⏱このページは34分ぐらいで読めます
目次
表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
2730-12-04:
昨日、非常に厄介な女性と知り合った。
「《神》よ。貴女はこれから、どこで、何をするつもりなのですか」
裏路地にて、アレリナ・エルバーエンスは感情を押し殺したような声音で、僕にそう問うた。背は高く、しかし細い。白銀色の髪と刃のように鋭い眼を持ち、ぼろぼろの修道服を身にまとった、神秘的な雰囲気を漂わせる美しい女性だ。
彼女は僕のことを憎んでいて、殺したいらしい。その何気ない質問の最中でも、居心地の悪くなる殺気を放ち続けている。
「ノープラン」
「のー、ぷら……?」
「特に決めてない。歩きながら決める」
「そうですか」
僕は思わずため息を付いた。
「それよりさ」
「はい」
「《神》って呼ぶの、やめてくれないかな。仰々しいし、僕はそんな風に名乗ったことなんて、1度もないんだ」
「では、それ以外に何と」
「適当にどうぞ。《神》以外ならね」
「自分で要求しておいて、それはあんまりなのではないですか?」
アレリナの、僕に対する殺気が強くなる。彼女の言うことは確かに正論なのだけど、だからといって殺気でもって応えてくるのはどうかと思った。
「一つ聞きたいのですが、貴女のその姿は一体何なのですか」
「姿って、どういう意味?」
「その少女の姿は、教会で知られているものと違います。本来の姿ではないでしょう」
「はっ」
僕は鼻で笑った。
「そんなの、教会のやつらが勝手に妄想してるだけでしょ。僕のアバターは元々これだ」
「……そう? ……ですか」
僕が当たり前のように返した言葉に、アレリナは首をかしげながら返すのだった。
そんな会話をしてすぐ後のことだ。
「ところでアバター。もう一つ聞きたいのですが」
「……それ、僕の名前?」
「え、違うのですか?」
「いや、それでいいよ」
そんな経緯があって、僕の名前はアバターになったようだ。
2730-12-05:
アレリナはこの国――空の教国が賞金を出しているお尋ね者だった。
もっとも、その情報は一部を除いて秘匿されているらしい。メンツか何かの問題なのだろうか、政治を知らない僕には、その理由はさっぱり。彼女のことを知っているのは、一部のお偉いさんか、裏側にいる情報通か、あるいは『彼女を捕らえられるかも』と誰かに教えられた腕利きか。
とにもかくも、この国において彼女を狙う者は存外に多い。それなのに、僕を追ってわざわざそんな場所の中枢にまで来るのだから、まったく恐れ入る話だ。
「あのさ。所構わず短剣の柄に手を掛けるの、やめてくれないかな」
「失礼。いつ追手が来るか分からない生活でしたので、警戒を」
人目のない街道に出るや否や、アレリナのあまりに露骨な行動に、僕は顔をしかめた。その言葉を信じてほしいのなら、殺気を僕に向けるのをやめてくれって話だ。
だけどこの《世界》を回るために実装しているアバターは、そもそも死ぬように作られていない。たとえチェーンソーでもね。『死ぬ』というのは、意外と面倒な手続きが必要なんだ。仮に何らかの方法で死ぬことができたとしても、代わりはいくらでも作り直せる。
彼女のしていることは不毛だ。そう考えると、僕は無性に苛ついた。
「そんなちゃちなナイフで、どうやって僕を殺すつもり?」
「ちゃち? これは大聖堂の宝物庫に封印されていた『神殺し』……」
「『神殺し』? それが? そんな恐ろしいものが存在していたなんて初耳だね、驚いたよ」
それ以上は説明しない。この前の結果を見れば、その短剣が本物か否かは明らかじゃないか。
「……そんな、ばかな」
アレリナは少し逡巡した後、『信じられない』と言わんばかりの表情を浮かべていた。
どうやら、この《世界》の神話には、いろいろと尾ひれが付いているらしい。ありがちといえば、確かにありがちなのかもしれない。それをうのみにしてしまうのは、魔術という超常的な現象が存在する環境だからか、それとも幼い頃からの教育故か。もしくは、アレリナになまじ力があるからか。
対峙した時に分かったことだけど、彼女は魔力を使って、身体能力と短剣の切れ味を爆発的に増強させていた。なんせ僕がまばたきする間に、彼女は幾十幾百もの斬撃を浴びせてきたんだ。魔術の質、内包する魔力、そして純粋な戦闘技術――その強さは《規格外》と呼ぶにふさわしい。本人がナマクラナイフに気付かないところを鑑みるに、それらはきっと無意識的なものなんだろう。
この《世界》において、魔術は重要な能力であるにも関わらず、修得する機会に乏しい。国や大学など相応の組織で体系的に学ぶか、死地で偶発的に身に付けるしか方法はないのだとか。彼女は後者だ。
だけど仮に才能があったとしても、戦闘の訓練を受けたこともなく、おまけに当時幼いとすら呼べる年齢の女性がここまで強くなるなんて、よほどだったということだ。
「教会、ね……」
「アバター?」
「何でもないよ」
きっと、僕のこの気持ちは理不尽なものなんだろう。
だけどこの国に対する嫌悪感は拭えない。早く離れることにしよう。
2730-12-17:
アレリナは、僕が今まで出会った女性の中でも特に美しい。
目鼻立ちが整っていてスタイルがいい女性は、確かに他にもたくさんいたかもしれない。だけどアレリナは別格だ。彼女から醸し出される神秘的な雰囲気のせいか、あるいは単なる僕の好みの問題か。とにかく彼女は僕を特別な気持ちにさせた。
