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目次
表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》
第7節 貴女は悪い神さまですか?
テーゼの一味に襲われた日の夜、私はアバターに短剣を突き立てた。
場所は小さな町の小さな宿、日が沈み切るぎりぎりの時間に辿り着いた場所だった。私は宿の部屋に入るや否や、アバターを床に押し倒して、馬乗りになったまま、その小さな身体に短剣を突き刺した。
何度も何度も突き刺した。自分の殺意を確かめるように、私は必死にアバターを突き刺し続けた。その時私は、癇癪を起こした子どものように、何かを叫んでいたかもしれない。自分でそのことに気付かないぐらい、無我夢中で突き刺し続けた。
だけど、刺せば刺すほど腕が重くなっていく。決して疲れたわけではない、その程度で疲れるほどやわではない。私を生かし続けてきたはずの殺意が、すっかりさび付いていることに気付く。
いつしか、腕はぴくりとも動かなくなっていた。
その間、アバターは死ぬことなく、傷付くことすらなく、だけど怒ることもなく。ただ動かずに、無言で私を見つめていた。
「ずっとつらかったんです」
私は沈黙するアバターに声を落とした。どうしてこんなことを話してしまうのか、自分でも分からなかった。
「子供の時からずっと、ずっとです。だから、ああ、《神さま》は悪いひとなんだって。ずっと、思っていたんです。なのに」
「…………」
「アバター。私は、貴女が分からない」
私の声が乾いていく。
「……貴女は悪い神さまですか?」
最後に口から出たのは、子供のような質問だった。
静寂が部屋を包む。耳が痛い、頭が重い、胸が苦しい。まるで水底に沈められたみたいだ。
ややあって、アバターは目を背けて答えた。
「悪いに決まってる」
その表情は、いつもの面倒くさそうなしかめっ面ではない。何かを拒絶するような、ひどく冷たい無表情だった。
「僕は色事のために、この《世界》を創った。善いわけがない」
「貴女は私を助けてくれた」
「ぎりぎりまで助けなかった。その気になれば、もっと早く助けられた」
「しかし」
「……生きてさえいればよかったんだ。そうすれば、僕はまた、君を好きに犯せるんだからね」
ああ、なんておぞましい言葉なのだろう。アバターは私の望んでいた言葉をどこまでも吐き散らしてくれる。それなのに、その言葉はなんて、なんて空虚なのだろう。
ああ、どうやらアバターは、嘘が下手みたいだ。
「それなら、悪で在ってくださいよッ!!?」
私は絶叫した。
「好きに殺して、好きに犯して!! どうして、どうしていつも、そうやって苦しそうな顔をしているんですかッッ!!?」
そうだ、その顔だ。全てを拒絶するような、冷たい表情。最初こそ、私はその顔が恐かった。だけど、その目の奥をよく見ると分かる、分かってしまう。
彼の者は今、怯えていたのだ。今の私のように、ただ子どものように喚き散らすだけの者にすら。
「私を犯したいなら、犯してくださいよ」
「……いいの?」
アバターは小さく嗤うと、私の修道服の胸元をつかむ。ああ、滑稽だ。気付いていないのだろうか? その小さな手が震えていることに。
私はアバターの手をつかんで、そっと引き離す。彼の者の手は何の抵抗もなく、私の服から離れていった。
「済みません。私のわがままでした」
『一体、君は僕を何だと思ってるんだろうね?』――いつの日か問い掛けられた言葉を思い出す。その答えは、ずっと前から気付いていたことだった。
この狂った《世界》を創ったのは、確かに彼の者で間違いないのだろう。どうしてそれに至ったのかは分からない。だけど今の彼の者は、殺意を向けるにはあまりに人並み……いや、それ以上に卑小で、臆病者だ。
向き合ってしまったら、もう駄目だった。私はアバターから離れ、部屋の扉を開いた。
「さようなら」
私は《神》を殺すために、彼の者と時間を共にしていた。殺意が朽ちた以上、ここにいる理由はない。
彼の者は床に倒れたまま、私のことを呆然と見つめていたのだった。
それから、私は歩き続けた。
昼も、夜も。町も、森も、山も。歩き疲れたら、その場で気絶するようにして眠った。
殺す相手を、生きる目的を手放した私は、当てもなく歩き続ける。もう、何日歩いただろうか、ここがどこなのかも分からない。
「逃亡者のアレリナ・エルバーエンスだな。我々と共に来てもらおう」
突然鎧を着た男たちに囲まれ、そう言われても、抵抗する気力が湧かなかったのだった。
――――
――
空の教国、その中央にそびえる国の中核――大聖堂。結局、ここに戻ってきてしまった。
僧兵どもに連れられた裏口で、私を迎えたのは1人の男だった。
「孤児の貴様に立場をくれてやったというのに、何という親不孝者よ」
「デグロ・エルバーエンス……」
私よりもいくらか背の高いその男は、私の顎をつかんで上を向かせた。
司祭デグロ・エルバーエンス。峻烈たる態度を気取ってはいるが、金と女にしか興味がない醜い男。私をもっとも数多く犯した男であり、そして父だ。私とこの男に、血の繋がりなんてない。ただお気に入りをつなぎ止めていたいという理由で、私を養子に迎えただけだった。
その声を聞くだけで、その姿を見るだけで、生気を失ったはずの身体が震える。幼い頃から長年に渡って植え付けられたトラウマが蘇る。
「フン、生意気な目だ。ああ、貴様はいつもそうだったとも。他の女であれば、とうの昔に心折れ、尾を振るだけの雌犬に成り果てようものを。貴様は、貴様だけは、あまつさえ……ッ」
デグロの恨み言は止まらない。
それはそうだろう。養子とはいえ、自分の子が逆徒になったのだ、本来であれば失脚は免れまい。まだここにいられるということは、賄賂や恐喝、隠蔽――方途を尽くして己を今の地位に縫い止めているということだ。
