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長編小説

【第4節】擽園開発日記序章 ~悪い神さまの創る世界~

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目次

表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》

 

第4節 神さまが楽しく犯す基準

2731-1-2:

フクロウの月。ミントと出会ってから半月ほどたって、年が明けた。

人々は教会で行われる催しに参加したり、家族で集まって甘いお菓子を食べたり。ばか騒ぎするまでではなく、ほどほどに、慎ましやかにお祝いをしている。僕たちがそれに交ざることはないけれど、アレリナが宿で、独りでお祈りをしているのに驚いた。

「ただの習慣です。別に、《貴女》に祈りを捧げているわけではありません」

アレリナはものすごく苦い表情で、僕にそう言うのだった。

「そういえば、君って一応、修道士だったね」
「一応とは何ですか。聖典だって諳んじられますよ」

「へぇ、すごいな。僕には無理だ」
「《貴女》は……いえ、そうですか。そうでしたね、は」

「どうかした?」
「いえ、何でもありません。ただ、聖典にはとこの《世界》のことについても書かれています。今更自分を『信徒』などと呼ぶつもりはありませんが、長く教会にいた者として、の認識は気になります」

「なるほど、僕も少し興味あるよ」

こんな時期だ。いろいろと思うところがあるのだろうか、今日のアレリナはよく喋った。

年の初めの月を『フクロウの月』というのは、《世界》で1番目に生まれた動物だかららしい(人以外ね)。そうだったっけ? よく人々がそんな昔のことを覚えているなと感心する。だけどというものは、原初の食物であるナシの果実しか食べないらしい。なんてことだ!

僕とアレリナがそんな風に、珍しく穏やかな空気で会話していた時に、突然起きたことだ。

 

「ねえ。あなたたち」

夜、僕とアレリナが泊まっていた宿の部屋に、1人の女性が入ってくる。ノックもせずにだ。もちろん僕たちはびっくりした。

「私、ノマっていうの。よろしくね」

いけしゃあしゃあと名乗るその女性――ノマの年は、アレリナと同じぐらいだろうか。僕が一目見た印象は、だった。

上背はアレリナほどではないけれど、そこそこにある。橙色の髪は、腰ぐらいまでの長さがありそうだ。その髪を、『動きやすいように』と言わんばかりに赤いひもを使って後ろで無造作に結わえているけれど、その実、毛の一本一本まで栄養が行き届いているかのように艶やかだ。

活発そうな髪型の一方で、身体付きは見事なまでに女性的。しかもその風貌はやたらと露出が激しい。革か何かで作られた手袋とブーツに、下着とそう変わらない布面積のインナー、申し訳程度に体を隠す外套。そしてそれらの衣服も髪と同じように、豪奢ではないけれど質は良いように見える。僕はデザイナーでも何でもないけれど、革の艶とか、染色の鮮やかさとか、よく見れば縫製の精緻さとか、そういうのを見れば何となく感じるものがあった。

表面だけを見るなら『冒険者』のようだけど、有り余る艶を振りまく様子は『娼婦』ようにも見えるし、細部があまりに洗練されているから『貴族』を自称されても信じてしまいそうだ。

 

さて、そんなノマは、僕たちが泊まっている部屋に何の前触れもなく入ってきた。こういう突然の事態になると、まず決まってアレリナが殺気立つ。

「ノマとやら。何かご用でしょうか」
「おー恐い恐い。お尋ね者だからって、誰彼構わず殺気振りまいてたら、かえって怪しいよ?」

「……賞金稼ぎですか」
「あっはは、違うよぉ。私が興味あるのは

ノマの視線が僕に移った。アレリナがまだ喋りたそうにしているから、僕はひとまず沈黙を貫くことにする。

「今や、この広大な東大陸でなお一番の賞金額を誇る、稀代の背教者アレリナ・エルバーエンス。そんな人物と一緒にいる女の子なんて、ちょっと普通じゃないよね?」
「……だから?」

「ミントって女の子知ってる? 最近、とある町中で『《神さま》が出たのぉぉぉ』なんて騒いでる変な子なんだけど」
「……はぁ。まずいことになりましたね」

アレリナから『貴女が悪いんですよ』という視線が向けられる。

僕も、ノマの言わんとすることは理解した。つまり、半月前に出会ったあのポンコツ娘から、情報が漏れたということだ。
(『他の人に言わないで』って言ったはずなのにね。どうお仕置きしたものだろう)

「大丈夫だよ。そんな話、だーれも真に受けてないから」
「ですが、貴女は違う」

「私、ちょーっと鼻が良いんだよねぇ」

今まで、自分の意思で僕に接触してきたのは、まだアレリナしかいない。そう考えるとノマも大概、『ちょっと鼻が良い』どころでは済まない。

とにもかくも、アレリナの出す殺気のせいで、僕の居心地が悪い。僕はアレリナの1歩前に出ることにした。

「まあ、経緯は理解したよ」
「それにしても、《神さま》がこんな女の子なんてねー。かぁわいーっ!」

「この姿は何かと都合が良いんだよ。串焼きのおじさんが一本おまけしてくれる。それに、いざとなったらからね」
「あっはは!」

「ところで、ミントは元気だった?」
「そりゃもう、町中で騒いでるぐらいだからね。最近冒険者になって、結構活躍してるみたいだよ?」

「そっか」

安心した。能力がある子だとは思っているけど、まあだから。『社会に出てうまくやっていけるかしら』なんて、親か、兄姉か、先輩か、そんな心情がちょっとだけあった。

ほっと息を付きたくなったけれど、ノマが僕のことをじいっと見ていることに気付いたから、気を取り直す。

 

