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◆あらすじ
“つゆり”という同人小説家がいました。彼女が描く作品は、女性を徹底的に性的快感でいじめる激しいものばかり。”僕”はそんな彼女の作品と、その作品からは少しギャップのある彼女自身に引かれていきます。率直な性格だけど、どこか恥ずかしがり屋で素直ではないところもある――そんなちょっと面倒くさいところがあるつゆりに、まるで彼女が描く作品と同じ強制連続絶頂地獄を味わわせる、激しくもどこか初々しい物語。
※DLsiteで販売している『連続絶頂オムニバス 2406号』のサンプル小説になります。
連続絶頂オムニバス 2406号
770円(税込)
おものべの作品の中から、特に人気の作品をリブートしました。
①同人作家との愛ある強制絶頂セックス ②悪意たっぷりの立ち電マ我慢ゲーム ③アクメ個室で機械責め ④くすぐり責めで性感破壊プログラム ⑤クリボックス販売サービス
※続編や加筆・修正といったものではなく、オリジナルの要素を残しつつ視点を変えて一から作り直したものです。オリジナルをご覧になった方でも、そうでない方でも楽しめるかと思います。
最近、思うことがある。本当に、インターネットを通じて人と関わることが多くなった。
別に、『インターネットの影響で社会性が』だとか『コミュニケーション能力が』だとか、難しいことを言うつもりもない。ただ一つ言いたいのは、僕にとってその関わりは、かけがえのないものということだ。
その最たる例が、つゆりさんという女性だった。本名ではない、ペンネームだ。同人の官能小説家――その肩書きは、今の時代そこまで珍しいものではない。だけど彼女の作品は、僕にとって唯一のものとなった。
彼女の描く物語では、女性への徹底した快楽責めが絶対的存在だった。一晩のうちに数十回も絶頂させるそれは、もはや一種の特殊性癖といってもいいだろう。何せ、ただの性的快感が拷問のような苦痛すら与えるのだから。だけど、女性が泣き叫ぶほどの性的快感を与える一方で、痛みを与えたり、さげすんだりすることはない。激しいけれど、どこかに優しさを感じさせる作品だ。
僕という存在がつゆりさんに認知されるようになったのは、SNSだった。新しい作品が公開されるたびに、僕はいの一番に読み、彼女に感想を送った。
――新作読みました、今回もとても素晴らしかったです! 特に中盤のシーンで……
――いつもご感想を頂きありがとうございます。特に書き方で悩んだシーンでしたので、楽しんでいただけたようで安心しました。
つゆりさんは毎回丁寧な、だけど少し事務的な文章でもって返信してくれた。
SNSはオープンなコミュニケーションの場だけど、それでも仲の良い人々同士で固まっていくものだ。やがて、僕はつゆりさんを含むあるグループの一員に溶け込むようになって、通話ソフトを使って声でやり取りするようになった。そこで、つゆりさんが20代半ばの女性だということを初めて知って、僕は驚いた。
思い返せば、女性に対して送るにはセクハラだと思われても仕方ない感想ばかり送ってきたような気がする。僕は冷や汗を流しながらその場で謝罪したけれど、つゆりさんは『気にしていませんよ』と返した。
「私はそういう作品を書いています。それなら、そういう感想に文句を言うのは、筋が通りません。ですから、お気になさらず」
媚びるような猫なで声でもなければ、ぼそぼそと聞き取りにくい声でもない。高くはないけれど通りが良く、落ち着いた声。僕の中でふわふわとしていた、『つゆりさん』という人間像が固まっていく。
「そ、そうですか?」
「ええ。それに、仮に不行儀なメッセージを頂いたとして、興味ありませんし。たかが一個人のハラスメントや誹謗中傷なんて、私の人生に何の関係もないじゃないですか」
「は、はあ……」
「……『感想を頂くのがうれしくない』というわけではありませんよ」
率直な声、率直な言葉――僕が抱いたつゆりさんの人間像は、まさに『率直』だった。
最初は驚いた。あんなにも、快楽に苛まれる女性たちの悲痛な叫びが鮮明に思い起こされるほど情緒的な文章を書く人が、こんなにも情緒のない冷たい言い方をするなんて。
だけど、不快感を覚えることはなかった。つゆりさんは、自身が歯に衣着せぬ言い方をする分だけ、他人にも寛容だった。そして、確かに率直ではあるけれど、一線は絶対に越えない人だった。開けっ広げのように見えて、何だかんだで気を遣っているように感じる。
『ギャップ萌え』という言葉は、あまりに浮ついていて、僕は好きではない。だけど……そうなのだろうか。僕は、彼女の作品と同時に、彼女自身にも引かれた。
「お疲れ様です、つゆりさん。この前の作品、すごく良かったですよっ」
「お疲れ様です、ありがとうございます」
「そういえば、作品でちょっと聞いてみたいことがあったんですけど……」
「はいはい。何ですか」
単なる一読者にすぎない僕がこうも話し掛けてくるのは、少しうっとうしいかもしれない。だけど何の幸運か、少なくとも避けられるほど嫌われることはなかったみたいだった。
つゆりさんという女性のこと
ある日、僕とつゆりさんはいつものグループで通話していた。
「そういえば、つゆりさんはオフ会に参加されるんですか?」
「私ですか? うーん」
そのグループは、何かしらの同人活動をしている人や、その読者・聴者を合わせて、10人ぐらいの仲が良い人たちで集まったものだ。女性も、つゆりさんを含めて4人いる。特別、何か用事があって会話しているわけではない。惰性だけの会話どころか、お互いに何も話さず、それぞれやりたいことをやっているだけのこともある。故に、メンバーが10人いても全員がそろうことはまれで、同時に通話するのはせいぜい4~5人といったところだ。
その時、グループ内でオフ会が企画されていた。そこまで大層なものではない。週末、仲の良い人たちが都内に集まって遊ぶだけのもの。カラオケに行って、ボードゲームカフェに行って、居酒屋に行って――そんな気楽な集まりだ。
「気乗りはしていませんね。遠いですし」
「つゆりさん、僕と同じ都心住まいでしょう?」
「往復1時間かかるなら、十分遠いですよ」
「もう、どこにも行けませんよ。それ」
今回、つゆりさんがオフ会に参加するかどうかは、微妙なところだった。
つゆりさんは、自分で交友を求めるタイプではない。独りでいることを寂しがるタイプでもない。だけど、来る者を拒むタイプでもなく、大して手間の掛からない範囲でなら付き合ってくれる。だけど出不精だ。パソコンの前に座って何かをするならまだしも、外に行くとなればどうか――それが僕を含めた、グループメンバーの見解だった。