「もう遅い、貴様はやりすぎた。貴様は私以外の男どもに下劣に触れられ、そして果てる。最初から私のものになってさえいれば、こんなことには……ッ」
それでもなお、デグロは私に執着していた。彼は誰よりも私を憎み、そして愛していたのだ。
デグロはわなわなと震わせていた握り拳を緩めると、深く息を付いて歩き出した。
「数日後に枢機卿がいらっしゃる。それと、貴様の処刑をご覧になる方々もな。それまで、貴様の末路を見せてやるわ」
枢機卿――法王を直接的に補佐する、教会でも指折りの権力者だ。そんな立場の者でさえ、この蛮行に加担する。それがこの国の実態だ。
私たちは聖堂の中を歩いていく。先頭にデグロ、その後ろに私と、十数名の僧兵たち。すれ違う者が一様に、私に振り返る。
聖堂の最も奥にある、暗い下り階段を進むこと数十段、分厚い鉄の扉を潜ること3枚。行き先は大聖堂の最奥にある地下室。
大聖堂には、二つの地下室があった。一つは納骨堂。この世界を生きる人々にとって、肉体の終着点となる。私たちが行くのは別、一部の者にとってもう一つの終着点となる場所だった。
「っ」
「貴様はここに来たことがないだろう。当然だ。ここに連れてきてしまえば、貴様はもう、私のものではなくなってしまう」
深い深い地下には、あまりに大きな広間があった。地上にある大聖堂そのものが、この空間にすっぽりと収まってしまいそうだ。『国土に限りはあれど、地下に限りはない』と言わんばかりに堀り抜かれた空間が、大理石で囲われ、数十本の分厚い柱に支えられている。
そして、そんなあまりに広すぎる広間で、男と女たちが無秩序にひしめき合っていた。
「やだっ、くすぐらないでぇぇぇっへっへへへへへへへへへへへへぇぇぇっ!!!!? 腋の下もっ、お腹もっ、足の裏もぉ゛ぉぁぁっはっひゃっはははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあッ!!!!?」
「君はここに来るのが初めてか? ここでは休むことなく、快感をその身に受け続けなければならないのだよ?」
「どうしでっ、どうしで私がこんなこどぉぉぉぁぁっはっはははははははははははははははひゃはぁぁ~~~~~~~~!!!!? ぁはっ、っぁ゛~~~~~~~~ッ!!!!?」
「お前は確か、地方では有力な商家の娘だったか。かわいそうに、お前の父親が教会に逆らったせいで、私のような男にくすぐり犯されることになったのだからなぁ」
「ぁ゛はぁぁぁぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡ はひひひひぃぃい――♡♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「何だ、三日三晩くすぐり続けただけで壊れてしまったのか。ふぅむ、この娘は部下どもにくれてやるとするかのう」
もはや一人一人を数えることすらばからしい。全て合わせれば1000人はくだらない。そしてたった数十名いる警備の僧兵を除いて、全員が狂宴に興じているのだ。
「……狂っている」
私は思わずぽつりと呟いた。
審問、奉仕、処刑――結局行っていることは全て同じでも、その建前は違う。
私たちが入ってきた扉、この広間唯一の入り口から1番近い柱の下では、異教者に対する審問が行われていた。
1人の女性が、腕を頭上に掲げさせられたまま、大樹の幹のように太い柱に繋がれている。焦げた茶色の髪を、腰元まで伸ばした女性だ。背は小さく、しかし体は大人と呼ぶに足る女性らしさ。
「っぐっ……!? くはっ、ひゃははははっ! ぁっ、う゛っ、ふぅぅぅ……!!」
「神の御言葉に背く愚か者よ。そろそろ、その汚れた心を改める気はないのかね?」
「くふぅっ! な、何を言われよう、と、学問において虚言を弄することは、許されません……! ひゃはっ、ぁはぁぁ!?」
「ふん。その狷介たる態度、いつまで持つかな? そうら、腋の下を軽くなでるだけで、見る見るうちに腕が鳥肌立っていくぞ?」
「ひゃはぁっ!? ぁ……!? ぅくっ、ふふふふぅぅぅっ!?」
『学問』――どうやら、彼女は学者のようだった。しかし本来、この国の出身ではないはずだ。おそらくよその国出身で、研究か何かのためにこの国に訪れたのだろう。
この国で神学の研究をしようなど、愚かとしか言えないからだ。この国においては教会の言葉こそ全ての真理であり、そこには一切の反論が許されない。特に美しい女性なら、たった一言でも反論すればああなる。
2人の男が、彼女に指を這わせている。一人が右半身を、もう一人が左半身を、胸元から腰元まで、上半身を中心に。本気ではないものの、決して弱くはない、確かなくすぐり責めだ。
男たちはただ、彼女を肉欲のままに犯しているわけではないようだった。あれはひどく趣味の悪い遊戯だ。
「しかし主は慈悲深い。貴様の精神力が持つ限り、主は貴様に赦しの時間を与えよう」
「くひゃっ、ひゃっはははははははぁっ!? そこ、だめ……!? 何か、入ったはぁ――!?」
「おおっと! 今、桶が揺れたぞ? 忘れたのか? あれは貴様への罰であると」
「ぅぐ……!? ふっ、ぅぅ゛、ぅぅぅぅーーっ!!?」
桶か、なるほど。
彼女の頭上、太い柱の途中には、棚が取り付けられていた。柱に施された装飾の出っ張りに木の板をくくり付けただけの、実に簡素な棚だ。
よく見れば、彼女が体を揺すると同時に、棚の上にある桶ががたがたと揺れている。どうやら、手首にくくられた縄は、棚の上にある桶につながれているらしい。
このままでは、やがて彼女の頭上にある桶は引っくり返ってしまうだろう。どう見ても、男たちがそれを強い、彼女はそれをさせまいと我慢しているようだった。
「っくっ、ふ……!? ふふふっ、ひゃっははははははははぁぁぁ……!!? ぁはっ、ぁはっ!? はっ、ぁぁぁぁ……!!」
