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◆あらすじ
『千恵って、寝たら何されても起きないよね』――学校で、幼なじみとその友達が話しているのを聞いてしまった僕。両親が家にいない時はいつもお泊まり会をするぐらい仲良しの彼と千恵ですが、そんな話を聞いてしまった彼の心には、黒い感情が湧いてしまったようです。彼は偶然見つけた電マで、どれだけイッても起きない千恵のことをひたすらイカせ続けて――。
それは、僕が学校で聞いたことだ。
「千恵って、寝たら何されても起きないよねー」
千恵の友達が、千恵にそんなことを言っていた。盗み聞きしたわけではない。ただ、教室で何の気なしに話していたから、自然と耳に入っただけだった。
千恵は僕の幼なじみだ。生まれた時から同じ病室にいたらしく、幼稚園も、それからの学校も、全部全部一緒だった。
千恵はいつも、僕の隣にいた。まるで本当の兄妹のようで、あまりに距離が近すぎて。だから、僕はタイミングを失ってしまったらしい。
「やめてよ。恥ずかしい……」
千恵はいつもの小さな声で、少し恥ずかしそうに応えていた。
そういえば、一緒に昼寝をしても、2人一緒に眠ってしまったっけ。
『千恵って、寝たら何されても起きないよねー』――その何てことのない言葉、ずっと一緒にいたはずの僕ですら知らなかった秘密を知る千恵の友達に、僕はどこか嫉妬した。
――――
――
「おじさんとおばさん、今日もお仕事で帰れないんだ?」
「うん」
帰宅道、千恵にぽそぽそとした声でそう聞かれて、僕は答えた。
僕の両親は仕事柄、出張が多くて家にいられないことが多い。『まあ仕方ない』と思う。寂しく思う気持ちぐらいあるけれど、それで癇癪を起こすほど子どもではないし、それ以外の家庭環境は悪くない。
そしてそれは、千恵も同じだ。
「私も同じ」
「……そっか」
「晩ご飯、カレーでいい? また、レトルトになっちゃうけど」
「うん、いいよ。寂しくないように、目玉焼き乗せようか」
「うん、いいね」
それは、僕と千恵の日常だった。
お互いの両親が帰れない時は、片方がもう片方の家に泊まる。1人ずつ留守番というのは何かと不安があって、2人一緒ならまだマシだから――それは、本当に小さな子どもだった時の理由だ。
僕も千恵も多少なりとも大きくなって、そんな不安はもうほとんどない。だけど、昔から続いてきた日常というのは、簡単にはなくならなかった。
――――
――
昔から続いてきた、平穏な日常。それでも、変わっていくことはある。
千恵の家に行って、2人でレトルトのカレーを食べて、シャワーを借りて、それからのこと。
「今日も、下で寝るんだ」
「うん……」
僕はベッドの上から見下ろしてくる千恵に、そう答えた。
子どもの時は、千恵と同じ布団の中で眠ることも珍しくなかった。だけど、それは子どもの時の話だ。僕が千恵のことを意識すればするほどに、『離れなければならない』という気持ちが強くなる。いつか僕は、千恵の部屋に入ることすらできなくなるだろう。
だから、そう。今の状況は、まだ恵まれている――鋭い針が、僕の胸をちくりと刺した。
「……分かった」
千恵は、いつもよりさらに小さい声で応えた。
――――
――
最近、千恵と一緒の空間にいると眠れない気がする。
「すぅ……。すぅ……」
静かな寝息に耳をすませ、寝返りを打つたびに肩を跳ねさせる。女性と一緒の空間で眠るなら、そう珍しくもない反応。
……忘れかけていた言葉が、脳の奥から浮かび上がってくる。『千恵って、寝たら何されても起きないよねー』。
「ち、千恵……?」
「すぅ……、すぅ……」
反応はない。ただ声を掛けただけで、『彼女のことをまた一つ知ることができた』と思って、むなしい安堵感がやってくる。
『寝よう』――そう思って、何の気なしに部屋を見渡して、ぎょっとした。
「あれ、は……?」
布団と壁の間に、何かが挟まっている。
何か――回りくどい言い方はやめよう。白とピンクの色彩、手に持つ部分は太く、先端には握り拳のような部品。あれは、電動のマッサージ器だ。
千恵だって、肩が凝ることぐらいあるかもしれない。勉強に一生懸命だし、恋愛漫画や恋愛小説を読むのだって好きだから、体をほぐしたいことぐらいあるかもしれない。だけど、そういう用途に使える道具だと思うと、邪な想像がぐずぐずと湧いてきて止まらない。
僕は、手を伸ばして電動マッサージ器を手に取った。
かちり、ぶぅん――予想外に大きな振動音が響く。
「すぅ……、すぅ……」
僕が驚きと緊張でびくびくしているというのに、千恵の寝息は相変わらず一定のリズムを刻む。
「……何をされても、起きないんだよね?」
僕は強く思った――僕はもっと早く、千恵の部屋に立ち入らないようにするべきだったのかもしれない。
――――
――
「ぉ゛ぉぉおっ♡♡♡♡♡ ぉ゛っ、ぉ゛ぉぉぉお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
僕は一体、何をやっているんだろう? ――頭の奥隅にそんな冷静な思考があるはずなのに、僕はその行為を止めることができない。夜這い……いや、千恵が眠ったままである以上、それよりも悪い行為。これじゃあ、陵辱と変わらない。
最初は、耳から最も遠い足の裏に、電動マッサージ器をそっと当てただけだった。何の反応もなかったから、今度はふくらはぎに当てた。少しだけ体が跳ねた気がするけれど、起きる気配がなかったから、今度は太ももに当てた。体がぴく、ぴくと跳ねていたけれど、それでも起きる気配がなかったから――いつしか行為は、行くところまで行ってしまった。
千恵の濁った喘ぎ声。びくつく全身。薄らとにじむ涙。押さえ付けた左手を包む、柔らかな太ももの感触。全てが、僕に麻薬のような危険な優越感をもたらした――学校にいる誰も、千恵のこんな姿なんて知らないだろう?
