※当サイトにはプロモーションが含まれるページがあります。

長編小説

【第6話】異能バトルものの性拷問師たち

⏱このページは44分ぐらいで読めます


目次

表紙
 #簡単なご案内など
第1話 読心 -ノンバーバル-
 #クリ責め #電マ #ローションガーゼ
第2話 自声愛撫 -ジメツ-
 #くすぐり #声我慢 #超音波
第3話 非接触絶頂 -ムッツリ-
 #ささやき #見せつけ #脳イキ
第4話 絶頂引延 -トワノマタタキ-
 #シリコンチェーンソー #ブラシ責め #体感時間操作
第5話 はじめての
 #クンニ #寸止め
第6話 感覚遮断 -カイカンノサキオクリ-
 #乳首責め #ニップルドーム #クリ責め #電マ #くすぐり #感覚遮断
最終話 伝心 -ワタシノココロ-
 #キス #胸揉み #電マ #くすぐり #ブラシ責め #感覚共有
おまけ
 #キャラクターのちょっとした紹介

 

第6話 感覚遮断 -カイカンノサキオクリ-

#乳首責め #ニップルドーム #クリ責め #電マ #くすぐり #感覚遮断

 

ウルツアは今日も、訓練場で武器を振るう。

集中していた。雑念はない。姿勢、重心、目線、軌道、位置取り、力のバランス――あらゆる要素が、一振りごとに最適化されていく。最近の訓練は、彼女自身もその成果を認められるぐらいには順調だった。

問題があるとすれば、ここ最近フランが訓練場に現れず、全ての日程が自主鍛錬になっていることだ。

「休日だってのに、随分と精が出るじゃないか」
「……社長」

昼前。休日にもかかわらず訓練場にやってきたのは、フランではなくViだった。今はもう包帯を巻いてはいないが、その額には痛々しい傷痕が残っている。

ウルツアはViに頭を下げた。

「……すんません。オレを庇って、けがさせちまって」
「なに、お互い五体満足で生きてんだ。それでよしとしようじゃないか」

自分の無能が原因で、仲間の足を引っ張ってしまった。罪悪感もあるだろう、無力感もあるだろう。

しかし今のウルツアの表情は、悲壮感とはまるで無縁なものだった。真摯な謝罪をしながらも、その目線は真っすぐに前を向いている。ダイヤモンドよりも硬き意志を宿す表情からは、ふんすという擬音すら聞こえてきそうだ。

そんな彼女の様子を見て、Viは小さく笑った。

「……折れてないみたいだね」
「どういう意味すか」

「たまにいるのさ。失敗して、心を折っちまう新人がさ。年寄りのお節介だが、アンタの様子を見ていたらちと気になってね」
「ああ……」

時と場合によっては、『そんな弱いやつじゃない』と怒っていたかもしれない。しかし、ウルツアは怒ることができなかった。相手が、自分を拾ってくれた、頭の上がらない恩人だから……ではない。

事実、折れかけていたからだ。

「いろいろ、まあ、考えてはいたけど。折れんのは、後にします」
「ほう、どういう意味だい?」

「……ムカつくやつがいるんすよ」
「ムカつくやつ?」

Viが眉をひっそりと持ち上げる。

「オレのことを半人前扱いしやがって。そのことに文句はねぇ、ああ確かにオレは半人前だ。だけど、アイツだって半人前じゃねーか。半人前のくせに、偉そうにオレに。だったらオレが先に一人前になりゃ、アイツに、アイツを……」

ウルツアが思い出すのは、初実践の直前のこと。『まあ、君が半人前の間は、心のケアも多少はするよ』――のその言葉は、今思い出すと無性に腹が立ってくる。いつも散々にムカつくやつだけど、その言葉が、今は一番腹立たしい。

『だから、つまり』――何を言いたかったのか分からなくなったウルツアは、今までの文脈をまったく無視して締めくくるのだ。

「あのをあっと言わせるまで、やめらんねぇ」

その言葉を聞いて、Viはくくくと笑った。

「何すか」
「いや、どいつもこいつも、似たことを言うと思っただけさ」

Viは目を細めて笑ってから、訓練場の壁に寄り掛かる。コーティングがぼろぼろに剥がれた壁をなでて『早いところ修理しなきゃね』と呟くのだった。

 

Viは壁に寄り掛かったまま、武器を振るい続けるウルツアに問うた。

「1番ハズレの《能力》って、何だか分かるかい?」
「……何すか? 突然」

「いいから。たまには年寄りの世間話にでも付き合っとくれよ」
「ハズレ、ねぇ」

突然そう聞かれても、ウルツアとしてはいまいちピンとくるものではなかった。

どのような《能力》に目覚めるかは、各人の適正によるものであり、自分の意思で選ぶことはできない。当然、その中には相性があるだろうし、もっと単純な優劣もあるだろう。そうは言っても、その中からピンポイントで『これは最悪だ』と呼べるものが、果たしてあるだろうか。

しかし、Viは何の迷いもなく、その答えを断言するのだ。

「正解は《読心》さ」
「意味分かんねぇすよ。あんなに強えじゃねーか」

《読心》――数ある《能力》の中でも珍しい部類だ。フィクションではありふれた異能だが、不思議と今の世の中では出会う機会に乏しい。

だからこそ、ウルツアに心当たりのある人物は1しかいなかったが、少なくとも『ハズレ』と断定されるような《能力》には思えない。今までの訓練でフランに完敗していたことを鑑みれば、その強さが納得できる。自分がどのタイミングで勝負を仕掛けるか読まれてしまったら、1対1で勝つのは極めて難しくなるのだ。

「そうさね。目に見える破壊力はないが、使い方によっちゃ強力。いや、強すぎるのさ」

ウルツアは、Viの言葉の意味が分からなかった――『弱くはない』はまだ分かる、だけど、『強すぎる』?

「もし、商売の場にがいたらどうなる?」
「商売ぃ? そりゃー、心が読めるんなら有利になるに決まって……」

「したら、国会にでも潜り込ませたらどうなる? いっそのこと、国の首脳が勢揃いのサミットにでも放り込んでみようか」
「そりゃ……」

「別に、フランじゃなくても構わないさ。そこらのハナタレでも、《読心》が使えさえすりゃ……ね」

『まあ、アイツも大概、ハナタレみたいなものか』――Viはそう笑うが、一方でウルツアは息を詰まらせた。彼女は別に、政治やら何やらに明るいわけではない。むしろ新聞もテレビニュースも見ないぐらいだ。それでも、その意味が分からないほど愚かではなかった。

ただ、他人の心を読む《能力》に目覚めただけ。それ以外は何もかも平凡、いや、それ未満の人間だったとしても、ただ《読心》を持つだけでその価値は――。

「そ。《読心》ってのは、どんな組織でも喉から手が出るほど欲しい《能力》。腕っ節だけでは全てが決まらない今の世の中、強すぎるのさ」
「なら、アタリじゃねーすか」

「いや、ハズレさ」

そこで、Viが虚空を見上げて黙る。それは何かを思い出すような仕草に見えた。

ウルツアはViの言葉を待つ。もう、武器を振るうことをやめていた。

「『ヒーローキャンペーン』って知ってるかい?」
「何すかそれ」

「正式名称は何だったか、『夢見る子どもを応援する! 君もヒーローになろうキャンペーン』とかだったか」
「ダッセー名前」

「まったくさ。とにもかくも、アンタがまだ小さな子どもだった時の話さ。どっかのイカれた企業が始めたキャンペーンでね、親しみのある甘い口説き文句で大量の子どもを集めて、廉価の《能力》開発手術を施すのさ。……たまに現れる優れた《能力者》を、自分とこの兵隊にするためにね」

それは、ほんの少しでもを読むことができる人間であれば、聞くだけでもおぞましい内容だった。

異能の存在が明るみになった当時、《能力者》と言えばみんなの憧れの的だった。まるでアイドルを目指すかのように、《能力者》を目指すのだ。自分の子を《能力者》にして、箔を付けたがる親も多かった。ほんの少しお金を払うだけで、もしかしたら誰もがうらやむ強力な《能力》を得られるかもしれない。みんなが、まるで宝くじを買うような気持ちでいた。

……悪意を持った人間からすれば、これほど相手はいないだろう。

「フランの家庭は、ごく普通の家庭だった。だけど親の目がくらんじまったのさ。それでを引けりゃ、穏やかな家庭に戻れただろうに。アイツはよりにもよって、1を引いちまった」

「親は、どうしたんすか。ヘータイになるのを止めなかったんすか」
「止めただろうさ。

「オイ、まさか……」
「こういう手合いは、帰る場所を残しちゃくれない。良くて人質さ」

その事実に、ウルツアはただ圧倒される。

彼女に、自分の不幸と他人の不幸を比べる趣味はない。故に、ウルツアの人生とフランの人生、どちらのほうが過酷だったかを論じる意味はない。

それでも、彼女は思うのだ――最初からいなかったわけではない、確かに側にいたはずの家族が目の前で殺されるというのは、一体どんな感覚なのだろう?