男たちの手付きは、明らかに加減されている。指先の動きは遅く、触れる位置も腋のくぼみの縁、脇腹の背中のほう、鎖骨と乳房の間――本命をあえて外している。
彼女は歯を食いしばって必死に耐えている。しかし果たして、あれが始まって、どれぐらいの時間がたったのだろうか。学者であるからには、彼女はさぞかし聡明な女性なのだろう。自分の行いが無駄であることに、果たして気付いているのだろうか。
彼女はまだ笑ってこそいないが、けっして耐えられているのではない。無駄な努力を嗤うために、耐えさせられているだけにすぎない。ここに来た時点で、堕ちることは決定しているのだ。
そして私がここに来て間もなく、彼女にとってはきっと長い苦痛の末、とうとうその時が来たらしい。
「我々が先ほど言ったことには、一つ語弊があった。断っておくと、決して嘘をついたわけではない。ただの語弊だ」
「っぐ、くふふふふぅぅぅ……!! な、何を……!!? っくっ、くぅぅう……!」
「『慈悲深い主は貴様に赦しの時間を与える』と言ったが、正確には、我々の慈悲も含まれているということだ」
「――っっひゃはぁぁぁぁぁあっ!!? わ、腋――!!? ッ~~~~~~~~!!?」
腕を頭上に掲げさせられたせいで無防備になっていた腋の下に指が差し込まれた瞬間、彼女は文字通り飛び上がったのだ。
飛び上がった脚が着地して、歯が強く食い縛られた瞬間、今度は両脇腹に指を食い込まされる。肺の空気を全て押し出さんばかりの責めに、彼女はとうとう限界に達した。
「ぃひぁ゛――!!? ぎ――!!!? ぁ゛ぁぁぁああーーっはっはははははははははははははははははははぁぁぁぁああああっ!!!?」
「おおっと、そんなに暴れていいのか? 桶が揺れているぞ?」
「ははは。実直な態度を気取ってはいたが、しょせんは小娘。ほんの少し本気を出しただけで、すぐこうだ」
「むりっ、むりぃぃぃぃっひひひひひひひひひぃぃ!!? くすぐっだっ、くすぐっだひぃぃぃぃぃっひっひゃっはははははははははははははははははははぁぁぁぁあっ!!!?」
彼女はとうとう口を大きく開けて笑い始めた。学者という身分からは少し想像しにくい、何とも甲高い笑い声だ。
それでも彼女は頭上に掲げている腕を下ろそうとはしない。その理由は、端から見ている私でも分かることだ。あの桶には何かが入っている。何かは知らないが、きっと下ろして体にぶちまけられでもしたら、大変なことになるのだろう。だから、腕を下ろすことができないのだ。
しかし、くすぐったさというのは理性を超越するほどに強烈な感覚だ。彼女の腕は徐々に下がっていく。桶の揺れる音がどんどん大きくなっていくことに気付かない。
そしてとうとう、がしゃり――ロープでつながった桶がひっくり返って、彼女に赤紫色の液体を浴びせたのだ。
「ひゃぷふ――!!!? ひ、ぁ゛、しま……!!? ぁ、ぁ゛あ、ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁああ……!!!?」
頭からつま先までを急激に冷やされ、それと同時に全身のくすぐったさがやんだ瞬間、彼女はこの世の終わりのような悲鳴を上げた。あまりにも悲痛な声を聞くに、桶の中身は毒か、酸か、そういう物騒なものであると聞かされていたのだろう。
しかしその様子を見ていた私は、別の表情を浮かべた。ああ、あれか――という呆れ。まああるいは、あれもある意味では毒と変わりないと言えるかもしれない。
彼女が自分の体を見下ろし、しかし痛みも熱もやっては来ず、徐々に絶望の表情が和らいで首をかしげようとした瞬間、男たち2人のくすぐり責めが再開されたのだ。
「っっ~~~~~~~~!!!? ぃひゃはぁぁぁぁぁぁあっ!!!? 何、なにっ、何ぃぃぃぃぃぃっひっひゃっはははははははははははははははははぁぁぁぁあ!!!! ひゃはーーっはっははははははははははははははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあああっ!!!?」
彼女はきっと、そのくすぐったさたるや想像をはるかに超えたもので、さぞかし驚いたことだろう。
彼女の全身にぶちまけられたもの、あれは聖水だ。教会には、2種類の聖水があった。一つは、魔はもちろん人すら焼き尽くす強力な酸。そしてもう一つは、ただ人だけを狂わせる媚薬。
あれは後者だ。毎日のように塗りたくられてきたから、私は知っている。あの聖水はひどくぬるぬるしているのだ。それこそ、指を食い込ませ、爪でかきむしるようなくすぐり方ですら、体の芯まで響くほどにくすぐったくなってしまうぐらい。
そんな液体を全身に浴びせられた彼女は、もうがむしゃらに暴れることしかできない。
「なんでっ!!!? 桶、倒れ――!!!? 腕、下ろせな――!!!? 下ろせないぃぃぃぃぃっひっひひひひひひひひゃぁ゛ーーっはっはははははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」
彼女の腕を拘束するロープは二重になっていた。一本は既に引っくり返された桶に結ばれ、もう一本は太い柱に直接結ばれていたのだ。
そして桶をひっくり返すことはできても、もう一本の縄のせいで腋の下を閉じることはできない。せいぜい、腕の角度が少し変わるだけだ。実に計算され尽くされた、性格の悪さがにじみ出た拘束だった。
彼女を弄ぶだけ弄んだ男たちは、本気のくすぐり責めを始める。相手に我慢を強いるということは、自分も我慢するということだった。『ぬるい責めばかりで鬱憤が溜まっていた』と言わんばかりに、それを晴らすような、肉欲に任せた手付きで彼女を責め立てる。
