは当然のことだろう。僕は肺に空気を押し込んで我慢し続けた。
「んぐぅ……! っふっ、ふふ……! ぁっ、はっぁぁ……!?」
だけどだんだん疲れてきて、同じような刺激なのに声が我慢できなくなってゆく。
そうして体が我慢を諦めると、また感覚が段々と馴染んでゆくようだった。
「ひゃっ、ぁ、ぁぁ……! ひゃっ、ぁぁぁ……!」
「クリスちゃん、すっごく感じやすいね。足も小っちゃくてプニプニ、かわいー」
くすぐったいはずのに、不思議と心地良い。時折くすぐったさに耐えられなくなって指をきゅっと丸めてしまうけど、少し経つとまた欲しくなって恐る恐る指を開いてしまうような。
情けない声が出ている自覚はあるけれど、抑えることができない。僕の思考は自分でも気付かない内に蝕まれていた。
「上もマッサージしたいんだけど、オイル塗ると汚れちゃうから、服脱がすねー」
「は、はいぃ……」
そう。当初は服を脱ぐのを散々忌避していたというのに、彼女がそう言ってきても拒否できないぐらい。
上半身を起き上がらせられて、衣服を脱がされる。その様子は端から見れば幼子と母親のようだろう。
そうして僕はあっという間に下着すらも脱がされる。そのことに疑問を抱くこともなく、自分の両腕を枕にしてうつ伏せに寝た。
「それじゃあ、背中マッサージしていくねー」
「んっ! ぁっ、ぁぁぁ……!」
背中に人肌まで温められたオイルが広がってゆく。
足の先ではない、内蔵が密集した胴体に触れられているという事実に少し緊張し、それ以上に胸を膨らませる。
「けっこう凝ってるねぇ。クリスちゃん頑張り屋さんなんだねー」
「んっ、く、ふ……! ぁ、そこ、ぃぃ……」
「こうするともっと気持ちいーよぉ」
「んぁっ!? ひゃっ、ぁっ、それ、くすぐったひぃ……!?」
あぁ、これはすごい。
彼女は手のひら全体で背中を押すのと、指先を立てて撫でるのを交互に行う。心地良い圧迫感と、ゾクゾクするようなくすぐったさ。
そしてそれが腋の下、二の腕、太もも、ふくらはぎと全身に広がってゆく。
「ふふふ。クリスちゃんもうトロトロだねー」
「ふぁ、ぁぁ……。ひゃぁぁ……♡」
まるで自分の体が溶けてしまったようだ。
「……それじゃ、そろそろ前もマッサージするねー」
「ふぁ、ひ」
僕は彼女に促されて仰向けに姿勢を変えて、彼女をぼうっと見つめた。
小瓶から何か液体を取り出している。先ほどまで使っていたオイル?はサラサラしていたけれど、今彼女の手にあるのは何か違う? ものすごくベタベタしているようで、糸を引いている。
あれは何だろう? ――そう思っていたら、彼女の指先が突然僕の胸先に触れた。
「ひゃひぃぃっ!!?」
「こちょこちょこちょこちょー♪」
「ふゃぁぁぁぁぁっ!!? ひゃはっ!!? ひゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
のんびりした口調からは想像も付かないぐらい、僕の平たい胸の上で彼女の指がものすごい速さで踊る。体の表面にある液体を指先でグチュグチュとかきまぜるような動き。
これはくすぐられているのだろうか? 自分が何をされているのか理解できないぐらい、あまりに突然のことだった。ただ体がビクビク跳ねて、甲高い悲鳴が漏れるだけ。
そこで僕はようやく気付いた――騙された!
