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◆あらすじ
私の1番の友人は、何というか、その、レズビアンの気があるように思える。
彼女――シキとは中学からの付き合いだった。
烏羽色の長い髪におさな顔。低い背。胸もお尻も小さい、もとい和服が似合う体型。どこかのお嬢様然とした見た目だけど、中身は意外と粗暴でおっさん臭いことを知っている。
私は短髪で、背も少し高めで、胸もあって(少なくともシキよりは)。性格も、彼女ほどあっけらかんとはできない。そんな正反対な私たちだからこそ仲良くなれたのだと思う。
その日、私はシキの家に遊びに行っていた。
お嬢様っぽいとは言ったけど、実際は至って普通の家庭。服装も彼女はほとんど部屋着だし、私だってパーカーにショートパンツだ。格式もなければ、気合もない。
「ちょっと冷蔵庫見てくるね」
「はーい」
「あっきー、ベッドの下は見ちゃダメよ♡」
「いいから早く行け」
そんな会話をしてシキが部屋から出て行くと、私はまず『どうしてくれよう』と思案した。
(シキは私をあっきーと呼んでいた)
どちらかの家に遊びに行くと、どうしてだろうか、決まってイタズラをするのが慣例だった。例えば、押し入れに隠れたり、本棚の本を積み上げてタワーを作ったり。特に意味はない、単なる戯れ。
だけど、中学の頃から続けていれば、ネタもなくなってゆくものだ。
散々、悩みに悩んだあげく、私は時間を止めることにした。
大したことではない。棚の上のほうにある本に右手を伸ばすような姿勢で止まる。ただのだるまさんが転んだ状態だ。
シキが戻ってくる。
「ただいまー。オレンジジュースあったー」
私は部屋の扉に対して横顔を向けた状態。視界の隅でシキの行動を確認できた。
だけど、私は無視。微動だにしない。
「おーい?」
「……」
無視。
「あらー……」
シキは半分溜め息のような間の抜けた声を上げる。そして、ミニテーブルにジュースを置く。カランという音が聞こえる。グラスと氷がぶつかる音。
次の瞬間、シキが視界から消える。彼女は私の背後に回り込むと、耳元でささやいた。
「あっきー……。そぉれは、悪手だなぁ」
ねっとりとした声。何だか胸がゾワゾワして、腕に鳥肌が立つのを感じた。
何をするつもり? そう思う前に、指先で首筋を撫でられた。
「っ――!?」
思わず声が漏れそうになる。ビクンと跳ねる肩と腰。
シキは私の反応に気を良くしたのか、耳から首筋、肩までを撫で続ける。
「っ、……、…………!」
「私に隙をさらすなんて、お主もまだまだよのぉ」
台詞は軽いのに、蜜のような声音。
どうやら、私はやらかしてしまったらしい。いまだに、彼女の変なスイッチが入るタイミングが分からなかった。
だけど、調子付いたこの女をのさばらせておくのは癪だ。耐えて耐えて、いつかどこかで反撃してやる。
そんな、変なところで負けず嫌いを発揮してしまったことを、私はすぐに後悔することになる。
「次、行ってみよっか」
突然、ヴヴヴヴという音が鳴り始める。スマホの着信のような機械音。だけど、それよりももっと大きく、重い。
一体何? そう思っていたら、シキが自分の手に持っていたものを私の目の前にちらつかせた。
「これね、電マ」
豪快な音を立てて振動し続けるマッサージ器のようなもの。
それを突然、腋の下に当てられた。
「んく……っ!?」
くすぐったい。腋の下の神経を震わせられて、思わず笑いそうになる。
私は右腕を上げて本棚の本を取るような姿勢を取っていた。だから、腕を閉じて防ぐことができない。迂闊なことをしたものだ。
だけど、同じところに電マを当てられ続けていれば、だんだんと慣れてくる。
そろそろ反撃の機会か。
そんなことをのんきに考えていたら、シキは信じられない暴挙に出た。
「相変わらずデカいな、コノヤロー」