「だけどさっきも言った通り、《読心》ってのは強すぎる。汚いことをやってるやつには特に有効だろう。だから碌なことにならない。嫌われるのは当然、酷使されながら幽閉されるやつもいるし、命を狙われるやつもいる」
「……それが、フランだってのか」

《読心》はフィクションではありふれた異能だが、不思議と今の世の中では出会う機会に乏しい――ウルツアは、その理由を理解した。見つかったらその大部分が、幽閉されるか、殺されるのだ。

 

「……アレは本当に、胸クソの悪い仕事だった」

Viのそれからの話は、今日に至るまでのことだった。

Viが仕事で、件の会社を襲撃した。たくさんの《能力者》が彼女を襲った。その中には、兵隊にされた子どもたちがたくさんいた。年齢など、仕事には何の関係もなかった。殺意を持って襲ってくるなら、全員するしかなかった。

たまたま生き残ったのは、施設の奥深くで幽閉されていたフランだけだった。そしてViは、彼女を拾った。

「おかげで、この国の《能力者》の間では、もはや『ヒーロー』って言葉は禁句さ。うさんくさくなっちまった」

ウルツアはそこまでただ黙って聞き、最後に口を開いた。

「どうして、アイツに拷問師なんてさせたんすか」
「ん?」

「アイツが拷問なんて始めなけりゃ、あそこまでことなかったでしょうよ」
「……そうさね」

全ての発端は《読心》という異能だった。たまたま最悪の異能を持ってしまったせいで、嫌われ、幽閉され、命を狙われ、暗惨たる人生を送ってきた。しかし今は、異能に加えてさらに拷問――2種類の嫌悪が、今のフランを苛んでいる。もしもその片方がなければ、少なくとも今よりはだっただろう。

しかしViは、ウルツアの質問に対して首を横に振った。

「それに関しちゃ、アタシが答えるわけにはいかないね」
「教えてくれないんすか」

「その答えが知りたきゃ、代わりにアイツに聞きな」

Viの声音は、どこか拒絶するかのように冷たい。しかしウルツアはそれに怒ることもなく、恐れることもなく、悲しむこともなく、素っ気なく返すのだ。

「なら、いいっす」
「おや、いいのかい」

「答え合わせはしたかったんすけど。だいたい、分かってるんで」

背の小さいウルツアは、背の高いViを見上げて、やれやれとため息を付きながら言うのだ。

「アイツはっすよ、社長。、ちっとも理解しちゃいねー」

Viの目が見開かれる。その顔には無数の皺が刻まれ、皮膚はとうに乾ききっている。幾十年戦い続け、身も心も擦り切れ、『ちょっとやそっとのことではもう動じることなどない』と思っていた。

そんな老婆の瞳が、少女の言葉に揺らぐのだ。

「……励みな」

Viはウルツアの頭をくしゃりとなでると、ただそれだけを言って、訓練場から立ち去ろうとする。

「社長、もう一つ聞きたいんすけど」

ウルツアが背後から声を掛けても、Viはもう振り返ることもない。ウルツアはそのまま問うた。

「アイツに戦いを仕込んだのは、社長すか」
「ただ、1人で最低限生きていけるだけの世話をしてやっただけさ」

『アタシはいい母親にはなれないね』――Viが最後にそう言って去ってから、ウルツアは『2人とも、道理で強ぇわけだ』と呟くのだった。

 

――――
――

 

フランが休憩室に来た時、ベンチに座って待ち構えていたのはウルツアだった。

「っ」
「あいさつもなしか? クソお節介」

「入社当初と、立場が逆になったみたいだ」

フランは踵を返す前にそう言われて、仕方なく休憩室に入った。自販機のジュースを買うこともなく、ウルツアの隣に座ることもなく、隅の壁に寄り掛かる。

「今日は休日だよ。どうして会社にいる」
「テメェもだろ」

「やっておきたい事務仕事があるんだ。それに業種柄、休日でも人はいたほうがいい」

うそだった。ただ、自分の部屋でぼうっとしていられなかっただけだ。

「…………」
「…………」

沈黙。フランは『この時間が苦痛に感じられるのは、自分だけなのだろうか』と思った。まるで上司に叱られる直前の、会社員のような気分だ。目の前にいる相手は年下の後輩だというのに。

すぐにこの場から立ち去ってしまいたい。しかし、フランの体重がつま先にかかると、ウルツアのにらみ付けるような視線が突き刺さってくる。

「社長から、テメェのことを聞いた」
「……あのクソババア」

フランが『具体的に何を?』と聞く必要はなかった。何を告げ口されても顔をしかめたくなるぐらい、彼女の生はほの暗いものだったから。

「くだらねーことで悩みやがって」
「随分と言ってくれるね」

「くだらねーだろ。世の中、やべー《能力》を持ってるやつはごまんといるぜ。やべー使い方をしてるやつもな」
「『みんなやってるから』は、悪事を働く上で最悪の言い訳だ。何よりも愚かで、拙く、恐ろしい」

「難しく考えすぎなんだよ、テメェは」
「……この話は終わりだ。そろそろ黙ってほしい」

フランの声に怒気がこもる。

しかしウルツアは黙らない。

「早い話、だ。テメェは結局、人と話すのが恐ぇコミュ障ってこったろ? そんで人と話すのが嫌だから、に引きこもってるわけだ。これほど単純でくだらねー話もないぜ」
「……黙れと言ったはずだ」

「人の心が読めるからって、にしてるからって。テメェは世の中の全部に嫌われてると思ってやがる。だからテメェはあの時、オレから逃げ出したんだろ」
「……黙れ…………ッ!」

「自分で引きこもったくせに、自分で病みやがって。めんどくせーやつ」
「君に何が分かるっていうんだよッッ!!」

フランの金切り声が響く。

もしも今日が平日なら、オフィスにいる社員に聞かれてしまいそうなぐらい大きな、そして社員が聞いてもそれがフランの声だと分からないような。それだけ悲痛な叫び声だった。

ウルツアは彼女の悲鳴を一身に受け、しかし冷たい声で吐き捨てるのだ。

「分かんねーよ」
「っ……」

「テメェがどんな過去を歩んできたか、話を聞いただけのオレじゃあ全部は理解できねぇ。だけどそんなもん、どーでもいいぜ。テメェだって、オレのことなんて分かんねーだろ。お互いさまじゃねーか」

ウルツアが立ち上がり、フランに近づいていく。

フランは思わず後ずさる。しかし、背後は既に壁だ。

「《能力》も、過去も、仕事も、全部関係ねぇ。オレは今、が気に入らねぇ」
「君は、一体何を」

「――って言ってんだよッ!!!」

ウルツアがフランの胸ぐらをつかむ。胸への衝撃と、それ以上に怒りのこもった声に、フランは息を詰まらせた。

「どうしてあの時、オレから逃げたッ!!? 人の心を読めるって知られて、拷問師なんてやってるって知られて、テメェはオレに嫌われると思って逃げやがった!! それが気に入らねぇッ!!!」
「だって、私は……。私のやってること、は……!」

「フラン」
「っ――!?」

「オレが、テメェのことを嫌ってるか?」

ウルツアの目が、まっすぐにフランを射抜く。

静かな、しかし強い輝きを灯す瞳がまぶしい。フランは反射的に目を背けそうになる。しかしウルツアが、フランの顔をつかんで無理やり正面を向かせた。

「ちゃんと
「っ!?」

「ちゃんとオレの心を読め」
「や、やめ……ッ!!」

「ちゃんと、奥まで読め」
「ひ――ッ!?」

フランの心がざわつく。

彼女の《読心》は、その意志に関わらず常に発動している。それでも、こうも人の心を奥底まで読むことはなかった。だって、こちらが心を読めたところで、向こうが心を曝け出してくることなんて、今までなかったのだから。

普通の人間なら、心を読まれるなんて分かったら、どうあっても嫌悪するものだ――その心の色は、恐い。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 見たくない、見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない!?