「ぁぐぅっひっひひひひぃぃぃぃぃいいっ♡♡♡♡♡ 体が、熱い――!!!!? きひ、ひ――♡♡♡♡♡ ひぃっ、ひぃっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ♡♡♡♡♡ ひっひゃははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
男たちが彼女の柔らかな上半身に指を擦り付け、食い込ませるたびに、聖水が肌に染みこんでいく。
ああなるともう長くはない。全身が熱を帯び、肌を刺激するたびに胸の先がじんじんと痒くなって、下腹部がうずいていく。いつしか、くすぐられて快感を覚えるようになるのだ。
男がその快楽に追い打ちをかける。女性の膣に2本の指を突っ込んだのだ。
「んぐぁ――♡♡♡♡♡ や゛、挿っで――!!!!? ぇひっ、ひっ、ひゃっははははははははははははははぁぁぁあ゛っ!!!!? ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ♡♡♡♡♡」
人差し指と中指で中をかきまぜ、親指でその上の敏感な豆をこねる。『紳士的』という言葉がまるで似合わない、乱暴な愛撫だ。
それでも聖水が、全ての動きを快楽に変える。今の彼女には、あまりに過ぎた快感だろう。
「っ゛ひっ♡♡♡♡♡ ひゃだっ、やだぁぁぁぁああっ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!! ぁ゛ひゃは――♡♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
彼女は今まで我慢していた分を全て吐き出すような、盛大な絶頂を迎えた。秘所から噴き出す液体の色と質感を鑑みるに、あれは紛れもなく潮であるはず。しかしあまりに量が多すぎて、お小水かと勘違いしそうなほどだ。
がに股のまま背筋をのけ反らせ、舌を突き出させながら全身を痙攣させる。その姿だけを見れば、彼女が学者であったなどと誰も想像付くまい。
「ぎひぃぃぃぃぃぃいっ♡♡♡♡♡ 今っ、イッで――!!!? なんで続け――♡♡♡♡♡ ぇひゃぁ゛ーーっはっははははははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁああっ♡♡♡♡♡」
「主の御言葉に背く愚か者への罰が、ただ1回の絶頂で終わると思ったか?」
「貴様の汚れた心が浄化されるまで、罰は執行されるのだ」
「やだぁぁぁぁっはっはははははははははははははははひぃぃぃいいっ♡♡♡♡♡ くしゅぐっだひっ、くしゅぐっだひのぉぉぁっはっははははははははははぁぁぁぁぁぁぁああっ♡♡♡♡♡ おがしっ♡♡♡♡♡ 体もっ、心もおがしぐなるぅぅぅひぁっはっははははははははははははぁ゛~~~~~~~~っ♡♡♡♡♡」
彼女は口では『嫌だ』と言いながら、その声音と表情から鑑みるに、本当に、本当にうれしそうに犯され続けた。彼女はもう、たった1回の絶頂で完全に堕ちていた。
快楽というものは、本当に不思議だ。それは紛れもなく快であるはずなのに、過ぎれば不快となり、時には何にも代えがたい苦痛になるのだ。
彼女が、自身がどれほど取り返しの付かないところにまで堕ちてしまったのかを知るのは、そう遠い話ではないだろう。
「ぁぐっひっ♡♡♡♡♡ いぐっ、イぐ――♡♡♡♡♡ またイッぢゃぁ、ぁぁぁあああっ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ひゃはははははっ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~、ぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
しかし今だけは、全てを忘れてただ幸せであることを祈ろう。
――――
――
巨大な広間の隅では、修道女がベッドの上で奉仕をしていた。
もっとも、岩を切り出して表面を磨いただけのベンチに、布を敷いただけ。ベッドと呼ぶにはあまりに簡素ではある。
「し、司祭さまぁっひゃっはははははははぁぁぁあ……っ!!? このような、この、ようなはぁっ、ははははははははははははぁぁぁぁぁあ……っ!!!」
「このような、何だ? はっきり言わねば分からぬなぁ」
「っくっ、ふふふふふふはぁぁっ……!!! このようなっ、腋の下をくすぐられながらっ、腰を振るなんてっ、ぇへっ、へひゃっ、ひゃはははははははははぁぁぁあっ……!!?」
修道女は、醜い男に跨がって腰を振ったまま、腋の下をくすぐられていた。彼女は私とそう変わらない年だろうか。背は高く、肉感も豊かだ。少々豊かすぎるきらいもあるが、あれはあれで男性をひどく魅了するのだろう。
あの下劣な男のほうには、どこか見覚えがあった。記憶では、どこかの教会を管理している司祭だったはず。
「ふぅむ。この程度で嫌がるような娘は……要らぬなぁ」
「っ……!! いえ、そのようなことはありません! ただ……」
「ただ?」
「っ~~~~!!」
その会話で、私は『なるほど』と納得した。あれは味見だ。
ああいった階位の高い者はだいたい、管理している施設に自分の部屋を持っているものだった。そこに女を連れ込んで、いろいろと狂宴に興じるわけだ。
しかし自分の管理区画だけでは、意中の玩具に出会えないことがある。そういう時は、教会に金を払えば好みの女を仕入れることができるのだ。いわば、国公認の人買いだ。
「ただ……そう! ただ、気持ちがよすぎて、どうにかなってしまいそうなのです……!!」
「……ぐふ。そうか、そうか。なら、もっとたっぷり気持ちよくしてやろうではないかっ」
「んひゃはぁっ!!? ひゃはっ、ひゃっはははははははははははははははっ!!!? くしゅぐったいのっ、急に強くぅぅぁっひゃっはははははははははははははははははぁぁぁぁあ!!!?」
「そうら! 一生懸命腰を振らぬか! どうだ、気持ちいいか!?」