そんな美貌に反して、彼女はどこか世間知らずというか、少しずれたところがあるようだ。
数日掛けて、彼女と出会った国の二つ向こうにある土の王国に辿り着く。肥沃な土地のためかご飯がとてもおいしくて、人々も大らかで、僕もお気に入りの国だ。
「はい、あげる」
「……アバター。何ですか、これは」
「串焼き、羊肉だってさ。そこの露店で買った」
「……どうも」
アレリナがお金の出どころを僕に問うことなく受け取ったから、少しだけほっとした。大丈夫、あれはちゃんと、お店の人もお金として使っていけるはずだ。
だけど、次の瞬間のことだ。
「……すん」
「ん?」
「すん、すんすんすんすん、すん」
「……こらっ」
「ふぇっ!?」
僕はアレリナの後ろ頭を軽く小突いた。
「そんなに鼻を近付けて嗅がない。犬じゃあるまいし、はしたないよ」
今までの旅程では、アレリナにとって少しばかり危険な国にいたから、ゆっくり食事をとる暇がなかった。彼女が口にしていたのは、自前の干し肉と黒パン、水ぐらいか。
だから今日、僕は初めて、彼女とまともに食事を共にしている。そこで彼女の雰囲気からは到底かけ離れた野性味あふれる様子を見て、僕は思わずそう言ってしまったのだけど。
「ぇ、ぁ。す、すみません……」
アレリナは目を丸くして僕を見つめていた。何か信じられないものを見たときの表情だ。
そこで僕は反省する。幼い頃から教会に閉じ込められっぱなし、やっと出られたと思ったら、次は逃走の日々。きっとまともな食事にありつけることは少なかったのだろう。腐っているものを口にしなければならないこともあっただろうし、もしかしたら教会でも薬を盛られていたかもしれない。そう考えると、今の行動もごく自然なことだ。
「……言いすぎた、ごめん。心の片隅にでも置いておいて」
「は、はい……」
アレリナの視線が僕から外れることはなかった。
――――
――
さて、土の王国に来たことには理由がある。早い話、僕にも欲が出てきたということだ。
「アバター。貴女はこの国で何をするつもりですか」
「よくここが目的地だって分かったね」
「分かるも何も、貴女は途中から一直線にここに来たではないですか」
「それもそうか。まぁ、あらかじめデータベースで調べていてね」
夜。僕はアレリナにそう聞かれて、宿のベッドに寝転がりながらメモの情報を引き出した。
(それにしてもアレリナは、わざわざ部屋までいっしょにしなくてもいいのに……)
「ここから西の森に、盗賊団がいるらしい」
「西、ですか? 西には交易路どころか集落の一つもないはずですが」
「そうだね。森の向こうは、越えるのが難しい大山脈。他の街道に行くにも少し遠すぎる。あの辺りに行くのなんて、せいぜい木こりか狩人ぐらいだ」
盗賊というのはどこにでもぽんぽん出るイメージがあるけれど、それでも最低限の条件ぐらいはある。人がいる場所でなければならないということだ。誰もいない、誰も通らない場所で、どうやって金品を盗むことができるだろう?
人が通る街道から遠く離れた、誰もいない森の中でたむろしている盗賊なんて、いるとしたらそれは――。
「要するに、ポンコツ盗賊団さ。腕っぷしは知らないけど、少なくともオツムは弱い。そんなだから、こんなにも治安がいい国にも関わらず、誰にも相手されていない」
「そのような盗賊団に、貴女は何を」
僕は、自分の頬が緩むのを感じた。
「《世界》から見ても、毒にも薬にもならない奴らだ。それなら僕が少しぐらい遊んでもいいだろう、ってね」
「っ! ……まさか、その盗賊団には」
「うん。1人だけだけど、かわいかったよ」
僕は事もなげに応えた。
どうしてむさ苦しい男しかいない盗賊団なんかに、わざわざ国を跨いでまで会おうと思うだろう。つまりはそういうことだ。
「ッ……!」
アレリナの鉄のように冷たく鋭い殺気が、僕に突き刺さる。僕でも分かるさ、彼女が今、『ああ、やっぱりこういう奴なんだ』とか思ってることぐらい。
だけど彼女に僕を止める筋合いはないし、その力もない。
「邪魔しないでよね」
彼女が、僕の言葉に応えることはなかった。
2730-12-18:
その咆哮は、森の中をかき分けながら歩いていた時に響き渡った。もっとも、『咆哮』と呼ぶには少し、高くかわいらしすぎる声だったけど。
「あーーんたたちぃぃーーっ!!」
僕は戦場慣れした戦士とかではないから、声の出どころがよく分からない。だけど何となく、声は頭上から落ちてきているような気がした。
……いや、まさかね。ここがうっそうと生い茂る森の中だからって、そんなばかな。
だけど隣を見ると、アレリナの目線も上を向いている。そして次の瞬間、どこからともなく1人の少女が降ってきたのだ。
「あんたたち! 命が惜しかったら、有り金全部置いていきなさい!!」
「うわぁ」
まさか本当に木の上にでもいたのだろうか? くるくる回転しながら地面に着地して、こちらを指差し。その登場は『ばーん!』という音がよく似合う。まさかこんな腐った《世界》で、こんなこてこてな状況に出くわすとは思わなかった。
ひとまず僕は、少女の姿を確認する。ピンク色の短い髪。この《世界》ではいろいろな色の髪を見るけど、彼女の髪は特に鮮やかに感じる。身体は細くてぺったんこ。背は僕よりはほんの少し高いだろうか?