……それなのに。

「どうして、君は、そんな……」

ウルツアは確かに怒っていた、悲しんでいた。煮えたぎるマグマと絶対零度の氷塊が混在したような、ぐちゃぐちゃの感情を持っていた。だけどその心のどこを見渡しても、フランに対する嫌悪という感情なんて一欠片も見当たらなくて。

むしろ。

「おかしいだろ……!? だって、君は、私、は……ッ!!?」

フランの瞳が揺れる――どうしてこの子はこんなにも、自分のことをんだ?

 

「――テメェは、その《能力》でんだろ」
「……何?」

それは、フランにとって甚だ予想外な言葉だった。――まるで心当たりがない。だって彼女が行ってきたのは拷問なのだから。

「もしも、に拷問されたら、そいつは普通どうなるんだよ」
「それは……」

想像もしたくない。本来の拷問というものは、殴られ、蹴られ、絞められ、切られ、焼かれ、犯され、孕まされ――情報を吐いた後でも、結局殺される者も少なくない。

「テメェは、拷問で相手を傷つけない。もしもテメェがあの仕事をやってなかったら、何人ものやつらが他のところで拷問されて、死んでる。テメェは、テメェの立場で、テメェにできることで、そいつらを守ってきたんだろ」
「……そんなの、考えたことも、なかった」

フランは目を見開いたまま、ぽつりと呟いた。

 

……本当だろうか?

『――あれじゃ、だめだよ。Vi』

フランが初めて拷問という現場を見た時、南雲トキという女性が死に向かっているのを見た時、何の意図があってかの現場を否定しただろうか。

Viに命じられ、南雲トキへの拷問を終えた直後のこと。お節介な彼女は、『君は拷問に向いていない』と言った。『絶対にこの先苦しむことになる』と言った。『どうしてこんな汚れ仕事を引き受けたのか』と言った。

フランは一生懸命に考えて答えた。

『あのクソババアをあっと言わせるまで、やめられません』

いつかViを見返してやりたい――それは確かに本音だ。だけどもっとが、彼女の根底にあったはずだ。

『……それと』
『それと?』

フランの記憶がよみがえる。あの時、あの人と最後に、どんな言葉を交わしただろう――ああそうだ、そうだった。どうして忘れてしまったのだろう。

『――

それこそが、彼女があえて裏舞台に身を投じた理由だったはずだ。

 

「社長は、テメェだから拷問を任せたんだ。男に犯されて死ぬ間際の敵を救おうなんて思ってる、バカみてーにお人好しで、クソお節介なテメェだから」
「そんな、だって……っ? でも、私、は……」

「オレが慰めようと、ホラ吹いてると思うか」
「……思わ、ない」

「なら、誇れよ。テメェはちゃんとその《能力》で、人を救ってきたんだ」

それは無垢な少女の好意的な解釈に過ぎない。物事のほんの一面であり、それだけで行い全てを正当化していいわけがない。

それでも、自分の生をほんの少しでも肯定してもらえたのなら――。

「っ、ぁ……」
「はっ、泣いてやんの」

「ぅ、うるさ……! っ、ぁ、っ……。ぅ、ぐすっ……! ぁぁ、ぁぁぁ……!」

ウルツアは悪態をつきながら、フランのことを優しく抱き締める。それはいつの日か、フランがウルツアを抱き締めた時よりも乱暴に、しかし強く、温かく。

フランの目から涙が止めどなく零れる。どれだけ我慢しようと思っても止まらない。それは、これまでの半生で溜め込み続けた涙を、全て流すかのようだった。

 

――――
――

 

「ごめん、君に、こんな」
「あー。いいよ、そのままにしてろ」

「……うん」

長い長い垂泣の後、フランとウルツアは休憩室のベンチに座っていた。立ったまま泣き続けることもない――ウルツアがフランのことを抱きかかえて、無理やり座らせたのだ。

フランは既に泣きやんだが、ウルツアの細い腕に抱き締められたまま、目を細める。大の大人が、あんなにもわんわんと泣くだなんて――恥ずかしくは思うけれど、それ以上に心地いい。人に抱き締められるというのは、こうも心安らぐものだったのか。

思い悩んでいた時間が長かっただけに、気が緩む。フランは無意識のうちに、自分の頭をウルツアの胸元にこすり付けた。

「っ」

ウルツアの肩がびくりと跳ねる。しかしフランはそれに気付かず、ぐりぐりと頭を押し付け続ける。人と触れ合うのが温かくて、思わず猫のように喉を鳴らす。

「っ……、っ……!?」

ウルツアの肩がぴく、ぴくと跳ねる。フランの視界の外で、ウルツアの顔が真っ赤に染まっていく。

堅物だった女性が甘える様子。スーツ越しにでも伝わる、温かく柔らかな体の感触。それらは、彼女がれっきとしたであることを認識させるには十分なもの。おまけに、散々恐怖の対象だった拷問が、しかし元を正せば性行為であるという事実が合わさる。

つまるところ、ウルツアの胸元で甘えている人物は、大人の女性で、しかも普段からだいぶエロいことをしているわけで……。

「……え?」
「っ――!」

フランが声を上げた時には、ウルツアの心のはすっかり硬くなっていたのだった。

そしてフランは、そんなウルツアの心を自然と読んでしまっていて――。

「ええと、ウルツア、君さ」
「し、し、仕方ねーだろ!? 元はといえば、テメェが……!!」

「こんな状況で、そんなことある?」
「な、慰めてもらってる分際で、文句あんのかよぉ!?」

「文句はないけどさ。でも、締まらないなぁって」
「うううううるせぇッ!!」

ウルツアが顔を真っ赤にしながら怒鳴るが、彼女のは収まることを知らない。それどころか、時間がたてばたつほど意識してしまうのだろうか、フランの読み取れる心の色がどんどん濃くなっていく。

フランにとっても、ウルツアにとっても、あまりに予想外の状況だ。先ほどまで、あんなにシリアスな話をしていたというのに――むしろ、今までが非日常的だったからこそ、心のタガが外れてにも容易に飛び移ってしまえるのだろうか。それはウルツアの話ではなかった。

「はぁ……」

ウルツアと出会ってから、フランはため息を付いてばかりだ。しかし、このため息は、今までのどのため息よりも温かく、そしてどこか緊張していた。

「その気があるなら、夕飯を済ませてから、においで」
「え」

「……だよ。それ以上の意味はない」

ウルツアがぽかんとした表情のまま動かない。明らかに、脳の処理が追い付いていない。

しかしフランも、わざわざ彼女の理解が追い付くまで待つことはなかった。『あの寮の壁は、あまり厚くないんだ』――そう言って、フランは休憩室から出ていってしまう。

「ま、マジ……?」

休憩室に取り残されたウルツアは、真っ赤な顔で独り呟くのだった。

 

――――
――

 