と、そうしていたら、今度は僕が話題を振られた。いわく、『オフ会に参加するのか?』と。
「もちろん参加しますよ。皆さんにお会いできますからねっ」
僕は元々、他人と関わるのが好きだった。自分以外の人の話を聞くと、いつも何かしらの発見があって面白かった。特に、何か尊敬できるものを持った人の話は、それだけで価値のあるものだ。その最たる例が、他ならぬつゆりさんだ。そんな彼女が参加しないとなると本当に残念だけど、それでも、集まって遊ぶというのは、純粋に楽しみだ。
だけど、そうしていたら、つゆりさんがぽそりと呟くのだ。
「……私も行こうかな」
「本当ですか!?」
「声が大きい」
「あ、はい。済みません……」
何がきっかけでつゆりさんが前向きになったのかは分からないけれど、とにかく僕はうれしくなった。思わず大声を出して、つゆりさんに窘められてしまう。
僕は口をつぐむけど、それで感情が収まることはなかった。パソコンの前でついそわそわしてしまう。
だけど、つゆりさんがまたぽそりと呟くのだ。
「……皆さんと直接お会いするのは、初めてですね」
そして、つゆりさんは『そろそろ寝ますね。お休みなさい』と続けて通話を切ってしまう。
そういえば、つゆりさんと会うのは初めてなのか――いつも通話越しに散々話してきたけれど、あくまでも音声だけ、顔を見るのも初めてだ。そんなことを実感すると、何だか妙に緊張してくる。
そわそわと落ち着かなかった体は、どうしてだろう、やがてかちこちに固まっていくのだった。
――――
――
「どうも」
「あ……。つゆりさん、ですよね?」
「そうですよ」
がやがやとした駅前の集合場所で、僕は初めてつゆりさんと出会う。
女性にしては背が少しだけ高く、だけど薄めの体、薄い化粧。
無骨で、まるでおしゃれとは無縁な格好……のようで、どことなく様になっているというか。それに、小さな肩幅とか、緩やかな丸みを帯びたシルエットとか、所々が女性的だ。そもそも、顔立ちが整っている。薄めの顔付きだけど、それだけにすっきりとした印象がある。
僕が何も言えないでいたら、つゆりさんがけげんそうに僕のことをのぞいていた。
「どうしました?」
「ああ、ええと、その。おしゃれ……ですね?」
「褒め切れていませんよ。全部ファストファッションですし」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。それに、同じような服しか持ってません。最低限ですよ、最低限」
最後につゆりさんは、『だけど、ありがとうございます』と言った。声音と、言動と、容姿と――本当に、全部が全部、一貫している人だ。
「他の方へのあいさつはいいんですか」
「ああ、そうだっ。済みません、それじゃあまた後で」
「はいはい」
あまり、ずっとつゆりさんと会話するわけにもいかなかった。その日のオフ会には、他の参加者もたくさんいたから。
そのオフ会は、僕にとって少し退屈なものだった。
『悪かった』と言うつもりはない。楽しかったことは確かだ。だけど、仲の良い人たちが集まって、本当に遊ぶだけ。みんなどこか気恥ずかしさがあるのか、同人活動の集まりなのに、同人活動についての話題はほとんどなかった。何より、つゆりさんと話す時間があまり取れなかった。みんなが、こぞってつゆりさんと話したがっていたから。
だから僕はオフ会の解散後、有り体に言うなら抜け駆けをした。まだ20時、大人の集まりにしては健康的な時間だ。
「つゆりさん」
「はい、何です?」
「この後、もう少し飲みませんか?」
「この後、ですか……?」
「ええ。ああ、あの、駄目なら、いいんですけど……」
正直なところ、断られると思っていた。つゆりさんという女性は、男性と一対一で飲みに行くことを安易によしとするほど危うい人間ではないし、ついでに言うと出不精だ。『今日はもうさっさと家に帰って、シャワーを浴びて寝たい』と考えているはず。本当に、行動が読めるぐらいに一貫した人。それはもう、一種の信頼だ。
だけど、つゆりさんの反応は、僕の予想に反したものだった。
「……お店は、私が決めますね」
――――
――
「居酒屋、混んでますね。つゆりさん」
「混んでる場所を選びましたから」
「え?」
「あなたはこれから、私とどんな話をするつもりです? それは、物静かなバーでできる話題ですか?」
「あー、なるほど。気を遣っていただいて……」
「ほら、行きますよ。まだ席が空いてるって」
大衆居酒屋の隅にあるテーブル席に着いたつゆりさんは、一番上まで留めていたシャツのボタンを一つだけ外して、皮膚から細く浮き出る鎖骨をちらりと露出させた。
さすがに少しくたびれたのか、ため息をついていた。
「だけど、同人活動の話なんて、通話越しに散々してきたじゃないですか。ここでする必要あります?」
「いやいや、面と向かってすることに意味があるんですよっ」
「その考えには賛同しかねますね。どこで話そうが、内容は一緒じゃないですか」
本当に、情緒的な文章を書く人が、情緒のないことを言う。
だけど何だかんだいって、つゆりさんは僕の話一つ一つに対して丁寧に感想や意見を述べ、僕からの質問にも答えてくれた。つゆりさんは同人活動に関する話をする時、すんとした表情で話す。いつもと変わらない声音。通話でも、つゆりさんはいつもこんな表情で話していたのだろうか。
思わず気が高ぶってきた時は、つゆりさんに『声が大きい』と窘められた。
「それにしても、つゆりさんみたいな人があんな作品を書いてるなんて、今考えても意外だなあ」
「そうですか。まあ、言われないわけではありませんね」
あらかた話して、僕たちは一息とばかりに酒を飲む。ジントニック、モスコミュール、サイドカー――つゆりさんはあまり甘くないカクテルが好きみたいだ。
「だって、想像できませんもの。こうして会って改めて思いましたけど、つゆりさんって、ああいうのに無縁そうで」
「……ふうん。無縁、ね」
「あ、いえ。別に深い意味は」
自分でも、少し飲みすぎていたと思った。僕のその発言は、女性に対して言うには少々行きすぎたものだった。それに、相手がそういう活動をしていたからと言って、本人のそういう事情にまで踏み込んでいいわけではない。
だけど、僕が冷や汗をかく傍ら、つゆりさんが怒ることはなかった。
「じゃあ、あー、その……」
「つゆりさん?」
「…………」
