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目次
表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》
序節
1日目:
始まりは、見渡す限りの白だった。
こうも何もないと、どこから手を付ければいいのか分からないな。
とりあえず人間を2人置いてみよう。
2日目:
そうだ、食べ物を忘れていた。これでは人間が餓死してしまう。
適当に何か、リンゴ……は安直だろうか。代わりにナシの木を置いておくことにする。
これ、栄養失調にならないだろうか。
3日目:
石ころ、草木、大海原、フクロウ。
思い付いたオブジェクトを適当に置いていく。蛇は……やめておこう。
7日目:
必要なものはあらかた配置できただろうか。
見渡す限りの白に、ほんの少しの色が宿り、それが自然な繁殖行動によって広がっていく。
どうやら、必ずしも僕が全てを制御する必要はなさそうだ。これは楽でありがたい。
ちょっと疲れたな。人間もとりあえず生きていけそうだし、しばらく様子を見ることにしよう。
――――
――
403日目:
アダム(仮)とイブ(仮)の間に子供が生まれたらしい。今が403日目で、子どもが生まれるのはだいたい十月十日。時期はつまり……いや、これは野暮か。とにかくおめでたい。
しかし、人口がたった1人増えるために数百日か。まともな数に増えるまで、一体どれぐらいの時間が掛かることやら。少し背中がじりじりする。
いや、『ねずみ算式』という言葉もある。ある程度増えれば、あとはどんどん増えていくはずだ。焦らず、繁栄の時を待ち続けよう。
――――
――
96,031日目:
しばらく眠っていたようだ。
僕の理想にはまだ及ばないけれど、だんだんと人の数が増えてきた。
見覚えのない土地、見覚えのない生物、見覚えのない集落。白にただ一点垂らされ広がり続けた色は、いつの間にか僕の知らないグラデーションを形成していた。
これは……本当に僕が創ったのか? いや、そうだ。僕が創った……はずだ。
96,039日目:
人々が争っている姿を見た。
食糧不足に喘ぐどこかの集落が、肥沃な土地にある別の集落を襲撃していた。人々が原始的な武器を持って血を流し続ける姿を見た瞬間、僕は叫び声を上げたくなって、そして思いとどまった。
これは、人間の正常な行いだ。全てが満たされることなどありはしない。足りなければ、奪わなければならない。
僕が彼らの争いにとやかく言う筋合いはない。だから僕は、流れ続ける血に目を背ける。背けた目はいつか閉じ、僕はまたいつの間にか眠っていた。
――――
――
500,756日目:
《世界》を創り始めてから、50万日が過ぎた。年月に直すと、ええと、千と、三百と……まあいいか。
真っ白だった当初からは想像も付かないぐらい、今は様になっている。
何もなかった空白は消え、生物の種は数え切れないほどに増え、山、草原、森、海――大地の色もさまざま。そして何より、人の数は多く、毎日のように新たな生命を宿す。彼らは知恵を蓄え、財産を残し、文明という概念をも形成した。まだまだ理想には及ばないけれど、おおむね順調だと言える。
そろそろ、本題に入れるかもしれない。
501,950日目:
やっとだ。
やっと、《世界》に《毒》を仕込む時間が訪れた。
別に、自分が作ったものを壊したいってわけじゃない。これは人々のある価値観を大きく変化させる麻薬。僕がずっと開発を続けてきた、《世界》を作る目的そのものだ。これを《世界》の根底に流し込めば、全てが変わる。あらゆる人々は、あらゆる場所で狂宴に興じ始める。
我ながらイカれていると思う。こんなことのために、《世界》そのものを一から作り上げているのだから。
だけど、これでようやく、僕の待ち望んでいた《世界》が始まる。
ああ、楽しみだ。
――――
――
594,913日目:
少し待ってくれ。
何かがおかしい。
この挙動は何だ? こんなことは聞いていない。
610,260日目:
待て、こいつらは一体何をしている?