「それで、ノマ。君の用件は?」

僕がそう問うと、ノマの目がほんの少しだけ鋭くなる。『ああ、そういうタイプか』と、僕は思った。

彼女は一見、表情とか、話し方とか、無邪気で人懐っこい風を装っている。だけど隙だらけのように見えて、その隙間から、僕のことを鋭く見つめているように感じられる。きっと、が本性なんだろう。

はっきり言って、苦手なタイプだ。僕は駆け引きだとかが、あまり得意ではなかった。

「ちょっと、をたかりにねー」
「口止め? 何のことかな」

「貴女が《神さま》だってこと、あまり知られたくないんだよねぇ? それに、そこの賞金首の存在も、周知されたら面倒くさそう」
「……おっしゃる通りだね。だからってこと」

「にっひひ、そういうこと♡ っていうか、《神さま》ってお金持ってるものなの?」
「ふぅん? お金はあまり持ってないけど……」

「面倒です、アバター。私が斬り伏せます」
「アレリナ待って待って待って」

ああ、やっぱり苦手なタイプだ。彼女の真意がつかめない。僕は短剣を引き抜いたアレリナを必死で押さえつけながら長考する。

お金はすぐにけど、ずいぶん安っぽい要求だとも思う。本当の要求はもっと深いところにありそうな……それこそ、『永遠の命』とか、『世界の半分』とか、厄介な口止め料を求められると思っていた。だけどそもそも、そんなものを要求されること自体、どこか引っ掛かる。

『永遠の命』『世界の半分』、そしてアレリナが言う『私が斬り伏せます』――そうだ、そうだよ。そもそも僕もアレリナも、それが可能な存在だ。いかにノマが聡くても、いや、聡いにしては、身一つでそんな僕たちを強迫しに来るなんて、あまりに無謀じゃないだろうか。

いくら考えてもノマの真意が分からず、いつの間にか僕が自分の頭を抱えていた、その時だった。

「あっはは!」

ノマが噴き出すように笑いながら、僕のことを抱き締めるのだ。僕の顔面が、ノマの豊満すぎる胸に埋もれた。

「ごめんごめん。まさかこんなに悩んじゃうなんて思わなくて」
「む」

「《神さま》って、思ってたよりもずーっとかわいいんだねぇ♡」
「ぐぅ……」

どうしてだろう。今の状況を、僕はものすごく悔しく感じるのだった。

 

ミントあの子から聞いたんだよ。されたってね」

ノマは僕の顔を、自分の胸からほんの少し遠ざけながら言う。妙に火照った顔を見られるのが恥ずかしい。そんな僕の胸中を知ってか知らずか(いや、これは『お構いなし』だ)、彼女は首を曲げて、耳元で囁くのだ。

「お金がないならぁ、何とかして貴女のほうからするしか、ないよねぇ……♡」
「ああ、あ、あー……」

その表情は、『艶』という名のインクをべったりと顔に塗りたくったようで。

ああ、なるほど。僕はやっと、彼女のを理解した。つまるところ彼女の目的とは、僕がミントにやっただ。

「なん……って、回りくどいことを……」
「あ、もー、ちゃんとノッてよ! こういうのは雰囲気も大事なんだよ。ほら、ほら!」

ノマはそう言いながら、僕の身長に合わせるように膝立ちになって、両手を広げたまましてくる。僕は彼女のあまりに開けっ広げな態度に少し気圧されてしまった。

きれいな女性が自分からわざわざ、に会いに来てくれたのだ。僕としてはうれしいことこの上ないし、彼女を邪険にする気なんてなおさらない。『まんざらではない』ってやつだ。

それでもやっぱり恥ずかしいな――僕はそんな気持ちをぐっと押し込めて、膝立ちになったノマの顎を指で持ち上げた。

「ねえ、僕たちのことは黙っていてもらえないかな」
「んー? どうしてぇ?」

「いろいろと不都合なんだ。黙るって誓ってくれないと、になるよ?」
「ふぅん。って何かなぁ?」

ああ、こういうのを『イメージプレイ』っていうんだな。慣れないことをしているせいで、棒読みになってやいないだろうか。

それでもノマは随分とノッてくれる。『あんたの言うことなんて聞きやしないぞ』なんて挑発的な笑みを浮かべているけれど、どことなく頬が緩んでいるような気がするし、それ以上に、明らかに顔が赤らんでいる。まったく、なんて茶番だろう。

だけど、それで彼女が悦んでくれるのなら、それも仕方ない。僕は片手でノマの顎を持ち上げたまま、もう片方の手でノマの脇腹をつついた。

「ひゃんっ!」

ぴくんと跳ねる肩。鼻から漏れる吐息。

「こうなるんだよ。分からない?」
「んっ、ふふふふっ! 分からない、なぁ……♡」

「それじゃ、分からせてあげる」
「っふふふふふっ!? くふっ、ひゃぁんっ♡」

僕は両手で、膝立ちになったままのノマの身体を、本格的にくすぐり始める。

外套を捲れば下着とそう変わらない露出の服だから、脱がせるまでもなくくすぐりやすい。都合が良い――いや、違うな。きっと彼女のことだ、最初からを考えての服装なんだろう。