そう口ごもるつゆりさんは、今まで見てきた彼女からは想像もできないもので。僕はしばらく、彼女が口ごもる姿をけげんそうに見つめてしまう。『見つめる』……いや、違うな。これは『見とれていた』だ。
そして、つゆりさんは顔を背けたまま目だけをこちらに向けて、居酒屋の喧噪にかき消されてしまいそうな声で呟くのだ。
「……試してみます?」
「…………え……?」
――――
――
そこからは、記憶が少しおぼろげだ。
僕たちは飲みかけのグラスも放置して、さっさと居酒屋から出てしまう。僕が『あの、その』なんて情けなくうろたえていると、つゆりさんが僕の手首をつかんで歩き出した。彼女の手はひんやりとしていた。
居酒屋を出てから歩いた時間は、ほんの5分ぐらい。幸いにも駅前にいて、途中に信号もなかったから、僕たちは沈黙中に言葉を探すこともなく、ただ歩くことだけに集中した。
いや、そんな、まさか――僕の脳がまとまりのない言葉を吐き出し続ける中、たどり着いた先はラブホテル。『いや、そんな、まさか』が、一瞬で消し飛んで真っ白になった。自動ドアをくぐると、無人の受付。泳ぎ続ける目で受付に置かれたパネルを見てみると、そのホテルには数室だけ、簡易なSM専用の部屋があった。他の部屋よりも幾分かけばけばしい内装で、ベッドに拘束具が取り付けられている。
受付を済ませて、エレベーターに入って、そこでついにやることがなくなって、つゆりさんが口を開いた。いわく、こういう部屋があるホテルは、あまり多くないらしい。それなら、どうしてつゆりさんが真っすぐここに来られたのか――僕がそれを言いかけたら、つゆりさんは『野暮ですよ』と、僕の口に人差し指を置いた。背けられた顔が赤いのは、お酒のせいなのだろうか。
「その、本当にいいんですか」
僕はホテルの部屋に入り、入り口の鍵をかけながら問う。すると、つゆりさんは顔を背けたまま返した。
「別に。私だって、全く未経験ってわけじゃないんですから」
「そ、そうなんですか?」
「この年齢ですよ? 大学のころでしたけど、まあ、あまり気持ちよくはなかったですね。相手が好き勝手に腰を振るだけで」
どうしてだろう。その言葉を聞いて、僕は胸の中がすごくもやもやした。
つゆりさんが先にシャワーを浴び始めて、僕は部屋の中を落ち着かずに歩き回る。ものすごく長い時間がたったような気がしたけれど、ふと時計を見たら21時を回ったばかり。2人きりで居酒屋に行ってから、まだ1時間程度しかたっていない。
それから10分ぐらいで、つゆりさんがシャワーから出てくる。『僕も入ってきます』――そう言った僕は、バスローブを着て脚を晒したつゆりさんの姿なんて、ほとんど見られやしなかった。
バスルームで頭からお湯をかぶっている最中でも、足元がふわふわと浮いているような感じがする。今、僕が置かれている状況は、本当に現実のものなのだろうか? あまりに実感が持てなくて、ただひたすらに戸惑う。
「大丈夫ですか」
その時、バスルームの扉越しに少し大きめの声が響いてきて、僕は飛び上がりそうになった。
「お酒を飲んだ後ですから、気を付けてくださいね。シャワーを浴びた後は、忘れずにお水を飲むこと」
「は、はい」
もしかして、僕がうだうだしているから、つゆりさんは心配になって来てくれたのだろうか。
あまり待たせるわけにはいかない。僕は全く心の準備ができていないまま、追い出されるようにバスルームから出た。そして、つゆりさんの言い付け通りに水を飲んで、バスローブを着てから洗面所を出る。
すると、おそろいのバスローブを着たつゆりさんが、ベッドの縁に座って待っていた。もう、今の状況から逃げることはできない。
こんな状況にあって、僕はどうにも情けなかった。
「……ど、どうしましょう?」
「お好きなようにどーぞ」
そう返すつゆりさんは、少し素っ気ない。ここまで強引に連れてきておいて『お好きなように』は、あんまりじゃないだろうか? 何だか、今のつゆりさんは珍しく、筋が通らない。
だけど、だからと言って、僕には彼女を拒むという選択肢すら思い浮かばなかった。僕は頭の中から必死に性知識を絞り出して、恐る恐る、彼女の真正面から、右手の指先でその細い首筋に触れた。
「ん……っ」
つゆりさんの鼻から、少し高い声が漏れた。
目が細まり、首を曝け出すように上を向く。僕の手を拒む様子はない。だから僕は、指先で彼女の首筋をなで続ける。右手だけでなく、左手も差し出す。僕はどうして、こうしたのだろう? ――少し考えて、つゆりさんが書いた作品のワンシーンが頭にこびり付いていることに気付いた。
続きは、どんな風に書かれていたっけ――僕はつゆりさんの作品を思い出していく。
「っ……、ん、く……。ぁ……」
首筋をなでる手が、肩、二の腕と、少しずつ下がっていく。すると、手が動くにしたがって、バスローブが自然とするする脱げていく。愛撫と脱衣が両立した動きだ。僕はこんな状況で、つゆりさんの物語の描写に感嘆してしまう。
だけど、僕の意識が創作から現実に戻ると、また目が回る心地がした。つゆりさんは分厚いバスローブの下に、もう下着すら着けていなかったのだ。
「きれいです」
「……どーも」
「陸上部だったって、言ってましたよね? だから、体が引き締まってるんですかね」
「大学のころの話ですよ。筋肉なんて、とっくに落ちちゃってます」
「そ、そうですか」
「無理して褒めなくていいですよ。声、上ずってますし」
「は、はい」
「……うれしくないわけじゃ、ないですけど」
少しだけあばらの浮き出た胸元、手のひらに収まりそうな大きさの乳房、ピンク色の小さな乳首、細いけれど確かに肉の付いた太もも、几帳面に整えられた陰毛――つゆりさんは体の全てを曝け出したまま、ベッドの上に仰向けに寝た。どう考えても、僕がリードしなければならない状況だ。
僕はつゆりさんが書いた物語の展開を必死に思い出す。そして意を決して、彼女の胸を、下から持ち上げるようにしてもみ始めた。
「っ、ふ……」
「その、気持ちいいですか?」
「……ええ」
ぼそっとした呟き。いつもと違う声音に戸惑う。
果たして、僕は正しくできているだろうか? ――僕はつゆりさんの胸をもみながら、何度も『気持ちいいですか』『痛くないですか』と尋ねた。そしたら、つゆりさんは『大丈夫ですから』という言葉とともに、真っ赤な顔で僕のことをにらみ付けた。
「……私たちがどうしてこうしているか、覚えてます?」
「あ、え、どうして、ええと? ……何でしたっけ」
「でしょうね」
『どうしてこうしているか』――僕はその問いに答えることができなかった。どこか漠然とした質問だったし、そもそも頭が真っ白になっていて何も考えられなかったから。