「……本当に来たんだ」
「どういう意味だよ」

ウルツアが拷問室の扉を少し遠慮がちに、ゆっくり開くと、そこには背中を向けたフランがいた。フランは顔を向けないまま呟いた。

「考える時間はあったでしょ。冷静になって、『やっぱりやめた』ってなると思ってた」
「……んなわけねーだろ」

「『一度約束した手前だし』なんて気にする性格でもないよね? 少しは、一度立ち止まって考える癖を付けたほうがいい。勢い任せに突っ走ると、碌なことにならないよ」

フランは顔を背けたままそんなことを言い続ける。一見すると小煩い普段の彼女らしくも聞こえるし、どこか拒絶するようにも聞こえる。だけどウルツアがフランの前方に回り込んで顔をのぞき込むと、彼女の頬は薄らと赤みがかっていて……。

「そんな『ほっとした』みたいな顔じゃあ、何言っても説得力ねーよ」
「……服は向こうっ」

フランは顔を真っ赤にして、部屋の隅に置かれた小さなバスケットを指差した。

 

「何してんだよ、テメェも脱げよ」
「え?」

「あ?」
「あ、そ、そうだね」

ウルツアは、どうしてフランがこんなにも挙動不審なのか分からなかった。しかし、それは必然だ。

今までフランは、何十人、何百人もの性拷問を行ってきた。しかし性拷問は、相手に快感くつうを与えればそれでよく、わざわざ自分が服を脱ぐ必要なんてなかったのだ。だからフランは今日初めて、しかも想定外に、他人に裸を晒すことになる。歪な性経験が、妙な気恥ずかしさを生んでいた。

「色気ねぇ下着……」
「うるさいよ。本来、他人に見せないんだ。それに、これは透けにくい」

フランが少し控えめな態度で曝け出したのは、ベージュの下着だった。ファストファッションの店で売られているような、ただひたすらに機能性を追求した、一切の飾り気のないデザイン。フランは女性にしてはやや背が高いほうではあるが、胸や尻は決して大きいほうではない。彼女の下着姿は、いまいちあか抜けないものだった。

フランは少し逡巡してから、『こんな下着じゃ、脱いだほうがマシだな』と呟いて裸体を晒した。薄いピンク色の小さな乳首、陰毛が薄く生えそろった秘所が露出する。

「そういう君は、随分と服装に気を遣うよね。ウルツア」
「ダセー服着てるとナメられんだよ」

フランは少し表情をゆがめながら言った。ひん曲がった口からは、『ぐぬぬ』という声が聞こえてきそうだ。

ウルツアが着けていたのは、黒を基調としながら、所々に赤色の装飾が散りばめられた下着だった。彼女は背が低く、胸も尻も小さい。しかし貧相な体なりに似合うよう選び抜かれた大人びたデザインは、なかなかになっている。

ウルツアはフランの裸体を見て、目を見開き、首をかしげ、彼女と自身の下半身を交互に見比べてから、ようやく下着を脱ぐ。フランよりも濃いめの、鮮やかなピンク色の乳首。彼女の下には、毛が生えていなかった。

 

「はっ。まさか性拷問師サマが、こんなうぶな有様晒すなんて思わなかったぜ」
「そういう君は、経験があるのかな」

「……あってたまるかよ」
「なら一緒じゃないか」

2人は言い合うが、いつまでも裸のままそんなことをしてはいられない。

フランが半ば無理やり、ウルツアを抱き締める。ウルツアの顔が、一気に、真っ赤に染まった。

「な、ななななな何しやがんだテメェっ!?」
「一応、年上だし。私がリードしようかと思ったんだけど」

「だ、だだからって、こんな……!?」
「お風呂に入れられる猫じゃないんだから、暴れないでよ。少しくすぐったい」

フランとウルツアは今までに二度、抱き合ったことがあった。一度目は『心のケア』だとかいう名目で、二度目はつい先ほど。しかしどちらにせよ、衣服越しだった。

今の状況はだいぶ違う。はっきりと性的な営みとして、まだ直立したままだがベッドの傍らで、裸で抱き合っている。その温もり、その柔らかさは今までの比ではない。ウルツアの全身から、あっという間に力が抜けていく。

しかし、彼女が弛緩したタイミングを狙って、フランは彼女の耳にそっと触れるのだ。

「ひぅっ!?」

ぞくりとした感触に、ウルツアの腰が大きく跳ねた。ウルツアは間抜けな悲鳴を上げてしまったことに奥歯をかみ、全身にぎゅっと力を込めるが、無駄な努力でしかない。

フランは身をかがめ、ウルツアの耳にふうと息を吐く。

「ひぁっ!? てめっ、やめ……!?」
「ちゅっ、じゅる……。れろっ、ん……っ」

「ぅぁっ、ひ……!? ぁ、ひゃっ、ぁぁ……!」

フランがウルツアの耳をなめる。あまり唾液でべっとりと汚してしまわないように、呼吸で舌先をいくらか乾かしてから。それと同時に、回した左手で反対側の肩をなでる。ウルツアが全身に込めたはずの力が、温かなお湯に突き落とされた砂糖菓子のように、あっという間に溶けて霧散してしまう。

性拷問とは少し勝手が違うとはいえ、やはりフランはしていた。

「ずっと前から思ってたんだけど。君、やっぱり声かわいいね」
「かわ――っ!?」

ウルツアの顔がぼっと赤く染まった。『かわいい』という言葉が嫌に鼓膜に貼り付いて、離れようとしない。

「いつも無理してドスを利かせてさ。普通に話せばいいのに」
「てめっ、ばかにして……! ひひゃっ、ぁぅっ、ぁぁぁ……!?」

ウルツアがフランに語る機会こそなかったが、彼女が低い声を出すのは健気で稚拙な処世術だった。彼女が住んでいた場所は、力のない小娘だと侮られるのが文字通り命取りだった。

彼女とて、今はもう無理に声を低くする必要がないというのは分かっている。ここは傭兵会社でありながら、存外に平和で、みんな過保護だ。しかし、今更女っぽい声を出すというのは、何だか、ものすごく恥ずかしい。

「っていうか、オレがされる側なんかよぉ……っ」
「そういえば、決めてなかったね。まあ、君が愉しんでるみたいだし、これでいっか」

「誰が、たのしんで……!? ひぁっ、は、いきなりさわんな……!?」

ウルツアは無理をしてでも声を低く保とうとするけれども、フランに右手で内股をなでられると、どうしても甲高い悲鳴を上げてしまう。

そして内股のくすぐったさにバランスを崩し、ベッドに押し倒された。

「ウルツア、知ってるかい?」
「な、何をだよ……」

「……世の中にはね、そうやって強がっている子をいじめたくなってしまう人もいるんだよ」
「っ……」

欲望のにじみ出たその言葉、発情した雌の獣じみたその表情は、いつものフランらしくない。ウルツアは思わず、キスができそうな距離で微笑むフランに見とれてしまう。『ティーンズラブとかに出てくる乙女かよ』――ウルツアは心の中で無理やり悪態をつくが、目を離すことができない。

しかし、それが決定的な隙となった。

次の瞬間、ウルツアは両手に圧迫感を覚える。いつの間に、自分は両腕をいた? ――しかし下ろせない。フランがあっという間に、ウルツアの両手首を拘束具で固定してしまったのだ。

「な、何だこりゃ――」

ウルツアが驚いている間も、フランの行動は素早い。足首に同じような圧迫感を覚えて、彼女はあっという間に両手足を拘束されてしまったことを理解した。彼女が寝ているベッドには、四本の脚につながるように、革具と鎖で作られた拘束具が取り付けられてあったのだ。

「おいテメェっ!? ふっざけ――! 外せコラァッ!!」
「こういう動作は、仕事での経験が活きるものだね」

「言ってる場合かッ!! くそっ、こんなちんけな拘束具なんて……!」

ウルツアは拘束具を引きちぎろうとした。身動きが取れないことによる、正常な防衛反応だ。

この拷問室で使われている拘束は、大人のおもちゃの店で売られているようなちゃちなものではなく、腕っ節の強い傭兵でも解けないほど強固な特注だ。それでも、ウルツアの痛みを無視する《能力》があれば、自身の損傷を厭わず脱出することもできたかもしれない。