「ひゃはひぃぃぃっひっひひひひひひひひぃぃぃぃいっ!!!! 気持ちひいですっ、きもちいですぅぅぅっひゃっはっははははははははははははははははぁぁぁぁぁあ!!!?」
修道女は腋の下をくすぐられながら、必死に腰を振り続ける。豊満すぎる乳と尻が下品に揺れる。本当は揺らしたくないだろうに。
彼女の口からは笑い声が溢れ出ているというのに、腕を下ろす気配はなかった。拘束されているわけでも、不感なわけでもない。気に入られれば、この地下から出してもらえるから、男に必死に媚びを売り続けるのだ。
「ふむ、しかし前に見た娘のほうが、もっと情熱的だったのう。腰を振るのが好きで好きで仕方ない、そんな風であったわ」
「っ、くひっ、ぃ――!!!? し、司祭さまっ、私もっ、その方には決して負けにゃはぁぁあっ!!!? ぁ゛ぐ――♡♡♡♡ ぁ゛――♡♡♡♡ ぁーーっはっはははははははははははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁあっ!!!? ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
それは何て無駄な努力なのだろう。私は、苦しみの中で腰を振り続ける彼女のことが、心底哀れに思った。
この教会の男たちは、必ずしも献身的な女を気に入るというわけではない。私のように反抗的でも、それはそれで気に入られて仕置きという名の苛烈な行為を毎日強いられることもある。故に、男の言葉に意味はない。ただ気に入った女を弄び、体の具合を確かめるだけ。故に味見なのだ。
しかし空っぽだった男の言葉に、初めて意味が宿る。
「ふふふ。なかなか健気な娘ではないか。どれ、一つ褒美をくれてやろう。『汝――」
「ヒ――!!!? 待っ、それは――!!!」
「神の意志に抱かれよ』」
その瞬間、私は反射的に自分の体を抱き締めた。そして、自分にはまだ刻まれていないことを思い出すと、そっと腕を戻す。
その言葉は、この国に住む多くの女が忌み、そして男が好むものだった。暗示――この国では、堕とされた女に祝福を刻むのだ。そして所有者がまじないを唱えることで、何か悪いことが起きる。
肌が裏返しになったかのように敏感になったり、誰にも触れられていないはずのに全身がくすぐったくなったりと、祝福の内容は所有者の嗜好によってさまざま。
あいにく私はあの男の所有物でないし、まだ刻まれていなかったから、暗示が効果をなすことはない。しかし彼女はもう既に、所有物である証が刻まれていたらしい。
「ぁ゛、ぁ、あ、腕が、いや――!!!? 止まって、私の手、ぁ、ぁ、あ、ぁぁぁぁああああああっはっはははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!? くしゅぐらないで私の手ぇぇぇぇぇっへっひゃっはははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!」
端から見れば、一体何が起こっているのか理解に悩む現象が起きる。
修道女が左腕を上げたまま、右腕だけをゆっくりと下ろす。そして右手で、無防備な左腋の下を、自分自身でくすぐり始めたのだ。
「君は少々真面目がすぎると思っていたのだが……。何だ、自分で自分の体をくすぐって笑い狂ってしまうぐらい、いやらしい娘じゃあないか」
「違うぅぅぅっはははははははははははははぁぁぁぁあっ!!!? これ、これは違うっ、違うってへぇぇぇぇっへっひゃっははははははははははははははははははぁぁ!!!!」
本来、自分の体を自分でくすぐったところで、大したくすぐったさにはならない。だから彼女の反応の良さは、明らかに常軌を逸していると言える。自分で自分をくすぐって、まるで他人にくすぐられているかのように笑い悶えるだなんて。
それで私はようやく理解に至る。彼女に刻まれた暗示とは、そういう内容なのだと。自分の手が、自分の意思に反して、自分の体をくすぐってしまうのだ。
「腋はっ、わきは弱いんですぅぅぅぅう!!!? 私の指っ、くしゅぐったひ触り方全部覚えひゃってるぅぅぅぁっはっははははははははははははははははひゃはーーっはっははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁあっ!!!?」
修道女は自分の体を抱き締めるように、体の前で腕を組み始める。そのまま腋を開いて、右手で左の腋の下を、左手で右腋の下をくすぐる。
『自分で自分をくすぐっているのに』と言うべきだろうか、それとも『自分で自分をくすぐっているから』と言うべきだろうか。その手付きは、彼女を笑い悶えさせるのに最も効率的な方法をとっているように見えた。ふっくらとした腋のくぼみの肉に指先を食い込ませて、ぐにぐにともみしだくようにうごめかせるのだ。
「どれ、私もそろそろ愉しませてもらうとしよう!」
「んぐぉぉおっ♡♡♡♡♡ ぁ゛、奥、突かれ――♡♡♡♡♡ んぎぃっひっひゃっはっははははははははははははははははぁぁぁぁぁあ!!!? 脇腹もまにゃひでぇぇぇぇっへっひゃっはっははははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁああああっ♡♡♡♡♡」
そんな望まぬ自慰に興奮したのだろうか、彼女を跨がらせている男は、起き上がると同時に仰向けに彼女を押し倒す。騎乗位から正常位に変わると、脇腹をつかんで、もむようにくすぐりながら腰を勢いよく前後に振り始めた。
「ぁ゛ぁぁぁーーっはっはははははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁあっ♡♡♡♡♡ んぎっ、ぁ゛――♡♡♡♡♡ ぁはっ、ぁ゛はっ♡♡♡♡♡ ぁ゛っはははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ♡♡♡♡♡」