やめろ! 何をするつもりだ!? そんなことをしたら、《世界》が――。
611,085日目:
くそ。さっきのは、一体何だったんだ。
とにかくあいつらのせいで、《世界》はめちゃくちゃだ。
また一から創り直さなければならない。
――――
――
1,018,002日目:
一度行ったはずの作業をもう一度繰り返すというのは、頭がおかしくなるような苦行だ。
だけど、事は順調に進んでいる。
そろそろ《毒》を仕込む頃合いだろうか。
今度こそ、きっとうまくいくはずだ。
1,556,211日目:
ふざけるな!!
どうしてこんなことになった? こんな挙動は設定していないぞ!?
ああくそ、また一から創り直すしかない。
――――
――
2,025,008日目:
おかしい。
《世界》に何かが起きている。
――――
――
43,100,731日目:
創り直す。
何回目かはもう忘れてしまった。
とにかくやり直すしかない。
――――
――
120,■58,954日目:
創り直す。
――――
――
594,0■3,2♭8日目:
創り直す。
――――
――
1#,9■3,%54,8■0日目:
創り直す。
――――
――
――――
――
――――
――
第1節 わるい神さまの創る世界
1648-6-20:
2つの大陸とたくさんの島々。広大な大地にあまたの国家がひしめく。
火薬や電気を制御する術を知らず、街道を馬車で行く時代。剣に長けた者、強力な魔術を扱える者は『英雄』として称えられ、吟遊詩人が語る冒険譚は多くの人々にとっての娯楽になる。
つまり、それだけ争いが多いということだ。人間同士の諍いは、個人から国家まで日常茶飯事。森や洞窟に生息する魔物も人々にとって悩みの種だし、強大な力を持つ魔族が突然現れて、国を一つ二つ簡単に滅ぼすことだってある。
人がたくさん生まれて、たくさん死ぬ――そんな世界こそが、僕の創り上げた《世界》だった。
1650-1-24:
僕はアバターを作って、大地に下り立ち、《世界》を回ってみることにした。
(アバターの見た目が少女なのは、いろいろと都合が良いからだ。いろいろとね)
人々が呼ぶところの、フクロウの月。最初の行き先は水の公国、この《世界》の中でも珍しいぐらい平和な国だった。
夜、僕は貴族の屋敷に潜り込む。すると豪勢な部屋にある大きなベッドの上で、若い女性――おそらく妾の立場にある人が、貴族の男に跨がって腰を振っていた。ちょうどお楽しみの真っ最中だったらしい。
男は中年の小太り。女性の年は……成人はしているぐらいだろうか? 亜麻色の短い髪、細い体、幼めの容姿。素朴な印象だけどかわいらしい人だ。
騎乗位というのは本来女性がリードしやすい体位だと、僕は認識しているけれど……少なくとも、目の前の光景は女性優位にちっとも見えない。
4人のメイドが、女性の全身をくすぐり姦していたからだ。
「ぅひゃぁあぁぁっはっはっははははははははははっ!!? くしゅぐったひぃぃぃぃぃっ!!? くしゅぐったぃですぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ん゛っふふ。そうだな、くすぐったいなぁ? どうだ、こちょこちょをやめて欲しいかぁ?」
「やめてくだしゃひぃぃぃっひひひひひひひひひひ!!! やめてほしいでしゅぅぅぅぁあっひゃっはっはっはははははははははははははははぁぁぁぁん!!?」
「だったら、もっと一生懸命奉仕したらどうだ? ん?」
女性は両手を頭上に掲げた状態でロープに縛られており、そのロープは天井につながれていた。腕を下ろせない状態で、腋の下や脇腹、ついでに足の裏なんてくすぐったい部分を、とことんくすぐられ続けている。さぞくすぐったいことだろう。
女性は涙をこぼして笑い狂いながら、一生懸命に腰を振り続けている。どうやら男が満足するまで、くすぐり責めは止まらないらしい。全身のくすぐったさに苛まれながら、男を射精させる――それは焼けた大地を裸足で走らされるような苦行だ。