「ふ――っ!?」
シキが電マを当てたのは胸。
それはダメでしょ!? 私は心の中で叫んだ。
「うり、うりうり」
「っ――! ひ……!? ぅぅ……、ひゃ……!?」
しかも、電マの当て方が嫌にねちっこい。
胸の付け根をゾゾゾゾとなぞったかと思えば、乳首の先っぽに当たるか当たらないかの強さでツンツンして、その後胸全体を押しつぶすようにギュウっと押し付ける。
やたら上手い。声が我慢できなくなる。身体もプルプル震えだしてきた。
「あっきー、乳首勃ってきたぁ。ブラしてるのに分かるよぉ、いやらしっ♡」
その言葉に、全身がかぁっと熱くなる。怒りと恥ずかしさで、だ。
さすがに、イタズラにしては度が過ぎるでしょう!? 早く諦めろ、早く諦めろ、早く諦めろ! 私は心の中で叫び続ける。
時間が停止したフリなんてさっさと止めれば良かったのに、だ。
「どーん」
「――!!?」
次の瞬間、振動する電マを股間に押しつけられた。
振動がクリトリスを押し潰す。
「出力さいだーい」
「ぅぁ――!? ひ――!!?」
「ぐりぐりぐり」
「――――っ!!? っっっ――――!!?」
我慢できたのはほんの数秒。
私の我慢はあっという間に決壊した。
「無理無理むりむりぃぃぃぃっ!!? やめ、やめへぇぇぇぇぇぇっ!!?」
私はその場で前のめりに倒れる。
だけど、シキが私の腰に手を回してがっしりホールドしているから逃げられない。
「あんたバカじゃなひのぉぉっ!!? こんな、こんにゃっ!? ばかぁぁぁぁっ!!?」
「あっきー、ろれつ回ってないよぉ」
「そんな、バカ言っ!!? ~~~~!? んぐ……っ! ~~~~~~っ!!」
「今、家には誰もいないから、声出しても大丈夫だよ」
「ぅぁっ!? ばかっ!!? ぐりぐりすりゅなぁぁぁぁっ!!?」
「まぁまぁ、せっかくだから1回イッちゃいなよ」
私に男性経験はない。だけど、独りですることはたまにある。指で弄ったり、シャーペンの裏っ側でちょっとグリグリしたりするぐらいだ。
この電マとかいう道具、指やシャーペンなんかとは比べものにならないぐらい気持ち良い。
こぶしサイズの電マがクリトリスを中心に、尿道や膣をもまとめて震わせる。スイッチを切らない限り休むことなく責められる、電動であるが故の連続性。
そもそも、振動という刺激自体が未知で強烈。クリトリスの根元や芯にまで響いてくるような心地がする。グリグリと押し潰されると、ゾワゾワとした感覚が全身に広がって口が勝手にあぐあぐと動いた。
そして、そんな強烈な責めを他人にされる、蹂躙される快感。こっちの都合なんてお構いなし、どれだけ気持ち良くても手を離してくれないし、逃がしてくれることもない。
一言で言えば、気持ちが良すぎた。
だけど。
どれだけ気持ち良くても、私は快楽に溺れることができなかった。
気持ち良さとは別の、むずむずとした感覚に襲われていたから。
場所は下腹部。それは紛れもない尿意だった。
「おねがいぃっ!? これいじょ、も、まずいっ!! まずいからぁぁぁっ!!?」
まずい。電マの振動が尿道の筋肉を弛緩させてこじ開けてくる。
だけど、身体の力が抜けてシキを引き剥がすことができない。私は歯を食いしばって尿意を耐えながら、彼女に懇願するしかなかった。
終始彼女のペース。これはもう完全な敗北だ。
「その表情、そそるなぁ」
だけど、シキはここに来て私に追い打ちを仕掛けてくる。
彼女は、私の無防備な耳に息を吹きかけて、ぽそりと囁いた。
「アキ、かわいいよ」
「ひ――っ!!?」
下半身にばかり意識を集中していたところに、思わぬところからの快感。
耳に吹きかけられた息がくすぐったかったからか、その言葉が胸を蕩かせたのか、もしくは両方か。
全身の力が抜ける。
「ぁ――」
もう限界だった。
最初に訪れたのは、じわりと染み出す感触。
「ぅぁ、あ……っ」
