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◆あらすじ
新感覚! その性感エステは体の各部位に直接マーカー記入するという、体筆申請式のお店です。『ここを気持ちよくしてほしい』と口で言うより正確な”お願い”が可能な他、体に落書きする背徳感を味わえます。触れてほしくない部位はマークしないことでしっかり避けることができますが、マークされた部位については手加減しないため、どうあっても連続絶頂地獄は避けられないようで――。
「――それでは、マークが終わりましたらあちらの部屋にお越しください」
「は、はい」
「ああ、ごゆっくりどうぞ。記入の間は料金も頂きませんので」
「……え、ええー。どうしよう……?」
『最近できたお店がイイ』――そんなネットの口コミを見て、それが自分の住まいに近いことを知って、好奇心に負けてついに風俗デビュー。
だけどそのお店は、初心者の私にはちょっとハードルが高い場所だった。何せ、コースを自分の体に直接書けというのだから。
私は恐る恐る、マーカーを胸に当てて、乳首を囲むようにきゅーっと円を描いていく。『人の体に描くのって、結構難しいんだな』と思った。もう反対の胸も――ちょっとはうまく描けたかな?
「私、羽子板でも体に落書きしたことなかったなー」
人体に落書きすることの抵抗感に慣れていくと、何だか段々と楽しくなってくる。
例えば、陶器のお皿をわざと地面に叩き付けて割るような、あるいは車道のど真ん中を堂々と練り歩くような――そんな子供じみた背徳感が私を愉快にさせた。
「ええと、中はだめ。時間とオプションは……」
もしかしたら、この背徳感には私の神経を麻痺させる何かが含まれているのかもしれない。私は初めての性風俗にもかかわらず、してほしいことをすらすらと書き並べていく。きっと口頭で申し込むのだったら、ここまで積極的にはなれない。
それでも最後にちょっとだけ悩んで、先ほどよりも少しどきどきした心持ちで――私のちょっとした性癖――足の裏に『くすぐってください』と書いた。
衣服を完全に脱いで、施術室なる部屋に行くと、きれいな女の人が私のことをばかにすることなく、優しく笑った。
「それだけでよろしかったですか?」
「ぁぅぇえっ!?」
「昨日いらっしゃったお客さまは、それはもう全身に描き切れないぐらいでしたよ?」
「い、いいいいいいですっ。そ、その、こういうお店、初めてなので……」
「あら、そうでしたか。それでは、かけがえのない思い出になるように頑張らせていただきますね」
「は、はひぃ……」
そんなプロの会話を堪能してから、私はエステベッドに仰向けに寝る。
体に落書きすること以外は、全部普通の性感エステ。……なんて思っていたけれど、どうやら違ったみたいだ。
――――
――
「ちょっ、ほぉぉぉっ♡♡♡♡♡ だめっ、これきつッ♡♡♡♡♡ ぅひぁぁぁあっはっはぁぁ゛ぁぁぁぁああああああああっ♡♡♡♡♡」
とにかく激しい、とにかく気持ちいい、とにかくきつい!
触れる部位を限定する――それはお店の人たちにとって、『お客さまが触れられたくない部位をお守りする』というよりも『触れられる部位だけでもっていかにお客さまを連続絶頂地獄にたたき落とすか』というニュアンスが感じられた。とにかく、『触っていいよ♡』なんてマークした部位を、それはもう激しく犯し続けるのだ。
「ぃ゛やっはっはっはははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁああっ♡♡♡♡♡ だめっ、足の裏っ♡♡♡♡♡ や゛めっ、くしゅぐっだひぃぃぃぃぃぃひっひゃっははははははははははぁぁぁぁぁぁあああああああッ♡♡♡♡♡」
「申し訳ございませんが、施術中のキャンセルはできません」
「ひぎっひっひひひひぃぃぃぃぃぃいいいっ♡♡♡♡♡ むりっ、きついっ、きづぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいっ♡♡♡♡♡」
「……でも、お客さまご自身でご記入されたでしょう?」
「ぅ゛ぁぁあっ♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁっ、ぁ゛っ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っぁ゛ぁぁぁぁああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
女の人のにんまりとした笑みに、私は戦慄しながらイカされ続ける。施術後は完全にグロッキーになって、『二度と来るか!』なんて思うのだった。
――――
――
だけど、これで終わってはもったいないことに気付く。初回、このお店の真の魅力に触れることがなかったと、私はある日唐突に気付いたのだ。
「またのご利用、ありがとうございます」
「は、はい。その、体に描くの、時間がかかっちゃうかもなんですけど……」
「ええ、大丈夫ですよ。それでは、終わりましたら向こうのお部屋までお願いいたします」
私はマーカーを持つと、自身の体を凝視し始めた。1回目よりもずっと、食い入るように。
「乳首は好き、乳輪と乳房は感じない、だけど付け根は感じそう……っ」
「あ、アソコ……♡ え、ええと、クリトリスは電マ。入り口は指でなでられるのが好きで、内股をなでるのも気持ちよくてぇ……♡」
「ぅぁぁー、これ、全身描くの大変だぞぉ……♡ 腋の下に、お腹に、足の裏に。首に、肩に、おへそに、膝にぃ……っ♡」
1回目と比べて、ずっと多く、そしてずっと細かくマーカーを走らせていく。
まるでマッピング、そう、マッピングだ。自分の性癖・性感を漏れなく自己開示して、曝け出し、犯される。それは一体どれだけ気持ちいい、自業自得な後悔アクメが待っていることだろう? だけどそれが、このお店の真の魅力だ。
私は何十分もかけて、全身をマーカーで染め上げた。施術室に行くと、この前と同じきれいな女の人が全身の欲望と弱点を全て曝け出した私のことを見て――”優しく”ではなく――にんまりと笑った。
「あら♡」
「ふーーっ♡♡♡ ふーーーーっ♡♡♡」
「このお店の愉しみ方、ご理解いただけたみたいですね♡」
「は、はひ、はひぃ……♡」
「……それでは、前回は申し上げられなかったこと、申し上げますね」
女の人が、私の耳元で囁く。
それは、このお店の愉しみ方を知り得た者に贈られる、最高の殺し文句なのだった。
「――その全身のマークがとうの昔に消えてしまうぐらい、隅々まで、た~っぷり気持ちよくして差し上げますね♡」