しかし、フランが耳元でささやくのだ。

「駄目、暴れないで」
「ひぅ――」

「動いちゃ駄目だよ」

優しく、しかし鋭い声。それだけで、ウルツアは抵抗できなくなる。

精神的な拘束――別にフランが、声を操る《能力》を持っているわけでもない。それなのに、ウルツアはフランに絶対的なイニシアチブを握られているような気がした。そしてそう思うと、不思議と背筋がぞくぞくするのだ。

 

幸か不幸か、フランの性に対する認識は歪んでいた。あまりにも多くの性拷問を行ってきた彼女にとって、性行為のスタンダードはだった。

故に、ただ手や口で愛して心地よくなるだけの行為で満足はしない。フランはベッドから手の届く距離にある棚の上から、手近なを取った。

「な、なんだよ、ぇ……!?」

は、ウルツアが見たことのない道具だった。

シリコンで作られた、二つののようなもの。それは実に女性の乳房にフィットしそうな形で、内側にはピンクローターがくっ付いている。初めて見たウルツアでも、その使は容易に察せた。

「ちょ、ちょっと、待……!」
「してほしいって言ったのは、君のほうだろう?」

「言ってねぇ!?」
「そうだっけ? まあいっか」

ウルツアが拘束具をぎしぎしと鳴らすが、フランの手から逃れることはできない。おわん型の道具が、ウルツアのほぼ真っ平らに近い乳房に貼り付けられていく。

中に仕込まれた、まだ振動すらしていないピンクローターの硬くひんやりとした感触が、ウルツアの腕を鳥肌立たせた。

「ねえ、分かる?」

フランが、ウルツアの顎を持ち上げた。

「私、今、すごい興奮してる……」
「分かってんだよ、そんなことぉ……」

今までの、冷たく優しい態度とは全然違う。どろどろに蕩けた、熱くて、今にでも喰らい付いてきそうな肉食獣のような表情。必死に押さえ付けてきた欲望が姿を現している。

そして、それはウルツアも同じだ。

「っ……♡」

少し怖くて、だいぶ焦っていて。だけどそれ以上に、うれしくて、悦んでいて。ウルツアは、『コイツはそんな気持ちも全部読んでしまうんだろう』と思った。『だから、コイツはどんどん我慢できなくなってしまうんだろう』と思った。そしてそう思うほどに、ウルツア自身もまた興奮してしまう。

お互いの感情が、お互いの感情を煽り続ける。それは終わりのない螺旋階段を駆け上がり続けるようだ。

 

「っあぅ――!? ぁ、これ……! ぁ、ぁぁ、ぁぁ……!?」

フランがのスイッチを入れた瞬間、小さな乳首にむず痒さがやってきた。

おわん型のシリコンの中にあるローターが振動している。その挙動は、ウルツアの予想とは何一つ違わないものであり、そして予想通りに気持ちいいものだった。

「っく……! ひぅっ!? これ、止めっ、ぁぁあ……!」

ローターの振動は、携帯端末の通知よりも優しい。今日に至るまでずっと戦いばかりの人生を送ってきて、性とは無縁で、性感帯の開発なんてこれっぽっちも進んでいないウルツアには、ちょうどいい刺激だ。

しかし、彼女が身じろぎをすると時折、シリコン内部のローターが揺れて当たり具合が変わる。それに驚き、少し甲高い悲鳴を上げてしまう。この不意を突くような刺激は、紛れもなく自分のせいなのに――ウルツアに自覚こそあれど、体のびくつきを抑えることはできない。

独りで悶える彼女のことを、フランが見下ろしていた。

「ねえウルツア、どうしてこの道具を使ったのか分かる?」
「し、知らね、よぉ……!? そんなっ、それどころ、じゃ……!」

は、私が自分でシたかったからだよ」
「っ~~~~!!?」

そう言ってフランは、ウルツアの、毛のないつるつるの秘所に触れた。

ウルツアの背筋が大きくえび反りになる。すっかり愛液でぐしょぐしょに濡れているのが、ひどく恥ずかしい。

「君はたぶん、の経験はないよね」
「っく、ぐ……!? ひぁ、あ、ぁぁ……!!」

「大丈夫だよ。だけでも、いくらでも気持ちよくなれる」

フランがウルツアの秘所に触れた瞬間、彼女の内股の筋肉が過剰に緊張した。未経験の敏感な部位に触れられることに対する、少女として至極当然の反射だ。

それを察したのか、フランが彼女の膣内に指を挿れることはなかった。しかしその分、執拗なまでの愛撫がを襲うことになる。

「なんっ、で……! そんな、変なとこ、ばかりぃ……!?」
「普通だよ。最初からいきなりを触らないで、周囲から始めて、体の準備ができてから触るんだ。こういうふうにね」

「ひゃぁあっ!!? やっ、て、てめっ!? っ、ぅぅぅぅうっ!!?」
「ほら、声を我慢しない。地声でいいから。別に、ばかになんてしないよ」

内股を優しく引っかき、愛液の滴が漏れ始めたら膣口をなでる。すると、ウルツアの体が『この人になら触られても大丈夫だ』と認識して、筋肉を弛緩させていく。しかしその刺激は、彼女がうっとりできる程度をわずかに越えたものだ。『乱されている』という感覚が、ウルツアに羞恥心と被支配感を覚えさせる。

そして慎ましやかなクリトリスが勃起した頃合いを見計らって、フランは薄い包皮ごとそれを口に含むのだ。

「ふやぁぁぁぁぁあっ♡♡♡ ちょっ、これ、しゃれにならっ、ぁぁぁぁぁああああっ!!?」 

柔らかく、しかし粘性のある舌遣いが、敏感すぎるクリトリスを蕩かされるような気分にさせる。ウルツアの反応が、目に見えて大きくなる。

「ひゃっ、ぁっ、ぁあっ♡♡♡ だめっ、これっ、耐えられっ!!? ひっ、ひゃ、ぁぁぁぁぁぁあっ♡♡♡」

わざと低くした声だとか、乱暴な口調だとか、強がりな態度だとかを忘れ去るぐらいだった。ウルツアはもう、甲高い声で喘ぎ、いやいやと首を横に振るだけだ。

「くひっ、ひゃっ、ぁ――♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!! ひぅ――♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡」

小さな体が大きく跳ねる。腰が浮き上がって、自分の秘所をより強くフランの口に押し当ててしまう。

ウルツアが自身の半生を思い返してみたら、もしかしたら性的に絶頂したことなんて、生まれて初めてかもしれない。『股間をいじくられるのがそんなに好きかよ』とばかにしていたこともあったかもしれない――だけど、ああ、かけがえのない相手にイカされるというのは、こんなにも幸せになれることなのか。

絶頂の余韻が引いていくまで、実時間にして数十秒かかった。ウルツアの体感時間では、2~3分はイキっぱなしだったと思った。それだけ大きな絶頂だった。たった1回の絶頂で大いに満足していたウルツアのことを、フランが見下ろしていた。その時にはもう、乳首をいじめる道具の動きは止まっていた。

「お疲れ様、ウルツア」
「……おう」

ウルツアは喉に力を込めて、無理やり低い声で返す。

フランは一見、優しく微笑んでいるように見えた。しかしウルツアは、彼女の瞳の奥にあるを容易に感じ取っていた。

しかし、ウルツアが荒立った息を整えて口を開こうとした瞬間、それよりも早く、フランが口を開くのだ。

「ねえ、ウルツア」
「……ぁ?」

「――もっと、思いっ切りしてもいいかな?」

『やっぱりな』と、ウルツアは思った。だってフランが、自分の欲望を必死に押さえ付けているような表情をしていたから。

今までの彼女たちであれば、今日の情事はもうおしまいだったかもしれない。まさか自分から言い出すなんて――その予想外が、ウルツアにとって何だか無性にうれしかった。

「……好きにしろよ」
「でも」

「オレがテメェなんかのやることに、根を上げると思うか?」

ふとウルツアの脳内を過るのは、初めて性拷問の現場を目撃してしまった時のこと。

怖い。だけど、それがフランによって齎されるものなら――もしもこの返事のせいで苦しむことになろうとも、彼女はきっと後悔しないだろうと思った。

 