下着がビショビショに濡れてゆく。
少し間があって、黄色の液体が太ももをちょろちょろと流れ始めた。
「あ、あっきー……?」
シキが怪訝な表情でこちらの表情を覗き込んでくる。
あぁ、タイミング最悪だ。
その瞬間、尿意からの解放感が、依然続くクリトリスを押し潰される快楽と溶け合った。いろんなことを諦めた私は、その快楽の一切を受け入れてしまった。
「ひ――っ!!? ぅぁっひ――っ!! ~~~~~~!!! ~~~~~~、~~~~~~~~~~!!!?」
結果、私は一足飛び、二足飛びで絶頂した。
腰が激しく痙攣する。横隔膜が突っ張って声が上手く出せない。指やシャーペンでは味わえない深い深い快感に、意識が飛ぶ心地がした。
私は今、どんな表情をしているのだろう? すごく気持ち良いから、すごくだらしがない表情をしているはずだ。顔は真っ赤で、涙もよだれもこぼして、だけど何だか蕩けていて。
そんな表情を、シキに間近で見られている。そう自覚すると、胸の奥がすごくむずむずした。
「あ、あっきー? あっきー!?」
「ぉ――! ぁひ……!? ひゃ、ぁぁぁ……!」
お漏らしに気付いたシキは慌てて電マのスイッチを止めた。
だけど、もう遅い。全部出た後だよ。
私はその言葉に返すこともできず、シキに背中から抱きしめられたまま、絶頂の余韻を味わった。
あー、あったかい。背中も、股も。
――――
――
十数分後。
「えーっと、あの、スウェット貸そっか?」
「…………」
シキは服ごとグショグショになった私の下半身を見て言った。
私が絶頂して放心状態になって、シキが慌てて電マのスイッチを切って、私の肩を揺すって。それでも私がぼーっとしていたから、とりあえず床に広がったお漏らしを片付けて。その後のことだ。
「あ、あのー……」
シキとは長い付き合いだけど、ここまでオロオロしているのは今まで見たことがないかもしれない。
「……せ……」
「え?」
「お前の下着もよこせ!!」
「し、下着も……!?」
「あとビニール袋!! 洗濯! 家! 持ち帰り!! 持ってこい!!」
「は、はいーー!!」
私の咆哮で、シキは慌ててタンスを漁り始めた。
「ったく……。やり過ぎだっての」
体力を消耗したからか、体液を垂れ流したからか、酷く喉が渇いていた。
シキが持ってきたグラスに口を付ける。オレンジジュースはとうに氷が溶けていて、結露した水滴が全てテーブルに落ちていた。それだけの時間が経っていたらしい。
「えっと、下着はこれ。いや、こっち。……う~、どれ出しても恥ずかしい……」
タンスの前で悩んでいるシキの横顔を見ていると、思うことがある。
友達にこんなことはしないだろう。それに、前々からシグナルはあったように思える。例えば、修学旅行でいっしょにお風呂に入った時に、どこかギラギラした目を向けられたり、だ。
ひょっとして、シキはレズビアンなの? ――そんな質問、する気になれなかった。
そして、先ほどまでの出来事を思い返し、もしも本当に肉体関係を迫られたらと想像する。
お互いに裸。後ろから押さえ付けられるのではなく、真っ正面から見つめ合いながら。そして、シキの手にはさっきも使っていた電マが。
どうしてだろう、どれだけ想像しても嫌な気持ちには全然ならない。
「……はぁ…………」
「あ、あのー。あっきーさん、怒ってる?」
「そりゃね」
「だ、だよねー。はは、ははは……」
「…………」
「…………」
「駅ビル、ケーキバイキング」
「うぇぇぇっ!!? 予約全然空かなくてすっごく高いところじゃん!!?」
「それとも、さっきの倍返しされたい?」
「ぇ!? ぅ、ぁ……」
シキは普段の様子からは想像も付かないほど乙女な表情を浮かべた。
結局、今回の補填はケーキバイキングで手を打つことになる。
シキは後者を選ばなかった。私はそのことに少しだけ、ほんの少しだけ落胆した。