だけど、つゆりさんがそれに怒ることはない。
「あなたが言ったことですよ? 『つゆりさんって、ああいうのに無縁そう』って」
「……そう、でしたね」
「『ああいうの』――あなたは、私の作品を指して言ったんですよ」
そして、つゆりさんの目線が逸れる。視線の先、ベッドのヘッドボードには、電気マッサージ器が置かれていた。
「……試すんでしょう?」
電動マッサージ器。それはつゆりさんの描く物語にも、たびたび出てくる道具だ。
こぶしぐらいの大きさのヘッド部分が振動する、ただそれだけの道具。だけど、女性の性感帯には絶大な効果を発揮して、しかも触手や大型の機械と違って現実に存在する。女性を強制的に連続絶頂させるのに、これほど適した道具はそうそうない。
まさか、つゆりさんが描く物語で散々見てきた物を、他でもないつゆりさんに使う日が来るなんて――僕が『いいんですか?』と彼女のほうを見ると、つゆりさんはゆっくり、だけど思いっ切り首をひねって、そっぽを向いた。
「…………」
こちらからでも辛うじて見える耳が赤い。
また二つ、つゆりさんのことを知った。一つ目に、こういうことに関しては、意外と恥ずかしがり屋だということ。僕が創作の話題を振るとすんとした表情をするのは、もしかしてそういうことなのだろうか。
そして二つ目に、何も言わず顔を背けるのは、彼女なりの『OK』の意思表示らしい。いつもとことん率直な癖に、こんなにも真っ赤な顔で、遠回しにお願いをするところなんて見たことがない。
『面倒くさい人だな』とは思った。だけど、嫌じゃない。その面倒くささが、僕には狂おしいほど愛おしく感じられる。声音と、言動と、容姿と――本当に、全部が全部一貫して率直な人。だけどその一貫性から外れた部分に、彼女の性を感じたのだ。
僕は電動マッサージ器を手に取って、電源を入れる。
「っ」
強度最弱の、それでも確かな存在感を覚えさせる振動音に、あおむけに寝ていたつゆりさんのお腹がひゅっと膨らんだ。
僕はつゆりさんの秘所を観察する。つゆりさんの性器はきれいだった。陰毛が楕円形に丁寧に処理されていて、性器周りが黒ずんでいることもなく、皮膚がびらびらと伸びていることもない。女性であればパーツ自体はみんな同じのはずだけど、彼女のそれは情報量が少ないというか、シンプルというか――何だか女性器にすらつゆりさんらしさがあって、おかしくなってくる。
「見すぎですよ」
「す、済みません」
恨めしそうなかすれ声が飛んできたから、僕は彼女の秘所の観察……いや、見とれるのをやめた。
僕は人差し指と中指の2本指を束ねて、クリトリスの包皮の上にそっと添える。そして、その指の上から、電動マッサージ器を当てた。
「っあ……っ! ぁ……っ」
これも、つゆりさんの作品から学んだことだ。彼女は激しい快楽責めを書くけど、現実問題として、電動マッサージ器をいきなり秘所に直接当てたら痛いらしい。だから普通は、下着とか、タオルとか、あるいは自分の指とかを緩衝材にするのだ。
だけど、マニュアル通りの愛撫をしていると、つゆりさんがもぞもぞと腰をうごめかせ始める。ほんの数センチメートル、くい、くいと腰が上下に揺れ、その後はっと気付いたかのように動きが止まって、ぷる、ぷると震える。
もしかして? ――僕はその動きの意図を察して、少し強めに、添えた指先で彼女のクリトリスを押し込んでみた。
「ぅあっ♡ っ、ぅ――♡」
すると、つゆりさんの体の不自然な動きが止まった。代わりに、びく、びくと、明らかに感じているのだろう震え方に変わる。
「普通のじゃあ、物足りないですか?」
「っ、ぅ……!」
つゆりさんは何も言わず、真っ赤な顔で僕をにらみ付けた後に、そっぽを向いた。『聞くな』と言わんばかりのその態度は、僕を申し訳なくさせるとともに、無性にかわいらしくて仕方ない。
僕は電動マッサージ器の下敷きにしていた指を引き抜いて、重い振動を直接彼女のクリトリスに当てた。
「っあ゛っ♡♡ ぁくっ、ぁ――!! ぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁぁ……っ♡♡」
口から上がる嬌声。こわばる背筋。片脚がぴんと伸び、もう片脚がだらしがなく開かれ、そけい部の筋が強調される。僕が快楽を与えるたびに、つゆりさんは僕に淫らな姿を見せてくれた。
電動マッサージ器の刺激というものは、大きく分けて二つあった。僕は最弱の振動を維持したまま、腕に少しだけ力を込めて、つゆりさんの秘所を圧迫した。
「ぅあぉ゛っ♡♡♡ ぁぐっ……!! っーーーー♡♡♡」
突き出された唇から一瞬だけ漏れたちょっと間抜けな声が、僕の背筋をぞくぞくとさせた。どうやらつゆりさんは、電動マッサージ器をそっと添えるよりも、少し力を込めて圧迫したほうが好きみたいだ。
だから僕は、円を描くように電動マッサージ器をぐりぐりと押し込んでいく。
「ぃぎっ、それ、は――!!? ぁ゛っ、ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ♡♡♡ ぁぐ――!!! ぅ゛ぅぅぅぅぅぅうううっ♡♡♡」
今までよりもずっと大きな刺激がやってきて、つゆりさんはほとんど反射的に、僕の電動マッサージ器をつかんだ――一度、止めたほうがいいだろうか? だけど、つゆりさんの手はゆっくりと離れていき、やがて強く握られた拳となって、腰の横まで下ろされた。
同人活動では激しい性描写をするつゆりさんだけど、彼女本人は決して、性感に対してそこまで耐性があるわけではなかったみたいだ。それでも、必死に受け入れようとするその姿は、僕が思わず鼻から大きく息を吐いてしまうぐらい、本当にいじらしい。
今更、行為を止められるはずもない。僕は、振動の中央にクリトリスを捉えた電動マッサージ器を、ぐりぐりと動かし続けた。
「んぁ゛っ、っ゛!!! っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡ んぐっ、ぅ゛――♡♡♡ っうぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ♡♡♡」
恥ずかしがり屋なつゆりさんの絶頂は、慎ましやかなものだった。顔を背け、口を一文字に結んだまま、全身を震わせる。だけど、声を我慢まではできず、鼻からうめき声が漏れ続けている。何より、びく、びくという断続的な体の震えようといったら、僕から見ても彼女がそれだけ感じていることが明らかだった。