「マッサージじゃないいぃぃぃぃ!!? こんなのマッサージじゃないぃぃぃぃ!!!」
「これはね、性感マッサージって言うんだよぉ」
彼女は笑みを浮かべる。相変わらずほんわかとした表情だけど、その目にはギラギラとした輝きが宿っているように見えた。
「君のカラダ、もーっと敏感にしてあげるね♡」
「はひっ、ひっひぃぃっ!!?」
彼女の指の動きが明らかに性的快感を与えるものに変わる。親指と人差し指で乳首を弄び、中指と薬指、小指で胸の付け根をくすぐる。
ドロドロした謎の粘液を塗りたくられたせいで嫌になるほどよく滑る。爪が肌に当たっても全然痛くなくて、むしろ神経を直接犯されているような気がする程。
その証拠に、塗りたくられた粘液が糸を引いてちぎれてゆく感触ですら、ゾワゾワして耐えられなくなってしまっていた。
「このローション、ぬるぬるぺたぺたしてて気持ちいーでしょー?」
「やめっ!!? もっ! 胸、さわらないでぇぇぇぇっ!!」
僕がそう懇願すると、彼女は唇を尖らせた。
「んー。その言い方かわいくないなぁ。『おっぱいこちょこちょしないで』って言ってみよ?」
「なひっ!!? そ、そんなっ!! いひからやめてよぉぉぉぉっ!!?」
「言わなきゃ止めてあげなーい」
どうして彼女がそんなことに拘るのかさっぱり理解できなかった。だけど今の僕にとってはこの刺激から逃れることが先決だった。
その妥協が屈服であることは、僕に知る由もない。
「ぉ、おっぱぃぃぃっ!! も、もうおっぱいこちょこちょしないでぇぇぇぇっ!!?」
「はい、よくできましたー♪ ……それじゃ別のところ触ったげる♡」
僕が知らずの内に恥ずかしい台詞を吐くと、彼女は次に女性器に触れた。
「ひゃぁぁっ!!? う、うそつき、嘘つきぃぃぃぃぃぃっ!!?」
「えー? おっぱい触るのは止めてあげたじゃなぁい♪」
今僕が触られているのは膣の入り口だ。
敏感な場所だからだろうか、彼女も爪を立てるようなことはしない。だけど指の腹で優しくこすりながら揉みほぐされると、ゾクゾクとした得体の知れない感覚が背骨を伝わってくる。
「っひっ!? そこ、やだっ!! そこはやだぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「そこってどこぉ?」
「じょ、じょせっ、いきっ!!? 女性器っ、やめっ、んひぃぅうぅっ!!」
「むぅ、かわいくなーい。ここはね『おまんこ』って言うんだよ。ほら、どこをどうされるのが嫌なのかなぁ?」
「っっうぅぅぅぅっ!!? ぉ、おまんこっ!? おまんこ、ぐちゅぐちゅするのやだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うふふふふ、偉い偉い♡」
どうせ僕が何をどう懇願したところで、彼女は僕を犯すのを止めはしないだろう。
それが分かっていてもなお、僕は彼女の言うがままだ。体があまりにゾワゾワしていて、藁にも縋る思いだった。マッサージを受けていたせいか、おっぱいやおまんこに触れられたときの快感が、全身にまで響いてくるような気がしていたのだ。
「それじゃ、ここはどうかなぁ?」
「っひぃぃぃぃっ!!? くりちゃんはだめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「あ、そこは分かるんだー♡ ご褒美にたーくさんこちょこちょしてあげる」
「ぅあっ!! っひっ!? ひゃっ、ぁっ、あっ、ぁあ゛ぁぁぁぁぁぁっ!!?」
くりちゃんを触られる。女になった僕の体の中で1番弱いところ。それを彼女も理解しているからか、他のどこよりも触り方がしつこい。
「ローションいいでしょー? ぺたぺた、ぺたぺた」
「んんぅっ! っぁ! くぅぅんっ!?」
ローションとやらを指先にたっぷり付けて、くりちゃんをトントンと叩く。
粘液の糸がグチュリと貼り付いて、ペリペリと剥がれて、また貼り付いて、剥がれて。こんな小さな刺激をどうして感じ取れてしまうのだろう? 小人の小さな指でくすぐられているような心地だ。
そしてどうやら、ローションの糸には体の中にある神経を引っ張り出す効果があるようだ。
「はい、焦らすのおしまーい」
「んっひぃぅ!!? ぉ゛っ!? ぉぁっ、ぉおぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」
くりちゃんを指の腹でこすられると、今までにない快感を覚える。
ローションでぬるぬるしているから、こすられても痛くはない。むしろ指紋の1本1本が鑢になって、くりちゃんの神経を甘く削ってゆく。
特に根元から先までを隙間なくしごかれると、くりちゃん全体が芯からムズムズして居ても立ってもいられなくなった。膝から下がガタガタ動いて、背筋がのけ反る。
「クリスちゃん。イっちゃうときはね、ちゃーんと『イク』って言うのが女の子なんだよ」
「いぃぃぃっ!! イぅうぅぅぅぅぅっ!!? ぼく、もっ!! イッひゃっ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
彼女に容易く誘導される。
次の瞬間、僕は体を大きく震えさせた。
「っっっ!!! ん~~~~!!? っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?」
「クリスちゃん、イッちゃったねー。やっぱりエッチなんだね♡」
「はぁっ、は……! い……ひゃ……」
否定したかったけど、声が出なかった。
「クリスちゃんはエッチだよぉ。だって、エッチなことされて気持ち良くなっちゃってるんだもーん♡」
僕の心を読めるのか、彼女はにんまり笑った。
「そ、し、て。エッチな子をますますエッチにさせるのが私のお仕事♪」
この国において、性行為は1回イクだけでは終わらない。そのことは経験で知っていた。だけど今回については少し状況が違ったようだ。
「ひぃぃうっ!!?」
「クリスちゃん、今何をされてるのかなー?」
「お、おまんこ、いりぐちっ!!? くにくにってへぇぇぇぇぇぇっ!!?」
おまんこの入り口を指で優しく揉みほぐされる。
そけい部、皮膚と粘膜の間、もう少し内側。ゾワゾワして、中からどんどん愛液が染み出してくる。
「だめっ、また、いくっ!!? イっ――ひゃぁっ!!? ぁ――っ!!! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
僕はまたあっという間にイク。
思えば、くりちゃん以外でイクのは初めてかもしれない。くりちゃんでイクのは強い快感だけど、おまんこの入り口でイクのはどこかもにょもにょしていて、体が溶け出すような心地。触られていないはずのくりちゃんが、何故かピリピリと疼いた気がした。
そしたら、彼女は間髪入れずに僕のおっぱいに触り出す。
「ひゃっ、ぁあぁぁっ!!?」
「クリスちゃん、今度はどんな感じか教えて?」
「おっぱひっ!!? こちょこちょされへっ!! ちくびっ、くにくにされてへぇっ!!? ぞくぞくしてうぅぅぅぅっ!!?」
おっぱいへの触り方はさっきと同じだ。親指と人差し指で乳首をつまみ、残った指で付け根をくすぐる。
おかしい。おかしいおかしいおかしい。さっきと同じ触り方なのに、どうしてこんなに気持ち良いんだ?