(僕のアバターは相当に小さいほうだ)
しかしこんな少女でも、その素性は盗賊だ。鮮やかな色の髪はぼさぼさだし、彼女が身にまとうのは、拾ったのか奪ったのか分からないぼろぼろの服。しかも彼女のサイズに合った服は見つからなかったのだろう。袖と裾が短く破かれていて、それでも丈がぶかぶかだ。
「者ども! 来なさい!」
そして彼女の檄にお尻を叩かれたかのように、分かりやすい風貌のごろつきどもががさがさと出てきて僕たちを取り囲んだ。
どいつもこいつもぼろぼろの装備。その風貌を鑑みても、やっぱり儲かっていないみたいだった。
「うん、間違いないね。彼女だ」
「アバター、何かの間違いでは? まさか、あんな娘が盗賊を……?」
「もっと言えば、あの子が盗賊の頭領だよ、アレリナ。名前は確か、ミント、だったかな」
「ほう! 名前を知られているなんて、私も有名になったものね!!」
ミントは仁王立ちしながら、ふんすと背筋を反らせて応えた。
アレリナもそうだけど、強くて若い女性というのはなかなか珍しい。ミントという少女に盗賊団の頭領が務まっている以上、少なくともそこらのごろつきに寝首をかかれる心配はない実力ということだろう。こんな幼い少女に付き従う彼らの心境はいかに。嫌嫌なのか、それともそういう趣味なのか。
まあ、男たちのことはどうでもいいか――僕は1歩前に出る。これは予防線というか、はっきり言ってしまうなら言質だ。
「ねえ、君たち」
「あん? あによ」
「盗賊行為を辞める気はないかな。やっぱりさ、良くないことだし。いつか報いを受けるかもしれないよ?」
「ふん! 命乞いかしら!? かわい子ちゃんだからって見逃さないわよ!!」
ミントは仁王立ちしながら、僕をびしっと指差す。その姿は間違いなく『かわい子ちゃん』なのだけど、やっていることは立派な悪党。それも思わず癒やされるぐらいに、こてこての、理想的な子悪党。
つまり良心の呵責は要らないということだ。
「それじゃ遠慮なく、報いを受けてもらおうかな」
僕はわざとにっこり笑ってから、手下の男たちを一人残らず気絶させて、ミントの四肢を動けなくした。
(この辺りの説明は、わざわざいらないだろう?)
「ふぇ、え、ぇ……!? て、手下……? う、動けな……!?」
ミントにとっては、何が何だか分からなかったのだろう。それもそうか、彼女からしてみれば、手下たちが全員同時にばたりと倒れて、いつの間にか自分も、腰に手を当てたポーズのまま動けなくなっているのだから。
彼女は涙を浮かべて、見た目相応の声を上げだす。
「あ、あ、あんた、な、な、何者……」
「《神》ですよ、彼女は」
「か、かかかかかか神さままままままままま!!?」
アレリナが補足する。《神》を自称するなんてなんだか痛い人みたいだから、あまり言わないでほしい。
だけど仮に事実だとしても、真に受けられる言葉だろうか。それだけミントという子は、盗賊こそしていれど、根は純粋なんだろう。
まあ、『それはそれ、これはこれ』だ。悪いことをした子にはお仕置きをする――それは実に自然な流れじゃないか。うん、まったく当たり前のことだ。
そういうことで僕は、腰に手を当てたままのミントに近付いて、がら空きだった首筋をそっとなでた。
「ふいんっ!?」
動けないミントは、精いっぱい全身の筋肉を収縮させながら奇声を上げた。
「敏感だね」
「……へ、へへへ、変態変態へんたぁぁーーい!! へんたぁぁいいいいいいい!!?」
ミントは顔を真っ赤にして、僕を罵倒する。悲壮な覚悟を決めていたアレリナとはまた違う、初々しくて、ある意味では模範解答のような反応だ。
だから、僕も定番の返しをする。
「そんなこと言っていいの?」
「な、何よぉ……!?」
「これは『お仕置き』なんだよ? 君が反省するまで、くすぐるのやめないよ? いいのかな?」
「ふ、ふん! そんなの……! 私、くすぐられるの平気だもん!!」
僕の返しに、ミントはまた定番の返しをしてくれた。
『さて、どう責めてやろうか』なんて考え始めると、何だか楽しくなってくる。
とりあえず、まずは引き続き首を優しくなでてみる。細くて、汗ばんだ首筋だ。
「んくぅっ!? っふ……! ぅ、んぎぃぃ~~……!!」
分かっていたけれど、笑い出すには至らない。だけどそれでいい。こういうのは少しずつ追い込んでいくのがセオリーだと、僕は思っている。
「くひっ、ひひひ……!? ぃやっ、手、お、下りてぇぇっひひひひぃぃぃ……!?」
次に、首筋から肩、背中と、くすぐる手を少しずつ動かしていく。ミントはまだ笑い出さない。だけど、少しずつ反応が大きくなっていく。
時間はたっぷりある。ゆっくり、ゆっくり、彼女の反応を楽しむことにしよう――そんな風に思っていたら、自分がなんとかくすぐり責めに耐えられているとでも思い込んだのか。堪え性のないミントが、早々に調子に乗り始めた。
「っ、くふっ、う、ぅぅ~~! こんなの、ぜんじぇん、平気なんだかぁぁっくぅぅ……っ!?」
「そりゃあ、本気出してないからね」
「ふ、ふん……! だったら、さっさと本気出してみなさいよ!!」
その言葉は、本当に天然のものなのだろうか? そう思ってしまうぐらい、彼女の言葉は僕を誘っていた。
それじゃあ、お望みどおりにしてやろうか。僕は指の速さをあくまで変えないまま、くすぐる手をお腹へと移した。
「ふぎゃぁぁっはっはっははははははははははははぁぁぁぁ!! んなっひっ!? なにこれっ、なにこれっ!! はびぃぃっひひひひひひひひひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ミントの表情が一気に変わった。
彼女は『こんなの知らない』と言わんばかりに目を見開きながら笑い悶え始めるけど、僕としてはおおむね予想通りだ。くすぐりに対する抵抗力なんて、本気でくすぐられてからでないと分からない。彼女は今まで、体を本気でくすぐられたことなんてなかったのだろう。この《世界》においては本当に珍しいことだ。
まるで初めての子を犯すような背徳感が、僕の胸中を黒く冒す。だけどまあ、こちらは血が出ないから、随分マシだと思うことにしよう。
僕は自分に言い訳をしてから、続いて腋の下をくすぐることにする。