修道女は脇腹をもまれて肺の酸素を吐き出さんばかりに笑いながら、一物の感触に嫌でも雌の反応を示し、自分で自分の腋の下をくすぐり続ける。相手はたった1人のはずなのに、2人分の責め苦が彼女を襲っている。
人というのは、相手が1人いれば悶絶するに足る快感を得ることができるのだ。2人もいたら大抵、あまりの快感に頭がおかしくなるような心地すらする。
「さぁ、出すぞ! しっかり受け止めい!」
「ひぎっ、ひひひひひひひゃばっははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあああっ♡♡♡♡♡ ――っぎぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁ゛は――♡♡♡♡♡ ぃ゛――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「ふぅ、ふぅ……! ふぅむ、これはなかなかの具合だのう」
「ぃひ~~~~~~~~っひひひひひひひひひひぃぃぃぃぃいっ♡♡♡♡♡ 腋っ、くしゅぐっだひ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「おっといかん。褒美を与えたままだったのう」
修道女は危うく白目をむきかねない表情で、膣でもって男の精液を受け止めながら絶頂した。男も射精の瞬間とあらば、さすがに腰の動きも、手の動きも止まる。しかし暗示を掛けられた修道女の指は止まらず、腋の下を襲い続けるくすぐったさが絶頂を上へ、上へと押し上げていく。
「とめっ、止めでぇぇぇぇっへっへっへへへへへへへへぇぇぇぇぇぇええっ♡♡♡♡♡ くしゅぐっだひのっ、イグのっ、止まらにゃいっひひひっひひひひひひひひひひひひぃ゛ぃぃぃぃぃい♡♡♡♡♡ ぃや゛ぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「……ぐふ。君があまりにもいやらしいから、また勃ってきてしまったわい。せっかくだから、もう一度相手をしてもらおうか」
「ぇ゛ひ――♡♡♡♡♡ ひぎっひひひひひひひひひひひひひぃぃぃぃぃぃぃぃいっ♡♡♡♡♡ ぃひっ、いぎっ、イ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っひぃ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
あの頑張り屋の修道女は、こうしてめでたく男に拾われ、この腐り切った大広間を出ることになるのだろう。
しかし私はそれを幸福とは思わない。凄惨たる日々の呼び名が、『調教』から『奉仕』に変わっただけなのだから。
彼女はこれから、男の気分で常に犯されることになる。くすぐられることで悦びを感じ始めていた体はさらに敏感になり、やがては一度の行為で数十は絶頂に至ることになる。悦楽はやがて苦痛に。そして苦痛が続けば肉体も精神も死んでいく。
彼女の末路は二つに一つ。一つは、命尽きるまで男に使いつぶされる道。一つは、飽きられ捨てられ、どこかで野垂れ死ぬ道。
――――
――
部屋の中央辺りでは、処刑が行われていた。
他とは一線を画することはすぐに分かった。十数名の男たちに埋もれてなお、笑い声がもっとも大きく悲痛だったから。
罪状は分からない。しかし、おそらく大した罪ではないのだろう。処刑とはいっても、やることはいつも同じだ。
「ぃ゛や゛ぁぁぁぁあああっはっははははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!!!? いや゛っ、やり゛ゃぁぁぁぁぁぁぁっはははははははははははははははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあ~~~~~~~~ッ!!!!!」
悲痛な笑い声を上げる少女は、青髪の短髪、顔付きも体付きも幼く、私よりも年若いことは明らかだ。
少女はうつ伏せで両手足を大の字に開いたような姿勢のまま、水に浮かぶかのように、宙にぷかぷかと浮いていた。何かの魔術だろうか。その高さは大の男の腰元辺り。胴体の浮きようは軽やかな一方で、手足の動きは枷でもはめられているかのように固い。
そして無防備になった全身で、この広間でも特に苛烈なくすぐり責めを受けているのだ。
「下ろしでっ、おろしでっへへへへへへぇぁっはははははははははははははぁぁぁぁぁあ゛っ!!!!? くしゅぐっだいのやだっ、もういやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっはっはははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁあああっはっははははははははははははははははははははッ!!!!!」
体液を垂れ散らしながら笑い悶える表情ではもはや、その人物の本質が善良かも邪悪かも分からない。しかし何となく、私は彼女の罪状が大したものではないのだろうと思った。
例えば、仕事で何か間違いをしたとか、どこぞのお偉方の気分を害したとか――その程度のことで処刑されるのが、この国なのだから。
「ごべんなざいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!? ごめんなさ――!!!!? ごめんなさい゛ひぃぃぃぃぃぃいぎっひゃっはっははははははははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁああっ!!!!? ぁ゛はっ、ぁ゛ぁぁぁぁぁあああああーーーーーーーーッ!!!!?」
少女は『ごめんなさい』と何度も泣き叫びながら笑い悶える。