僕は一度電動マッサージ器を離して、つゆりさんの絶頂を見守る。彼女の体の震えは段々と収まっていって、1分たたないぐらいで口をぷはっと開いた。
「は……っ! はぁ、ぁ……! ぁぁ……♡」
つゆりさんは目元を潤ませ、頬を蒸気させ、荒立った呼吸を整える。僕から見ても分かるぐらい、全身が緩んでいる。僕がこう言うのもおこがましいけれど、それはまさしく幸せな絶頂だ。
……だからこそ、まっくろな欲望が、僕の胸の中で沸々と湧いてくる。
「1回じゃあ、足りないですよね」
「……悪い顔してる」
僕が問うと、つゆりさんは少しぎくりとした表情を浮かべてから、ため息を付いた。彼女に指摘されて自分の頬が緩んでいることに気付いたけれど、物怖じすることはない。
「でも、期待してるでしょう?」
「っ」
「僕に『試す』なんて言ってましたけど、本当はつゆりさん自身がされたかったんですよね?」
別に、つゆりさんの言葉に反論しようと思ったわけではない。ただ、顔を真っ赤にしてうろたえるつゆりさんが、堪らなくかわいらしく思えたから。優越感と支配感――僕は今、本当に良くない感情に支配されている。このままでは、つゆりさんのことをどうにかしてしまいそうな……。
だけど、つゆりさんは恨めしそうな顔を背けて、ぽつりと呟くのだ。
「……いけませんか」
ずるいな――僕はそう思った。どんな猫なで声で甘えられるよりも、その素っ気ない呟きのほうが、ずっとあざとく、かわいらしく聞こえた。『いけないわけ、ないでしょう?』――すっかり毒気を抜かれてしまった僕は、その言葉を出せなかった。だから、苦し紛れにつゆりさんを抱きかかえて、姿勢を変えさせる。
うつ伏せ。そして右手首を斜め前方に引っ張って、ベッドに備え付けられていた枷に。つゆりさんの腕には一瞬だけ力がこもり、だけどまたすぐに緩んでいく。
右手、左手、右足、左足――僕はもたもたとした手付きで、つゆりさんの四肢を拘束していく。うつ伏せのまま、大の字の体勢。一つ一つが動かなくなるたびに、つゆりさんの呼吸が、僕からでも分かるぐらい荒くなっていく。
「つゆりさんって、言葉責めはあまり好きじゃないですよね」
「……まあ、そうですね」
「だけど、これだけは言わせてください」
「何です」
「これから、つゆりさんが僕を誘ったことを後悔するぐらい、たくさんイカせてあげますね」
「っ……」
もう、ホテルに来た当初のような初々しい緊張はない。今の僕たちは、何段も飛ばしてより深い世界に飛び込んでいく。
本当の行為が、ようやく始まるのだ。
僕は、つゆりさんの大きく開かれた両脚の間に座った。
僕の心は嗜虐心に満たされているけど、つゆりさんのことを辱める趣味はなかった。そして、それは彼女も同じ。僕たちが求めるのは、ただひたすらの性的快感。
だから、何ももったいぶることはない。僕は電動マッサージ器のスイッチを入れて、つゆりさんの秘所に当てた。最初と同じく、最弱の振動から。
「ぅあ゛――!!!? ぁ゛、ぁぁぁあ、ぁぁぁぁあっ!!!?」
「きついですか?」
「きつい゛、です――っ!!!? さっきより、敏感にっ、っ゛~~!!!!」
「それじゃあ、続けますね」
「っ゛~~~~!!!? っ――♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ♡♡♡♡」
先ほどと同じ強度の振動。しかも、うつ伏せという姿勢は、意外と電動マッサージ器を当てにくい。それでも、つゆりさんは敏感な反応を示す。絶頂すると感度が上がるというのは本当らしい。
「ふっ、ぅぅぅう゛っ♡♡♡♡ ふぅーーーーっ!!! ふーーーーっ♡♡♡♡」
つゆりさんは、深呼吸を繰り返して快感を受け入れようとしている。果たして、それに効果があるのかどうか僕には分からないけれど、今の僕は何となく、彼女の好きにさせたくなかった。もっと、もっと、乱れてほしい――その感情に任せて、電動マッサージ器の振動をかちりと一段階強くした。
「ッ――!!!? ぅ゛ぁぁぁぁぁああああああああっ!!!? ちょ――!!!? ぁぐっ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ♡♡♡♡」
つゆりさんの努力は、あっという間に水泡に帰す。肺にたまった空気を全て吐き出すような悲鳴を上げた時、僕はちょっとだけおかしく、そして無性にうれしく感じた。
僕はまた、電動マッサージ器の振動をかちりと一段階強くする。
「ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!? これ、待――ッ!!!? ぁ゛っ♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!!」
やがてつゆりさんは、快感を拒絶するような反応を示し始めた。拘束されている手足が縮こまるように動き、腰が電動マッサージ器から逃げるように動く。やっぱり彼女本人は決して、性感に対して耐性があるわけではない。
「まっ、て――!!!? 一度、止め、くだ――♡♡♡♡ ぅ゛あっ!!!? お願い、だから――!!!! ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!?」
いつも率直な物言いのつゆりさんが、行為の時になるとうんともすんとも言わなくなる。そして今、そんな彼女が一周回って懇願の言葉をこぼし始める。それは、彼女が明確に限界であることを示していた。
だけど僕は、つゆりさんを犯すのをやめなかった。だってつゆりさんが描く物語の中で、この程度で終わりになるものは一つも存在しないから。
「言ったでしょう? 『たくさんイカせてあげますね』って」
「ぅあ゛――♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!? ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ♡♡♡♡」
そう言って電動マッサージ器の振動をかちりと一段階強くすると、つゆりさんは首をいやいやと振りながら悲鳴を上げた。
このホテルのベッドに備え付けられた拘束具は、長さを調整できなくて、つゆりさんの身長だと動く余地があった。だけど、それはほんの十数cmのこと。快楽から逃げることまではできず、浮いた腰ががく、がくと震えるだけ。
きっとつゆりさんは、あまりに気持ちよすぎて、自分がしていることに気付いていないのだろう。お尻をこちらに突き出すその姿勢は、僕の嗜虐心を嫌に刺激するのだ。