「ぉごっ、ぉ゛――♡♡♡♡♡ ほっ、ぉ゛ぉおおっ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
僕は、誰も知らない彼女の姿を隅々まで脳に焼き付けるために、ずっとずっと彼女をイカせ続けた。千恵の体を顧みることなく、新聞配達のバイクの音に驚く時間まで行為は続き、僕は疲れ果てて眠ってしまう。二度と、千恵の部屋には入らない――罪悪感で、心の中は真っ黒だ。
だけど、この話には続きがあったらしい。
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――
――――
――
私が目を覚ました時、突然体を襲ったのはむずむずとした何かでした。
「ぁえっ、え――!!? ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ひぐっ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
私は起きると同時にイッてしまいます。まるで、柔らかいたくさんの手で、お股をもみくちゃにされるような気持ちよさがやってきたのです。
「ぁ、え――♡♡♡♡♡ なんでぇっ、ぇえ――♡♡♡♡♡ ぉ゛ぉぉお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぉ゛っ、ぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
私は訳が分からないまま、ベッドの上に転がったまま、何分かイキ続けました。
どうしてこんなことに? ――そんなことを考えることもできず、何分かたってようやく、ベッドの下に彼が寝ていることに気付きます。私はとっさに、両手で口をふさぎます。私は彼の側で、みっともない喘ぎ声を上げ続けていたのです。
「ふっ、ふぅぅ……♡♡♡ ふっ、ふぅぅ……♡♡」
だけど、私が恐る恐る彼の顔をのぞき込んでも、彼が起きる気配はありませんでした。
「ほっ……」
まあ、そうだよね、大丈夫だよね――側で喘ぎ声を上げていても起きないのはびっくりだけど、彼のことだと思うと、どこか納得してしまいます。
「……本当、寝たら何されても起きないよね」
それは、きっと私しか知らない、彼の秘密。昔は、一緒にお昼寝することが多かったっけ。それで2人一緒に眠ってしまうけれど、いつも私のほうがほんの少しだけ早く起きるんだ。だから、私だけが知っている。
不思議と、私の頬が緩む気がしました。
だけど、あるものに気付きます。
彼の側に転がっているもの。白とピンクの色彩、手に持つ部分は太く、先端には握り拳のような部品。あれは――。
「――ぁっ!!?」
その瞬間、私の顔がぼっと熱くなるのを感じました。あれは、私がたまに、いけないことに使っている道具。
昨晩は確かどこかに置き忘れていたはずなのに、それが彼のすぐ側に転がっているという事実。そして、目が覚めた瞬間に起きた不思議な現象。私の中で、パズルのピースがぴったりはまるように、それを悟ったのです。
「あわっ、あわわわわっ、あわ、あわわっ」
私はベッドの上で腕をばたばたと振ります。そんな、まさか、彼が? でも、だって、だけど、ええと、そしたら――私の頭の中はもうパニックです。
「すう、はぁ……! すう、はぁ……!」
私は一生懸命深呼吸します。頭の中を整理して、夜に何が起きたのかをもう一度整理します。
だけど、落ち着いて考えれば考えるほど、実感が湧いてきて。そして実感が湧けば湧くほど。
「ぇへへ、へへ……♡」
頬が緩んで仕方ないのです。
私がこんなにばたばたしているのに、彼はちっとも起きようとしません。
本当、寝たら何されても起きない人。
「っ……」
私はきょろきょろと周りを見渡します。私の部屋。ここには私と彼しかいない。そしてお父さんもお母さんも、お仕事でまだ帰ってこれません。
私は恐る恐る、ベッドから降ります。
「……そんなこと、する勇気ないよっ」
私は側に転がっている電動マッサージ器を蹴っ飛ばして、彼の布団に潜り込みました。すると彼は、腕を回して私のことを抱き締めたのです。私は驚いて彼を見上げました。だけど、彼は眠ったまま。どうやら無意識みたい。
「えへへ……♡」
彼が目を覚ました時、驚いちゃうかな。頭の奥隅にそんな考えはあるけれど、やめる気にはなれません。彼の体温と鼓動を感じながら、私は二度寝するのでした。
私と彼は幼なじみです。生まれた時から同じ病室にいたらしく、幼稚園も、それからの学校も、全部全部一緒でした。
私はいつも、彼の隣にいました。まるで本当の兄妹のようで、あまりに距離が近すぎて。だから、私はタイミングを失ってしまったみたい。
昔から続いてきた日常。それでも、変わっていくことはあるんです。
それはきっと、今よりも平穏ではないけれど、まるで花咲くように素敵な日常――。
おしまい