「うでぇぇぇぇぇっ!!! せめて、腕、降ろさせてくだひゃぁぁぁっはっはっはっはっははははははははははははははっ!!! わきっ!!? わきぃぃっひひひひひひひひひひひひひひ!!?」
腕を頭上に掲げているせいで皮膚が伸びきってしまった腋の下を、2人のメイドが左右から挟み込むようにくすぐっている。20本の指が素早く、それでも丁寧に、精緻に肌をすべる。きっと彼女たちメイドも、相当な訓練を積んでいるのだろう。
「おにゃかっ!!? 苦ひっ!!? ぐぃぃゃあっっはっはっはっははははははははははははははははははは!!!」
1人のメイドが女性の背後から脇腹をつかんで、ぐにぐにと思いっ切り揉みほぐす。
指の食い込み具合から、特に人差し指に力が入っているのが分かる。柔らかな肉の奥にあるツボを、こりこりと的確にこねくり姦しているみたいだ。それと同時に、女性が膣から男性器を引き抜いてしまわないように、腰の動きを制御しているようでもあった。
「ぃぎゃぁあぁぁっはっはっはっははははははははははははははっ!!? あ゛ひっ!!? 足ぃぃぃっひっひひひひひひひひひひひひひひ!! しつこっ、しつこいぃぃぃっひひひひひひひひひぎぃぃぃぃいっ!!?」
そして足の裏には、最後の1人。土踏まず、指の付け根、足裏の側面。左右の足のありとあらゆる場所が蹂躙される。
かりかり、かりかり、かりかりかり。べったりと張り付いたシールを剥がすように、しつこく、陰湿で、だけど甘い――そんなくすぐり方だった。
「くしゅぐっだいぃっひっひひひひひひひひひひっ♡♡♡ だめっ!!? も゛、もぉぉぉぉぉぉぉっ♡♡♡」
「ん~? 何が駄目なんだ? 言ってみろ!」
「もっ、もれ、漏れひゃっ!!? ぁひ……♡♡ ぁ゛ぁぁぁぁ……♡♡♡ ――ぁ゛~~っはっはっははははははははははははぁぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~っ♡♡♡♡」
女性が男に跨がったまま、潮をまき散らす。胸を体液で汚された男は怒ることもなく、むしろ『待ってました』と言わんばかりに、今度は自分から腰を振り始めた。
「主の腰の上で粗相とはなぁ。お仕置きが必要だ、なっ!」
「ひぃぃぃんっ♡♡♡♡ ごしゅじんしゃま!! おゆるひっ、おゆるしをっ!!? ひゃぁあぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡♡」
男のイチモツが、女性の子宮を下から突き上げていく。
女性は思わず歓喜の声を上げるが、どうやら穏やかに気持ちいいなんて当たり前のつまらない行為にはならなそうだ。
「ほれ! お前たちもキツくしつけてやりなさい!」
「ひや゛あぁぁぁぁぁぁぁぁっはっはっはっはははははははははははははははぁぁぁぁあっ!!!!? くしゅぐっだいぐしゅぐっだひぃぃぃぃぃっひっひゃっはっははははははははははははははははははははぁぁ~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
男の合図で、メイドたちのくすぐる手付きがさらに加速する。
散々突かれ、散々くすぐられ、女性の顔はもうぐしゃぐしゃだ。
「ぅぎぃぃぃっひひっひひひひひひひひひひひひひひひっ!!!!? また出ちゃっ♡♡♡♡♡ でひゃぃ――っひいぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃんっ♡♡♡♡♡」
「何だ? 散々嫌だやめてと言っておきながら、くすぐられて感じているのか? 言ってみろ!」
「ふぎぃぃっひっひひひひひひひひひひぃぃぃぃいっ♡♡♡♡♡ 感じてましゅうぅぅっふっふふふふふふふふふっ♡♡♡♡♡ くしゅぐられるの気持ひぃでしゅぅぅぅぁっはっはっはっはははははははははははははははははっ♡♡♡♡♡ ひゃはぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