「ふひゃぁあぁぁぁぁっはははははははははははぁぁっ!!? なにこれっ、なにこれくしゅぐったひぃぃぃぃぃひっひゃっははははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ミントの反応がもっと良くなる。僕は今まで、彼女ぐらいの年頃の女性がくすぐり犯されている現場を何度も見てきた。その中でも、彼女は同年代よりもいくらか敏感かもしれない。
くすぐったさというものを禄に知らない敏感な女の子が目の前にいて、口実もある――そう思うとどんどん興が乗ってきて、いろいろと試したくなってくる。だから僕は、彼女の脚を上げさせた。
「な、あ、あああ足が勝手にっ!? み、右も、左もぉっ!? あっ、浮いて、私、宙に浮いてるぅぅ!!?」
そのまま脚を広げさせて、M字開脚の姿勢にさせてから、ぼろぼろのブーツを脱がせる。両脚の間から、ミントがおびえた表情を僕に向けている。
視界の隅で、アレリナが殺気を強めながら脚をもじもじさせているような気がするけれど、そちらには目線を向けないことにした。今彼女を見たら、斬撃の雨を浴びせられそうだ。
だから僕は、自分の首をぎぎぎと固定したまま、ミントに『そうだよね、嫌だよね』と言わんばかりの笑みを浮かべてから、足の裏に指を突き立てた。
「ふぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!? ぃや゛ぁぁぁぁあっはっははっははははははははははははははははははははは!!! はぎゃぁあぁっはっはっははははははははははははははぁーーーーーーーーっ!!?」
ミントは、腋の下をくすぐられた時よりも、さらにいい反応をしてくれた。
これは僕の勝手な思想、あるいは嗜好によるものだけど、女性をくすぐる時、最初から1か所に固執しないようにしている。人によって、くすぐったい場所は違うから。そして最も愉しいのは、1番くすぐったい場所をくすぐってあげることだから。
だから僕は今、ミントの全身の感度を調べている最中だといえる。今までの反応を見るに、1番くすぐったいのは足の裏で、2番目は腋の下だろうか――そんなことを考えながら何となく、くすぐる手を足の甲、ふくらはぎ、膝と、するする上げていった。
「ひぃっふぃっひっひひひひひひひひひひぃぃぃぃぃぃっ!!? ぅ゛、ぁ゛、や゛め、あひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」
僕は考え事をしていたから気付かなかったけれど、ミントの声がどんどん引きつっていく。そして指がそこに到達した瞬間、彼女は森中に響きわたりそうな悲鳴を上げて、僕を驚かせたんだ。
「――ひきゃぁぁぁあ~~~~っ!!? いや゛ぁあぁーーーーっはっはっはははははははははははははははぁぁぁぁ!! そこはやめでやめ゛でぇぇぇーーーーっへっへっへへへへへへへへへへひゃぁっはっははははははははははぁぁぁぁぁぁあああああっ!!?」
「おっと」
僕の動きが止まる。
気付けば、僕の指先はいつの間にか、彼女の太ももに食い込んでいた。年齢相応に細くて、だけど確かな肉付きもある。少女としてのかわいらしさと、女性としての艶を共存させた、美しい太ももだ。
なるほど、危うく早とちりするところだった――僕はそう反省してから、ミントの顔をのぞき込んだ。
「ねえ」
「はーーっ! はーーっ!?」
「くすぐったいの、平気なんじゃなかったっけ?」
「はぐ……っ!? へ、平気だも――ぉぎょっほっほほほほぁっはははははははははははははははははぁ゛~~~~~~~~っ!!?」
僕はミントにわざとらしく聞いて、彼女が何か答えようと喉の力を緩めたところで、また指を這わせ始めた。彼女は本当に面白い反応をしてくれる。
だからこそ、そういう反応も期待してしまうもので。僕は恐る恐る、内股の際どいところを爪でなぞってみるのだけど。
「ひゃびゃーーっはっはははははははははははははははぁぁぁぁぁっ!! あぎゃふっ!? あぶふふふふふふふふぅ゛っ!!? ふひゃぁあぁぁあっはっははははははははははぁぁぁぁびゃだぁぁぁっはははははははははははぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「うーん」
ミントはただ笑い続けるだけ。それも性感や色気というものを、何一つ感じさせない笑い声だ。まるで開発されていない。もしかしたら、1人遊びしたことすらないのかもしれない。本当にここでは希有な存在だけど、これはこれで扱いに困る。
彼女にとってくすぐりというのは、ただただくすぐったいだけのものだった。不快、苦痛、恐怖――嗜虐心を持つ人の中には、そこに性的な何かを感じ取ることも多いみたいだけど……。
「……よし」
僕はここでようやく、行き当たりばったりで始めたこの行為の方針を決めた。
「ミント。力抜いてごらん」
「ぁひ……っ!? な、なにひて……! くひっ、んぐひっ、っひひひひひひひひひひははひっ!?」
「もうちょっと優しくくすぐるから、力抜いて」
「んぐひっ、そんなこと、言われてっ、もぉっほほほほほほぉぉぉっひっはははははははははっ!!」
僕は相変わらず太ももをくすぐりながら、だけどくすぐり方を優しいものに変えた。
適当に指先でくすぐっていたのを、指の腹に変える。肌をこするのではなく、指の位置をほんの少しだけずらす。すり、すり、すりすり、すり、と。
爪が皮膚に当たらないように、指が肌の上で跳ねないように、動きが突然速くならないように――ミントがくすぐったさを苦痛に感じないように、ノイズを一切排除して、ただ優しいくすぐったさを与えていく。
「力は抜いて。息も止めない。だけど、声は我慢しないで」
「な、何なのよぉっほひぃぃ……っ!? んぐぅっひひひひひひ、ひぎぅぅぅ……っ!!」
「それとも、力が入らなくなるほどくたくたになるまで、思いっ切りくすぐられたい?」
「ひぃ――!? ……んぐっ、ふぅぅーーっ! はひゃっ、ふひゃはは……!」
「そうそう、上手。そのままね」
「ひゃっ、ははっ! ひゃ、ぁあぁぁ~~……!? んふふっ、ふゃぁぁ……!」
力が入らなくなるほどくたくたになるまで――それもまたおつなものだけど。僕は急いてしまいそうな気持ちを抑えて、時間をかけて、ミントの太ももを優しくくすぐっていく。
ミントは最初こそ、『訳が分からない』という顔をしながら太ももの筋肉を強ばらせていた。だけど、だんだんと反応が変わっていく。
「んひゃっはっ♡ ぁぇ――!? 今の、な、ひゃは、はぁぁ~……!?」