フランが取り出したのは、電動マッサージ器だった。

いかにも胸を責め立てるのに都合がよさそうなおわん型の道具と比較すると、先端にこぶし大の球体が付いただけのシンプルな機械は、うぶなウルツアにはかえって用途が分からないかもしれない。

しかし、フランがスイッチをかちりと入れて振動音を鳴らすと、ウルツアはその使い方を理解した。、やべぇかも――電動マッサージ器の音は、両胸に取り付けられたローターの音よりも、圧倒的に大きかったのだ。

「っ」

ウルツアの喉からごくりという音が鳴る。緊張しながら、電動マッサージ器を持つフランのを見つめる。しかし予想外の刺激がやってくる。マッサージ器を持っていないが、ウルツアの股間を包み込んだのだ。

「ふゃ♡♡ ぁ――♡♡」

火照った手のひらに股間を包まれるだけで、あまりの心地よさに腰が浮いてしまいそうだ。そして股間を包み込んだ左手の上から、電動マッサージ器が当てられた。

「ぁ、ぉ゛っ♡♡♡ ぉ、ぉぉぉぉおっ♡♡♡ ぉ゛ぉぉぉおおおおおおっ♡♡♡」
「言っておくけれど、こんなものじゃないよ?」

「っ――♡♡♡ こ、この程度、何とっ、も゛ぉぉぉおっ!!? つ、つよく、な――♡♡♡ ぁ゛、ぁぁぁぁぁぁあああああっ♡♡♡」

電動マッサージ器を当てる時に何か緩衝材を挟むのは、セックスのハウツーにでも書かれているような至極当然の行為だった。最初こそ、ほどよく軽減された振動が、ウルツアの秘所全体を優しく包み込むように刺激していた。

しかし、フランの情事はただうっとりするだけでは終わらない。段々と、少しずつ、電動マッサージ器のクッションになっていた左手がいく。

「ちょ、ま゛――♡♡♡♡ これっ、強っ、強すぎるってぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇええええっ♡♡♡♡」
「でも、気持ちいいでしょ?」
「そういう問題じゃない゛ぃぃぃぃぃぃいっ♡♡♡♡ きもぢっ、よすぎ、て――♡♡♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁぁぁああああああああっ♡♡♡♡」

「そういえば、を切ったままだったね」
「ひぅぁあっ♡♡♡♡ 胸っ、今はだめっ♡♡♡♡ ぁ゛ぅぁぁぁあ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ♡♡♡♡」

乳首に取り付けられた道具が、再び動き出した。

ウルツアのうっとりとした喘ぎ声は、あっという間に引きつり、濁り、悲鳴のように変わっていく。いつの間にか電動マッサージ器が、ウルツアの股間を直接震わせている。

ただ、股間に振動するものを押し当てられているだけ。それがこんなにも、涙がぼろぼろ零れるほど気持ちいいものだと知らなかった。

「だめっ、これ、も゛――♡♡♡♡ ぃ、イ、ぃ゛――♡♡♡♡」
「我慢しないで……ほら」

「ぁ゛、ぉ゛ぉぉぉぉぉぉおおっ♡♡♡♡ 押し付けっ、ぢゃ――♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ ぃぎっ♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」

絶頂の瞬間、フランは手首をひねって、電動マッサージ器の振動でもってウルツアのクリトリスを押しつぶす。痛みを及ぼさないぎりぎりの快感に、ウルツアは自分の視界がぱちぱちと明滅しているような気さえした。

そしてウルツアが絶頂しているさなかでも、電動マッサージ器の振動は止まらないのだ。

「なんっ、でっ♡♡♡♡ さっぎ、イッ、だ――♡♡♡♡ イッたっでぇぇぇぇぇぇぇぇええっ♡♡♡♡」
「知ってるよ。でも、イッた直後ってすごく気持ちいいから。味わわせないと損だなって」

「別にそんなの゛いいがらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ♡♡♡♡ ぁぎ――♡♡♡♡ ぃ゛ぃぃいい~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」

『根比べ』という言葉がある。路地裏でしぶとく生き残ってきたウルツアが、本来得意とするものだ。とにかく今は耐えて、耐えて、耐えて、フランが満足するか、疲れるまで待つしかなかった。

しかし。

「ぁぎっ、ぃ゛――♡♡♡♡ またっ、イ゛――♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
「数えるだけ無駄だよ。どうせ数え切れない回数イクし、その内、数も数えられなくなる」

電力でもって動く電動マッサージ器は疲労の概念とは程遠く、それをただ持つだけのフランに疲労はほとんどない。そしてこの程度の情事で、フランは満足しない。

一方でウルツアは、ただ電動マッサージ器を当てられるだけで、何度も全身を痙攣させられる。ほんの少し手首をひねってクリトリスをぐりぐりと押しつぶされるだけで、それが何倍にも強くなる。

当然、根を上げるのはウルツアのほうだった。

「これっ、むりだってっ、無理ぃ゛ぃぃぃぃぃぃいっ♡♡♡♡ むりっ、ぃぎ――♡♡♡♡ ぎぃぃぃい~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
「大丈夫だよ。ちゃんと、で止めるから」

「ちょく、ぜ――!!!? ちょくぜんっで――♡♡♡♡ っで何ぃぃぃぃい――っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」

限度があるだろ! ――ウルツアは怒りたかったが、口の中に甘いもやもやがたっぷりと満たされていると、満足に口を利くこともできない。ウルツアはあっという間に、安易な返事をしてしまったことを後悔した。このままでは気持ちよさでおかしくなってしまう。

ウルツアは声を出し、首を振り乱し、手足を引っ張り続ける。『とにかく何とかしなければ』と必死だった。戦闘のさなかでもないのに、まるで殺されるかのような危機感を覚えた。

――故に、その《能力》に行き着くのは必然だったのかもしれない。

 

「――ん?」
「ふーーっ♡♡♡ ふーーーーっ♡♡♡ はっ、はぁ……♡♡♡」

フランが声を上げたのは、ウルツアの反応が変わったからだ。こんなにも電動マッサージ器を当てているというのに、突然喘ぎ声が止まり、荒立った息を整え始めている。

「はは……っ。使が、あったのか……」
「……それは、君の《能力》だよね?」

ウルツアの異能は《痛覚遮断》――痛みを感じなくできるというものだった。

たとえ幾十幾百の傷を受けようが、痛みなく、恐れなく、狂戦士のように戦い続けることのできるそれは、異能と呼ぶにふさわしい。しかし、結局首をはねられれば死んでしまうことを鑑みれば、さまざまな《能力》の中でも、そこまで強力というわけではない。

その程度の評価に落ち着いていたのは、無視できるのがだと認識していたからだ。今、彼女が無視していたのは、明らかに痛覚ではない。

「なるほど。痛覚を無視できるなら、も然り、と」
「そう、みてーだな」

「ふうん。元はといえば、脳、あるいは神経に作用する《能力》ということだ。もしかしたら、応用次第でいくらでも強力になるかもしれないね」
「……こんなことで気付きたくはなかったけどな」