くすぐっている手を脇腹から少し上にずらすと、ノマはさり気なく、ほんの少し腕を開かせた。

「ぅひゃぁっ!? ひゃぁっはっははははははははははははははっ!! あはっ、ひゃぁぁぁぁっ♡♡」

がら空きになった腋の下をくすぐると、笑い声がさらに大きくなった。

先ほどから、ノマはくすぐられているというのに、抵抗らしい抵抗をしない。けっして不感症なわけではない。身体をくすぐられればかわいらしく笑うし、筋肉がくすぐったさから逃れようとひくひく痙攣しているのも分かる。紛れもなく打てば響くような身体だ。それなのに、彼女は抵抗しないどころか、むしろ僕が指の動きを緩めると、くすぐって欲しそうに肌を擦りつけてくるぐらいだった。

くすぐったさが齎す反射をそれ以上の欲で抑え付けてしまう女性なんて、この《世界》でもそうそう見られたものではない。アレリナとも、ミントとも、その他にいるたくさんの普通の女性ともまるで真逆の反応だけど、これはこれでいじらしいと感じる。

僕はノマの両手首をつかんで立たせて、そのままベッドに引っ張っていく。

「きゃっ!?」

ベッドの上に押し倒されたノマは、『私をどうする気?』と言わんばかりに両手を胸に添えて震えた。なんて白々しい。こういう一挙一動ですら、彼女は楽しそうだ。

「……これ、寝ていると邪魔になりそうだね」
「あ……」

僕は、ノマの結わえていた髪をほどいた。艶やかな髪がベッドの上で広がっていく様は美しい。

演技とはいえ、無理やり犯しているというシチュエーションで、これはお節介だっただろうか。結わえていたひもが皺にならないよう畳んでいる時にそう思ったけれど、ノマは一瞬だけすんと無表情になった後、僕から顔を背けた。やっぱり失敗か。だけどその表情は、どこか安心しているような、穏やかに見えるのは気のせいだろうか。

まあいい、仮に失敗だったとしても、これから挽回しよう。僕は振り返り、ノマの靴を脱がせた。

「ぁ、そこは……っ!?」

背中を向けた僕にノマの表情は分からないけれど、その声は心底うれしそうで、楽しそうだ。僕はわざわざ止めたり問い詰めたりすることなく、彼女の足の裏をくすぐった。

「ぅひゃぁぁっはっはははははははははははっ!!? くすぐったーぃひゃっははははははははははははははははは♡♡♡」

ノマが大きな声で笑い始める。だけどやっぱり抵抗はしないし、それどころか足の裏のシワが指の動きを妨げないように、足の裏を反らせるぐらいだ。

そんなすべすべになった足の裏に軽く爪を立てて、指の付け根からかかとまでそりそりそりとかき下ろすと、ノマは『ひぃん♡』と言いながら背筋を仰け反らせた。

ノマは決して、足の裏が飛び抜けて敏感というわけではない。単に感度だけの話なら、視界の端で立ったままもじもじしているアレリナのほうが上かもしれない。だけど、ノマの決してくすぐったさに逆らわない素直な反応は新鮮だ。

「ふひゃっははははははははひぃぃっ!! ぁっ、あっ、あぁっ♡♡♡ ぁふっ! くっふふふふふふふふふっ!!? ひゃぁあぁぁぁんっ♡♡♡」
「ノマ、君はどこが弱いのかな?」

「んくぅっふふふふふふぅぅぅうっ♡♡♡ お、教えると思うぅ? わざわざっ、ひゃはっ、ひゃははははははひゃぁぁんっ!!?」
「それならいいよ。君の躰に聞くから」

「ふぁぉ――♡♡♡ ぁはっ、ぁっははははははははぁぁぁっ!!? ひゃっはははははははははははぁぁぁぁぁああっ♡♡♡」

『ふぁぉ』の、なんてうれしそうなことか。

それから僕は、ノマの全身を一通りくすぐってみることにする。足の裏から始まって、ふくらはぎ、膝、太ももをくすぐっていく。むっちりとした太ももを一瞬したら、腰、背中、脇腹。……そして腋の下。

「ひゃはーーっはっははははははははははははははっ♡♡♡ わきっ、腋の下っ♡♡♡ 腋の下は弱いのぉぉっ♡♡♡ ひゃぁぅぁーっはっははははははははははははははははははひゃぁぁあんっ♡♡♡」

最初のほうにもくすぐった部位だけど、やっぱりノマは腋の下が一番弱いみたいだ。表情から見て取れる期待度、そしてくすぐられた時の体の動き、声の大きさ――もろもろの反応を見れば、それは間違いない。まあそれ以前に、されたら察するも何もないのだけど。それだけ、ノマの反応は素直で分かりやすかった。

 

一つの区切り。全身を一通りくすぐって感度を調べたところで、僕はくすぐる指をいったん止めることにした。

「はー……っ、はぁ……♡」
「どう?」

「……これぐらいじゃあ、あなたたちのこと喋っちゃうなぁ♡」

ノマは息を整えながら、にやっと笑ってそんなことを言い出す始末だ。自分からくすぐられに来ただけのことはあって、まだまだ余裕そうだった。

『あなたたちのこと喋っちゃうなぁ』なんて言ってはいるけれど、実際のところ、僕は他言されることをそこまで問題視していない。そもそも彼女の人となりを考えると本気で言いふらすなんて思えないし、仮に言いふらしたところでなんていくらでもあるからだ。

だけど正直なところ、彼女の反応は僕にとって、少しだった。きれいな女性が僕に会いに来てくれて、本来喜ばしいことのはずなのに、ずっと主導権を握られ続けている。決して嫌というわけではない、ただなんだ。

変なところで負けず嫌いの僕は、『まだ足りない。もっと、もっと』なんて態度をとっている彼女を分からせてやりたいと思っていた。だから僕は少しだけ考える。彼女を満足させるだけでは足りない、僕が目指すのはそのだ。そのためにはどうすればいいだろうか?