性豪な男は、その日3度射精する。一方で、女性は少なくともその3倍は絶頂した。
この《世界》における、ありふれた情事。かわいそうでも何でもない彼女の行く末なんて、いちいち想像もしていられない。この男に孕ませられるか、飽きて捨てられるか、それぐらいのものだ。
僕はその情事を一通り観察してから、平和な国で苦しみと快楽を受け続ける女性のことを、自分の記憶から消し去った。
1650-1-25:
刃の帝国に着く。火の王国と戦争中の危険な国だ。
そうは言っても、戦地ではじけ飛ぶ肉片を見たいというわけではない。行き先は捕虜を収容している牢獄だ。
こっそり中に入ってみると、石の壁に囲まれた拷問室で、4人の女性が無数の男たちにくすぐり姦されていた。
「きゃぁあぁぁっはっははははははははははははは!!! くしゅぐらないでぇぇぇっへっへっへへへへへへへへへへへへ!!?」
「や゛めろぉぉぉぁっはっははははははははははひゃぁぁ!!? そんなところさわる゛なぁぁぁぁっはっはっはっはははははははははははは!!!」
「くしゅぐったひぃぃぃぃぃぃぃっ!!! 腋の下くひゅぐったひよぉぉぉぉっほっほっほほほほほほほほほほほほほっ!!?」
「卑きょお者ぉぉぉぉっほほほほほほほほほほほっ!! こんな辱めでっ、わだひたちが、私たちがぁぁぁっはっはっはっはっはははははははは!!!」
分厚い木の板で作られた拘束具に大の字姿勢でつながれ、部屋の四方に、お互いが向き合うように配置されている。1人の女性につき、くすぐり姦す男は3人だ。
僕はデータベースから彼女たちの情報を引っ張り出してみる。どうやら全員が、敵国である火の王国出身。軍の指揮官や魔術学者など所属はばらばらで、だけど国ではそれなりの地位にある者たちのようだった。
「――何か一つ!!」
威圧的な男の声が、淫らな笑い声に混じって響く。
「何か一つ、貴様らの誇り高き祖国に関わる重要な情報を提供した者は、即座に解放しよう。内容は何でも構わない。ただし……3人までだ」
今、彼らにくすぐり犯されているのは4人だ。
なるほど、つまり最後に残された1人はどうなるのか……それはもう、わざわざ説明するまでもないだろう。
「言わなひぃぃぃぃぃっ!!! そんなの言わないぃぃひゃっはっははははははははははははははははははは!!?」
「ふざけやがっへぇっへっへへへへへへへへ!!! 私だちをナメるなぁぁっひゃっはっはははははははははははははははっ!!?」
「知らないもんんんんん!!! 私知らないもんんんんんぐひゃっはっはははははははははははははははははははははは!!!」
「汚らしい刃の犬どもがぁぁっひゃっひゃっはっははははははははははははは!!! 火の民たちの忠誠心をぉぉほほほほほひぃっ、舐めるなぁぁっはっはっははははははははははっ!!!」
女性たちの結束は固い。彼女たちは笑いながらも声を掛け合い、励まし合った。
しかしそれが無駄なことだというのは、外野にいる僕でも簡単に分かる。こういう類の拷問というのは、どれだけ耐えても終わらないものだ。
それに、どんどん過激になっていくものでもある。
「潤滑剤を使え。ここらはスライムの粘液体がよく採れる」
「ひぃぃぃっひひひひひひひひひひッ!!? いや!!! いや゛ぁぁぁっはっはっはははははははははははははははははははっ!!?」
「や゛めろぉぉっほほほほほほ!!! ぬるぬるするな゛ぁあぁぁぎゃっはっはっはははははははははははははははははは!!!」
「ひゃぁあ゛ぁぁぁっひゃっはっははははははははははは!!! や゛めてやめてやめでぇぇぇぇぇぇひゃっひゃっひゃっひゃっひゃははははは!!!」
「卑怯も゛のぉぉぉっほほほほほほほほほほほほッ!!? そのていどの辱めでぇぇっへっへひゃっひゃっはっははははははははは!!」
拷問を受けている彼女たちの勝利条件は、脱走か、救援か。しかしこんな状況でどうやって脱走なんてする? そして救援が来るには何か月かかる? 拷問が始まってから、どれだけの時間がたった?