わざわざ魔術を使ってまで、腰程度の高さに浮かせることには理由があった。ロープも使わず体の全てが宙に浮けば、文字通り全身が無防備になるのだ。腋の下や脇腹、足の裏だけではない。頭の先からつま先まで、くすぐる手の及ばない場所なんて、ただの1か所も存在しない。
そんな状態で、教会お手製の聖水を全身ぶちまけられ、十数名の男たちの指にくすぐられる。中には浮いた体の下に潜り込んでいる者すらいる。その状況自体が相当苛烈なものだが、特に男たちが使っている道具が目を引いた。
「そりぇやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!!? ぬ゛るぬる――!!!!? うねう゛ね――!!!!? ぐすぐっだいのぉぉぉぉぁぁああああっはっはははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁっははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!!」
男たちが手に持っていたのは、紫色の板だった。手でつかめる程度の大きさの、まるで馬の世話をする時に使うブラシのような形のそれは、よく見れば触手で作られた板だったのだ。
以前、どこかの教会に潜り込んだ時、噂で聞いたことがある。ここ最近、教会では触手が栽培されるようになったらしい。
一口に触手といっても、その種類は人間の国の数よりもはるかに多い。教会で管理されているのは、一本一本は子どもの小指ぐらいの大きさだ。毒を持たず、攻撃性もなく、その癖よく増える。本来洞窟などの暗がりに生育し、水とわずかな栄養さえあれば、菌糸のように増え続けるのだ。
例えば、教会の暗所に小さな木板を並べて、そこに触手を植え付けておけば、ああいった道具を作ることも可能だろう。手でつかむことができる触手の板は、少女の柔肌に擦り付けるのに最高の道具となったのだ。
「ぁ゛は――!!!!? ぁぎぁぁぁぁあああっはっはははははははははははははっ!!!!! ぁ゛ぁぁぁぁぁあああっはははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあああっ!!!!?」
喉がつぶれかねんばかりに笑い悶え続ける少女。
そこに1人の、小太りで身なりのいい男が近付いていく。男は処刑している者たちを数人どけると、少女の小ぶりな尻を抱きかかえて、小汚い一物を少女の膣に突っ込んだのだ。
「んぎ、ぃ――!!!!?」
「ほうほう、こうもくすぐられていると、さすがに締まりがいいですのう」
「ぁぎっ、っひっ、ひゃばーーーーっはっははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあああああっ!!!!? ぁぎひぃぃぃぃぃっひっひゃっははははははははははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!!?」
少女が苦痛に顔を歪ませたのは一瞬だけ。聖水がすぐに痛みを中和する。それからはもう、今までと同じように笑い悶えるだけだ。
男は腰を前後に振ったまま、触手で作られた板を尻に擦り付ける。ぐちゅぐちゅとうごめく触手が、尻の割れ目をなぞり、時折尻穴をほじくっていた。
「ふぐ、ぉ゛――♡♡♡♡♡ お尻ほじく――♡♡♡♡♡ ぅぁ゛、ぁ゛、あ、あああああああああああああああああああっ!!!!? ぁ゛はははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁああああああああああーーーーーーーーっ♡♡♡♡♡」
「ぬぐ、ぉ! 締め付けが急に強く、これは、我慢できん……!」
「ぁぎひ、ぁ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「ふほほ。私と一緒にイキよったわ」
男はあっという間に射精すると、再び腰を振り始めながら、遠巻きに眺めていた別の男と歓談し始めた。
「いかがですかな? 私が集めた娘の中でも、特に具合の良かった1人でして」
「然り。殺してしまうのが惜しいぐらいですのう」
「ふぅむ。もしよろしければ、いかがですかな?」
「……なるほど。今日、私を呼びつけたのはそのためでしたか。しかしよろしいので?」
「もちろんですとも。しかしまあ、既にこの娘は死罪と決められております故。少し手回しが必要でして」
「ぐふふ、分かっておりますとも。手間賃は惜しみませぬ」
彼女の持ち主と、どこかの権力者の会話。つまらないことで命を使い捨てられ、処刑ですら歓待として扱われる――ここはそういう国なのだ。
こんなに女を使いつぶしていては、やがて国から女がいなくなってしまう……その心配はない。なぜなら男たちがそれ以上に、女を孕ませるのだから。
「ころじでっ、早く殺しでぇぇぇぇぇっへっひゃっはははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ♡♡♡♡♡ ぁぎっ、ひ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
談話の傍らで、少女は笑い狂う。
くすぐりという処刑方法には問題がある。人間は思いの外しぶといということだ。これだけ苛烈なくすぐり責めを受けても、死に至るにはしばらく掛かるだろう。それまでに、彼女は果たして、何人の慰み者になるのだろうか。
……あるいは、他の男に命を救われて、凄惨なる日々を引き延ばされるか。
――――
――
地獄。
それは死後、悪しき者が送られて、神によって裁かれる場所だと聞く。目の前に広がる光景は、地獄そのものだった。
これが、あの《神》が望んだ光景なのだろうか? 《神》はこの光景を見たくて、この《世界》を作ったのだろうか?