 

「どしたの?」
「ううん、何でもない。……そうだな、こういう趣向はどう?」

「っ……! ふ、ふーん、一体何をする気なのかなぁ♡」

僕が行き着く回答は、至極シンプルなものだった。

僕は、仰向けに寝るノマの腰に馬乗りになってから、彼女の手首をつかんで頭上に上げさせる。僕の腕よりいくらか太い彼女の腕は、何の抵抗もなく持ち上がる。僕はそれを見届けてから、彼女の腋の下をくすぐり始めた。

「ひゃーっはっはははははははははははっ♡♡♡ ぁはっ!! あぁっひゃっはははははははははははははははははははははひゃぁぁあん♡♡♡」

指先で腋のくぼみをほじくるだけの、何の変哲もないくすぐり責めだ。彼女は笑っているけれど、こんな今更の行為では、内心で物足りなさを感じているかもしれない。

だけどまだだ。

「ねえ、今のうちに折れておいたほうがいいと思うんだけど。どうかな?」
「ひゃぁうんっ♡♡♡ どうしてぇ? ぇひゃっ、ひゃはははははははっ♡♡♡ この、程度でぇっ♡♡♡ あっははははははははは、ぁはっ、あはははははぁぁあっ♡♡♡」

「そう。それじゃあ、もう知らないよ?」

そんな会話をしながら、僕はただひたすら腋の下だけをくすぐり続けていく。今までと全く同じ触り方、全く同じリズムで、だ。

「ひゃぁっははははははははははひゃぁぁあんっ!!? ぅぐっ、ひゃはっ♡♡♡♡ ぁ!!? あはっ、あははははははあっ!!? ぐ――♡♡♡ ぁはっ、ひゃぁっはははははははははははははははははははははははっ!!?」

それは相手によっては物足りないくすぐり方かもしれない。同じ触り方、同じリズムでくすぐっていたら、人間の神経はだんだんとその刺激に飽いてしまうからだ。そのことに気付かず続けるようであれば、それは三流のくすぐり方だ。自分から喜んでくすぐられに来た女性が、そんなつまらないくすぐり方しかしてもらえなかったら、さぞかしがっかりしてしまうかもしれない。

だけどノマがそうなることはなかった。

「ぃぎっ!!? ひ――!!? ひひゃはっ!!? ひゃぐぁっははははははははははははははははっ!!!? ぃひっひひひひひひひひひひひひひひひっ!!?」

彼女の笑い声が衰えることはなく、だんだんとその中に、少しずつ戸惑いが混じり込んでいく。

「はひっ、はひっ、ひぃぃぃぃぃぃっ!!? なに、こぇっ!? くしゅぐっはひっ!!! ひひゃぁっはっははははははははははははひぃぃぃぃっ!!?」

「どうしたの? 腋の下をくすぐってるだけだよ?」
「待ってっ!!? まってまっへまってへぇっへへへへへ!!? な、何か、どんどん、くしゅぐったきゅぅぅぅぅぅぅっ!!? ぁはぁぁっ!!? ぁひゃっひひひひひひひひひひひひひひひぃぃぃぃっ!!?」

余裕綽々だった態度が、どんどん濁り始めてきた。今までの艶たっぷりのあざとい笑い声ではない、引きつった、本当の笑い声が溢れ始める。

僕が一切、くすぐり方を変えていないにも関わらずだ。

「何ひたのぉぉぉっ!!? おかひっ!!? おかひぃぃっひひひひひぃぃぃぃぃっ!!? こんなくしゅぐったひはずなひぃぃっひひひひひひゃぁぁぁっはははははははははははははははははははははぁぁぁぁぁあっ!!!!」
「君のを弄ったんだよ」

「ぱ、ぱらっ!!!? ぱらめっ、ひゃっはははははははははははははっ!!!? ひゃはっ!!!! ひゃはっははははははははははははははぁぁぁぁぁあああっ!!!?」
「早い話、時間がたてばたつほど、君はどんどんくすぐったくなる。今の時点でも、普段の2倍ぐらいかな? 経験したことがないくすぐったさなんじゃないかな」

「ひぎぃぃぃっひゃっはっははははははははははははははは!!! どんどんくしゅぐったふっ!!? くしゅぐったくなっひぇっ、ひゃぁぁぁっひゃっはっはっははははははははははははははははははははぁぁぁぁあ!!!?」

人の感度というものは、そう簡単に変えられるものではない。生まれつきによる部分が大きいし、あるいはじっくり時間をかけて開発していかなければならない。それでも限度がある。

そもそも、神経という器官は敏感なら良いというわけでもない。無闇矢鱈に感度が上がった状態で傷でも付けられようものなら、痛みにのたうち回ることになるだろう。最悪の場合ショック死だ。

そんな面倒な制約を全て無視できるのは、彼女たちのを編集できる権限を持った、僕だけの特権だ。痛みを及ぼすこともなく、ただくすぐったさと性感だけを引き上げる。その結果がだった。

「ふひゃぁぁっひゃっははははははははははははははははぁぁぁぁあ!!? も、もうっ!!? も――♡♡♡♡」
「イかないほうがいいよ。イッたら、もっとくすぐったくなるようにしたから」