「ん?」
「な、なんでもっ、ないぃ……!?」
「そう」
「ふぁっ、ぁはっ、ぁ……♡ ぁはっ、ぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
僕はあえて、ミントの言葉にあまり反応しないことにする。するとミントは僕に気にすることなく素直な反応をするようになる。全身から力が抜けていくのが分かる。緩んだ声帯から発せられる間の抜けた笑い声から、その心地よさを感じ取れる。
そしていつしか、ミントはもっと強いくすぐったさを求めるようになっていた。
「んひゃぁぁ……っ! ぁ、あぁ……♡ ぁふっ! も、も……♡ っ、ぅぅーー……!?」
「ん?」
「ぅぐっ、な、なんでもない、わよぉ……!?」
「……ねえミント。もっと強くくすぐってもいいかな?」
「っ~~~~♡ し、知らない、わよ……!! そんなの、好きにしなさ……っ♡」
僕が問うと、ミントの太ももが先ほどよりも脱力しようとするのが分かった。だけど精いっぱい頑張って力を抜いて受け入れようとしているのに、緊張と期待で筋肉がぴく、ぴくと動いてしまっている。その動きはどこか面白く、健気で、そして扇情的だ。
僕はそんな内股の震える筋肉に、両手の指10本を立ててぞぞぞとなぞった。
「はひゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ♡♡♡ はひっ、はひぃぃぃぃっ!? ぁはっ、ひゃっははははははははははははひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ♡♡♡」
体の中で一番くすぐったいはずの太ももに、こうやって指を突き立ててなぞられたら、それはもうくすぐったくて堪らないだろう。
それなのに、今のミントには抵抗が見られない。むしろ、太ももの筋肉がくすぐったさに悦ぶように収縮するぐらいだ。
1番くすぐったくて苦しい場所だからこそ、覚えてしまえば最高の性感帯になる。かわいらしい少女に対する調教の手応えを感じて、僕は自分の口角が持ち上がるのを我慢できなかった。
行為はどんどんエスカレートしていく。僕はミントの服を消した。
「ぁっ、……ぅ……♡」
すっかり素直になったミントは、突然裸になって一瞬だけ恥ずかしそうにするけれど、すぐに期待の表情を浮かべる。僕のことを涙目で見つめるその姿は愛らしい。
彼女の期待に応えなければね――僕の心にはもう、罪悪感だとか背徳感だとかはなかった。僕は自律して動く羽根を4枚虚空に創り出して、そして遠慮なく、彼女の性感帯を撫でさせ始めた。
「ぁはぁっ!!? ぁ、あっ、ひゃっ! ひゃぁぁぁふひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ♡♡♡」
2枚の羽根は小さな胸に。ぽつんと可愛らしい乳首を刺激する。1枚の羽根は小ぶりなお尻に。中には挿れない、あくまで割れ目と入り口を丹念になぞる。最後の羽根は秘所に。これも中には挿れない、陰核と膣口をいじめ続ける。
そして僕は、手で彼女の内股をくすぐり続ける。
「ぁはっ、ははははははははひゅぅぅぅぅぅう♡♡♡ こえ、すごひぃぃっひひひひひひひひひぃぃぃぃぃい♡♡♡ きひっ、ひっ、ひっひひひひいゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ♡♡♡」
ふさふさと柔らかな羽根による快楽責めは、あまりに優しい。だけど、未開発の少女には、こんな風に少し優しすぎるぐらいがちょうどよかった。
そして僕は彼女の悦ぶ声を聞きながら、くすぐり責めの強さを調整していく。
「ひゅぁぁぁぁぁっ♡♡♡ ……んくぅぅぅっ!? くっひゃっはははははははははっははははぁぁぁぁぁあっ!!? くしゅぐっひゃぁぁぁっ!!? ぁっ、あはっ♡♡♡ ぁっ、あふぁぁぁぁぁぁあ~~っ♡♡♡」
くすぐったすぎて苦痛に感じないように、反対に快楽に飲み込まれてもしまわないように。くすぐったさと快感が同量になるように。くすぐったさを快楽が彼女の中でごちゃ混ぜになるように、刷り込んでいく。
すると彼女はだんだんと全身に力を込めていく。『力を抜くように言ったのに』なんて、いさめることはない。その時が来るまで、僕は淡々と彼女の太ももをくすぐり続けるんだ。
「だめっ、だめ、だめ♡♡♡ へん、変、にぃぃぃぃい――♡♡♡ んぐっ、んんぅっ!!? ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!? ふぁ――♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」
そして彼女が軽くオーガズムに達したところで、性感帯への責めと太ももへのくすぐり責めを止めた。
「はひゃひ……♡♡♡ ひ……!! なひっ、今、の……♡♡♡」
軽いオーガズムだからか、快感に呑まれるのは一瞬だけで、ミントはすぐに困惑の表情を浮かべる。その反応を見るに、彼女はきっと人生で初めて絶頂に達したのだろう。
僕はミントのぴくぴく震え続ける頭をなでる。すると彼女は言葉を発するのをやめて、ただ呼吸を落ち着けることに集中し始めた。
「落ち着いた?」
「……ふぁ」
絶頂の余韻が収まってなお、ミントはとろんとした表情を浮かべていた。その庇護欲をそそる姿は本当に愛らしい。
だけど僕は思い出す。彼女は盗賊だ。今の時点で僕は結構満足していたけれど、これは本来『お仕置き』だったはずと思うと、段々と邪な感情が湧いてくる。
「それじゃあ、『お仕置き』の続きをしよっか」
「っ……♡」
行為の前後では、『お仕置き』という言葉のニュアンスも随分と変わるものだ。ミントは宙に浮いて太ももをさらけ出した恥ずかしい格好のまま、僕を見つめて『次はどんなことをしてくれるのだろう』なんて期待した表情を浮かべている。本当に素直な子だ。
だけど僕が発した『お仕置き』という言葉のニュアンスは、彼女が抱くそれとは随分と違っていただろう。ただ彼女を気持ちよくしてあげる気なんて、僕にはさらさらないのだから。
今日の行為は、『彼女に会おう』というところまでは計画していたけれど、『具体的にこんなことをしよう』というところまでは考えていなかった。全部全部、行き当たりばったりの、でたらめな行為だ。そして僕は行き当たりばったりのまま、ふと思い付いたことを実践してみることにした。