僕は、つゆりさんの頭のほうに置かれていた枕を引っ張りだして、彼女のお腹の下にねじ込んだ。
するとつゆりさんは、腰を浮かせたまま動けなくなる。そしてその体勢は、電動マッサージ器を当てるには好都合だった。僕は電動マッサージ器を下から掬い上げるようにして、つゆりさんの秘所に当てた。
「っ゛っ~~~~~~~~!!!! いや゛――♡♡♡♡ っぁ゛――♡♡♡♡ いや゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああっ!!!?」
意図せず最高の体勢が完成して、つゆりさんは本気の抵抗を始めた。髪がぐしゃぐしゃになるぐらい頭を振り乱しながら、両手足の拘束具をがちゃがちゃと鳴らし続ける。
それでも、今更この快楽責めから逃げられるはずもない。逃げるなら、僕が彼女を拘束する前。いや、そもそも僕をこんなことに誘うべきではなかった。つゆりさんは今、そんな後悔をしているのだろうか? もしそうだとしたら、それは明らかに僕を拒絶している。
……それなのにどうして僕は、こんなにも『彼女をいじめたい』と思っているのだろう?
「ぁ゛――!!!? ぁ゛――♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛――!!!!? ぁ゛ぁぁぁああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
つゆりさんはあっという間に2度目の絶頂を迎えてしまうけれど、僕は電動マッサージ器を離さない。それどころか、電動マッサージ器の振動をまたかちりと一段階強くする。いつの間にか、振動の強度は最大になっていた。
「や゛、ぁ゛――♡♡♡♡♡ っぁ゛ぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ!!!!? やだっ、ぁ゛――♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!!!!? ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ~~~~~~~~ッ!!!!!」
1度目の絶頂では、すぐに休憩を取った。だから、絶頂後にすかさず快楽責めをしたのは、今が初めて。本当に、本当に、こんなにつらいものだとは思わなかったのだろう。つゆりさんはまるで子どものように泣きじゃくり始める。
これだ、これが見たかったんだ――それは、僕がずっとつゆりさんの描く物語で見てきて、夢にまで見た淫靡な光景。それを、僕は他ならぬつゆりさんで叶えることになったんだ。
つゆりさんの姿、つゆりさんの声、つゆりさんの感触――僕の脳に飛び込んでくるあらゆる情報が、僕のものを硬くしていた。
決して自分を正当化したいわけではないけれど、こんな状況で自分の欲望を抑え続けろというのは無理な話だった。僕は無意識のうちに、電動マッサージ器から手を離す。代わりにバスローブの中から自分のものを露出させ、小ぶりだけどしっかりと女性の形をしたつゆりさんのお尻に押し当てた。
ただの女性の肉体が、『つゆりさんの肉体』というだけで、その快感を何倍にも押し上げる。
「ッ――……!!!? ぁ゛――……!!!!」
その時、つゆりさんの体が一瞬だけ跳ねる。その衝撃と、ぶるぶるとした体の震えで、僕の頭が冷静になる。それはあまりにも、やりすぎではないだろうか?
だけど、僕が彼女から離れようとすると、つゆりさんは硬直した体の力を抜く。それどころか、控えめに、本当に控えめに、お尻を振るのだ。まるで、僕のものを摩擦するかのように、受け入れるように。
――そんなことをされたら、もう我慢できそうにない。
「ぁ゛、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ♡♡♡♡♡ ぁぐ、ぁ……!!!? ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁ……♡♡♡♡♡」
ずりずりと摩擦された僕のものは、やがてつゆりさんの女性器のほうにずれていく。つゆりさんは両腕の拘束具をぎちりと慣らしたまま、僕のものをのみ込んでいった。
つゆりさんの中は、狭くきつい。それでも、内壁があむあむと咀嚼するようにうごめくたびに、僕のものは少しずつ奥へとのみ込まれていく。
「ぁ゛、ぁぁ、ぁ゛――♡♡♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ひぅ――♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
僕のものが根元までのみ込まれた瞬間、つゆりさんはまたイッた。それはあくまでも、今までの電動マッサージ器による刺激があったからだ――僕は頭を振った。
僕は確かに、自分自身も性的快感を享受したいと思っていた。だけどそれ以上に、僕はつゆりさんを快楽一色に染め上げたかった。僕はつゆりさんの体と、お腹の敷かれた枕の間に、電動マッサージ器を差し込んだ。
「ぅぁ゛ぁあッ!!!!? やだっ、今それっ♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁぁああああああっ♡♡♡♡♡」
すると、つゆりさんは浮いた腰をもっと浮かせて、電動マッサージ器の振動から逃げようとする。僕は、彼女が振動から逃げられないように、全身の体重をつゆりさんの背中に掛けて押しつぶした。
「んぐッ、ぉ゛、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!!! ぁ゛ぁぁぁぁぁぁあっ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああッ♡♡♡♡♡ ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
つゆりさんは僕の下でもがき始め、小さく弾力のあるお尻を僕の腰に押し当て続けた。
上からは僕が押しつぶすように犯し、下からは電動マッサージ器が突き上げるように犯す。だけど、この暴力的なサンドイッチは、上下で等価ではないらしい。それは、つゆりさんが電動マッサージ器の振動に絶えず悶え続けていることから容易に分かった。
一方で、僕が自分のものをつゆりさんの奥に突き立てても、ほんの少しの反応を返すだけ。文明の利器とはかくも偉大なものかと関心はするけれど、無機物に負けているという事実に少し嫉妬してしまう。