「ん゛ぃぃぃぃぃっ!!!? そんにゃっ!!! そんにゃ゛ぁぁぁっはっはははははははははははははははははははははは!!!?」

僕が警告すると、小刻みな痙攣を始めていた全身が、ぎゅっと絞られるように硬直した。ノマの体は見るからに柔らかそうなのに、この時ばかりは硬い筋が浮かんで見える。

僕は腋の下で硬くなった筋肉に親指の腹を当てて、くにくにと揉みほぐすようにくすぐった。大胸筋から始まって、上腕二頭筋に、上腕三頭筋。ああええと、何だっけ、前鋸筋、広背筋、鳥口腕筋、あと大円筋……だったかな。

「っっふぎゃぁぁぁあっははははははははははははははははははははっ!!!? それっ、だめっ、だめぇぇぇぇぇぇぇえ♡♡♡♡ ぐにぐにしちゃやだぁ゛ぁぁぁぁっはっはははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁぁあああっ!!!?」
「それは失礼。やっぱり、指先で引っかいたほうがいいかな?」

「ふひゃぁぁぁぁぁぁあああああああああっ♡♡♡♡ ひゃはっ、ひゃぁ゛ぁぁあーーっはははははははははははははははははぁぁぁぁあっ!!!? 今それあえあうおあああ――♡♡♡♡ ぁぎっ、いっ、ぃ゛ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいっ!!!?」

くすぐったさを変えて揺さぶってみると、ノマは噴き出すように笑って、そして何を言っているのか分からなくなった。

彼女が過去にどんな経験をしてきたのかは知らないけれど、相当していることは分かる。そんな彼女が、涙をぼろぼろ流しながら焦燥の言葉を吐き散らすほどの反応だ。

それでも彼女にも意地があるのか、それとも底知れぬ欲があるのか。常人なら我慢なんて到底できないであろうくすぐったさに襲われてなお、一生懸命に両腕を持ち上げ続ける。僕は今に至るまで、あえてノマの両腕を拘束していなかった。それで、自分でくすぐり責めを受け続けようとするのだから、とんでもない話だ。

だけど、いつまでもそうしていられるとは思わないことだ。僕は指先でしつこく、腋のくぼみをこちょこちょとほじくるようにくすぐり続けた。きっとノマにとって、が一番効くくすぐり方だろう。

「ひきっ、ひっ、ひ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!? ッ――♡♡♡♡♡ ひゃは――♡♡♡♡♡ ひゃはぁぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」

側から見ても分かるぐらい、ノマの腋の下からぞぞぞぞという震えが全身に広がっていって、そして彼女は絶頂した。

仰向けになったままの体は海老反りになって、馬乗りになった僕の身体が持ち上がった。僕もこんなだから、そこまで体重があるわけではない。僕の太ももの側で大きく揺れる胸と相まって、視覚的な迫力は十二分だ。

 

だけどノマが絶頂してなお、僕はくすぐる手を止めなかった。相変わらず一定のリズムで、指先でノマの腋のくぼみをほじくり続ける。

「ひぃ゛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃ!!!!? なにこえあいおえあおうえっへへへへひぃぃゃぁあっはっはっはははははははははははははははは!!!!? ぁはっ♡♡♡♡♡ ひゃぁ゛あぁぁぁっはっははははははははははははははははははは!!!!?」

笑い声が高くなる。僕が予告した通り、彼女は1度絶頂したことで敏感になった。一般に言う、『絶頂すると感度が上がる気がする』なんてケチな話ではない。パラメータに一定の数値が加算されて、明確に感度が上がったんだ。

「ぁ゛あ゛ぁ゛あぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!!!!? ぁはっ!!!? ぁ゛えっ!!!? ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁああっはははははははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!?」

自らの意思で頭上に上げられたノマの両腕が、がくがくと震えている。その口から漏れる笑い声には、苦悶の感情がこれでもかと含まれている。こんなにもくすぐったくてなお耐えられているのだから、彼女の精神力か、あるいは欲望か、はたまた両方か――とにかくその辺りが人間のそれじゃない。

だけどそれも、もうすぐ限界だろう。僕は自分の体を倒して、両腋の下を手でくすぐりながら、加えて右腋の下に舌を付けた。

「ぉほぉぉぉぉぉぉぉおおっ♡♡♡♡♡ んひゅふっっひ!!!!? ぅひゃっ、ひゃぁぁぁぁ~~~~っはっはははははははははははははははぁぁぁぁっ♡♡♡♡♡ はひゃひぃぃぃぃぃぃぃ♡♡♡♡♡」

左腋の下は相変わらず指先でくぼみをほじくられたまま。右腋の下は舌でくぼみをほじくられながら、指先で胸の横辺りを引っかかれることになる。新たな責めも加わったせいで、ノマの反応も当然のように激しい。

僕が彼女の腋の下をなめながら見上げると、腕が先ほどよりもずっと鳥肌立っているのが分かった。

「ぃひっ、イきっ、イぃぃぃいいっ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ふぉぇっ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」

2度目の絶頂は本当にあっけなかった。きっと、ただの一瞬も我慢できなかっただろう。

背後で、びちゃ、びちゃという水の音が聞こえる。潮でも吹いているのだろうか。

 

だけど僕は、腋の下へのくすぐり責めを一向にやめない。相変わらず、同じ場所を、同じ触り方、同じリズムでくすぐり続ける。

「ひゃびゃぁぁぁっははははははははははははははははははっ!!!!? もっ、むりっ、無理ぃぃぃぃっひひひひひひひひひひひひひひひぃぃぃぃぃぃぃいっ♡♡♡♡♡ ゃ゛ぁぁぁぁぁああっはははははははははははははぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!?」