まさか裸で乳繰り合っている時に、戦いの道具について思索を巡らせることになろうとは。しかし《能力》の思わぬ進化は、今のウルツアには僥倖……だと思った。

「だけどよ、何にせよこれでテメェのふざけた、その、あれ、それも効かねーぜ」
「そう」

フランは構わず、ウルツアのことを犯し続ける。ウルツアは息を整えて勝ち誇るのに忙しかったから、に目を向ける暇がなかったのだ。

「ウルツア。、見てごらん」
「あ?」

ウルツアが、フランに促されるまま自分の体を見下ろしてみると、電動マッサージ器を押し当てられている秘所から、現在進行形でとんでもない量の愛液が噴き出していて……。

「……へ?」
「目覚めたばかりで、《能力》が安定していないのかな。体は確かに感じているみたいだよ」

自分の脳では快感を認識していないはずなのに、体は確かに絶頂を繰り返している。

喘ぎ声は出ていない、呼吸も正常、赤らんだ顔も落ち着きつつある――それは『感覚がない』というよりは、自分の首を境に体の上下が別ものになってしまったかのよう。神経のつながりだとか、脳の働きだとか、いろいろなものが分からなくなってしまう現象だ。そう考えるとやはり、異能と呼ぶにふさわしいのかもしれない。

しかし今は、そんなことを言っていられない。

「ウルツア、一つ言っておかなければいけないことがあるんだけど。快感って、が重要なんだよ」
「な、何の話をして……」

「性拷問師の言うことじゃあないんだけどね。相手にあまり負担を掛けたくない場合、弱い快感から始めて少しずつ慣らしていくようにするんだ。いきなり強い快感から始めると、結構きつい」
「そ、それは、つまり……」

「……もしかしなくてもさ。その《能力》、続ければ続けるほど、がきついんじゃない?」

フランの説明するそれは、『ゆでガエル』の話に似ていた。カエルをいきなり熱湯に落とせばその熱さに気付いてすぐさま逃げ出すが、ぬるま湯に落として徐々に温度を上げていけば、その変化に対して気付かずゆで上がってしまう。戒めの方向としては真逆の話だが、もしもウルツアが《能力》を解いたら、その瞬間に熱湯のごとき快感が彼女を襲うことになるのだ。

ウルツアが思い返せば、今日のフランは一応、しっかりと弱い快感から慣らしてくれていた。それでもなお、心身がぐちゃぐちゃになるぐらいの気持ちよさだ。もしも、数え切れないほど絶頂し、体にはそれだけで絶頂に至らしめるほどの余韻がまとわりつき、感度は最高にまで上がっていて――そんな状態からいきなり、全ての快感を認識してしまったら?

新しく目覚めた《能力》が、今後どう進化していくかは分からない。しかし現段階において間違いなく言えるのは、問題の根本的な解決になっていないということ。これは、ただのだ。

「こんなの、冗談じゃ……!?」

後々のことを想像すると、もう自分がどうなってしまうかも分からない。さっさと《能力》を解いてしまったほうがまだマシだ――ウルツアはそう思うが。

「またイッたね」
「ひ――っ!?」

自分の体が勝手に絶頂を迎えるたびに、体の痙攣が頭部にまで響いてくる。怖くて、《能力》を解くタイミングを失ってしまう。

今のウルツアの体はとうに、自分の限界を超えた快感を受けているのだ。

「お、おねが……っ、やめ……!?」
「……やだ」

「ど、ど、して……!?」
「…………君が、悦んでるからだよ……」

ウルツアはその言葉を否定できない。

恐いはずなのに、真に抗えない。何も感じないはずの背筋が、どうしてこうもぞくぞくしているのだろう。自分がマゾヒストなのか、それとも、フランの欲望を一身に受けることがこの上なくうれしいのか。

 

「せっかく君が何も感じないんだし、ちょっともらおうかな」

ウルツアの股間から、電動マッサージ器が離れていく。触覚では何も感じられないウルツアが視覚でそれを確かめて、ほっとしたのはつかの間のことだった。

すぐさまフランの指が、ウルツアの体を襲った。愛撫にしては嫌にわきわきとうごめく指先。胸でも秘所でもなく、腋の下という、性行為にしては少しおかしな接触部位。それは明らかに愛撫ではない、『くすぐり責め』だ。

「なにっ、何、してぇっ!?」
「この前、後輩がこれをやってたのを思い出したんだ。私のほうでも取り入れられないかなって」

感覚を遮断した体へのくすぐり責め。それは一見すると不思議な光景だ。

フランの指がうごめきながら、腋の下から腰までを何度も往復する。普段の彼女なら、無理やり笑わさせられることに怒りを覚えながらも、どうしようもない感覚に耐えられなかっただろう。

しかし今のウルツアは、笑い出すこともなければ、表情すら変わらない。それでも確かに、くすぐられている部位の筋肉が面白いほどに、びくびくと痙攣している。彼女の認識の外で、体は明らかにくすぐったさを感じていた。

「君は、足の裏をくすぐられるのが弱いんだね」
「ぅぁ、ぁぁぁぁ……!!?」

特に小さな足の裏をくすぐられると、指先から太ももまでが隈なく痙攣する。『自分の体をもてあそばれている』という思いが強くなる。甘い屈辱感に、ウルツアは何も言えなくなる――本来ならやめてほしいはずなのに、顔を真っ赤にして怒っていいはずなのに、このままずっともてあそんでほしいと思ってしまうのはどうしてだろう?

しかし、ずっとは続かない。当の本人である2人ですら想定外のことが起きる。フランがウルツアの足の裏をくすぐり続けていたら、彼女の秘所から突然潮が吹き出たのだ。

「わっ」
「へ――!?」

ウルツアの両脚の間に腰掛けていたフランの体に、潮がかかる。その現象のを理解すると、既に真っ赤だったウルツアの顔が、より一層真っ赤に染まっていった。

「もぉぉ、やだぁぁぁ……」

まさかくすぐられるだけで絶頂に至るなんて――ウルツアはもう、あまりの恥ずかしさに年相応の甲高い声を上げるだけだ。

「……今度から、仕事にも取り入れられそうだ」

フランも、いかにも冷静そうな言葉を、熱のこもった声音で呟くのだった。

 

「それで? 君はいつまで快感を閉ざしているつもり?」
「だ、だって、これ……! これぇ……!?」

再び、電動マッサージ器がウルツアの股間に押し当てられる。

体だけが何度も何度もイキ続ける。ウルツアはもう、《能力》を解くタイミングを完全に失っていた。不思議で、恐ろしく、甘い羞恥と屈辱に、目がぐるぐると回りそうだ。

しかしフランも、反応のちぐはぐな彼女との行為に飽きたらしい。

「このまま続けていてもキリがないね」
「ぁ、ぇ」

「私は、君のかわいい表情や声を愉しみたかったのに」

『まあ、今の君も大概かわいいけどさ』――フランのその言葉は、決しておしまいの合図ではなかった。彼女は拘束されたままのウルツアに覆いかぶさり、その全身を抱き締めたのだ。

「君、好きだろう? 抱き締められるの」
「ぅ、ぁ……!」

ウルツアはうめき声を上げる。抱擁が心地よかったからではない、苦しかったからでもない。《能力》のせいで、抱擁を受けてなお何も感じないからだ。その柔らかさも、滑らかさも、温もりも。まるで自分の体の表面に、分厚いフィルムを貼り付けたようだ。

「君からじゃあ見えないだろうから言うけど、電動マッサージ器はまだ動いてるよ。……どうする?」

フランのその言葉は、誠意とでも言うべきだろうか。それとも、ただもてあそんでいるだけか。

今、ウルツアが《能力》を解いてしまったら、電動マッサージ器の刺激を受けることになる。しかも、数え切れないほど絶頂し、体にはそれだけで絶頂に至らしめるほどの余韻がまとわりつき、感度は最高にまで上がっていて――そんな状態での、電動マッサージ器による責めだ。

それでも抱き締めるという行為は、ウルツアにとって、ただ言葉で説得するより何百倍も有効なやり方だった。

「ぁ――」

それはまるで、ドラマの一コマのようだった。あまりに衝撃的な出来事を前に、手に持ったグラスを滑り落としてしまうかのように。

ウルツアは無意識的に、全身の神経の接続を復活させたのだ。

「ぁ゛――!!? ぁ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁあっ!!!! ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!?」