僕は、つゆりさんのほんの僅かな反応を引き出すために、必死に腰を振り続けた。
「ぁ゛っ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁああああっ♡♡♡♡♡ ぁぐっ、ぁ゛――♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ♡♡♡♡♡」
最初は、ただやみくもに腰を上下に振った。
だけど、つゆりさんの反応は乏しく、その声が僕によるものなのか、電動マッサージ器によるものなのか分からない。それに、僕が腰を持ち上げた瞬間に、つゆりさんもお尻を持ち上げて、電動マッサージ器の振動から逃げてしまうから都合が悪い。
それならと、僕はピストン運動をやめて、体重をかけるようにして自分のものをつゆりさんの奥に思いっ切り押し付ける。
「ぉ゛おっ!!!!? ぉ゛~~~~~~~~っ♡♡♡♡♡ ぁ゛っ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁあああっ♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁああああっ♡♡♡♡♡」
すると、つゆりさんは唇を突き出して悲鳴を上げた。その反応は良好なものだった。つゆりさんの中の弱点を知ることができて、僕は嬉しさと優越感を覚えた。僕はつゆりさんに体重を掛けたまま腰を動かして、つゆりさんの奥をぐりぐりと圧迫していく。
だけど、その答えに至る前に、腰を振りすぎていたから。電動マッサージ器の振動が、僕にも届いていたから。そして悶え続けるつゆりさんが、あまりに扇情的だったから。僕は大して時間がたっていないのに射精してしまう。
「ひぁ゛――♡♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛――♡♡♡♡♡ っ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
……射精の瞬間につゆりさんがイッたのは、あくまでもそういうタイミングだったからだろう。
つゆりさんから離れるのが惜しかったから、僕は射精直後のものを引き抜くことなく、彼女のことを押しつぶすようにして抱き締め続けた。
一体、今晩というわずかな時間の中で、つゆりさんは何回イッたのだろう。
「ぁ゛ぁぁぁぁぁあああああッ♡♡♡♡♡ ぁぐっ、ぁ゛――♡♡♡♡♡ ぐすっ、ぅぁ゛ぁぁぁぁああああああんっ♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁああああっ♡♡♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
僕が彼女に覆いかぶさりその横顔を見ても、もう恥ずかしがる様子もなかった。そんな余裕なんて残っていない。蕩け切った口元、濁りに濁った声。涙をぼろぼろに零し続ける目は、焦点が合っていない。
暴れ疲れてしまったのか、もうじたばたと抵抗する様子すら見られない。今は快感に従って、反射運動で全身の筋肉を痙攣させるだけ。体は熱く、僕がべったりと抱き締めている背中は入浴中かと疑わんばかりに汗まみれだ。普段の彼女からは、まるで想像も付かない。
それは、つゆりさんが描く物語そのもの。今更、『試す』とか、『試さない』とか、そんな言い訳をするつもりはない。ただ、僕はずっとこうしていたかった。そして、つゆりさんもきっと、ずっとこうされていたいはずだ。
つゆりさんのことを全身で感じていると、いつの間にか、中に挿れたままの僕のものが、すっかり大きくなっていた。今の僕にとっては、つゆりさんを快楽で責める新たな道具が、床から生えてきたような気分だ。
一度射精した僕は、自分の快感よりも、つゆりさんの快感を優先できた。先ほど得た教訓も生かして、腰を過度に振ることもなく、つゆりさんに体重を掛けて彼女の奥をぐりぐりと圧迫していく。
「ぁ゛ぉ゛ぉぉおおッ♡♡♡♡♡ ぉごっ、ぉ゛っ♡♡♡♡♡ っぉ゛ぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っっ――♡♡♡♡♡ ぉ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
喘ぎ声が『あ゛』から『お゛』に変わった瞬間、全身がくすぐったくなるような、男としての浅ましい優越感に包まれた。僕のものが、確かにつゆりさんを感じさせている。
僕は、つゆりさんの奥をぐりぐりと圧迫し続ける。たったそれだけで、つゆりさんはまた何回も体を激しく痙攣させる。このまま何回でも、何十回でもイケてしまいそう。
……だけど、現実というのは大抵のものが有限だ。
「ふぐっ、ぁ゛――……♡♡♡♡♡ ぉ゛、ぉ~……♡♡♡♡♡ ぁ゛、ぁ゛、ぁ゛ぁぁぁぁぁあああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ぉ゛ぉ、ぉ゛ぉぉぉおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡」
つゆりさんの反応が、だんだんと乏しくなっていく。声が小さくなり、体の動きも弱い。もう下り坂に差し掛かっていることは、僕にも分かった。
だけど、僕の欲望は強かった。こんなにも消耗したつゆりさんのことを見て、僕は『せめて、あともう1回だけ』と思ってしまったのだ。
ピストン運動を一度もしていなかったはずなのに、いつの間にか射精感もすっかり高まってきている。もう、電動マッサージ器の振動は最大。これ以上、刺激を強くする方法なんてない。だから、僕はつゆりさんの体を精いっぱい押しつぶして、彼女の奥を刺激しながら、彼女のクリトリスを電動マッサージ器に押し当てさせるのだ。
「ッ゛ーーーー♡♡♡♡♡ っぁ゛――♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁあああああああッ♡♡♡♡♡ ッッッぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
体に残った欲求や快感――その全てを搾り出すような絶頂がやってくる。
つゆりさんの体が、高い所から突き落とされたかのように飛び跳ねた後に痙攣する。ぎゅうぎゅうとした筋肉のうごめきが、僕の全身に伝わってくる。その動きは、彼女の体全部がポンプか何かになったみたいだ。そしてその収縮に従って、秘所から潮が噴き出て電動マッサージ器に当たり、ベッドの上に飛び散っていく。