すると、とうとう限界が訪れた。ノマは勢いよく腕を下ろして、腋の下を閉じる。腋の下をなめていた僕は、彼女の腕と胴体に挟まれた。

「はぁーーーーっ!!? ひっ♡♡♡♡ はぁーーーー!!」

パラメータを少しずつ引き上げ続けた今、彼女は腋の下に息を吹きかけるだけでも笑い悶えるぐらい、敏感になっているはずだ。そんな状態になるまで我慢し続けて、その上で2回も絶頂したのだから、本当に本当に大したものだ。

だけど僕が彼女に称賛を浴びせることはない。むしろこれからがだ――僕は、ノマが下ろした手をつかんだ。

「下ろしちゃだめだよ」
「ぇっ!!? えっ、あっ、ちょ!! う、嘘でしょ……っ!!?」

「君が抵抗するなら、僕もこうせざるを得ないよ」
「な、何、これ、下ろせないっ!!? なんでっ、なんで下ろせないのぉぉお!!?」

僕はノマの腕を持ち上げて、頭上の何もないところでぴたりとした。

「そ、その、冗談だよね……!?」
「冗談って何の話?」

「だ、だだだだって私、二回もイッたんだよ!?」
「そうなんだ?」

「たった二回かもだけど、半端じゃないんだよ!!? 体が全部溶けるみたいなっ、一回で十回イクみたいなぁぁ!!?」

ノマが涙をぼろぼろ流しながら、どれだけ気持ちよかったかを事細やかに説明してくれる。僕としては何だかうれしい気がするけど、それはそれ。僕はお互いが今置かれているを、彼女に思い出させてやるのだ。

「――だけどさ、君が『僕たちのことを他言しない』って約束してくれないから。僕も、相応のことをしてやるしかないんだ」

きっとノマは、気持ちよさのあまりだったのかを忘れていたんだろう。僕の言葉を聞いたノマの口が、ぱっと開く。

。彼女が何かを言おうとした瞬間、僕は改めてノマの腋の下をくすぐり始めた。

「あ゛ぁぁーーーーーーーーッ!!!!? あ゛ぁあぁぁーーーーーーーーっはっはっははははははははははははははははははははははっ!!!!? ひゃぁあ゛ぁぁぁっひゃっははははははははははははははははははははははははッッ!!!!!」

普通の人間だったら頭がどうにかなってしまいそうなくすぐったさすら、抵抗することなく耐え続けていた百戦錬磨のノマ。そんな彼女ですら耐えられなくなった後に、本当のくすぐり責めが始まる。

僕は本気で、ノマの腋の下をくすぐり始める。短い時間で学んだ、彼女に一番効くくすぐり方を実践する。爪を当てるけど食い込ませない、皮膚の表面をそりそりとこするような圧力を維持する。指の動きをできるだけ早く、だけど急ぎすぎて雑にはしない。本気でくすぐったさを与えるというのは、意外と大変だ。

僕が今まで本気を出していなかったということは、敏感になりすぎた身体では判断ができなかったみたいだった。

「くすぐっだいぐすぐっだひぐずぐっだびぃぃぃぃぃぃっひっひゃっははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁああっ!!!!? なんでっ、なっ!!!? いままでっ、百倍くすぐっだいぃぃぃひっひゃっはははははははははははははははぁ゛ーーーーーーーーっ!!!!?」

ノマが初めて、本気で抵抗し始める。脚がばたばたとベッドを叩いて、腰が思いっきり跳ねて、馬乗りになっている僕としてはちょっとしたロデオ気分だ。

このままだと腕がブレてくすぐりにくいから、背中がベッドに付いた瞬間を見計らって、彼女の腰をぴたりとした。

「イッひゃっひゃーーーーっはっははははははははははははっ!!!? んぉ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ だめっ、またイひっ!!!!? ぎぃ~~~~~~~~~~、ッ~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」

腋の下をくすぐり続けるだけで、ノマは何度も絶頂を迎える。最初こそ回数を数えていたけれど、今となっては数えるのがおっくうになるぐらいだ。

快楽に慣れた彼女が、腋の下だけでこうも乱れるなんて、初めての経験だろう。

「喋らなぃぃぃぃぃぎひっ♡♡♡♡♡ ひゃぁ゛ぁっははははははははははははは♡♡♡♡♡ するからッ!!!!? やぐそくするからぁ゛ぁあぁぁっはっはっはははははははははははははははははは!!!!! ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「喋らないって、何のこと?」

「あなただちのこどぉぉぉぉおおっ♡♡♡♡♡ しゃべ、らな――ッ♡♡♡♡♡ ぃぎ――ッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁはははははぁッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
「本当かなぁ? 信じられないなぁ」

「そんあ゛っ、そんな゛ぁぁぁぁぁあっはははははははははははははははぁ゛ぁぁぁああああひッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ごめ、ひゃは――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」

ノマは何度も僕に懇願する。だけど僕は、ノマの腋の下をくすぐり続ける。

ノマが『喋らない』と連呼し始めた時、彼女自身の表情に希望が浮かんだような気がする。を思い出した以上、それを口にすればくすぐり責めをやめてもらえると思ったのだろう。

だけどな彼女にこれだけやり返したぐらいでは、僕はまだまだ満足できなかった。僕が彼女の懇願をばっさり切り捨てると、一瞬絶望が浮かんだあと、それらの感情は全てくすぐったさに飲み込まれていくのが分かった。彼女の生殺与奪を握っていることを実感する。

 