彼女たちにとってこのくすぐりという拷問は、一瞬を無限に引き伸ばされているような心地だろう。努力が実るためには、世界が終わるまで耐え続けなければならないことと同等だ。
最初は気丈に振る舞っていた彼女たちも、段々と罵声を浴びせる余裕がなくなるほど消耗してゆく。
「そんなにくすぐったいのがお望みなら、弱点を集中的にくすぐってやるぜぇ?」
「ぃぎゃっはっはっはっはははははははははははははッ!!? わきぃ!!? 腋の下はぁぁぎゃぁっはっはっはっははははははははははははははははははは!!!」
「お前は確か、部隊長サマだったっけ? 軍のこと、何か知らないかなぁ?」
「ぅあ゛ぁっひゃっはっははははははははははははははははは!!! ぅぎゃはっ!!? おにゃかを揉むに゛ゃあぁぁぁっはっはっはははははははははははははははは!!!」
「言ってくれれば、この可愛い足裏のカリカリコチョコチョが止まるのになぁ~?」
「ふぎゃぁあぁぁっはっはっはっはっはっははははははは!!? ゆるじでぇぇぇぇぇぇ!!! ごめんなじゃぁあぁぁっひゃっはっはっははははははははははははははははははは!!?」
「さぁ、言う気になったかなぁ?」
「ふざけるなぁぁぎゃっはっはっははははははははははは!!! 言うもの゛かぁぁッ!!! 言うもの゛かぁぁぁぁびゃっはっはっはははははははははははははははははははは!!!」
休みなく続く拷問。
端から見ればそう長くない時間の後、ついに1人の女性が崩れた。
「ぅ゛ぅぅぅぅぅぅ言う゛ぅぅぅぅぅっ!! 言いますがらぁこちょこちょやめでぇぇぇっへっへっへへへへへへへへへへへへへへへへへっ!!?」
「聞かせてもらおうか。ただし偽りの情報なら……分かるな?」
「や゛めろぉぉぉっほほほほほほほっ!!? 言うな、い゛うなぁぁぁっひゃぁぁぁっはっははははははははははははははははは!!!」
他の笑い声に怒気が混じる。お互いが向かい合っているせいで、非難の視線が集中する。
だけど限界に達している彼女にとって、そんなものは何の抑止力にもならなかった。彼女は笑いながら、軍事に関わる重要な機密を暴露してしまう。
「やっ、山っ!! あ、アルラバ山にぎぃぃぃぃっひっひひひひひひひひひひひひひっ!!? ゆうげっ!! 遊撃隊ぃぃぃぃっひっひひひひひぎゃぁぁぁっはっははははははははははははははははははっ!!?」
「アルラバ山……麓に辿り着くことすら苦労する、あの険しき霊峰に遊撃隊だと? 確かに守りは手薄かもしれないが……。部隊の詳細は? 数はどれぐらいか」
「しら゛なひぃぃぃぃっ!!? 知らな゛いけどっ、わだしのところがらっ、ふだり行ってでぇぇぇっへっへっへへへへへへへへへへへへへへへへっ!!! 言っだがらや゛ぁぁぁぁめでぇぇぇぇぇぇぇっへっひゃっひゃっはははははははは!!!」
「即席の部隊か。フン、真勇か蛮勇か、そんなもので何かできるものか。……よし、止めろ」
男の合図でくすぐり責めが止まり、続いて拘束が解かれる。女性はその場で崩れ落ちるように倒れ込んだ。重大な裏切りを果たしたその口からは、咳と笑い声が交互にこぼれ続けていた。
「ぁひぃ……っ! ひぎっ、げほっ、ごほっ!! はっ、ひっ、ひひ……っ!?」
「彼女を牢に戻せ」
男たちは約束したとおり、迅速に彼女への拷問を止めて、部屋の外へと引きずり出していく。顔を伏せているから彼女の表情は見えない、その胸中は安堵と罪悪感のどっちだろうか。
何にせよ、彼女はもうくすぐられていないのだ。
その光景を笑いながらも食い入るように見ていた残りの女性たちが取る行動は、当然とも言えるものだった。
「私もぉぉぉっほほほほほほほほほっ!!? わたじも言うぅぅぅからぁぁひゃっはっはははははははははははははははははははははっ!!!」
「言いますぅぅぅっ!! 言いますからもうくしゅぐるのやめへぇぇぇっへっへっへっへへへへへへへへへへへへへへへへっ!!!」
「や゛めろぉぉぉぁっはっはっはははははははは!!! おま゛えだぢぃぃぃっ!! 王国の誇りをぉぉぁぁあぁぁぁっひゃっっはははははははははははははははははははぁぁぁぁ!!!」