僕は、つゆりさんの絶頂とほとんど同時に射精した。きゅうきゅうと収縮する膣内があまりに刺激的すぎて、僕の精液すら一滴残らず搾り出されてしまいそうだった。だけど、つゆりさんにしてみれば、他の感覚があまりに強烈すぎて、僕の射精なんて認識すらできていないのではないだろうか。
「っ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っぁ゛ぎ――♡♡♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
つゆりさんの絶頂は長かった。僕の下で、ずっと全身の筋肉をぎゅうぎゅうと痙攣させ続けている。
10秒、20秒、30秒。1分、1分10秒、1分20秒、1分30秒。2分――僕が少し心配になるぐらいの時間がたってから、つゆりさんの全身の筋肉が急激に緩む。足元からは、びちゃびちゃという、さらに夥しい水音。
そして僕はようやく、つゆりさんの下に敷いてあった電動マッサージ器の存在に気付いて、大慌てで電源を切ったのだった。
「つゆりさん、大丈夫ですか?」
「ぁ゛……♡♡♡♡♡ ぁ、ぉ゛……♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁ……♡♡♡♡♡」
つゆりさんの目は開いているはずなのに、口からは呆けた声が上がるだけ。完全に意識が飛んでいた。その姿は、やっぱり彼女の描く物語そのもの。もう僕のものはすっかり搾り取られてしまって反応しないけれど、胸の奥がそわそわとするような、落ち着かない高揚感がこみ上げてくる。
僕はつゆりさんから離れることなく、ごろんと横に倒れた。横向き寝、つゆりさんを背中から抱き締める体勢に。
もう、彼女に触れることに対して抵抗感はなかった。ほんの少しの気恥ずかしさと溢れんばかりの愛おしさを込めて、彼女のことを抱き締め続けるのだった。
――――
――
現実にしてはできすぎた情事が終わって、僕は段々と現実に引き戻されていく。
そこに残る余韻は、決して幸福感などではなかった。
「やりすぎです」
「済みません……」
「しかも挿れられて、2回も中に出されるなんて、思いませんでした」
「本当に済みません……」
つゆりさんが体に付着した体液をタオルで拭っている時、僕はベッドの上で正座していた。
こういう行為をするにあたって、線引きはとても大切だ。僕たちが事前に同意したのは、あくまで『試す』ところまで。本番までしてしまうというのは、明らかに一線を越えている。いくらつゆりさんが受け入れるような態度だったとはいえ、それは泣きじゃくるほどにイカされ続けているなんていう極限の状況でのこと。ここで『あなただってその気だったじゃないか』なんて言えるほど、僕は厚顔無恥な男ではない。これはやりすぎだ。
一瞬のうちに、いろいろ光景が頭を過る。レイプ魔として警察署の取調室で詰問されている光景、職場に伝わって上司の怒鳴り声を浴びている光景、両親に泣きながら懺悔する光景。だけどその何よりもつらいのは、まさしく、つゆりさんに嫌われてしまったかもしれないという現状だ。
そんなつゆりさんは、僕に背中を向けたまま呟いた。
「たのしかったですか」
「え?」
「あなたは、たのしかったですか」
何というか、物凄く返答に困る質問だ。
これだけのことをやっておいて『つまらなかった』と答えるのも、いけしゃあしゃあと『楽しかった』と答えるのも、どちらも悪いようにしか考えられない。
僕は悩みに悩んだあげく、正直に答えることにした。
「……はい。すごく」
「そうでしょうね。私への配慮を忘れるぐらいですものね」
怒った時のつゆりさんは、ちくちくと刺してくる。
声を荒立てるわけでもなければ、憤怒の表情を浮かべるわけでもないけれど。こんなにも怒ったつゆりさんの様子を見るのは初めてかもしれない。どんどん心が暗くなっていく。新たな一面を知ることができたなんて喜ぶ余裕もない。
だけど、つゆりさんが言うのだ。
「一つ、やり残しがありました」
まるで、まだ情事の中にいるかのような、少しはっきりしない声。僕が『何を?』を聞き返そうとして、その言葉は止まった。
眼前に突然近づいてきたつゆりさんの顔に、僕はまず驚く。そしてややあってからようやく、僕の唇に温かい何かが添えられていることに気付いて、僕は声を出すこともできないまま、また驚いた。
つゆりさんが、僕に口付けをしていた。目を開いたままの僕は、キスを受け入れることも拒むこともできず、ただ真っ赤になったつゆりさんの顔に見とれ固まるだけだった。
「……あなたがよければ、また今度、お願いします」
ほんの十秒程度のキス。唇と唇が離れて、つゆりさんはかすれた声でそう囁くと、すぐにそっぽを向いてしまう。後悔や不安、恐怖――胸の中を支配していたいろいろな感情が、いつの間にかきれいさっぱりなくなっていた。
「今じゃあ、駄目ですか」
「限度があります。私が何回イッたと思ってるんですか」
「でも、僕はまだ2回しか……」
「十分でしょう? 一晩で何十回もイクなんて、頭がおかしいですよ」
「いろいろな意味で、それをつゆりさんが言ったら駄目だと思います」
「満足したかったら、次は私がイッてる間にたくさん出すことですね」
それはつまり、またあそこまでシてもいいということなのだろうか。僕がそれを問うと、つゆりさんはまた真っ赤な顔でそっぽを向いたまま、訂正も何もしないのだった。
◆
おまけ
「その、つゆりさんってどうして、僕とあんなことを許してくれたんですか?」
「……『あんなこと』が何を指しているのかは分かりますけど。『どうして』とは、どういう意味です?」
「いや、その、どうして僕なんかと、と思って」
「もしかして、あなたは『私が気まぐれか何かで、仕方なくあなたの相手をしてあげた』とでも思ってます?」
「いや、そこまで言うつもりは……」
「行為にせよ、交際にせよ。お互いのことをよく知って、『この人がいい』と判断してからでなければするべきでないと、私は思ってますよ」
「その辺りはまあ、つゆりさんらしいとは思いますけど。それじゃあ、どうして僕が。僕はつゆりさんにとって、ただの一読者に過ぎませんし」
「……あなたは、本当に察しが悪いんですね」
「え?」
「毎回毎回こちらが恥ずかしくなるぐらいの感想を送りつけるだけでなく、私の面倒くさい人間性まで受け入れてくれるほどの熱心なファン、あなたの他にはいませんよ」
おしまい