そしてこれからの行為は、そんな黒い優越感に任せたものだった。僕は口を大きく開けたまま、彼女の腋の下に無理やり顔を突っ込んで、くぼみの中にあるぷっくりと盛り上がった肉をかぷりと甘噛みした。

「ヒぎ――ッッッ♡♡♡♡♡ ッッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ひぎゃは――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」

その行為は、加速度的に敏感になっていった彼女の腋の下には、少々やりすぎだったみたいだ。ノマはまるで性器にイチモツを勢いよく突っ込まれたかのような悲鳴の後、脚をぴんと伸ばして絶頂した。

そして問題は、それからだ。

「ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ かヒュ――ッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ っひ――♡♡♡♡♡ ッ゛ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」

今やノマの腋の下の感度は、子どもが作ったロールプレイングゲームのようにイカれたパラメータだ。たらりと垂れる二人の体液、僕の息遣い、敷かれたシーツとのこすれ――あらゆる刺激がノマにくすぐったさを与えて、深い深い絶頂をさらに引き延ばしていく。

一度の絶頂を延々と続けるノマ。もう声帯を震わせるのもおっくうなのだろう、声はもはや声の体をなしておらず、熱い吐息が吐き出されるだけ。

僕が顔を上げて見てみれば、ノマの表情は何ともみっともないものだ。白目をむきかねないぐらい目玉が裏返って、舌が大きく前に突き出されている。涙と、鼻水と、よだれで、美しい顔も台なしだ。背後からは、びちゃびちゃという音がずっと響き続けている。これだけ体液を流して、脱水症状にならないのだろうか。

だけどそんなみっともない姿が、僕には何だかこの上なく扇情的なものに見える。だから僕はつい、彼女をくすぐるのを止めなかった。腋の下を爪でほじくりながら、歯を立ててあむあむと甘噛みする。

「ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ひぎっ、ひ――♡♡♡♡♡ ひ、ひ、ひ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ヒ――――」
「あ」

すると彼女はとうとう、一際大きく背筋をのけ反らせて、ぷつんと笑い声を途切れさせるのだった。

 

「ま、まずい、かな? ノマ、ノマ!?」

この世界において女性がくすぐられて気絶する場面は結構見られるけれど、自分で陥れる機会はそう多くないし、今回の反応はちょっとまずい気もする。僕は慌てて彼女から飛び退いて、いじくったパラメータを元に戻した。

「ひーーーー……♡♡♡♡♡ ひぎ、ひ――♡♡♡♡♡ ひひっ、ひ、ひーーーー……♡♡♡♡♡」
「ええと、だ、大丈夫、だよね……」

刺激するものはもう何もないはずなのに、ノマは今もなお、くすぐられているかのように笑い声を上げ続ける。『これ、やりすぎたかな』とか、『逆恨みされないかな』とか、僕はいろいろと怖くなる。

だけど元はといえば、彼女がここを押し掛けてきたわけだし、僕がをできるかは、ミントから話を聞いていたはずだ。だからそう、今回のことは、僕は悪くないと思おう――僕は、自分に言い訳するのに必死だった。

「はーあ。とにもかくも、彼女をどうにかしなきゃ。アレリナは先に寝てて」
「…………」

「僕は、彼女の宿を調べて送る。ここに寝かせるのは、相部屋の君も落ち着かないでしょ」
「……分かりました」

大変な一日――と思うのは、ノマに悪いだろう。きれいな女性が、わざわざ僕に会いにきてくれたんだ。むしろ幸運な一日と思うべきだろう。

そんな実感を得ると、段々とノマに触れた感触がよみがえってくる。馬乗りになった時に太ももで挟み込んだ、ノマの胴体の柔らかさ。指で触れた時のなめらかさ、舌でなめた時のシワ一本一本の凹凸、歯で甘噛みした時の肉の弾力――。

「……僕、自分のはいじってないよな?」

何だか無性に恥ずかしくて、僕はゆだった頭でを打ち切るのにしばし苦労するのだった。

 

――――
――

 

1731-1-3

「おっはよー! 二人ともまだ朝食中? お寝坊さんだなー」
「ノマっ? 君、また来たのっ!?」

翌日の朝。僕たちが宿の食堂で食事をとっていると、ノマがにぱりと明るい表情でやってきた。まさか昨晩あんなに乱れておいて、こんなにもすぐ元気になるなんて。それ以前に、をされて、また僕のところに会いにくるなんて。

「んふふふふー♡」
「な、何、ノマ……?」

ノマがにんまりとした表情で僕を見つめている。

再度言うけれど、僕は彼女が苦手だ。人懐っこそうに見えて、その裏ではいろいろな策略を張り巡らせている、打算的なタイプ。その笑みの裏で何を考えているのか、僕にはちっとも分からない。

だけど黙っているのも耐えかねるから、僕は何とかして話題を作ることにした。

「そ、それにしても、ノマ、結構な荷物だね。まるで旅に出るみたいだ」
「んー? そうだよ? 私は元々、根無し草の流れ者だからね」

「そうなんだ?」
「あちこち適当に旅して、お小遣い稼ぎながら気持ちーことして回ってるの♡」

なるほど、と僕は思った。出会った当初は、冒険者なのか、娼婦なのか、貴族なのか、さっぱり分からなかったけれど、その正体は旅人。きっと彼女は、その時々に応じていろいろなを使いこなすのだろう。