それを問いたくても、もう彼の者には会えない。
「アバター、貴女は」
感情が渦を巻く。ここまで来て、無駄なことを考えてばかりだ。ここで犯されている女性たちのように笑い狂えば、私もきっと、全てを忘れられるのかもしれない。
それは今の私にとって、どこか救いのようにも思えた。
*
*
*
xxxx-x-xx:
1度目の《世界》では、お気に入りのキャラクターをひいきし続けた。僕好みのきれいな女性だった。全能を得たそいつは調子に乗って、人も大地も全て破壊した。
2度目の《世界》では、生きとし生けるもの全てを救おうと思った。人口が爆発し、海岸から山の頂まで全てが人で埋め尽くされた。その後、人々は人々同士で喰い合った。
3度目の《世界》では、優秀な存在だけを厳選して生かそうとした。すると、選別主義の《神》に反抗し彼の者を滅ぼさんとする組織が生まれた。あまりに強すぎた人々は、戦争を起こした瞬間に全てを塵に変えた。
そんなことを、僕はずっと繰り返していた。バックアップを取って選択肢を変えても、結末は変わらない。《世界》は滅び続けた。後から分かったことだけど、欲望のために垂らし続けた《毒》が《世界》の根幹にまで染み込み、大きなバグを孕ませたようだった。
『こんなことになるなんて知らなかった』――僕はそう叫び続けた。僕はただ、愉しい《世界》を創りたかっただけだった。
何度も死にゆく《世界》を見つめて気付いたのが、最善の方法は不干渉、放置するということだった。戦争、飢餓、疫病、魔族。すべてが《天秤》の平衡を保つ機能を果たしているのだから。どれだけ人が死んでも、僕は《世界》に干渉してはならない。だから、今回の《世界》は成功した。
だんだんと《世界》が、僕の手から離れていくのを感じた。安定を保つために、《神》は役割すら与えられなかった。《神》の御手は、《天秤》にはあまりに重すぎる。
そうこうしている間に、目を覆いたくなるほどの数が死に、同じ数だけ生まれていく。それがどんどん増えていく。いつしか、どこがどう動いているのか僕ですら分からなくなるぐらい、その廻りは複雑化し、加速していた。滅びることもなく進むこともない、風車のようにただ同じところを廻り続ける奇妙な安定性だけが、僕にささやかな安心感を与えた。
『僕が何もしなければ、《世界》は大丈夫』――そう言い続けた。
だから僕は、アレリナにも言い続けた。僕は誰も救わない、君にできることなんてないんだ、って。だって、そうしないと《世界》が壊れてしまうから。
だけど人々と出会うたびに、やがて僕は不干渉を放棄し始めた。ミントやノマに出会い、名もなき魔族を殺し、アレリナを助けた。人々と触れ合いたかった、人々が傷つくのが嫌だった――それは、《神》が決して抱いてはいけない想い。
いっそのこと開き直ってしまえばよかったのに、僕は臆病だった。中途半端に助けるだけ助けて、《天秤》が傾いていくのが怖くて、そして彼女を傷つけた。
元を正せば、難しい話なんて一つもない。この《世界》は最初から、僕みたいなやつが安易に手を出すべきものではなかった――それだけの話だ。
『アンインストールすると、全てのデータが消えます。本当によろしいですか?』
僕はよくある文章を1文字1文字噛みしめるように読んだ。
これでいい。これで、全てがなかったことになる。彼女の苦悩もなくなる。これでいいんだ。
はい。
『あなたの創った世界が消えます。本当によろしいですか?』
はい。
『あなたが出会った全ての人々が消えます。本当によろしいですか?』
……はい。
『姿も、想いも、存在も、全てが消えます。本当によろしいですか?』
…………。
古いロールプレイングゲームのようなふざけた質問が、僕の胸を締め付けていく。
僕は、過酷な世界を懸命に生きるミントのことを思い出す。あの子は今も、冒険者としてどこかで頑張っているのだろうか。自由を貫き通すノマのことを思い出す。彼女は今、どこで気ままに旅をしているのだろう。
そして。
――貴女は悪い神さまですか?
アレリナの、縋るような表情を思い出す。白銀の髪は灰色に汚れ、刃のように鋭かった眼は、毀れ、濁り。人一人殺せなさそうなぐらい鈍ったその刃は、僕の心臓にめり込み、全身が燃えてしまいそうなほどの熱を生み出した――。
「――あ゛ぁもう!! 分かったよッ!!!」
僕は誰へともなく絶叫した。
出来心から始まり、背負うことになった、あまりにも重い罪咎。
目を背けるのはおしまいにしよう。消すことは赦されない、僕が赦さない。たとえ永遠に背負うことになったとしても。
だから、《神》はもう死ね。
――僕は、《■い$※%》だ。
目次
表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》