きっとこの男たちにとって、機密情報なんてどうでもいいのだろう。情報が欲しいのなら、もっと確実な方法はいくらでもあるはずだ。『もしも役に立ったら儲けもの』ぐらいのはず。
この遊びの本命は、彼女たちの誇りを汚すことだ。くすぐったさに屈服した裏切り者――ああ、何て不名誉な烙印なのだろうか。
そして、最後まで秘密を守り通した誇り高き1人には、想像したとおりの地獄が訪れる。
「ぃぎゃぁぁああぁぁっはっはっはははははははははははははははははっ!!!!? くしゅぐったぃくしゅぐったいくしゅぐったいひぃぃぃひゃぁぁぁっはっはっはっははははははははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁあ~~~~~~~~っ!!!!!」
他の女性たちをくすぐっていた男たちも加わって、合計12人分の指が彼女に殺到する。指の本数にして120本。身体のどこを見渡しても、くすぐったくない部位は見当たらない。
だけどまあ、いいじゃないか。彼女は火の王国の民としての誇りを貫き通したのだから。そのくすぐったさは名誉のくすぐったさだ――とはならないようで。
「言うがらぁぁぁっひゃっはっはははははは!!! わたしも言うからぁ゛ぁぁぁっははっはっははははははははははははは!!?」
「言ったはずだぜ? 解放するのは3人までだとなぁ?」
「まあしかし、貴様の持つ情報次第では、我々の気が変わるかもしれんな?」
「言いま゛すぅぅぅぅぅぅっ!!!!! 言いますからくしゅぐりやめへぇぇぇぇぇっへっへっへっへへへへへへへへへへへへへへ!!!!? びゃぁぁぁあぁぁっひゃっはっはっははははははははははははははははぁぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」
誇りうんぬん言っていた王国民の姿なんて、もうどこにも見えやしない。ただ見えるのは、自分の行いを後悔してみっともなく笑い悶える女性の姿だけだった。
なお後で確認したところによると、今回拷問を受けた4人は全員残らず解放されていなかった。戦争が終わるまでの数年、彼女たちは兵士の慰み者になったらしい。
まあ、よくある話だ――僕は、男達がただ欲望を満たすだけのつまらない情事に飽きたところで、戦渦の中ですら快楽に苦しみ続ける女性たちのことを、自分の記憶から消し去ることにした。
1650-1-29:
命の魔王国に着く。魔王を名乗る魔族が突然現れて、同族たちをかき集めて好き勝手やり始めたところだ。
《世界》には時々、《規格外》の強さを持つ者が現れた。《規格外》はそのうち勇者となるか、魔王となるか。どのみち大量殺人者であることには間違いなく、だいたいの人々にとっては世の中をどたばたさせるトラブルメーカーでしかない。
少し前、歴戦の勇士たちが集い、魔王に戦いを挑んだ。いわく、国随一の騎士。いわく、世界をまたにかける冒険者。いわく、千の理を知る賢者。
だけどそこらの英雄程度が束になっても、《規格外》の相手になるわけがない。彼らは数瞬のうちに塵屑になった。
その戦いには、1人だけ生き残りがいた。いや、『生かされた』と言ったほうが適切だろうか。むさ苦しい男や老齢の人物が多い中、彼女ただ1人だけが若く、見た目麗しい女性だったからだ。
データベースから彼女の情報を引っ張り出す。老齢だった大賢者の弟子ではあるけれど、彼女自身も戦闘力において引けを取らない、優秀な魔術師。年齢は20になったばかりだとか。
空色の長い髪、翡翠のごとき瞳は神秘的な雰囲気を醸し出す。体も女性的で、だけど下品ではない、黄金比率の元に生まれたような女性。
そんな彼女は今、城の密室で処刑を受けていた。
「ぃぎゃぁあぁっはっはっはっははははははははははははははははぁぁぁぁぁあっ!!!!? ぁぎゃはっ!!!!? ひゃあ゛ぁぁぁぁっはっはっはっははははははははははははははははははははははははははぁぁぁぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!?」
場所は本来、石でできた部屋の中。