「そうだな、状態異常……『痒み』、とか?」
「――――!!? ぁ、ぁ――? ぁ゛――!!?」
僕が呟いた瞬間、ミントの身体が跳ね上がる。
たくさんの『はてな』を浮かべた表情を僕に向けること、数呼吸。そして。
「――ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ!!!? ぃあ゛!!!? ぁ゛、ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ~~~~~~~~!!!?」
その絶叫は、先ほどの情事からは想像も付かないぐらい、悲痛なものだった。視界の隅で、アレリナも『何事か』と目を見開いている。
だけど心配はない。僕はただ、呟いたことを実践してみただけだ。
「んいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!? ぁ、いぎっ!!? 痒いかゆいかゆいかゆい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!? 体が全部痒い゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいっ!!!?」
状態異常『痒み』――今のミントは、頭のてっぺんからつま先までが隙間なく痒い、ただそれだけのことだ。
言葉で表すのは簡単だけど、人は虫刺され一つで心をかき乱されるもの。それが全身を覆っているのだから、その苦痛は筆舌に尽くしがたい。そして身体を動かせないから、自分でかくこともできない。もっとも、今拘束を解くと皮膚が傷つくのもお構いなしにかきむしってしまいかねない。
僕はそんな彼女の体をかいてあげることなく、さらなる追い打ちを掛けることにする。
「欲しがってたみたいだから、あげるね」
僕は再び、自律して動く羽根を創る。先ほどまで胸や秘部を撫でていたものと同じ、だけどたくさんの羽根を、彼女の全身にまとわりつかせる。
すると彼女は、悦びとは程遠い声を上げた。
「ぅびゃぁあぁぁぁぁぁっははははひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!? いま゛だめっ、だめぇぇぇぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへぇぇぇぇぇぇぇえっ!!? かゆいっ、がゆいっ、痒い゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁあっははははははははぁ゛ぁぁぁああああああっ!!!」
優しくも悪意に満ちたくすぐり責め。痒いところを羽根でなでられたらどんな感じか――それは彼女の反応を見れば分かることだ。くすぐったさが痒みを、痒みがくすぐったさを引き立てる。今の彼女は気持ちよさを感じている暇なんてないだろう。
僕は思い付いた悪意をどんどん重ねていくことにする。
「『尿意』。だけど『失禁禁止』」
「ぅう゛ぅぅぅぅぅっ!! ぁ、ぁは……っ!! なに、こぇっ!!? 出そ――ぉぁぃぇぁぁぁぁああああっ!!? 出ないぃぃぃぃぃひひっ!!? でなぃぃぃっひっひひひひひひひひひひひぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」
尿意が下腹部に強烈なうずきをもたらす。
ミントの太ももが、くすぐったさとは別の理由で強ばってゆく。『出したい、出したい』と言わんばかりに、腹筋がポンプのように収縮する。だけど失禁を禁じられたせいで、尿意が解消されることはない。いっそ、みっともなくお漏らしできたほうが、ずっと気分が良かっただろうに。
「『感度上昇』。くすぐったさと性感、どっちも」
「――ぁ゛ぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!? ひゃぁぁぁっひゃっはははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁあああっ♡♡♡♡ なひぃぃぃっひっひひひひひひっ、くしゅぐっひゃぁぁぁっはっはっははははははははははははは♡♡♡♡ かゆいかゆい痒いひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?」
ミントの声が明らかに大きくなる。息が詰まって、全身がこわばり始める。全身が陰核になったかのように感度を引き上げられれば、当然の結末が見えてくる。
だから僕は、さらに悪意を重ねていく。
「『絶頂禁止』」
「ぁ、あ、ぁ゛――ッ♡♡♡♡ ……ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!? ぁれっ、なんでっ、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!!!? 来なひっ!!!? こない、来ないよぉぉぉぉぁぁぁあっっははははははははははははははぁぁあああああああ゛ーーーーーーーーっ!!!!」
ミントがあともう少しでイこうとした瞬間に、僕がそれを禁止する。
本当はもうとっくに来ていておかしくないはずなのに、来ない。それは体の内臓の位置がばらばらに入れ替わってしまったかのように居心地が悪く、不快で、苦痛だ。そしてその一方で、気持ちよさはどんどん体の中にたまっていく。
いっそのこと、快感というものを知らなかったら、彼女もここまで苦しくはなかっただろう。図らずも、前半の優しい優しい開発が、今の彼女を殊更に苦しめることになったらしい。
――つまり、今のミントの状態をまとめると、こんなところだ。
痒み、尿意、失禁禁止、感度上昇、絶頂禁止。その上でのくすぐり責め。
「やら、やら゛ぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡♡ 痒い゛ぃぃっひひひひひひひひひひっ、くしゅぐったひぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!? 出しゃせてぇぇぇぇっへひぃぃぃっ♡♡♡♡ 来てっ、きてよぉ゛ぉぁぁぁぁああっはははははぁぁぁぁぁぁぁあ゛ーーーーーーーーっ♡♡♡♡」