それにしても、その目的が『気持ちいいことをするため』とは恐れ入る。僕たちに接触してきたのも、その一環ということだ。

「まあ、ここを出る予定はまだ決まってないんだけど。、今泊まってる宿はもう使わないからね」
?」

「んっふふふ♡」

ノマはそう笑うと、僕に顔をぬっと近づけてきた。

「今晩も、私とどうかなぁ♡」
「え、ええ?」

「貴女と一緒にいるなら、向こうの宿はもう必要ないし。貴女にフラれちゃったら、もうこの国にいる理由はないってわけ」

直接的な表現ではないけれど、それを理解できないほど、僕は鈍くなかった。そして信じ難かった。僕は彼女に結構なことをしたつもりだったのに、翌朝には早々に求められているわけだ。

「……性欲オバケ?」
「ま! 人のことをそんな風に言うなんて失礼だなぁ!」
「いや、普通じゃないでしょ! そんな連日であんなことシたら、君の体がもたないよ!?」

「だってぇ、私、貴女のこと気に入っちゃったんだもん♡ それとも、やっぱりシっぱなしじゃやだ? いいよ、たくさんご奉仕するし、何なら今度は私があなたのこ、と……♡ 私のテク、結構すごいんだよぉ♡ 興味ない?」
「そ、それはちょっと興味ある、けど。じゃなくて、そうじゃなくて!」

「あ、ねえねえ、昨日話してたけどさ、いざとなったらんでしょ? 今晩はそれも一緒に欲しいなぁ♡」
「だから、話を聞いて。っていうか近い――」

だけど、そこで僕たちの会話が止まる。視界の隅から、ものすごく居心地の悪い殺気が突き刺さってきたからだ。

「あ、アレリナ……」
「…………」

「おーこわ。はーあ、貴女と一緒にいたいのはやまやまだけど、連れに殺されるのは勘弁だよ」

そしてノマがぱっと離れる。引き際を弁えた女性だ。僕は何だかものすごくもったいない気がしたけど、『仕方ない』と思ってため息を付くことにした。

アレリナも賞金首の身だ、他の誰かがいたら落ち着かないだろう――何か約束をしたわけでもないけれど、僕はいつの間にか、アレリナのことを優先していた。

「また今度会おうよ。僕は一応、君がどこにいても会えるようになってる。アレリナの都合もあるから、いつでもってわけにはいかないけどね」
「本当!? 絶対だからね!」

正直に言って、僕はこのノマという女性を気に入っている。『苦手』と『好き』は共存できるものだ。

だけどアレリナのこともあるし、何より僕はこの《世界》において、誰か1人と深く関わることはあまりしない(あまり、ね)。それに彼女も、渡り鳥のような生き方が性に合っているみたいだ。

「はい。じゃあ、やーくそくっ♡」
「え、何?」

「ほらほら、お互いのおでこをくっ付けるの。知らない?」
「……『指切りげんまん』みたいな? そんなの始めて聞い――んむっ!?」

僕がノマに顔を近付けた瞬間、ノマは僕の頭をつかんで、自分の胸に引き寄せた。

「はーい、おっぱいでむぎゅむぎゅ♡ むぎゅむぎゅむぎゅむぎゅ♡」
「んぐ、ぷはっ!? な、こんな人前で何を!?」

「にっひひ♡ これで私のこと、忘れられないでしょ?」
「……おでこのくだり、絶対うそでしょ!!」

「やっぱり《神さま》って、思ってたよりもずーっとかわいいんだねぇ♡」

再三、やっぱり僕は、彼女が苦手だ。

結局そんなやり取りをして、僕は火照った顔のまま、ほくほく顔のノマと別れるのだった。

 

「ったく、何て女性ひとだ……」
「楽しそうでしたね、アバター」

ノマがスキップしながら宿を去った後、昨晩から一言も話さなかったアレリナがやっと口を開いた。

「皮肉かい、アレリナ。僕がみたいに手玉にとられてさ」
「違います」

冷たいな。アレリナの言葉は氷水みたいだ。恥ずかしさで火照った顔が、無理やり冷やされていく。

「ミントの時も、ノマの時も、貴女は楽しそうだった」
「まあ、そりゃね」

「……アバター。私は、貴女が分からない」

アレリナの言葉は冷ややかだけど、その表情は少し違う。もっと、いろいろな感情が入り交じっているように見えた。

「確かに彼女たちは愛らしかった、美しかった。しかし、こう言っては何ですが、私も自身の容姿は優れていると思っている。しかし貴女は、私を犯した時だけつまらなそうだった」
「…………」

「私と彼女たちの違いは何ですか? 命を狙ったから? 違う、ミントだって貴女を狙った。聖典に記された贄の記述のように、処女にしか趣味がない? いや、それならきっとノマを犯しはしない」

「最近よく喋るね、アレリナ」
「はぐらかさないでください、アバター」

アレリナが自問自答を始めたところで、僕は遮った。その結果、不機嫌そうに顔をしかめられた。

彼女のは、決して嫉妬ではない。そんな性格ではない……というより、彼女はそもそも僕のことを好いていない。嫉妬ではなく、理解できないことによるいら立ちだ。もしかしたら、急に斬り掛からず理解しようとしていることは、大した進歩なのかもしれない。

だけど、こんなにもを、どうして見つけられないのだろう?

「ごちそうさま。そろそろ出るよ、アレリナ」
「待ってください。まだ話は終わって――」

「……一体、君は僕をだと思ってるんだろうね?」

僕は少しいら立ちながら返して、その会話を無理やり終わらせた。

僕の問い掛けといら立ちは自分勝手なもので、アレリナにとっては理不尽なものだっただろう。彼女はその後しばらく、その答えを探して悶々としていた。

 

目次

表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》