この部屋には扉も、窓も、天井も壁も床もなかった。だって、赤紫色のグロテスクな見た目をした触手が、部屋の全てを覆っているのだから。無機質な建物の中とはとても思えず、何かおぞましい化け物の体内に取り込まれたような光景だ。
そんな場所で、彼女は無数の触手に全身をくすぐり姦されているのだ。
「ふぎゃぁあぁぁぁっはっはっはははははははははははははひゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! ひぎっひひひひひひひひゃぁっはっっははははははははぁぁぁぁぁぁあっ!!!!? びゃぁあぁぁっっはっはっはっはっははははははははははははははははぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!!!」
触手の形はさまざまだ。先の細いもの、指のように器用に動くもの、爪や歯のようにこりこりと硬いもの、ブラシのように無数の突起がついたもの。
ありとあらゆる種類のくすぐったさが、彼女のありとあらゆる部位に襲い続ける。
「ごめんなさぃ゛ぃぃぃぃぃぎっひゃっはっははははははははははははははははははぁぁぁぁぁあっ!!!!! ゆるじでッ、ゆるじでぇぇぇぇぁびゃっはっはっはっははははははははははははははははははははははぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!?」
彼女は相当長い間、くすぐったさに晒され続けたのだろう。もはや、まともな言語を話すことすら少ない。ただ笑い続け、時折覚醒したかのように『ごめんなさい』と『赦して』を繰り返すだけ。
元々は神秘的な女性で、王族ですら彼女を前にすればその雰囲気に尻込むのだとか。しかし今ではもう見る影もない。
腋の下をかき混ぜられるだけで涙をこぼし、腹を揉みほぐされるだけで断末魔のような笑い声を吐き、足の裏を引っかかれるだけで脚の付け根から潮を吹き出す――こんな哀れで淫らな姿を見たら、誰もが目を疑い、失望し、そして欲情することだろう。
「ぁあ゛ぁぁぁっひゃっはははははははははははははははは!!!!! ひぎっ、ひ――♡♡♡♡♡ ぁ゛ーーーーっはっははははははははははははははははははははははぁぁぁ♡♡♡♡♡ ひゃぁ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」
きっと彼女は、心の底から『死にたい』と思っていることだろう。
だけどそれは叶わない。どうやらここの魔王は、魔術師としての才覚が極めて高いようだ。国に『命』の名前を冠するとおり、特に生命に関する造詣が深い。正直僕も原理がよく分かっていないけれど、触手に覆われた部屋の上で煌めく白い光球が、彼女に延命処置を施しているらしい。
そして彼女に延命措置を施して永遠の苦しみを与えるそのついでか、光球から覗く光景が城にある食堂の壁一面に映し出されていた。
「砂時計の砂が落ちた。時間だ」
「はーい。今回の結果は、潮吹き34回でしたー」
「予想が一番近いのは、35回と答えた俺だな。賭け金は頂いてくぜ」
「マっジかよ!? 昨日賭けたときは21回だったじゃねーか!?」
「ぁ゛~、クッソ!! あのアマ、どんどん敏感になってやがる!」
「……あんの娘、かわいぐっていいなぁ。オイラにもおこぼれ貰えねがなぁ」
城に仕える魔族たちは、あられもなく笑い狂う彼女を見て愉しみ続けた。
さて、ここの魔王は少しやり過ぎているように見える。本来であれば、このまま大陸全土を掌握しかねない。少しだけ、周囲を検索してみることにする。彼の暴挙を止められる者はいるのだろうか。
すると魔王に匹敵する《規格外》の力を持つ男が、1人見つかった。20代半ばの剣士、無骨な見た目で、いかにも強そうな巨大な剣を携えている。今はいくつか離れた国にいて、魔王討伐のためこちらに向かっているらしい。
やり過ぎた者は、いずれ破滅する――それがこの《世界》における摂理。魔族であればなおさらだ。