フランの左手はウルツアの背中に回され、電動マッサージ器を持った右手は相も変わらず彼女のクリトリスに。両乳首にだって、ずっとローターがくっ付いている。体に有り余る強烈な快感を認識した瞬間、ウルツアは叫び声を上げた。

快感を遮断していた今までも、確かに絶頂はしていた。しかしそれはあくまでの絶頂だ。全ての快感を認めた彼女は今、肉体だけでなく脳も、心すらも快楽に溶かされていく。

「ぁぐっ、ぅ゛、ぅぅぅぅううっ!!!!? ふぐ――♡♡♡♡♡ っぅ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っ――♡♡♡♡♡ ッ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」

ウルツアは思わず、自分のことを抱き締めてくれているフランの肩をかんだ。

自分の体は、こんなにもいたのか。全身の筋肉が、こんなにもおかしくなるぐらい痙攣していたのか。それを押さえ付けられるように抱き締められるのが、こんなにも心地いいものだったのか。

さまざまな驚きが沸き上がり、さらに強い衝撃かいかんに押し流されていく。そして、驚けるだけ驚いたら、もう何も考えられなくなる。

「ぁぐ、ふっ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ぁ、ぁ、ぁ゛――……♡♡♡♡♡」

ウルツアの体は、もうとっくに限界を迎えていた。最高の感度を保っていられたのは、ほんの数十秒だけ。その後はどんどん感覚が閉じていく。《能力》によるものではなく、ただの疲労だ。もう、いつ気絶してもおかしくない。

その時、フランは彼女の頬に軽くキスをしながら、電動マッサージ器をひときわ強く、ウルツアのクリトリスに押し付けたのだった。

「っっっあ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁ゛――♡♡♡♡♡ ぉ゛――♡♡♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」

最後の絶頂が訪れる。

体液を全て搾り出されるのではないかと疑ってしまうぐらい、強烈な快感がやってくる。体はもう、どれだけひどい痙攣をしているのか認識もできない。抱き締めてもらっていて良かった。そうでなければ、体がどこかに飛んでいってしまっていた、みっともない表情を見られてしまっていた。

あまりにも苛烈な行為、それなのに、心は驚くほどに薄紅色に染まっていく。ウルツアは、自分の体にたまった快楽を一滴残らず吐き出すまで絶頂し続けるのだ。

 

「ぁ゛――……♡♡♡♡♡ ひ、ぁ、ぁ゛――……♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡」

ウルツアの体が大きく痙攣し、段々と波が引くように落ち着いていく。それでも最後にひときわ大きく、びく、びく、びくと跳ねたのち、とうとう行為が終わる。

フランはウルツアにくっ付いた全ての道具の電源を切って遠ざけ、拘束具も外すと、しかし自身の体は遠ざけることなく、むしろ彼女を強く抱き締めた。

「……ありがとう」
「へへ……♡」

フランに頭をなでられて、ウルツアは緩んだ笑い声を上げた。ほとんど無意識の反応だった。意識がぼんやりとする中、フランが『やっぱりかわいいな』と呟いた気がする。

ほんの数週間前のウルツアなら、こんなことになるなんて想像も付かなかった。こんな会社に入るなんて、こんなやつと出会うなんて、こんなやつに抱かれるなんて、……それが、こんなにも幸せだなんて。

心の底から腹立たしい相手との、甘く、穏やかな時間が過ぎていく。

ウルツアがフランに抱き締められながら、あまりの恥ずかしさに叫び声を上げるのは、今から十数分先のことだった。

 

――――
――

 

――――
――

 

――――
――

 

「……君は何というか、ムードもへったくれもないね」
「う、うるっ、ううううううう!」

「いきなり耳元で叫び出すなんて。鼓膜が破れるかと思ったよ」
「っ~~~~!!」

絶頂から十数分後のこと、2人はベッドの上で背中を向け合っていた。フランは耳元で大声を上げられたことに少し腹を立てていた。

ウルツアは何だかもう、いろいろな気持ちがごちゃごちゃでそれどころではなかった。フランに抱かれてうれしい、フランにもてあそばれて悔しい、フランにみっともない姿を晒して恥ずかしい、フランを不機嫌にさせて悲しい、いややっぱりオレは悪くねぇ全部フランが悪い! ――全てがごちゃごちゃのせいで、『うるせえ!』という言葉すら出てこない。

「……ねえ、ウルツア」
「んだよ」

フランが静かに呟く。ウルツアは真っ赤な顔を背けたまま応えた。

「私は、この《能力》が嫌いだよ。どうあっても、他人の心なんて読めるべきじゃない」
「…………」

「拷問も。君はああ言ってくれたけど、どんなに正当化しようとも、悪でないはずがない。私は確かに、人を傷つけている」

全ての発端は《読心》という異能だった。たまたま最悪の異能を持ってしまったせいで、嫌われ、幽閉され、命を狙われ、暗惨たる人生を送ってきた。そして、異能に加えてさらに拷問――2種類の嫌悪が、今のフランを苛んでいる。

どれだけウルツアが肯定しようとも、それは無垢な少女の好意的な解釈に過ぎない。物事のほんの一面であり、それだけで行い全てを正当化していいわけがない。

それでも、フランはふっと笑いながら続けるのだ。

「……それでも、君に恥までかかせたんだ。もう少し、向き合ってみるよ」

ウルツアは振り返る。フランの少し不安そうで、それでもどこかつき物が落ちたような顔を見て、ウルツアは確かに、彼女の中で何かが変わったのだろうと思った。

そう簡単に、苦しみは終わらない。生真面目が過ぎるフランのことだ、もしかしたら一生続くかもしれない。それでも、前に進んでくれるなら。

「だめ、かな」
「…………よ……」

「え……?」

もしもまた、コイツがくじけそうになったとしても、自分が抱き締めてやればいい。それで今度は自分がくじけそうになったら、コイツに抱き締めてもらえばいい。半人前同士、一緒に前に進んでいけば、いつかはもう少しになれるだろう――だから、ウルツアは返すのだ。

「――いいよ、それで」

しかし、ウルツアが返事をした瞬間、フランが目を見開く。フランの驚くような反応に、ウルツアもつられて驚いた。

「……君って、笑うんだね」
「はぁ? 何言ってんだテメェ」

「君がそういうふうに笑うところ、初めて見たよ」
「そりゃ、こっちの台詞だろが。いっつも仏頂面してやがるくせに。テメェが笑うのを見るのに、オレは3週間かかったぜ」

「それなら、私は4週間だよ」

そう言い合ってから、2人は笑い合うのだった。

「私たちはやっぱり、案外似た者同士なのかもね」
「かもな」

 

発火パイロキネシス》、《念力テレキネシス》、《とにかく何かすごいやつエターナルフォースブリザード》――。

さまざまな《能力》に目覚め、敵と戦い、血を流し、成長し。あまたの《能力者》たちが格好良く描かれていく《異能バトルものせかい》。

――裏方の物語は、少しずつ形を変えながら、続いていくのだ。

 

目次

表紙
 #簡単なご案内など
第1話 読心 -ノンバーバル-
 #クリ責め #電マ #ローションガーゼ
第2話 自声愛撫 -ジメツ-
 #くすぐり #声我慢 #超音波
第3話 非接触絶頂 -ムッツリ-
 #ささやき #見せつけ #脳イキ
第4話 絶頂引延 -トワノマタタキ-
 #シリコンチェーンソー #ブラシ責め #体感時間操作
第5話 はじめての
 #クンニ #寸止め
第6話 感覚遮断 -カイカンノサキオクリ-
 #乳首責め #ニップルドーム #クリ責め #電マ #くすぐり #感覚遮断
最終話 伝心 -ワタシノココロ-
 #キス #胸揉み #電マ #くすぐり #ブラシ責め #感覚共有
おまけ
 #キャラクターのちょっとした紹介