神経がむき出しになったような感度のまま、痒みとくすぐったさが全身を包み込む。お互いの刺激が引き立て合って、下腹部を襲う尿意がその感覚を加速させる。だけど、絶対に失禁はできない。ものすごく気持ちいいはずなのに、絶頂に至ることも絶対にない。
我ながら、すごいことになったものだと思う。思い付く限りの食材と調味料を鍋に突っ込んだら、めちゃくちゃな料理ができあがってしまったみたいだ。
汗と涙、鼻水、よだれ。ありとあらゆる体液で、ミントの全身はぐしゃぐしゃに濡れていた。
「ごめんなざいぃぃぃぃぃっ!!!? ぃあひゃぁぁっははははははははぁ゛ぁぁぁぁあ♡♡♡♡ ゆるじでっ、ごめんなさいいぃぃぃぃぃぃぃっひひひひひひひゃひゃひゃぁっははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあ!!!? ぁ゛っははははははぁ゛ぁぁぁぁぁあああああああああッ♡♡♡♡」
ミントは何度も『ごめんなさい』と謝り続ける。
彼女が『ごめんなさい』と言っているからといって、本当に反省しているとは限らない。ただただ、この抑圧から解放されたい一心で、訳も分からず謝り続けているだけかもしれない。彼女の罪を考えるなら、もう少しこのままお灸を据えてもいいのかもしれない。
だけど僕にはそもそも、彼女の罪を裁くだとか、赦すだとか、そんな筋合いはなかった。だから僕は、『お仕置き』という体をかなぐり捨てて、ただ僕のしたいことを行うことにした。
「ねえ、想像してみて」
僕はミントの脳内にしっかり届くように、耳元でささやく。
「これから、痒いところを全部、爪で優しくかりかりしてあげる」
「ぁはぁ――っ!!!? ぅ、あ゛、ぁっはひひひひひっ!!!?」
「おしっこも出るようにするし、気持ちいいのも来るようにしてあげる」
「ぅあ゛ぁぁっ!!!? ぁはっひひひひひひっ!!? ぁ゛あぁぁぁぁぁぁ――っ♡♡♡」
笑いながらでも、その反応は明らかだった。飲まず食わずで丸一日歩き続けた後、冷たい水とおいしい食べ物を目にした時のような表情だ。
「ねえ、もう悪いことはしない?」
「しない――ぃぃぃぃぃぃっ!!? しません゛んんんんんんんぶぅっひゃっはっははははははははははははははははははぁぁぁぁぁあっ!!! ぁ゛ぁぁぁぁぁぁあああーーーーッ♡♡♡♡」
「それと、僕たちのことは誰にも言わない?」
「言いません゛んんんんんんっ!!!? 言わなひから゛ぁぁぁぁぁぁっひゃっははははははははははははは、ぁ゛ぁあぁぁぁぁぁッ♡♡♡♡」
「ん。いいこ」
僕はミントの頭をなでた。
僕が実行するコマンドは、端から見れば何の予備動作も余韻もない。せいぜい小さく呟く程度だ。だから僕も、『少し情緒に欠けるな』なんて思うことがある。
だけど、ミントに付与された全ての状態異常を解除した瞬間、彼女は僕の代わりに面白いまでの反応を見せてくれた。
「ヒ――――っ!!? ぁ゛――♡♡♡♡」
体ががくんと大きく跳ね、秘所から液体がちょろっと垂れる。
それと同時に、羽が瞬時に変形して、真っ白な人の手のような形になる。丸みを帯びた爪が、全身にこびり付く痒みの余韻を隈なく、優しく、かきつくしていく。
その瞬間、ミントは危険なまでの絶頂を迎えた。
「っっっぁ゛ぁぁぁあああああああああぁはぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ♡♡♡♡♡ ッ゛――!!!!? ぎひ――♡♡♡♡♡ ぁははははははっはぁ゛ぁぁぁぁぁぁああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
獣のようなあえぎ声。不自然なまでの全身の痙攣。秘所からは尿か潮かも判断できない液体が吹き出し続ける。
状態異常という思い付きは、ミントの体に想像以上の快感を齎した。痒みという状態異常はとうに解除しているけれど、それでもむずむずとした余韻は全身にまだ残っているようで。そこを爪でかいてあげれば、痒みを解消するカタルシスと、性感と、くすぐったさが、全部同時にやってくる。
失禁の解放感も、彼女にとっては危ない媚薬だ。尿意を解消すればすっきりした気分になるのはみんな同じだけど、今の彼女はそれを性的快感として受け取っている。もしかしたら彼女はこれから、ただ尿を出すだけでも気持ちよくなってしまうかもしれない。
そんないろいろとごちゃ混ぜになった気持ちよさが、絶頂を禁止されたせいで性感をたぽたぽに蓄えさせられた全身にぶちまけられているんだ。気持ちよくないはずがない。
「これ、すご――ッ♡♡♡♡♡ とま、ら、な――ッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ たすけ、助、け――ッ♡♡♡♡♡ おか、し――ッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
新しい気持ちよさがどんどん雪崩れ込んできて、ミントの絶頂は止まることがない。決壊した堤防は、もはやただの道だ。圧縮された快楽がミントの全身を通り過ぎて、神経を隅々まで強烈に摩擦して、秘所から止めどなく溢れ出していく。
あまりにも絶え間なく絶頂するから、僕も行為の止めどころが分からなくなってしまうぐらいだ。
だけど、ろうそくの火は燃え尽きる間際にその光を強くするという。ミントのそれは、僕の目でもはっきりと分かった。
「ッ゛――♡♡♡♡♡ ぁは、ぁはははは――ッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぎひ――ッ♡♡♡♡♡ は――ッ♡♡♡♡♡ は――♡♡♡♡♡」
今まで散々泣き叫ぶようにイッていたのに、途端に声がやむ。秘所から潮がぶしぶしと噴き出しながら、何かに耐えるように、全身に力を込めている。何か大きなものが来る――きっとミントは体で、そして僕は彼女の様子で、それを予兆した。
だから僕は、ミントに近寄る。そして両手をそっと、彼女の内股に添えた。来るべき瞬間に、最大限の快楽を与えてみたかった。
「ぁ゛――ッ♡♡♡♡♡ ぃ゛やッ♡♡♡♡♡ ぁ゛、ぁ゛ぁぁ――♡♡♡♡♡」
その時のミントの表情は、一生忘れられそうにない。
僕の指先を見た瞬間、ものすごく怯えて。だけど僕が彼女の表情を見て手を引っ込めると、彼女はものすごく絶望したような表情をして。だから僕がまた手を近づけると、また怯えて、だけどどこか、すごく期待しているような表情をして――。