「ぃぎぃぃぃゃあっっはっはっはっはははははははははははは♡♡♡♡♡ ごべんなざいごめんなじゃいごめんなしゃぃぎゃぁあぁぁぁっはっははははははははははははッ♡♡♡♡♡ っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡ ぁ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
男が到着するまで、あとどれぐらいの時間が掛かるだろうか。その間に、彼女の心が壊れないことを祈ろう。壊れてしまっても、まあ仕方ないだろう。
そもそも、そうなる女性は、この《世界》において珍しくないんだ。いちいち一人一人を心配なんてしていられない。
僕はこの国の行く末に安堵してから、死よりも苦しい快楽を受け続ける女性のことを、自分の記憶から消し去った。
――――
――
2730-12-03:
《世界》は安定している。
自らを滅ぼすような過度な技術を持つこともなく、だけど外敵に滅ぼされるほど弱くもなく、ただ同じところに留まり続ける。普通であればきっと考えられない、文明の停滞。
僕はそんな《世界》をずっと旅し続けた。
おいしいものを食べて、吟遊詩人の詩に耳を傾けて、美しい景色を見て、時折行われる狂宴をのぞく。人と深く関わることはないし、自分が狂宴に参加することもない。塵を固めて創った彫像を吹き崩さないよう、遠巻きに眺め続けるようだ。
クジラの月、空の教国に着く。僕が旅を始めるときには既に存在していた、盛衰の激しいこの《世界》においては珍しく歴史の長い国。この《世界》における最大の宗教、その総本山。
夜、僕は首都の1番高い建物である大聖堂の鐘楼に立つ。下を見れば灯りの消えた静かな町並み、上を見れば巨大な鐘がある。この国の人々はこれの音を聞いて、どこかの神さまに対してお祈りをしているらしい。
一見すれば清らかで信心深い国、だけど真相は違う。
異端審問、浄化、儀式、奉仕、処刑――この国は宗教という建前で、いろいろとやっていた。各地の教会は、清楚な見た目とは裏腹に体液まみれ。この大聖堂の地下でも、現在進行形で少女たちの悲鳴と嬌声、笑い声を響かせ続けている。
《世界》は腐り切っている。特にこの国は典型だった。
「……創ったのは、僕か」
僕はいつの間にか強く握りしめていたこぶしを、意識的に緩めた。
雲がゆっくりと流れていき、隠れていた月が都市を照らし始める。明るいな、今晩は満月か――僕が空を見上げた瞬間のことだった。
「そこの少女」
背後から声が響く。静かで、それでも強い決意が込められた、若い女性の声。
僕の思考が止まる。その言葉に返すことも、振り返ることもできない。だって僕は今どこにいる? 市場の果物売りに声を掛けられるのとは訳が違うんだ。
「貴女が《神》ですか?」
再び響く女性の声。
《神》――その言葉に反応して、僕はようやく声のするほうを振り返った。
「変なことを聞いて、違っていたら済みません。だけど、ああ、どうやらその心配はないみたいですね。《貴女》のせいで、私は……っ」
背後には、1人の若い女性が立っていた。背は高く、しかし細い。
彼女が着ているのは、頭巾のないぼろぼろの修道服。白銀色の長い髪が風になびいて、星屑に混じり輝く。その表情には生気がなく、代わりに鉄のように冷たく鋭い殺気がまき散らされている。
美しい――それが僕の、彼女に対する第一印象だった。
「……お願いです。貴女は、死んでください」
彼女の姿が消える。次の瞬間、僕の胸元に小さな短剣が突き刺さった。
後に知る彼女の名は、アレリナ。彼女との出会いをきっかけに、《僕》は変わっていく。
《世界》が変わっていく。
目次
表紙(簡単なご案内など)
第1節 わるい神さまの創る世界
第2節 神さまに犯される神殺し
第3節 神さまとポンコツ盗賊娘
第4節 神さまが楽しく犯す基準
第5節 神さまと滅びる定めの種
第6節 教会と神殺しと神さまの怒り
第7節 貴女は悪い神さまですか?
最終節 悪い神さまの創る世界
付録1 渡り鳥の気ままな旅模様
付録2 幼き神殺しと小瓶の部屋
おまけイラスト 《擽園》
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