「なんでぇぇぇっ!!? おっぱいっ、さわられへっ、イッひゃっ!!? い――くぅぅぅぅぅぅんっ!!? ふっ、ぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?」
そして僕はまた絶頂する。
おっぱい全体が膜に包まれたようにゾワゾワする。そして全く関係のない場所のはずなのに、おまんこがきゅうきゅうと激しく収縮して、くりちゃんがビリビリと痺れる。
言語化に至らなくても漠然と募る不安と恐怖。それを感じ取った彼女は、僕の耳元でそっとささやくのだった。
「――全身でイケるようにしたげる♡」
間髪入れずに姿勢をうつ伏せに変えさせられて、今度は背中を思いっきりくすぐられる。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!!? ひっ、ひひぃぃぃっ!!? なっ、そんにゃっ、そんにゃぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
僕は初めて、彼女が恐ろしいことをしていることを理解した。
僕の体は極めて敏感だ。それこそ、体を撫で回されるだけで弛緩してしまい、くりちゃんをちょっと弄られるだけでイッてしまうぐらい。
それを全身のどこを責められてもイッてしまうように開発してしまうというのだ。もしもそんな体になったら……? そこから先は想像したくもなかった。
だけどあぁ、逃げられない。何度もイッて僕の体はくたくただったし、彼女が僕の太ももに跨がって動きを防いでくる。
「ぅひゃっ、ひゃっ、ひゃぁぁぁぁっ!!? だめっ、せにゃか、背中でっ!!? イぅぅぅっ!!!? っっひ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?」
「うふふふふ、背中でも気持ち良くなれたねー♡ じゃあ、次はわきのしたっ」
「ひゃぁっはっはははははははははははっ!!! だえっ、そこはくしゅぐったひぃぃっひひひひひひひひっ!!? しょんなのでいけなひぃぃぃっひひひひひひひひひ!!!」
「んーん、クリスちゃんならちゃんとイケるようになるよぉ。お姉さんにぜーんぶ任せて♪」
「ふひゃっひぃっ!!? にゃんへっ!!? こんにゃっ、きもひっ!!? ひゃはっ、らめっ、イッひゃっ、わきのひたこちょこちょされへっ、イッ――ひゃぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!?」
そして1つの部位が開発されるとイクのがどんどん激しくなってくる。1ヶ所でイクと、他の開発された部位が共鳴するように気持ち良くなるんだ。腋の下をくすぐられているのに、くりちゃんとおまんことおっぱいと背中が一緒に気持ち良くなってしまうんだ。
そうやって全身でイかされて、最後はここに来て最初にマッサージをされた場所。
「ひゃひぃぃぃ……っ!!? あ、足の裏……っ♡ そんな爪でカリカリされひゃらっ!? く、くしゅぐったひぃぃっひひひひひひひひひぃぃ……♡♡ ぁ、ぁは……!!? ぁっ、イッひゃ――ぅぅっ!!? ぁはっ!! っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!?」
足の裏をくすぐられて絶頂したところで、僕の意識はプツンと途切れるのだった。
――――
――
「くりすちゃーん。くーりすちゃーん!」
「ん、ぅ……。……はっ!?」
僕が飛び起きると、店員の女が僕を見下ろしていた。
何だかこの状況に既視感があるような……。
「今日の施術はおしまいだよー」
そう言われて、僕は自分の体を見下ろす。
どうやら毛布をかけてくれていたみたいで、裸にも関わらず寒くはない。おまけにオイルやらローションやらでドロドロだった自分の体は、いつの間にかきれいになっていた。
だけど。
「んっ」
全身に違和感。スースーするというか、空気の流れを感じ取れるようになったというか。
どうやら本当に全身を敏感にされてしまったようだ……。
「だいじょーぶ。慣れたら何てことないし、その内『もっと敏感になりたい』って思うようになるよぉ♡」
にへらと笑う彼女に、僕は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべることしかできなかった。
外に出ると夕暮れ。今日も何だか仕事ができなかったどころか、犯されるだけ犯されて余計に疲れてしまった気がする。
風の流れが嫌にくすぐったい。この国に来てから自分の心身が酷く変わってゆくのに、得体の知れない恐怖を感じるのだった。