だから僕は思いっ切り、ミントの内股を爪で優しくこそぐようにくすぐり姦した。
「ッ゛ッッッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁは――ッ♡♡♡♡♡ ぎゃッ♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッッッッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
他人の絶頂の強弱なんて、本当は僕もあまり分かっていない。もう今の今まで散々イッていて、どれもものすごい反応だから、どの絶頂が何番目に強かったかなんて分かるわけがない。
だけどミントのそれは間違いなく、今日で一番の絶頂だ。
「ぁぎゃ――♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁはひぎ――♡♡♡♡♡ ひッ、ぁ――♡♡♡♡♡ ッ゛ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ッ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
ミントの潮が、彼女を内股をくすぐっている僕の体に掛かる。だけど僕は構うことなく、彼女の内股をくすぐり続ける。こそぐという指の動きが、ミントの体から潮を搾り取るポンプの役割を果たしている。その動きと役割のミスマッチさが、少しおかしくて、愛おしくて、興奮した。
「ぃ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ぃひっ、ひ――♡♡♡♡♡ ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……♡♡♡♡♡ ッ゛ッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
僕が一心不乱にミントの内股をくすぐっていると、段々と噴き出す潮の勢いが弱くなっていくのが分かる。それとミントの声も、体の動きも。
ちょろちょろちょろ、ちょろちょろ、ちょろ。……ぷしっ。潮の勢いがどんどん弱くなって、最後にほんの少しの飛沫を上げた時、僕は全ての行為を止めた。
それでようやく、やめ時の分からなかった行為に終わりが訪れるのだった。
「ミント、大丈夫?」
「ぇひ――ッ♡♡♡♡♡ ひッ♡♡♡♡♡ ひぃぃぃ――♡♡♡♡♡」
「大丈夫、だよね」
ミントはそれっきり、反応らしい反応をしなくなった。ただ口元から引きつったような笑い声を漏らすだけ。秘所はもう緩みに緩んでしまったようで、透明な滴がちろ、ちろと断続的に流れている。僕は、彼女の体を虚空から下ろして、草が生い茂る地面に寝かせた。
ややあって、絶頂の余韻が収まり、ミントの体が落ち着いてきた。
「ぇへ、へへ……♡ へへへ、へへ……♡」
「……一体、どんな夢を見ているのやら」
ミントは地面に寝転がったまま、緩んだ笑い声を上げていた。
僕は苦笑した。あんなことをされた直後に、そんな幸せそうな笑い声を上げるなんて、相当タフじゃないとできることじゃない。だけどその無垢な表情を見ていると何だかほっこりとした気分になる。
僕はその場に座り込み、ミントの眺め続ける。時折、庇護欲に負けて頭をなでると、ミントは一瞬だけ全身をびくんと跳ねさせた後、緩んだ笑い声を強めるのだった。
――――
――
「むにゃ……、ぁ……? あれ、ここ……?」
「おはよう、ミント」
「……? ……、……はわぁっ!!?」
しばらくたって、ミントが目を覚ましたから、僕はあいさつをする。気絶した彼女を無理やり起こすのも悪い気がしたから、僕は彼女の頭に草の枕を敷いて、目が覚めるまで待っていた。
ミントは目が覚めて、目をくしくしとこすり、僕の姿を確認するなり、また絶頂したのかと思わんばかりに身体を跳ねさせて後ずさんだ。
「…………」
ミントが素早い動きで木の後ろに回り込んで、顔だけ出して僕をにらみ続けている。まあ、当然と言えば当然の反応だろう。嫌われても仕方ない。
それでも、言っておきたいことがあった。
「ねえ、ミント」
「……あによ」
「まがりなりにも盗賊団の頭領を務められた君なら、真っ当に働ける場所があると思う。市場の野菜売りを手伝ってもいいし、冒険者になってもいい」
「…………」
「頑張れるね?」
「……うん」
ミントが木の裏からのっそりと出てくる。そして小さく、それでもしっかり頷いてくれたから、僕は彼女の頭をなでた。
「何か餞別でもあればよかったんだけどね。あー、どうするかな」
「……要らない」
「え?」
「要らない! 盗賊団はやめる、手下にも説明する! 私、あんたの助けなんかなくても、ちゃんとやってけるもん!」
「そ、そう」
「だから、そ、その」
「ん?」
「……頑張るから、もっと、なでなさいよ」
僕はしばらく、ミントの頭をなで続ける。
そういえば、どうして彼女は盗賊になったんだろう? データベースを見ればすぐに分かることだけど、何となく、今彼女の過去をのぞき見るのは、はばかられる気がした。
こんな《世界》だ。もしかしたら、これぐらいのことすらしてあげられる人が、身近にいなかったのかもしれない。
「ぁ、あり、が……」
頭をなでられながらぽそりと呟くミントの言葉は、最後まで聞こえなかった。聞こえなくても十分だった。
さて、いつまでも彼女の頭をなで続けているわけにもいかない。もう心残りはない、そろそろお別れの時間だ。
「……もう、行くの?」
「残念だけどね。だけど、頑張ってくれるんでしょ?」
「あ、当たり前でしょ!! あんたなんていなくても平気だもん!!」
ミントは顔を赤くしてそっぽを向いた。
少しだけ名残惜しくなったから、僕はまた彼女の頭を一なでだけすることにした。
「いい子でいたら、今度は優しく、気持ちよくしてあげる」
「ひぃぅ……」
本当に愉快な子だな。
僕が笑うと、ミントは怒るべきか喜ぶべきか恥ずかしがるべきか分からない、何とも言えない表情をしながら、喉の奥から悲鳴を漏らすのだった。
目次
表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》